不埒ふらち)” の例文
御禁中警固、京一円取締りの重任にあるべき所司代詰の役侍が、その役柄を悪用して不埒ふらちを働こうとしているだけに許せないのです。
お言いでないよ。ソリャお前の事だからまさかそんな……不埒ふらちなんぞはおじゃ有るまいけれども、今が嫁入前で一番大事な時だから
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それなのに無断、人なかへ出て来るなどは、不埒ふらちな女。何とぞおかまいなく、早々、三河一色村へ追ッ返していただきとう存じまする
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「婦人科の医者には、婦人の貞操を破るような不埒ふらちな奴があるってことをよくききますが、そんなことができるもんでしょうか?」
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
だまれ! をひくせ伯父樣をぢさまめかけねらふ。愈々いよ/\もつ不埒ふらちやつだ。なめくぢをせんじてまして、追放おつぱなさうとおもうたが、いてはゆるさぬわ。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それで直段ねだんは胡麻の油の三倍も高く取ってもうかる儲かるとよろこんでいます。実に今の世の不徳義な商人ほど不埒ふらちなものはありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
不埒ふらちな奴……すぐに与九郎の家禄を取上げて追放せい。薩州の家来になれと言うて国境からたたき放せ。よいか。申付けたぞ」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここに、こうして坐って、ぼんやりした顔をしているけれども、胸の中では、不埒ふらちな計画がちろちろ燃えているような気もする。
待つ (新字新仮名) / 太宰治(著)
「何を女め! 不埒ふらちな巫女! 二条通りで我君の雑言、ご治世を詈ったそればかりか、拙者を捉えて子供扱い、許さぬぞよ。縛め捕る!」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここだと云はないばかりにほとばしつて來た儘に、渠はおのれの妻が裏店うらだなのかかアか何かのやうに、燒けぼツくひじみた行爲に出た不埒ふらちを述べた。
よせと云うのか、いやしくも人の亀鑑てほんになるべき者が、不義ふぎ不埒ふらちなことをしているに、うやむやにして、知らん顔をするつもりか
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
俺には知己も交際もある。汝のような中途半パで帰って来た不埒ふらちな奴を家に置いたとあっては、俺が世間へ顔向けが出来ない。
不埒ふらちならずやこそ零落おちぶれたれ許嫁いひなづけえんきれしならずまこと其心そのこゝろならうつくしく立派りつぱれてやりたしれるといへば貧乏世帶びんぼふじよたいのカンテラのあぶら
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
赤シャツに勧められてつりに行った帰りから、山嵐やまあらしを疑ぐり出した。無い事を種に下宿を出ろと云われた時は、いよいよ不埒ふらちやつだと思った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不埒ふらち千万のやつであるとて、大声を発し、「なんじ知らずや、われは万物の長たる人間であるぞ。早く正体を現して逃げ去れよ」
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それなのに、人間山は皇后の御殿が火事のとき、火を消すことを口実にして、不埒ふらち千万にも、小水で宮殿の火を消しとめた。
「われわれは馬子を相手に、冗談を云うほど、暇つぶしに困っているわけではない、こやつらが不埒ふらちなことを申すから、街道の諸人のために」
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は大船二艘に兵粮米、武器などを満載して都をさして上ったが、これを福原で聞いた能登守は、不埒ふらちな奴と直ちに小舟に乗って追いかけた。
アア、何という大胆不敵、彼は追手に囲まれながら、心から、貴賓を驚かせたてまつった今日の不埒ふらちを、御詫びしたつもりらしい。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この不埒ふらちの行爲に石國の王子は非常に憤慨いたし、四隣の諸胡國も之に同情を寄せ、相倶に大食タージ國の援兵を乞うて、唐軍に復仇せん計畫をした。
紙の歴史 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
まさかにそんな不埒ふらちを働く筈はあるまいと、文字春も初めは容易に信用しなかったが、お角はその怪しい形跡をたびたび認めたというのである。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これは、悪ざむらいたちの不埒ふらちは、申すまでもないが、それを買って出たこの一行連の強気も、あんまり感心したものではないと見たからです。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
遠くから見て、不埒ふらちな、しからぬ人物に見えていても、その人の立場に立てば、そうでないいろいろな点がある、ということになるのであろう。
藤村の個性 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
はたして自分の他にまだそんな者があって、今その世話でこうなっているとすれば、どう、自分の身びいきという立場を離れて考えても不埒ふらちである。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
法律ほうりつてらしても明白あきらかだ、何人なにびといえども裁判さいばんもなくして無暗むやみひと自由じゆううばうことが出来できるものか! 不埒ふらちだ! 圧制あっせいだ!
