がま)” の例文
城址しろあとの森が黒く見える。沼がところどころ闇の夜の星に光った。あしがまがガサガサと夜風に動く。町のあかりがそこにもここにも見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そのすこし前までは白菊を摺箔すりはくにした上衣を着ていたが、今はそれを脱いでただがまの薄綿が透いて見えるくず衣物きものばかりでいる。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
紺の脚袢きゃはんがまはばきは、ゲートルに、草鞋わらじは、ネイルドブーツに、背負梯子しょいなは、ルックサックに、羚羊の着皮は、レーンコートに移り変る。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
子供の時分に、郷里の門前を流れる川が城山のふもとで急に曲がったあたりの、流れのよどみに一むらのがまい茂っていた。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
同じ用途のもので piuchiop、karop などがありますが、がま、アツシ織などで作りますから、陸で使用します。
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
水の幅は一町ばかり、いちめんの蓮のほかに水葵みずあおいがまかなにかごちゃごちゃに茂って浮き草が敷きつめたようになっている。
妹の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
水の上には、ところどころ枯れた蓮やよしがまなどが、折れたり倒れたりして、暗い繁みをつくってい、その蔭でしきりに鴨の群が騒いでいた。
雪と泥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蒲鉾という名もがまの穂の形によそえたのであろうから、むしろ今いうチクワがこれに該当する。だから西の方はこれだけをイタといっている。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
池のまはりには、一面にあしがまが茂つてゐる。そのあしがまの向うには、せいの高い白楊はこやなぎ並木なみきが、ひんよく風にそよいでゐる。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同じ荒物屋で売る品で感心するのはがまで編んだ雪沓ゆきぐつで、男のは白いフランネルで女のは赤いのでふちを取ります。編み方が丁寧で形にひんがあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
が、そのふゆってしまったとき、あるあさ子家鴨こあひる自分じぶん沢地たくちがまなかたおれているのにがついたのでした。
ビレラフォンの飾った馬勒をあらわしているつもりの、がまのよじったものを一本持って、ばたばたと追っかけました。
がまで編んだ箕帽子みぼうしを冠り、色目鏡を掛け、蒲脚絆がまはばきを着け、爪掛つまかけを掛け、それに毛布ケットだの、ショウルだので身を包んだ雪装束の人達が私の側を通った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
淡水でからだを洗い、がまの毛を敷きつめて、その中にふかふかと埋って寝た。これは、安楽のはじまりであろう。
露を其のまゝの女郎花おみなえし浅葱あさぎの優しい嫁菜の花、藤袴、また我亦紅われもこう、はよく伸び、よく茂り、慌てた蛙は、がまと間違へさうに、(我こそ)と咲いて居る。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きょうもそれをうっかりと考えていると、翁は日影がだんだんしこんで来るのにまぶしくなったらしい。だるそうに立ちあがって入口のがますだれをおろした。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこには、がまだのだのが、灰白く、かさ/\にかたまり合って枯れていた。——風のない曇った空をうかべた暗い水がどんよりとそのかげに身じろがなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「いそいであの水門に往つて、水で身體を洗つてその水門のがまの花粉を取つて、敷き散らしてその上にころが𢌞まわつたなら、お前の身はもとのはだのようにきつと治るだろう」
笛吹川さんのお家は、とても淋しいところでがす。あたりは三方、大きながまの生えている沼でしてナ、その一方には、崩れかかったような家が三軒ばかり並んでいるのでさア。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
○ハツハキといふは里俗りぞくのとなへなり、すなはち裹脚はゞきなり。わらのぬきこあるひはがまにても作る。雪中にはかならず用ふ、やまかせぎは常にも用ふ。作りやう図を見て大略を知るべし。
私は、柳や、がまや、変てこな見慣れない沼沢性の樹木などが一面に生い茂っている沼のような地域を横切って来て、その時は、波のように起伏している広い砂原の端のところに出ていた。
善く注意して見てもイチハツ類やがまはみとめられず、黄または白のスイレンさえなく、ただわずかなハート草とポタモゲトンと、たぶん一、二本のウォーター・ターゲットがあるのみである。
ほとほとに西日けうとくなりにけり霙がちなるがまたち (一二九頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
家の庭苑そのにも、立ち替り咲き替って、、草花が、何処まで盛り続けるかと思われる。だが其も一盛りで、坪はひそまり返ったような時が来る。池には葦が伸び、がまき、ぬきんでて来る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
今でも覚えてゐる……そこにはがま真菰まこもが青い芽を出してゐて、杜若かきつばたなどが咲いてゐた。そこで、祖父はいつも鯰の煮たのか何かで酒を飲んだ。
迅雷 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
真菰まこも精霊棚しょうりょうだな蓮花れんげの形をした燈籠とうろうはすの葉やほおずきなどはもちろん、珍しくもがまの穂や、べに花殻はながらなどを売る露店が
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
