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逼
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せま
ふりがな文庫
“
逼
(
せま
)” の例文
と小声に
吟
(
ぎん
)
じながら、
傘
(
かさ
)
を力に、
岨路
(
そばみち
)
を登り詰めると、急に折れた
胸突坂
(
むなつきざか
)
が、下から来る人を天に
誘
(
いざな
)
う
風情
(
ふぜい
)
で帽に
逼
(
せま
)
って立っている。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
仁右衛門はそれを見ると腹が立つほど淋しく
心許
(
こころもと
)
なくなった。今まで経験した事のないなつかしさ可愛さが焼くように心に
逼
(
せま
)
って来た。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
皇女のこの御歌も、穂積皇子のこの御歌と共に読味うことが出来る。共に恋愛情調のものだが、皇女のには甘く
逼
(
せま
)
る御語気がある。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
一所わずか林が途切れ、秋草茫々たる空地へ出たが、そこに四人の侍が、一人の老武士を中に取り込め、白刃を閃めかして
逼
(
せま
)
っていた。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
空は雨に
鎖
(
とざ
)
されて、たださえ暗いのに、夜はもう
逼
(
せま
)
って来る。なかなか広い庭の向うの方はもう暗くなってボンヤリとしている。
観画談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
▼ もっと見る
鏡子はもう幾
分
(
ふん
)
かの
後
(
のち
)
に
逼
(
せま
)
つた瑞木や花木や
健
(
たかし
)
などとの会見が目に描かれて、泣きたいやうな気分になつたのを、
紛
(
まぎら
)
すやうに。
帰つてから
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
土人すなわち
米花
(
こめのこ
)
もて馬を洗う。漢兵さては水ありと疑うて敢えて
逼
(
せま
)
らなんだと書けるを見出し、支那にも白米城の話があると確知し得た。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
終
(
つい
)
に安政四年五月下田奉行は、ハリスに
逼
(
せま
)
られて、規程章八箇条に調印し、いわゆる安政五年調印、現行条約の
濫觴
(
らんしょう
)
を造れり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
○
左千夫
(
さちお
)
いふ
柿本人麻呂
(
かきのもとのひとまろ
)
は必ず肥えたる人にてありしならむ。その歌の大きくして
逼
(
せま
)
らぬ処を見るに決して神経的
痩
(
や
)
せギスの作とは思はれずと。
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
「象に危難が
逼
(
せま
)
って居ります。わたくしに人間の話が出来るというので、わたくしを乗せてお願いに出たのでございます」
中国怪奇小説集:07 白猿伝・其他(唐)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
ところがその刑罰の有様が如何にも真に
逼
(
せま
)
って、
観
(
み
)
る者をして
悚然
(
しょうぜん
)
たらしめたので、その後ち禁を犯す者が跡を絶つに至ったということである。
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
恁
(
か
)
うして
人々
(
ひと/″\
)
は
刻々
(
こく/\
)
に
死
(
し
)
の
運命
(
うんめい
)
に
逼
(
せま
)
られて
行
(
ゆ
)
くお
品
(
しな
)
の
病體
(
びやうたい
)
を
壓迫
(
あつぱく
)
した。お
品
(
しな
)
の
發作
(
ほつさ
)
が
止
(
や
)
んだ
時
(
とき
)
は
微
(
かす
)
かな
其
(
そ
)
の
呼吸
(
こきふ
)
も
止
(
とま
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
