よし)” の例文
川はよしの茂つた中にかくれてゐて、水の音ばかりが、どう/\ときこえました。幅一間ばかりの小川でしたが、瀬の早い荒川でした。
千本木川 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
盛り上げた土に柳の木が半分も埋まっているかと思うと、一方は低いあしよしの水たまりがまだ残っていて、白い星の影がけている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「百姓弥之助の話」はこの男が、僅かに一町歩の天地の間から見た森羅万象の記録である、これこそ真に「よしずいから天上のぞく」
竹やよしを綺麗に組み合わせて小さな小屋形のものを作り、それに朝顔を一ぱいにからませたりしてあるのも、その園内に持っていた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
橋の手前の小さな掛け茶屋には主人のばあさんがよしで囲った薄暗い小部屋こべやの中で、こそこそと店をたたむしたくでもしているだけだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
対岸は、よしの上に横たえられた青い土手が見え、橋詰にごちゃ/\している予田町の人家の裏が土手の上に塊まって覗いています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
テル子の夫が附け足した、よし町の花街の謂であるらしかつた。私は、断髪洋装の細君の思惑を気遣つて、激しく辞退の首を振り
日本橋 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
よしの間を潜ツて、その小川の内に穴(釣れさうな場処)を見つけ、竿のさきか何かで、氷を叩きこわし、一尺四方ばかりの穴を明けるです。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
少くとも保吉は誰に聞いたのか、狸の莫迦囃子の聞えるのは勿論、おいてき堀や片葉かたはよしも御竹倉にあるものと確信していた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
此の浮島の東北の隅のよしあし茫々と茂った真中に、たった一軒、古くから立って居る小屋がある。此れは漁師の万作まんさく住家すみかだ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
水の上には、ところどころ枯れた蓮やよしがまなどが、折れたり倒れたりして、暗い繁みをつくってい、その蔭でしきりに鴨の群が騒いでいた。
雪と泥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
よしがしげつて渡場わたしばの邪魔になり」といふかの川柳においても想像せらるる如く、時には互に反目はんもく嫉視しっしせるや知るべからず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大きな利根の兩岸には眞青な堤が相竝んで遠く連り、その水に接する所には兩側ともよしだか眞菰だか深く淺く茂つてゐる。
水郷めぐり (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
白根山へはよしヶ平の一軒茶屋の手前から左に細径ほそみちを辿って、最高点の地蔵岳でも下駄履きで草津から楽に日帰りが出来る。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あるいはまた頼朝はよしを折って、箸に用いたとも伝えております。上総の畳が池は、八段歩に近い大池でありますが、一本も葭というものが生えません。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうした「よしの髄から天井覗く」式の囚われた、唯物論的に不自由、不合理な……モウ一つ換言すれば科学に囚われ過ぎた非科学的な研究方法によって
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
国方くにがたで、菜萸ぐみといっているものの一尺ほどの細木、草はといえば、かやよし山菅やますげが少々、渚に近いところに鋸芝のこぎりしばがひとつまみほど生えているだけであった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
兎に角此気まぐれな小川でも、これあるが為に少しは田も出来る。つつみかやよしは青々としげって、殊更ことさらたけも高い。これあるが為に、夏はほたる根拠地こんきょちともなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
斯して置は殺生なりさりとて生返いきかへらせなば又々旅人へ惡さをなす者共なればとゞめをさして呉んと鐵の棒のさきのどあたりへ押當おしあて一寸々々ちよい/\よしで物を突く如く手輕てがるに止めを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あたり一面、よしあしが生えて足の踏み入れようもない。そこへ、どこから来たか大蛇が移り住んだ。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ただ客を待つ腰掛茶屋こしかけぢゃや毛氈もうせんが木の間にちらつきます。中洲なかすといって、あしだかよしだかの茂った傍を通ります。そろそろ向岸むこうぎし近くなりますと、ごみが沢山流れて来ます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
宮城野みやぎのの萩、末の松山まつやまの松、実方さねかた中将の墓にうる片葉のすすき野田のだ玉川たまがわよし名取なとりのたで、この五種を軸としたもので、今では一年の産額十万円に達していると云う。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
向うに見えるは大平山おおひらさんに佐野の山続きで、此方こちら都賀村つがむら甲村こうむら高堤たかどてで、此の辺は何方どちらを見ても一円沼ばかり、其の間にはよしあしの枯葉が茂り、誠に物淋しい処でございます。
青い魚籠びくたでを添へる、笹を置く、よしを敷く、それで一幅の水墨画になる。夏になるとその生活の半分を魚釣りで暮す故か、私にとつて夏ほど魚を愛し、魚に親しむ時はない。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
「ほう、ほう、見るに、中洲なかすよしがかくれた。あれ、庭の池で小禽なにか鳴いているわい。」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