げんに五間くらいの土間に、飯台はんだいが二た側、おのおの左右に作り付けの腰掛が据えられ、がまで編んだ円座えんざが二尺ほどの間隔をとって置いてある。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし荷物を背負う用途を兼ねるものは、必然材料に丈夫なものが選ばれてくる。かやすげがま、岩芝、くご、葡萄ぶどう胡桃くるみ、特に愛されるのはしなの皮。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そのあとからは、めずらしく、黄牛あめうしかせた網代車あじろぐるまが通った。それが皆、まばらがますだれの目を、右からも左からも、来たかと思うと、通りぬけてしまう。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その材料は土地ごとに甚だ区々まちまちで、がますすきの穂の枯れたものも使えば、或いは朽木くちきの腐りかけた部分を取ってきて、少し火にがして貯えて置く者もあったが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
可哀かわいそうに! この子家鴨こあひるがどうしておよめさんをもらことなどかんがえていたでしょう。かれはただ、がまなかて、沢地たくちみずむのをゆるされればたくさんだったのです。
『みの帽子』を冠り、がま脛穿はゞきを着け、爪掛つまかけを掛けた多くの労働者、または毛布を頭から冠つて深く身を包んで居る旅人の群——其様そんな手合が眼前めのまへを往つたり来たりする。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこは、越中島埋立の失敗から、途中に航空研究所と商船学校のある外は人家とてもなく、あたり一面、気味の悪い沼地になっていて、人の背丈ほどもあるがましげっていた。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
○ハツハキといふは里俗りぞくのとなへなり、すなはち裹脚はゞきなり。わらのぬきこあるひはがまにても作る。雪中にはかならず用ふ、やまかせぎは常にも用ふ。作りやう図を見て大略を知るべし。
どうかがまの穂敷きつめた暖き寝所つくって下さいね、と眠られぬ夜、蚊帳かやのそとに立って君へお願いして、寒いのであろう、二つ三つ大きいくしゃみ残して消え去った、とか、いうじゃないか。
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
重い材木でしをして大きな断片にしたのである……それほど上等でないのはかれらががまでつくったむしろで蔽ってあって、これまたある程度までしっかりしており暖かくもあるが前者ほど良くはない。
新たに芽を出した蘆荻あしかやがまや、それにさびた水がいっぱいに満ちて、あるところは暗くあるところは明るかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこにはがまや菱が叢生そうせいし、そうしてわれわれが「蝶々蜻蛉とんぼ」と名付けていた珍しい蜻蛉が沢山に飛んでいた。
郷土的味覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
がま稈心みごしな葡萄蔓ぶどうづる、麻糸、木綿糸、馬の毛など様々なものが使われます。新庄しんじょうの市日などにざいからこれを着て出てくる風俗は、都の者には眼を見張らせます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
五月端午たんごの日の神と人との食物として、ちがやささがまいばら等さまざまの葉で巻いた巻餅をこしらえる風は全国的であるが、別にある土地限りでこの日にする事が幾つかある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
林を縫って細流が蛇行し、板塀いたべいの外へと流れ出ている。板塀の外は「沼」と呼ばれる湿地で、蘆荻ろてきがまが密生してい、冬になるとかもがんしぎばんなどが集まって来る。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ポンポン、そのおととおくではてしなくこだまして、たくさんのがんむれいっせいにがまなかからちました。おとはなおも四方八方しほうはっぽうからなしにひびいてます。狩人かりうどがこの沢地たくちをとりかこんだのです。
ひと月前の七月十三日の夜には哲学者のA君と偶然に銀座の草市を歩いて植物標本としてのがまの穂や紅花殻べにばながらを買ったりしたが、信州しんしゅうでは八月の今がひと月おくれの盂蘭盆うらぼん
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
古いものだががまの敷畳も入れて呉れたし、屋根や羽目板のいたんだところも直して呉れた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
色々の農具を作りますが、刃物によいものを見かけます。この町の荒物屋でがま製の模様入の「はばき」を売ります。紺の麻糸で編み紺の布で縁をとります。他に例の少い、美しい品であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その騒ぎで、雨のように落ちて来る、枝葉のしずくを、避けながら、半之助は快さそうな、期待の微笑をうかべ、岩の食卓の左右に、自分で編んだらしい、がま円座あぐらを置いた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……源六は庖丁を研いでいた。不自由なからだでどうしたものか、研ぎ台も水盥みずたらいもちゃんとそろえてあった。がまで編んだ敷物にきちんと坐って、きわめてたどたどしい手つきで庖丁を研いでいる。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふちの欠けた火桶ひおけに、古ぼけた茶棚ちゃだな枕屏風まくらびょうぶのほかはこれといって道具らしい物もみあたらないが、夜具や風呂敷包などきちんと隅に片付いているし、がまで編んだ敷畳もきれいに掃除がしてあり
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どの部屋も六帖であるが、窓は北に向いていてうす暗く、畳なしの床板に薄縁うすべりを敷いただけという、いかにもさむざむとした感じだった。窓の下に古びた小机があり、がまで編んだ円座えんざが置いてある。