いた)” の例文
腹もっていた。寒気は、夜が深まるにつれて、身に迫っていためつけて来た。口をけば、残り少ない元気が消えてしまうのをおそれた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
葉子は寝床にはいってから、軽いいたみのある所をそっと平手でさすりながら、船がシヤトルの波止場はとばに着く時のありさまを想像してみた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わづらつた左の肋膜がまだいたむので右に臂枕をした。お糸さんは枕をさがしてきて、お寒いからつて私のマントを取つて上へかけてくれた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
ただ一雫ひとしずくの露となって、さかさに落ちて吸わりょうと、蕩然とろりとすると、痛い、いたい、痛い、疼いッ。肩のつけもとを棒切ぼうぎれで、砂越しに突挫つきくじいた。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桃子の胸を深い鋭いいたみに似たものが走った。こんなに近い近い自分たち二人の男と女、そしてまたこんなに遠くもある自分たち二人の男と女。
夜の若葉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
祕密喰ないしよぐひのうまさは母にも祖母にも告げなかつたが、柿のために腹がいたむといふことはなかつたので、不斷の戒めをいくらか輕んずる氣になつた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
依て六七貫目以上の重量にいたっては、強て耐忍する時は両肩は其重さによりされて、其いたみにたゆる事能わざるを以て、其重さに困る事を知るも
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
馬の上から転げ落ちた何小二かしょうじは、全然正気を失ったのであろうか。成程なるほどきずいたみは、いつかほとんど、しなくなった。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
右の膝小僧の曲り目の処が、不意にキリキリといたみ出したので、私はビックリして跳ね起きた。何かしら鋭い刃物で突き刺されたような痛みであった……
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さて長二と兼松は温泉宿藤屋に逗留して、二週ふたまわりほど湯治をいたしたので、たちま効験きゝめあらわれて、両人とも疵所きずしょいたみが薄らぎましたから、少し退屈の気味で
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
めくらと思うて人をだまそうとはしからぬと罵って、子を投げそうだから、城主更に臣下して自身をしたたか打たしめると、盲人また今度は一番どこがいたいかと問うた。
で私は仕方なくその人らに荷物を托し自分も馬に乗って進んで参りまして、その人らと一緒に足の疲れやいたみを休めるためにナムという小さな村に泊り込みました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いたさ、不気味さをもつて、がなすきがな私たちに襲ひかかり、私たちをして奔命に疲れしむるのみか、何よりも大切な心の落つきを失はせ、絶えず気持をいらいらさせる。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
心のいたむようなときにその男を呼び寄せる、それもただじっとその顔を見つめて、気が向いたら何か一つ二つ、それも全く縁のないむだ口をたたき合うくらいが関の山で
冬になって堯の肺はいたんだ。落葉が降り留っている井戸端の漆喰しっくいへ、洗面のとき吐くたんは、黄緑色からにぶい血の色を出すようになり、時にそれは驚くほど鮮かなくれないに冴えた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
お父つあんが死んでからはこの「たむら」が、眼に見えずむしばまれるやうに他人のものになつて行く、そんな不安がぢりぢりとこみあげて来て、鳩尾みづおちのあたりがきうといたんだ、——と云ふのは
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
ひとうはさととも彼女かのぢよいたではだん/\その生々なま/\しさをうしなふことが出來できたけれど、なほ幾度いくどとなくそのいたみは復活ふくくわつした。彼女かのぢよしづかにゐることをつた。それでもなほそのくゐには負惜まけをしみがあつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
うつり行く時見る毎に、心いたく 昔の人し 思ほゆるかも
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
摧折ひしおれたるきずの今にいたむことしきりにして
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
今度、当地こちらへ来がけに、歯がいたんで、馴染なじみ歯科医はいしゃへ行ったとお思い。その築地は、というと、用たしで、歯科医は大廻りに赤坂なんだよ。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もうすっかり繃帯ほうたいは取れていたが、彼の顔色にはすぐれないものがあった。傷のいたみは、いろいろな形で、彼の精神にもひびいたのかも知れない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
……一月の十五日に大雪が降つたでせう、あの日に私途中でおなかいたくなつたから、ある人の家で休ませて貰つて、家へ使ひをやつて迎へに來て貰つたの。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
じき体が疲れるとか、根気がなくなったとかいうことは、今更驚くほどでもないけれども、いつからとなくついた腰のいたみが、この頃激しくなるばかりであった。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あゝ不器用長二かというように名高くなりまして、諸方からおびたゞしく注文がまいりますが、手伝の兼松は足のきずで悩み、自分も此の頃の寒気のため背中の旧疵ふるきずいた
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は足がますますいたみますし、どうもして見ようがない。その日は幸いに驢馬の助けがあったので十里半ばかりの道は来ましたが、明日はとても進行の見込みがない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