恩人は恩を
枷
(
かせ
)
に
如此
(
かくのごと
)
く
逼
(
せま
)
れども、我はこの枷の為に屈せらるべきも、彼は
如何
(
いか
)
なる
斧
(
をの
)
を以てか宮の愛をば割かんとすらん。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
身丈高く、肩幅広く、
見栄
(
みば
)
えある身体に、薄鼠色の、モーニングコート。
逼
(
せま
)
らず、開かぬ、胸饒かに、雪を欺く、白下衣、同じ色地模様の襟飾り。
したゆく水
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
日中なれども
暗澹
(
あんたん
)
として日の光
幽
(
かすか
)
に、陰々たる
中
(
うち
)
に
異形
(
いぎやう
)
なる
雨漏
(
あまもり
)
の壁に染みたるが
仄見
(
ほのみ
)
えて、鬼気人に
逼
(
せま
)
るの感あり。
妖怪年代記
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
そしてこの象徴主義に徹したことから、不思議にも日本人は、詩的精神の最も遠い北極のレアリズムから、逆に西洋詩の到達する南極に
逼
(
せま
)
ってきた。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
国峰を
屠
(
ほふ
)
ってひた押しに攻め寄せた武田軍は、外塁を
蹂躪
(
じゅうりん
)
して城外へ
逼
(
せま
)
ったが、そのとき大手の攻め口に新しく堅固な
壕
(
ほり
)
が掘られてあるのを発見した。
一人ならじ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
この
度
(
たび
)
の堺事件に付、フランス人が朝廷へ
逼
(
せま
)
り申すにより、下手人二十人差し出すよう仰せ付けられた。御隠居様に於いては甚だ御心痛あらせられる。
堺事件
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
余裕のある
逼
(
せま
)
らない
慷慨
(
こうがい
)
家です。あんな人間をかくともっと逼った窮屈なものが出来る。また碌さんのようなものをかくともっと軽薄な才子が出来る。
漱石氏と私
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
「とこしへに民安かれと祈るなる
吾代
(
わがよ
)
を守れ伊勢の
大神
(
おおかみ
)
」。その
誠
(
まこと
)
は天に
逼
(
せま
)
るというべきもの。「取る
棹
(
さお
)
の心長くも
漕
(
こ
)
ぎ寄せん
蘆間小舟
(
あしまのおぶね
)
さはりありとも」
謀叛論(草稿)
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
器用で達者で裕々
逼
(
せま
)
らぬ論客、即談客と見えた。私はこの間初めて会ったばかりだから、正確には判らないが。
社会時評
(新字新仮名)
/
戸坂潤
(著)
海から二人の間に
逼
(
せま
)
つて来る
夕闇
(
ゆふやみ
)
の関係もあつて、わたしは妙に自分と娘との間隔を感じる。自分の生活と娘の生活とが別々に平行して居ることを感じる。
愚かな父
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
市の層疊して高く聳ゆる
状
(
さま
)
は、戲園の
觀棚
(
さじき
)
の如く、その白壁の人家は皆東國の
制
(
おきて
)
に從ひて平屋根なり。家ある處を踰えて上り、山腹に
逼
(
せま
)
るものは葡萄丘なり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
この時突然、彼には二間とは間隔のない
路巾
(
みちはば
)
が、彼自身の
躯
(
からだ
)
を
圧
(
お
)
しつぶすように、同じ速度を踏んで、左右から盛り上り盛り上り
逼
(
せま
)
って来るように感じられた。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
かくの如き者に向っては、自ずから輿論の大なる勢力が、これを破るという必要に
逼
(
せま
)
っておるんである。
憲政に於ける輿論の勢力
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
賢兄心ニコノ義ヲ主トシサキニ先人ノ遺稿中ニ就テ曾撰ノ二首ト自ラ賦スルモノトヲ合セテ天下ノ一大壇場ニ上シ以テ不朽ニ垂レシム。双竜ノ紫気
