甲板かんぱん)” の例文
十五糎の砲弾は、戦艦を沈めることは出来ないが、甲板かんぱんを焼き、やぐらをたおし、煙突をつき破る。敵艦は火の手をあげて、もえ出した。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
たこの尾には、一つのかごがとりつけられた、これはサクラ号の甲板かんぱんにあったもので、このなかにひとりがはいってあがるのである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
××もまた同じことだった。長雨ながあめの中に旗をらした二万トンの××の甲板かんぱんの下にも鼠はいつか手箱だの衣嚢いのうだのにもつきはじめた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
マリ子はこえをかぎりに、兄の正太をよびとめたが、正太はどんどんと甲板かんぱんの人ごみのなかにはしりこんで、姿は見えなくなった。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第一装だいいっそうのブレザァコオトに着更きがえ、甲板かんぱんに立っていると、上甲板のほうで、「ふかれた」とさわぎたて、みんなけてゆきました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
甲板かんぱんの上には汚れた白い服を着たボーイが二三人仕事をしているのが小さく見えた。清三は立ちどまってじっとそれを見つめた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鋭い弦月が現われて、一本の帆柱へ懸かった頃、すなわち夜も明方の事、副将来島くるしま十平太は、二、三の部下を従えて胴の間から甲板かんぱんへ出た。
それから、地面をはうようにしてランチに近づき、パッとその甲板かんぱんにとびのると、すばやく、ものかげに、姿をかくしました。
探偵少年 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
折しも向かいの船に声こそあれ、白由党員の一人いちにん甲板かんぱんの上に立ち上りて演説をなせるなり。殺気凜烈りんれつ人をして慄然りつぜんたらしむ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
やが船尾せんびかたると、此處こゝ人影ひとかげまれで、すで洗淨せんじようをはつて、幾分いくぶん水氣すゐきびて甲板かんぱんうへには、つきひかり一段いちだん冴渡さへわたつてる。
横浜の桟橋につながれた絵島丸の甲板かんぱんの上で、始めて猛獣のようなこの男を見た時から、稲妻のように鋭く葉子はこの男の優越を感受した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
肉づきのいい大柄な此の娘は真白なセイラーのもすそを川風にひるがへして、甲板かんぱんに立つてかじを操つた。彼女は花子と呼ばれた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
またふね甲板かんぱんあらっているのや、みなとまちあそびにゆこうとしてはしけをこぎはじめているのや、それは一ようでなかったのでした。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たゞ金石間近かないはまぢかになつたとき甲板かんぱんはうなにらんおそろしいおとがして、みんなが、きやツ!とさけんだときばかり、すこ顏色かほいろへたぢや。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今日けふより点火されし遊歩甲板かんぱんの電灯の光にて、水色の麻のナフキン、象牙の箸、象牙の櫛など勧めらるるがまゝにあがなひさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
退屈だから甲板かんぱんに出て向うを見ると、晴れたとも曇ったともかたのつかない天気のうちに、黒い影が煙を吐いて、静かな空を濁しながら動いて行く。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四千何百トンのふねが三四十度ぐらいに傾いてさ、山のようなやつがドンドン甲板かんぱんを打ち越してさ、ふねがぎいぎいるとあまりいい心地こころもちはしないね
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
大雨の小止みの間に、釜谷かまやの部落を見ようとして甲板かんぱんに立つと、曳船を頼むといって濡れた舟が一つ、岸に繋いである所へ一群の人が下りてくる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あたりが暗くなると、色とりどりのランプに火がともされ、水夫たちは甲板かんぱんに出て、楽しそうにおどりはじめました。
そして水面からわずか高い甲板かんぱんの上には、ガラスしょうじをたてきった船室があり、その前にはきれいなろうかがあって、つたの葉でおおわれていた。
うち新聞記者しんぶんきしやる、出迎人でむかへにんる。汽船会社きせんぐわいしや雇人やとひにんる。甲板かんぱん上中下じやうちうげともぎツしりひとうづまつてしまつた。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
かにはこうして箱のまま汽船の甲板かんぱんに積み込まれ、時々しおにつけられ、時々ふたを少しあけては古臭いコプラを喰べさされました。そこには夜もなく、昼もありません。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