痲痺まひしきったような葉子の感覚はだんだん回復して来た。それと共に瞑眩めまいを感ずるほどの頭痛をまず覚えた。次いで後腰部に鈍重ないたみがむくむくと頭をもたげるのを覚えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
れのタオル寝巻の下に折れ曲って、あかだらけの足首をのぞかせている。それだのに右足はいくら探しても無い。タッタ今飛び上るほどいたんだキリ、影も形も無くなっている。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼はその頃足を病んで起居にも困つてゐたのに、夢の中ではそんないたみなどは少しも知らぬもののやうに、人の往きなやむ山路を飛ぶやうに身も軽々と辿つてゐたといふことだ。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
きずいまいたむことしきりにして
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お米が気の弱い臆病ものの癖に、ちょっと癇持かんもちで、気に障ると直きつむりがいたみ出すという風なんですからたまりませんや。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝮蛇ふくだ手をせば壮士おのが腕を断つ」それを声をたてて云い、彼はふと自分の腕を見まわした。目をつぶると腕を斬るいたみが伝わって来るようであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
暫くそこに休んでそれからだんだん下へ急な坂を降って行きました。三里にしてパーチェという駅に着いて泊りましたが、どういう加減か自分の足はくつくわれて余程いたみを感じたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
……こんな事をボンヤリと考えているうちに、又も右脚の膝小僧の処が、ズキンズキンと飛び上る程いたんだ。私は思わず毛布の上から、そこをおさえ付けようとしたが、又、ハッと気が付いた。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と思ふと、阿母おつかさんはもうしたぱらがちくちくいたみ出して来る。
事実、そのやさしい、恍惚うっとりした、そして、弱々しいうちに、目もとのりんとした顔を見ると、腹のいたいのは忘れましたが。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いたみにこらへで吾ぞ病める。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
可哀そうに染むだろうねと、あねさんがまた塗ってくれる焼酎を、どうぞ口の方へとも何ともいわない弱りさ加減、黒旋風の愛吉いたむこと一方ならず。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝飯あさが済んでしばらくすると、境はしくしくと腹がいたみだした。——しばらくして、二三度はばかりへ通った。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きりきり激しくいたみます。松によっかかったり、すすきの根へしゃがんだり……杖を力にして、その(人待石)の処へ来て、たまらなくなって、どたりと腰を落しました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしが立合うて、思うには、祖父おおじ祖母おおば、親子姉妹、海山百里二百里と、ちりちりばらばらになったのが、一つ土に溶け合うのに、瀬戸もののかけまじっては、さぞいたかろう。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内に寝ていてさえ空腹ひだるうてならぬ処へなまなか遠路とおみち歩行あるいたりゃ、腰はいたむ、呼吸いきは切れる、腹はる、精は尽きる、な、お前様、ほんにほんに九死一生で戻りやしたよ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目を少々お煩いのようで、雪がきらきらしていたむからと言って、こんな土地でございます、ほんの出来あいの黒い目金を買わせて、掛けて、洋傘こうもりつえのようにしてお出掛けで。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「胃腸ですよ、いわゆる坐業いじょくで食っていますから、昨夜ゆうべなぞは、きりきりいたんで。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が惜しいかな——去年の冬、厳寒に身をいたんで、血をいて、雪にくれないの瓜を刻んだ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惘然ぼうぜんとして耳を傾くれば、金之助はその筋いたむ、左の二の腕を撫でつついった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
却説さて——その白井しらゐさんの四歳よツつをとこの、「おうちへかへらうよ、かへらうよ。」とつて、うらわかかあさんとともに、わたしたちのむねいたませたのも、そのかあさんのすゑいもうとの十一二にるのが
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
成程なるほど八疊はちでふ轉寢うたゝねをすると、とろりとすると下腹したはらがチクリといたんだ。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ものをくらべるのは恐縮きようしゆくだけれど、むかし西行さいぎやうでも芭蕉ばせをでも、みな彼処あすこでははらいためた——おもふに、小児こどもときから武者絵むしやゑではたれもお馴染なじみの、八まん太郎義家たらうよしいへが、龍頭たつがしらかぶと緋縅ひおどしよろいで、奥州合戦おうしうかつせんとき
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また思出おもひだことがある。故人こじん谷活東たにくわつとうは、紅葉先生こうえふせんせい晩年ばんねん準門葉じゆんもんえふで、肺病はいびやうむねいたみつゝ、洒々落々しや/\らく/\とした江戸えどであつた。(かつぎゆく三味線箱さみせんばこ時鳥ほとゝぎす)となかちやうとともにいた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恐ろしくいたむかして、小さく堅くなって、しくしく泣いてるんです。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)