華美はで)” の例文
省三は不思議に思ってじょちゅうの声のした方を見た。昨日の朝銚子ちょうしで別れた女が婢の傍で笑って立っていた。女は華美はで明石あかしを着ていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すべてがいかにもきよらかで、優雅ゆうがで、そして華美はでなかなんともいえぬ神々こうごうしいところがある。とてもわしくちつくせるものではない。
「あれ、ハイカラな帯ね。お姉様には少し華美はでかもしれないけれど……」と、海老色の繻子しゅすに、草花の刺繍のしてある片側帯かたがわおびを指した。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
華美はで若粧わかづくり、何うしても葉茶屋のお内儀かみさんにいたしては少し華美なこしらえ、それに垢抜けて居るから一寸表へ出ても目立ちます。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
華美はで御生活おくらしのなかに住み慣れて、知らず知らず奥様を見習うように成りましたのです。思えば私は自然と風俗なりをつくりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
肉付のいゝ若い女が幾人いくたりも、赤い潰髷つぶし結綿ゆひわたにもう華美はで中形ちゆうがた浴衣ゆかたを着て引掛ひつかけ帶もだらしなく、歩む度に白い足の裏を見せながら行く。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
不断着だけれど、荒い縞の着物に飛白かすりの羽織を着て、華美はでな帯を締めて、障子につかまってはすに立った姿も何となく目にまる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼女はさっぱりした姿で、紅い模様のある華美はでな帯をしめていた。彼女はいきなり板敷の上に坐ると、あたりを見廻した。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
子供の服装は近頃ル・マタン紙の婦人欄の記者が批難した通り「何等なんららの熟慮を経ない、華美はでに過ぎた複雑な装飾」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかしそう云えば、私は錦絵にしきえいた御殿女中の羽織っているような華美はでな総模様の着物を宅の蔵の中で見た事がある。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
華美はでなるカシミールのショールとくれないのリボンかけし垂髪おさげとはるかに上等室に消ゆるを目送して、歩を返す時、千々岩の唇には恐ろしき微笑を浮かべたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
赤や紫の見える可笑しい程華美はででは有るが然しもう古びかへつた馬鹿に大きくて厚い蒲団の上に、小さな円い眼を出来るだけ睜開さうかいしてムンヅと坐り込んでゐた。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
手には元禄模様の華美はでな袋にバイオリンを入れて、水色絹に琥珀こはくの柄の付いた小形の洋傘こうもりげている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
長い滑稽こっけいトレーンのついた、幾人の手をくぐったかしれない華美はでな絹服のことも、戸口を一ぱいふさいでしまった途方もない大きさの腰張りクリノリンも、薄いろの靴のことも
デント大佐夫人はそれほど華美はでではなかつたが、ずつと貴婦人らしいと私は思つた。彼女はほつそりした身體つきと、蒼白い、温和な顏と、美しい髮とを持つてゐた。
うすき、あるは華美はでなる羽織のちりめんのしとやかさよ、女の一人は淡青うすあをのリボンをぞ髪につけたる。
春の暗示 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なぜなら彼は、夫の死にもかかわらず、華美はで平服ふだんぎに着換えた、ウルリーケを発見したからである。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
糸織の衿懸えりかけたる小袖こそで納戸なんど小紋の縮緬の羽織着て、七糸しつちん黒繻子くろじゆすとの昼夜帯して、華美はでなるシオウルを携へ、髪など撫付なでつけしとおぼしく、おもても見違ふやうに軽くよそほひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一通りの話をした御雪太夫の面影おもかげを思い返して、道中で見た時とは違い物々しい飾りを取りはずし、広くて赤いえりのかかった打掛うちかけに、華美はでやかな襦袢じゅばんや、黒い胴ぬきや
むこうの隅に、ひな屏風びょうぶの、小さな二枚折の蔭から、友染の掻巻かいまきすそれて、ともしびに風も当たらず寂莫せきばくとしてもの寂しく華美はでな死体がているのは、蝶吉がかしずく人形である。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
博物館で会った女の画家を記憶していますが、ハイカラに結って眼鏡を掛け、華美はでな羽織を着て、パッとした色の風呂敷を持ったりして、そして何かを縮図していました。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
華美はでの中に華美を得ぬ彼は渋い中に華美をやった。彼は自己の為に田園生活をやって居るのか、そもそもまた人の為に田園生活の芝居をやって居るのか、分からぬ日があった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
風流の道にたましいを打ち込んで、華美はでがましいことを余り好まなかった忠通も、おととし初めてうじ長者ちょうじゃと定められてからおのずと心もおごって来た。世の太平にも馴れて来た。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
華美はでに衣飾ることなど出来ようはずがない。で彼女は仕方なく質素な服装みなりをしていた。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
宮本夫人は器量自慢で、華美はで好きで、才子ぶるというのでとかく評判がよくなかった。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