よしがところどころに群生している外には、私達の邪魔になるようなものは何物もなかった。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
よしあしのようなたぐいのものに見えたが、そんなものなら平らに水を浮いて流れるはずだし、どうしても細い棒のようなものが、妙な調子でもって、ツイと出てはまた引込みます。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蛇池という伝説があり、三十町もよしの原ッパのつゞいた物怖しいところである。
織田信長 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
月とよしを描いた衝立ついたての蔭から、よろよろと蹌踉よろめき上り、止めようとする宅悦の襟首えりがみをひっ掴んで、逆体さかていに引き据え、上になったお岩の生際はえぎわから一溜の生血なまち、どろどろと宅悦の顔にかかるのが
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
笴は細き竹或はよしを以て作り、弓は木或はふとき竹を以て作りしならん。げんの原料は植物の皮或は獸類じゆうるゐの皮を細くりしものなりし事勿論もつろんなれど、余は此絃にはりをけ有りしならんと考ふ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
よしがゆれても
葭切鳥 (新字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ところが、川西の野爪のづめはらにかかると、よしあしや、また低い丘の起伏の彼方に、たくさんな弓の先が見えた。鉾の先もきらめいている。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこはもう対岸に近く、よしのまばらな岸の根に食込んで、土手の投影の中に河の本流が上げ潮の早い流勢を見せています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ことに六曲の左端によしの茂った水があってそこに一羽の水禽みずとりが飛んでいるのだが、その鳥の正体がどうしても分らない。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女軽業の連中を引っ担いで来た折助どもは、闇にまぎれて荒川の土手、よししのの生えたところまで来てしまいました。
そのほかには馬の草鞋わらんじはおろか、犬の足跡さえない。すがれたよしと真菰の池の岸まで美しいほどの白一色。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
よしえているような土地を埋めたてたりして、葭原よしわらというくるわが出来、住吉町すみよしちょう浪花町なにわちょうなどと、出身地の地名をかたどった盛り場となり、その近くへ芝居小屋が建築されたそれが
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
れから車を沼のへりまで引き込み、の荷をおろし、二人で差担さしかつぎにして、沼辺ぬまべり泥濘道ぬかるみみちを踏み分け、よしあし茂るかげえまして、車夫は心得て居りますから、枯枝かれえだなどを掻き集め
もうひるに近いので、かれは堤下の小料理屋へはいって、しじみ汁とひたし物で午飯をくっていると、古ぼけたよし衝立ついたてを境にして、すこし離れた隣りにも二人づれの客が向い合っていた。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
対岸には接骨木にわとこめいたがすがれかかった黄葉をれて力なさそうに水にうつむいた。それをめぐって黄ばんだよしがかなしそうにおののいて、その間からさびしい高原のけしきがながめられる。
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一条の小川が品川堀の下を横にくぐって、彼の家の下の谷を其南側に添うて東へ大田圃の方へと流れて居る。最初は女竹めだけの藪の中を流れ、それから稀によしを交えたかやの茂る土堤どての中を流れる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
法水さん、わしならあの三叉箭ボールが、裏庭の蔬菜園から放たれたのだと云いますがな。何故なら、今は蕪菁かぶら真盛まっさかりですよ。矢筈やはずは蕪菁、矢柄やがらよし——という鄙歌ひなうたを、たぶん貴方は御存じでしょうが
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
東の方に昨日と同じようによしのようなものがヒョイヒョイと見える。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わが宿の灯かげさしたる沼尻のよしのしげみに風さわぐなり
すると、蕭々しょうしょうたる平沙へいさよし彼方かなたにあたって、一すい犀笛さいぶえが聞えたと思うと、たちまち、早鉦はやがねや太鼓がけたたましく鳴りひびいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向島のなぎさは浅瀬によしが茂っていて、じかに船は着けられないが、長命寺の下に当るひとところだけ水が岸まで深く、土堤へすぐに着けることができた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
よしと、あしとが行手をさえぎる。ちっと方角に迷うた時は、蘆荻ろてき透間すきまをさがして、爪立って、そこから前路を見る。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十九歳=人間が肉体的にも精神的にもよしの葉のようなもろくてしかも強い生に対する探求の触手を身体中一ぱいに生やし、夢と迷いに向けて小さい眼を光らし、ねらいばかりつけて
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
芦やよしへたばかりだと思ふと大違ひの賑はしいところであつたのだ。
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
がんじがらめになっている繩を手早く解いて俯向けにして水を吐かせ、磧の枯枝やよしを集めて焚火を焚き、いろいろやっているうちに、どうやら気がついたらしく微かに手足を動かし始めた。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)