殆
(
ほとん
)
ド斗間ニ
逼
(
せま
)
ル。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
庄内侯の
巡邏方
(
まはりかた
)
且つ町奉行の手を以て其の発頭人なる者を追々捕縛なしたりしかど、もとこれ、米価の沸騰より飢餓に
逼
(
せま
)
るに耐へかねて、かかる挙動に及べるなれば
大菩薩峠:16 道庵と鯔八の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
京師に至るに及んで、松平
春嶽
(
しゆんがく
)
公を見て又之を告ぐ。慶喜公江戸城に在り、衆皆之に
逼
(
せま
)
り、死を以て城を守らんことを請ふ。公
聽
(
き
)
かず、水戸に赴く、近臣二三十名從ふ。
南洲手抄言志録:03 南洲手抄言志録
(旧字旧仮名)
/
秋月種樹
、
佐藤一斎
(著)
当時、アメリカの科学者およびその他の学者の間にはこの遠洋航隊に代表者を出したいと言って、ペリイに
逼
(
せま
)
ったというだけでも、いかに空前の企てであったかがわかる。
夜明け前:03 第二部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
従来
(
これまで
)
義理に
逼
(
せま
)
られて三度ばかし
肉叉
(
フオーク
)
を手にとつた事があるが、三度が三度とも赤痢になつた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
はるかに
靺羯
(
まつかつ
)
の大野原を見さけんとするは、この城の姿勢なり——厳かなれども、
逼
(
せま
)
らず。
松浦あがた
(新字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
引しぼる程
苦勞
(
くらう
)
が
彌増
(
いやまし
)
今迄兄の長庵へ娘二人に
逢
(
あは
)
してと
逼
(
せま
)
りて居たる
折柄
(
をりから
)
成
(
なれ
)
ば此酒盛に
立交
(
たちまじ
)
りて居るも物
憂
(
うく
)
思ふ物から其場を外して二階に上れば折こそ
宜
(
よし
)
と長庵は二人が耳に口を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
縁に立って西の方を見ると、間近く山が
逼
(
せま
)
って来て、下の方遥かに早川の水が僅かに見える。湯川に架れる釣橋も見える。紅葉はまだ少し早く、崖の下草のみ秋の色を誇っている。
白峰の麓
(新字新仮名)
/
大下藤次郎
(著)
火
(
ほのほ
)
来りて身に
逼
(
せま
)
り、苦痛
己
(
おのれ
)
を
切
(
せ
)
むれども、心に
厭
(
いと
)
ひ
患
(
うれ
)
へず、
出
(
い
)
でんことを求むる
意
(
こころ
)
無し
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
眼の色を
異
(
ちが
)
えて、父に
逼
(
せま
)
り、果は血気に任せて、
口惜
(
くや
)
し紛れに、金がないと言われるけれど、地面を売れば
如何
(
どう
)
にかなりそうなものだ、それとも私の将来よりも地面の方が大事なら
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
私は書見に勞れて、机を離れて背延びをしながら
牕
(
まど
)
に
凭
(
よ
)
つた。山々の上に流れ渡つて居る夜の匂ひは冷々と洋燈の傍を離れたあとの勞れた身心に
逼
(
せま
)
つて來る。何とも言へず心地が快い。
姉妹
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
馬はそこで肆の中へ坐って、肆の男に
価
(
あたい
)
を言わして、やすねで売ったので、数日のうちに売りつくした。馬はそれから陶に
逼
(
せま
)
って
旅準備
(
たびじたく
)
をして、舟をやとうてとうとう北へ帰ってきた。
黄英
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
因つて校修を加へて以て改刻せんと欲すること一日に非ざるなり。独り
奈何
(
いか
)
んせん、老衰日に
逼
(
せま
)
り、志ありて未だ果さず、常に以て
憾
(
うら
)
みとなす。
乃
(
すなわ
)
ち門人茂質に命じて改訂に当らしむ。
杉田玄白
(新字新仮名)
/
石原純
(著)
