じき)” の例文
ハントの家はカーライルのじき近傍で、現にカーライルがこのいえに引き移った晩尋ねて来たという事がカーライルの記録に書いてある。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
避ける工夫は仕てなかッた、殺すと早々逃たのだろう、余り智慧のたくましい男では無いと見える、此向このむきなら捕縛すればじきに白状するだろう
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「あら! ……」と忽ち機嫌を損ねて、「だから阿母かあさんは嫌いよ。じきああだもの。尋常ただのじゃ厭だって誰も言てやしなくってよ。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もっとのぼりは大抵たいていどのくらいと、そりゃかねて聞いてはいるんですが、日一杯だのもうじきだの、そんなにたやすかれる処とは思わない。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、いらっしゃいまし。やすは団子坂まで買物に参りましたが、もうじきに帰って参りましょう。まあ一寸ちょっとこちらへいらっしゃいまし」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
S——町のはずれを流れている川をさかのぼって、重なり合った幾箇いくつかの山裾やますそ辿たどって行くと、じきにその温泉場の白壁やむねが目についた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうでしょう、わたくしの宅はツイ此処を曲るとじきに二軒目でございますがねえ、幸い心ざす仏さまが有りまするが、あなた笛を吹いて修行を
必大兄御母上まで御送り愚兄ニハ小弟より手紙のあねニ達し候ことをしらせぬよふ御母上より御じきニ御達可遣御願申上候。
けれど、その後便利な世の中になって、写真版などで見たものは、その時はよく覚えていても、じきにすっかり忘れてしまいます。
内懐に入れ「それぢやあじきに代官所へ持つて参ります、これからはすつかり心を改めてしまひます」と二重を下り辞義をなす。
子供とて何時いつまでも子供にあらず、じきに一人前の男女となり、世の中の一部分を働くべき人間となるべきものなれば、事の大小軽重を問わず
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
老人「それはさもありそうですね。新年の大市もじきですから。——町にいる商人も一人ひとり残らず血眼ちまなこになっているでしょう。」
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「もうじきに、練馬ねりまの、豊島園としまえんの裏へつくったうちへ越すので『女人芸術』のと、あなたのとのはんをこしらえてあげたいって。」
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこでちょっと日本の禅宗坊さんが問答をやるようになりましたから、私はじきに禅宗坊主の真面目しんめんもくでその問答に応じました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
日向守ひゅうがのかみとは毎度会いはいたして来たが、戦場で会うは初めて。大将と大将とが、じきの太刀打ちいたすも、数日のうちにある。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西郷さいごうが出したり大隈おおくまが出したりした不換紙幣はじきに価値が低くなったが、利休の出した不換紙幣はその後何百年を経てなおその価値を保っている。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
が、それもこれもじきかれ疲労つからしてしまう。かれはそこでふとおもいた、自分じぶん位置いち安全あんぜんはかるには、女主人おんなあるじ穴蔵あなぐらかくれているのが上策じょうさくと。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして珍らしく穏かな或日の朝、雲の綿帽子をかなぐり捨てた和やかな孱顔さんがんを見せている山を眺めて、村の人達はじきに天気の変ることを知るのである。
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「太吉や、気分もいいし、お天気も好さそうだから町へ行って来るぞ。昼過ひるすぎにはじきに帰ってくるからまっていれよ。」
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
風は末だ冷たいが、でももうじき温かくなるだろう。しっかりやろうぞ。是から酒をのんで寝る。元気をつけるのだ。今は午前三時半である。(四、三)
「大阪へ行くんだから。」と答えたのが、自分には何だか、「もうじき死ぬんだから。」と云うように響いた。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
古ケルト人もっともこれを信じ、特別の白馬を公費もて神林中にい、大事あるに臨みこれを神車のじきあとに随わしめ、その動作嘶声しせいを察して神意を占うた。
私のじき近処に塩煎餅しほせんべいを売つて細々暮らしを立てゝ居た可愛さうな後家が有升ありましたが、母は家政を整へて次には貧民の面倒を見ることを義務つとめにして居た人ですから
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
運動場であるベース・ボールの練習も、空を飛ぶ球の動きも、廊下から見物するものをじきに飽きさせた。皆な静止じっとしていられなかった。何か動くことを思った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その頃私のじきの弟大之丞というは、薬丸やくまるという家へ養子に行っていたが、そこへ私が遊びに行った時
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