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
戦争に行くに告別いとまごいの手紙の一通もやらぬ不埒ふらちなやつと母は幾たびか怒りしが、世間の様子を聞けば、田舎いなかよりその子の遠征を見送らんとで来る老婆
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
たとえばこの頃の妻の行為がありのままに京都の父親にでも知れたら、いかに物分りのいい老人でも世間の手まえ娘の不埒ふらちを許しては置けないであろう。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もっとも、あの不埒ふらち八戒はっかいの解釈によれば、俺たちの——少なくとも悟空ごくうの師父に対する敬愛の中には、多分に男色的要素が含まれているというのだが。
他の誰か、一般内地人にそういう不埒ふらちがあった場合は、彼は自ら取締らなければならない地位に居るのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「なによ、それが淫奔事いたずらごとでなけりゃ、それでもえいさ。淫奔をしておって我儘をとおすのだから不埒ふらちなのだ」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
京都きょうとの画工某のいえは、清水きよみずから高台寺こうだいじく間だが、この家の召仕めしつかいぼく不埒ふらちを働き、主人の妻と幼児とを絞殺こうさつし、火を放ってその家をやいた事があるそうだ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
船客に対して最も重き責任をになうべき事務長にかかる不埒ふらちの挙動ありしは、事務長一個の失態のみならず、その汽船会社の体面にも影響する由々ゆゆしき大事なり。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただし野干咆ゆるより虎の居処知れ討ち取らるる例多しとウットが書いた。かく不埒ふらち千万な野干も七日不食十善を念じ兜率天とそつてんに生まれたと『未曾有経』に出づ。
三月六日に優善は「身持みもち不行跡不埒ふらち」のかどを以て隠居を命ぜられ、同時に「御憐憫ごれんびんを以て名跡みょうせき御立被下置おんたてくだされおく
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
骨牌かるた酩酊めいていとのために狂ったように興奮して、私がまさにいつも以上の不埒ふらちな言葉を吐いて乾杯をいようとしていたちょうどこのとき、とつぜん自分の注意は
不埒ふらちのやつどもだ。よくも、わしをひどいめにあわしたな。」と、おじいさんは、おこりましたけれど、よくかんがえれば、自分じぶん無理むりだったので、いつでも、みんなが
夏とおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
義理の挨拶あいさつ見事に済ましてすぐその足を感応寺に向け、上人のお目通り願い、一応自己おのれ隷属みうちの者の不埒ふらちをお謝罪わびし、わが家に帰りて、いざこれよりは鋭次に会い
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
以来ああいう不埒ふらちな講演会をすることはならん、役員は引責辞職しろ、さもなければ年二百円の補助費を廃止する、とねじ込まれ、男子青年団の方は、まけて辞職し
一九三二年の春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
左りに握りたい不埒ふらち至極の了簡れうけんお止めなさい/\我輩は謹んで艶福を天にかへしたてまつり少し欲氣よくげに聞ゆれど幸福一方と决定仕りぬ友人中にはそれは惜いお前が女運を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
不埒ふらちな役人共は、奸商と結んで賄賂をとり、不当な高価で品物を買い入れ、または鞘取りをする。
にらみ鯛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
倅の不敬乱暴無法は申すまでもなく、嫁の不埒ふらちも亦にくむ可し。無教育なる下等の暗黒社会なれば尚おゆるす可きなれども、いやしくも上流の貴女紳士に此奇怪談は唯驚く可きのみ。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
で、一寸お叩頭じぎをするなり、犬をつれていそぎ足に、その場をはなれた。犬は不埒ふらちにも自分が救世主ででもあるやうに慈悲深い眼つきをして牧師を見かへりながら去つた。
「そればかりでない。人妻に対して汝は不埒ふらちな考へなどを持つてゐくさるぞ、此の不届者……!」と隊長は事のついでに其の事までも素つぱぬいてのゝしつてゐるやうな気がして
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
そこの寺男が和尚おしょうの伴をして行く途中、主人の草履ぞうりを片一方落してしまった。それが不埒ふらちだというので打首になり、下男は死んで行々子になった。それ故に今でもこの鳥は
音物いんぶつ、到来品、買物、近親交友間の消息、来客の用談世間咄、出入商人職人等の近事、奉公人の移り換、給金の前渡しや貸越や、慶庵や請人うけにん不埒ふらち、鼠が天井で騒ぐ困り咄
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼が不埒ふらちを働いたとすれば、自分もまたその責任せきにんを分かたねばならぬと思い、西郷が来るやいなや、ただちに彼を兵庫ひょうごに引連れ、明日君が君公の前にすれば、生命はないぞ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
後になっては私も、学校へ行ったふりをして浅草公園で映画を見て時間つぶしをするような、そんな不埒ふらちな真似をするようになったが、その頃はまだそんな手を思いつかなかった。
遁走 (新字新仮名) / 小山清(著)
花吉を篠田が落籍ひかせをつたと——フム、自由廃業、社会党のりさうなことぢや——彼女あれには我輩も多少の関係がある、不埒ふらちな奴、松島、篠田ちふ奴は我輩に取つても敵ぢや、可也よし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼は親分に向って、彼の体力、智慧、才覚、根気、度胸、其様なものを従来私慾の為にのみ使う不埒ふらちを責め最早もう六十にもなって余生幾何もない其身、改心して死花しにばなを咲かせろと勧めた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
歿なくなられた良人つれあひから懇々くれぐれも頼まれた秘蔵の秘蔵の一人子ひとりつこ、それを瞞しておのれが懲役に遣つたのだ。此方このほうを女とあなどつてさやうな不埒ふらちを致したか。長刀なぎなたの一手も心得てゐるぞよ。恐入つたか
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)