茶は華美はで好きの多い草木のなかにあって、ひとり隠遁の志の深い出世間者である。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
貸や借の紛紜こぐらかりが複雑になっていたが、それはそれとして、身装みなりなどのめっきり華美はでになった彼女は、その日その日の明い気持で、生活の新しい幸福を予期しながら、病院の門をくぐった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
争つてゐるのであらう、女の華美はでな着物の縞目が、時々はたはたと翻つて、それが夜目にもはつきり見えた。が間もなく女は監房の内部へ消えて、厚い扉が、図太く入口を覆つてしまつた。
間木老人 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
彼女は真夏からずっと入院していたので、衣物きものもそのときに着て来た、地質の薄い、色の華美はでなものであった。痩せた襟のあたりにつけたリボンが皺くちゃになったのも、殊に哀れ深く見えた。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
死ぬのなら、もっと早くなせたかった。あの通りの華美はでな気象ですもの。あの人の若いころって、随分異性をひきつけていました。私がはじめて淡路町へいったころは、毎晩宴会のようでした。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
(ほんに、まあ、華美はで唐画たうぐわの世界、)
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
むこうのおじょうさん華美はで好きで
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
ブツブツと華美はでで賑やかな
深川の芸妓げいしゃ羽織衆はおりし/\と称えるような事になりましたので、貰わぬ者まで自分で染めて黒縮緬の羽織を着たという、誠に華美はでなことで。
汚れたかわら屋根、目にるものはことごとせた寒い色をしているので、芝居を出てから一瞬間とても消失きえうせない清心せいしん十六夜いざよい華美はでやかな姿の記憶が
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
月の光の工合ぐあいであろうか舟の周囲まわりは強い電燈をけたように明るくなって、女の縦模様のついた錦紗きんしゃのような華美はで羽織はおりがうすい紫のほのおとなって見えた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かねて竜宮界りゅうぐうかいにも奇麗きれいな、華美はでなところとうかがってりますので、わたくしもそのつもりになり、白衣びゃくいうえに、わたくし生前せいぜんばんきな色模様いろもよう衣裳いしょうかさねました。
秀吉は、聚楽第じゆらくだいの造営や大仏殿の建立、大坂、伏見の築城、朝鮮出兵と、華美はで好きに任せて莫大な費用を使つたやうに見えてゐて、少しも金には困らなかつた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
赤や紫の見える可笑おかしいほど華美はでではあるがしかしもう古びかえった馬鹿に大きくて厚い蒲団ふとんの上に、小さなまるい眼を出来るだけ睜開そうかいしてムンズと坐り込んでいた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
色淡き、あるは華美はでなる羽織のちりめんのしとやかさよ、女の一人は淡青のリボンをぞ髪につけたる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
丁度ちやうどさうした頃から華美はでな大きい煙花はなびが少しの休みもなしに三ヶ所程からあがるやうになつたのである。自分等はまたルウヴル宮の橋のたもとの人込に交つて空を仰いで居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その太夫さんは、やんごとなきお方のおとだね、何の仔細しさいがあってか、わたしはよく存じませねど、お身なりを平素ふだんよりはいっそう華美はでやかにお作りなされ、香をいて歌を
に彼はなにがしの妻のやうに出行であるかず、くれがしの夫人マダムのやうに気儘きままならず、又は誰々たれだれの如く華美はでを好まず、強請事ねだりごとせず、しかもそれ等の人々より才もかたち立勝たちまさりて在りながら
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
着物の柄は、後になればなるほど荒く華美はでになって来ています——一体がそんな風でした。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
「そうですナア。ああして今では浪人していますが、一体華美はでなことの好きな方です」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人の兄の唖の巳代吉みよきちは最早若者の数に入った。彼は其父方の血をしめして、口こそ利けね怜悧な器用な華美はでな職人風のイナセな若者であった。彼は吾家に入りびたる博徒の親分をにらんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
暫くして用をしにこうと思って、ヒョイと私が部屋を出ると、何時いつ来たのか、お糸さんがツイ其処で、着物の裾をクルッとまくった下から、華美はでな長襦袢だか腰巻だかを出し掛けて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
召使ひや馬車の質素なことから判斷すると、フェアファックス夫人はさう華美はでな人ではないだらう。さうあればあるほど結構だ。私は、たつた一度しか、華美な人たちと一緒に暮したことはない。
母親と祖父じいとがあって、はじめは、湯島三丁目に名高い銀杏いちょうの樹に近い処に、立派な旅籠屋はたごや兼帯の上等下宿、三階づくりやかたの内に、地方から出て来る代議士、大商人おおあきんどなどを宿して華美はで消光くらしていたが
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに華美はでなるを選みしなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)