ぶね)” の例文
「うん、それもある。だが、もっと他にも理由わけがあるよ。だいち、この船は、どろぼうぶねだってことを、君は、知ってやしまい」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
午前観たカテドラルのもとを今一度徘徊してヷン・ダイクの宅の前の店でエスカウト河の帆掛ぶねの景色をいた小さな陶器を買つて居ると
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
雙喜そうきという子供は中でも賢い方であったが、たちまち何か想い出して、「大船ならあれがあるぜ。八叔はちおじの通いぶねは、帰って来ているじゃないか」
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
西洋の船にならって造った二本マストもしくは一本マストの帆前船ほまえせんから、従来あった五大力ごだいりきの大船、種々な型の荷船、便船、いさぶね、小舟まで
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
アンドレア李旦の船は三二段帆のさよぶね(和蘭造りの黒船)で、和船わせん前敷まえしきにあたるところに筒丈つつだけ、八尺ばかりの真鍮しんちゅうの大筒を二梃据えつけてあった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「八日。陰。午後吉田へ会合。主人、貞白及小島金八郎並にひさし同伴、やまぶね讚岐金刀比羅宮ことひらのみや参詣。夜四時過乗船、夜半出船。尤同日安石より御届取計。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いかでむとてもやらず、うつくしきふところより、かしこくも見參みまゐらすれば、うへ女夫めをとびな微笑ほゝゑたまへる。それもゆめか、胡蝶こてふつばさかいにして、もゝ花菜はなな乘合のりあひぶね
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ早や一隻の荷足にたぶねを漕いで、鰕取川えびとりがわの方から、六郷ろくごう川尻の方へ廻って来るのが見えた。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
五月の潮の、ふくれきった水面は、小松の枝振りの面白い、波けの土手に邪魔もされず、白帆しらほをかけた押送おしおくぶねが、すぐ眼の前を拍子いさましく通ってゆくのが見える。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
敬太郎は久しぶりに晴々はればれした好い気分になって、水だの岡だのかけぶねだのを見廻した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はその小女から、帆柱を横たえた和船型の大きな船を五大力ということだの、木履ぽっくりのように膨れて黒いのは達磨だるまぶねということだの、伝馬船てんません荷足にたぶねの区別をも教えて貰った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「さあ、これから二人ふたりが、人買ひとかぶねせられておきしまへやられるところ、もっとさきまでいくとせますよ。さあ、いっしょにおいでなさい。」と、おじいさんは屋台やたいをかついで
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こう排日が非道ひどくちゃ、荷物一つ動かないからね。ナアニ。済まない事があるものか。コンナ船に乗ったら、ソンナ小面倒こめんどうな気兼ねは一切御無用だよ。国際的なルンペンぶねだからね。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たびにしてものこほしきに山下やましたあけのそほぶねおきゆ 〔巻三・二七〇〕 高市黒人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「ともあれ、難波へ急ぎ、そちの力で集められるだけの船を、淀の口、渡辺あたりへ寄せおいてくれ。——船底には悉皆しっかい、兵糧をつみ入れ、世上には、四国へ渡るあきなぶねといいふらして」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたぶね深夜しんやひとせたのでしやぶつといふひゞき舟棹ふなさをみづたびつたのである。おつぎはまた土手どてもどつておほきな川柳かはやなぎそばけた。二三交換かうくわんしてひとつたやうである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
水車ぶね瀬々にもやひて搗く杵のしろくかそけき夏もいぬめり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「この島で死なせようつもりなら、穀種などたまわるはずはない。つまりは、この籾をいて収穫とりいれをし、それをちから便たよぶねを待てというこの御顕示ごけんじがわからぬのか」
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
やみ夜更よふけにひとりかへるわたぶね殘月ざんげつのあしたに渡る夏の朝、雪の日、暴風雨あらしの日、風趣おもむきはあつてもはなしはない。平日なみひの並のはなしのひとつふたつが、手帳のはしに殘つてゐる。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
わが船が着くや否や集まつて来た石炭ぶねから幾百の黒奴くろんぼが歯まで黒く成つてあらはれ、曇つた空のもとに列を作つて入交いりかはり石炭を積み初めた時は鬼の世界へ来たかと恐ろしく感ぜられた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
よくおばあさんや、おじいさんからはなしいている人買ひとかぶねひめさまがさらわれて、白帆しらほってあるふねせられて、くらい、荒海あらうみなかおにのような船頭せんどうがれてゆくのでありました。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
せんのすえに青々とすんだ浪華なにわの海には、山陰さんいん山陽さんよう東山とうさんの国々から、寄進きしん巨材きょざい大石たいせきをつみこんでくる大名だいみょうの千ごくぶねが、おのおの舳先へさき紋所もんどころはたをたてならべ、満帆まんぱんに風をはらんで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ちかところに、やなぎえだはじやぶ/\とひたつてゐながら、わたぶねかげもない。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
待ちに待った船は来たが、便たよぶねにはあらで、流れ船だった。それも眼もあてられないようなひどい破船で、よくも今日までしのいできたと思うばかりの体裁だった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
上流の方には京都の下加茂の森に好く似た中島なかじまがあつて木立こだちの中に質素な別荘が赤い屋根を幾つも見せて居る。両がんには二階づくりに成つた洗濯ぶねが幾艘か繋がれて白い洗濯物がひるがへつて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あおうみのようなそらには、しろくもがほかけぶねはしるようにうごいていました。
はちの巣 (新字新仮名) / 小川未明(著)