西谷は、その手を縛り上げられながら、三人の刑事を掻除けるようにして、前へ前へと、署長等の背後に
逼
(
せま
)
って行った。署長と岡埜博士とは、その横の階段を、直ぐ階上へ登って行った。
三稜鏡:(笠松博士の奇怪な外科手術)
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
然り而して其の文を
観
(
み
)
るに、各々
奇態
(
きたい
)
を
奮
(
ふる
)
ひ、
啽哢
(
あんろう
)
真
(
しん
)
に
逼
(
せま
)
り、
低昂宛転
(
ていかうゑんてん
)
、読者の心気をして
洞越
(
どうゑつ
)
たらしむるなり。事実を千古に
鑑
(
かんが
)
みらるべし。
余
(
よ
)
適
(
たまたま
)
鼓腹
(
こふく
)
の閑話あり、口を
衝
(
つ
)
きて吐き
出
(
い
)
だす。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
然れども警察の取締皆無のため往来の人随所に垂流すが故に往来の少し引込みたる所などには必ず黄なるもの累々として
堆
(
うずたか
)
く、黄なる水
湛
(
たん
)
として
窪
(
くぼ
)
みに
溜
(
たま
)
りをりて臭気紛々として人に
逼
(
せま
)
る
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
源九郎義経が後白河法皇に
逼
(
せま
)
って、兄頼朝討伐の院宣を強請したについて、法皇やむをえずこれをお許しになったところが、頼朝の憤慨甚だしいのに恐れをなし給い、これを慰諭し給うべく
憑き物系統に関する民族的研究:その一例として飛騨の牛蒡種
(新字新仮名)
/
喜田貞吉
(著)
燈火
(
ともしび
)
を
点
(
てん
)
ずるころ、かの七間四面の堂にゆかた
裸
(
はだか
)
の男女
推
(
おし
)
入りて、
錐
(
きり
)
をたつるの地なし。
余
(
よ
)
も若かりしころ一度此堂押にあひしが、上へあげたる手を下へさぐる事もならざるほどに
逼
(
せま
)
り
立
(
たち
)
けり。
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
今年
(
ことし
)
——大正七年に彼女は四十四歳になるが、この上の平和と幸福とは重なろうとも、彼女の身辺に冷たい風の
逼
(
せま
)
ろうはずはない。私が彼女は幸福だといっても、
錯
(
あや
)
まった事ではなかろうと思う。
竹本綾之助
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
気がつきて水を呑むとき両手で
柄杓
(
ひしゃく
)
を押へ、首を持つていく工合真に
逼
(
せま
)
り、白紙を出して
髷
(
まげ
)
を
撫付
(
なでつ
)
くるも女の情にて受けたり。
斯様
(
かよう
)
な色気のあるものになりては福助も及ばず、半四郎後一人なるべし。
明治座評:(明治二十九年四月)
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
急
(
あせ
)
らず
逼
(
せま
)
らず、
擒縦
(
きんしょう
)
の術を尽せしが、敵の力や多少弱りけん、四五間近く寄る毎に、翻然延し返したる彼も、今回は、やや静かに寄る如く、
鈎𧋬
(
はりす
)
の結び目さえ、既に手元に入りたれば、船頭も心得て
大利根の大物釣
(新字新仮名)
/
石井研堂
(著)
「この勢いで
濮陽
(
ぼくよう
)
も収めろ」と、
呂布
(
りょふ
)
の根城へ
逼
(
せま
)
った。
三国志:03 群星の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
独自の
逼
(
せま
)
り方で強く胸に逼つてくるのを私は覚える。
柘榴の花
(新字旧仮名)
/
三好達治
(著)
永遠なる真理の鏡に
逼
(
せま
)
り近づいた
積
(
つもり
)
で、615
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
その
極
(
きょく
)
あなたは私の過去を
絵巻物
(
えまきもの
)
のように、あなたの前に展開してくれと
逼
(
せま
)
った。私はその時心のうちで、始めてあなたを尊敬した。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
逼
漢検準1級
部首:⾡
13画
“逼”を含む語句
逼塞
逼迫
圧逼
侵逼
逼仄
御逼塞
逼息
差逼
他国侵逼難
切逼
国許逼塞
塞逼
外逼
必逼
相逼
逼真