本所ほんじょ原庭町はらにわまち証顕寺しょうけんじという寺の横町には、二尺ばかりのお婆さんの石の像があって、小さな人たちが咳が出て困る時に、このお婆さんに頼むとじきに治るといいました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの小さい虫、よき音して、鳴いてくれました。私なんぼ悦びました。しかし段々寒くなって来ました。知ってますか。知っていませんか。じきに死なねばならないということを
「俺の思想に間違いはない。俺の考えはくずれはしない。しかし力は不足している。思想がじきに力と成って、いかなる者をも折伏しゃくぶくする、そこまで行かなければ本当とは云えない」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼の老人の家に蓄ふる竿の数は四百四本、薬味箪笥の抽斗数に同じく、天糸てぐすは、人参を仕入るゝついでに、広東かんとんよりのじき輸入、庭に薬研状やげんなりの泉水ありて、釣りたるは皆之に放ち置く。
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
考えるのですか。お部屋に帰って横におなりなさい。そしてぐっすりおやすみなさい。あなたはもっと睡眠をらなくちゃいけませんよ。よく眠りさえすれば、じきくなりますよ。
『あれはいま竜体りゅうたいもどったのじゃ。』とおじいさんが説明せつめいしてくれました。『竜体りゅうたいもどらぬと仕事しごと出来できぬのでな……。そのうちじきはじまるであろうから、しばらくここでつがよい。』
もうよほど歩いたから、発光路もじきだろうと、道程みちのりを聞いて見ると、ちょうど半途はんとだというので、それからまた勇気を附けて歩きましたが、歩いても、歩いても発光路へは着かない。
森川さんとお春さんも、最早もうじきに結婚するんだそうだ。どうも結婚が流行はやる。そしてお歌さんだって今年中には片付くんだから、お父さんもなかなか大抵じゃないって、お島が言った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
じきに押しかゝりては人馬ともに力疲れて気衰ふべければ、明暁野村三田村へ陣替ありて一息つぎ、二十八日の晨朝しののめに信長の本陣へ不意に切掛り、急にこれを攻めれば敵は思ひよらずして周章すべし
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「十五分も真直にけば」と女は言った。「じきにその広場に出ますわ」
女中は木之助を勝手口の方から案内し、ちょっとそこに待たせておいて奥へ姿を消したが、じきまた出て来て、さあおあがりな、と言った。木之助は長靴をぬいで女中のあとに従って仏間ぶつまにいった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
おれがじきに連れて来てやると御自身でお出かけになるところを、なにしろあの通り御酒ごしゅを召していらしって、お足元がお危のうございますから、それには及びませぬ、お手紙でもいただきますれば
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おじさんなんかも、以前が以前だから、またじきに癖がついてよ。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まきやのお出額でこのやうなが万一もし来ようなら、じきさま追出して家へは入れてらないや、己らは痘痕あばた湿しつつかきは大嫌ひと力を入れるに、主人あるじの女は吹出して、それでも正さん宜く私が店へ来て下さるの
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「アッサリ仰言いよ。モウじき、次の幕がくんですよ」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
赤い波が歯のじきうしろまで打ち寄せて来る。
「もうじきです」
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
峰「それは此方こっちへ頼めば宜うございます、四万の關善せきぜんと云うこれはい宿屋で、郵便もじきに来ます、一日遅れぐらいで届きます」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お島は浜屋で父親に昼飯の給仕をすると、碌々ろくろく男と口を利くひまもなく、じき停車場ステーションの方へ向ったが、主人も裏通りの方から見送りに来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは手順を以て下横目へ申し立つべき筋ではございますが、御重役御出席中の事ゆえ、今生こんじょうの思出におじきに申し上げます。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お重は何でもじきむきになる代りに裏表のない正直な美質を持っていたので、母よりはむしろ父に愛されていた。兄には無論可愛がられていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
叱言こごとは犬か、盗人猫ぬすっとねこか、勝手口の戸をあけて、ぴッしゃりと蓮葉はすはにしめたが、浅間だからじきにもう鉄瓶をかちりといわせて、障子の内に女の気勢けはい
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このたびはあるじかたきたる敵の討伐に向うのであるから、三日のうちに攻めのぼって、光秀とじきの太刀打ちをいたすであろう。そう伝言しておいてくれ
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水玉という草に水をうって、涼しくかけたものだが、みんな一時いっときのもので、赤くひからびるまではかけていない。じきにかけかえる手数はいとわなかった。
その後は上流に巨材などはありませんから、水は度〻たびたび出ても大したこともなく、出るのが早い代りに退くのも早くて、じき翌日あくるひは何の事もなくなるのです。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)