船房に閉籠とじこもっている乗客は少なかった。大概の人は甲板かんぱんの上に出て、春らしい光と熱とにふけり楽んだ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
甲板かんぱんのこと、船の上で知り合いになった小母おばさん達のことなど思い起しますと、今この霧の町を妙な馬車で通っていることさえ、不思議に思われてなりませんでした。
ミル爺さんは、船が長い波の上の旅をつづけている間も、毎日のように受持の甲板かんぱんの掃除をしながら、日本の港へついたときのことを考えて、胸をわくわくさせていました。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
太陽は、船の甲板かんぱんを焼き、とろとろと渦巻き流れている河の水を焼いて、はげしく照りかえし、英夫や、祥子や、謙一を、フライパンの上でりあげているように思われた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
先生も何だかわからなかったようだが漁師りょうしかしららしい洋服ようふくふとった人がああいるかですとった。あんまりみんな甲板かんぱんのこっちがわへばかり来たものだから少し船がかたむいた。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私は紺絣こんがすりの着物、それにはかまをつけ、貼柾はりまさ安下駄やすげたをはいて船尾の甲板かんぱんに立っていた。マントも着ていない。帽子も、かぶっていない。船は走っている。信濃しなの川を下っているのだ。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
トム公は、ほかのくろんぼ連と一緒に、七千トンの※槽ダンブルの底から午飯を食べに甲板かんぱんに上がって来た。半日の作業で、どの顔も、どの顔も、蝋燭ろうそくと、カナさびでまっ黒に生れ変っている。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つつましやかな氣持で甲板かんぱん一隅ひとすみにぢつとたゝずみながら、今まで心の中に持つてゐた、人間的なあらゆるみにくさ、にごり、曇り、いやしさ、暗さを跡方あとかたもなくふきぬぐはれてしまつたやうな
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ついに戦死せるもののごとく、広瀬中佐は乗員をボートに乗り移らしめ、杉野兵曹長の見当たらざるため自ら三たび船内を捜索したるも、船体漸次ぜんじに沈没、海水甲板かんぱんに達せるをもって
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
船の動きかたのはげしいこと、甲板かんぱん上の作業も、じゅうぶんにはできなくなった。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
ペナンからコロムボの中間ちゅうかんで、余は其思出の記を甲板かんぱんから印度洋へほうり込んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
甲板かんぱんや廊下を下駄で走りまはるものや、飲み屋の女の嬌声けうせいも聞えた。幾度となく、富岡達の部屋のドアを開けて、なかをのぞきこむものもある。富岡もゆき子も、この無作法には驚いてしまつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
いつの間にか船首をめぐらせる端艇小さくなりて人の顔も分き難くなれば甲板かんぱんに長居は船暈ふなよいの元と窮屈なる船室にい込み用意の葡萄酒一杯に喉をうるおして革鞄かばん枕に横になれば甲板にまたもや汽笛の音。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
船頭さん、わしはこの日あたりのよい、甲板かんぱんに居ることにするよ。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
その夜更よふけて、私は貨物船清見丸へ壮平親子を見送みおくりにいった。甲板かんぱん堆高うずたかく積まれたロープの蔭から私たちは美しい港の灯を見つめていた。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、二三日って、甲板かんぱんで逢った内田さんがぼくに、「坂本さん、お願いがあるんやけれど」とめずらしく改まった調子です。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
明智探偵は盗賊のために、汽船の甲板かんぱんのてすりまで追いつめられたのです。もう海へとびこむほかに逃げみちはありません。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
富士男のことばがおわるかおわらないうちに、大山のごとき怒濤どとうが、もくもくとおしよせたかと見るまに、どしんと甲板かんぱんの上に落ちかかった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「さっき敵艦が潜水する時に、一人だけ甲板かんぱんに取り残されたんだね。せめて救命袋に食糧品をくくりつけて、投げてやれ。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
その間、葉子は仰向けになって、甲板かんぱんで盛んに荷揚げしている人足にんそくらの騒ぎを聞きながら、やや暗くなりかけた光で木村の顔を見やっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もっとも、さっき甲板かんぱんではちょいと姿を見かけたが、その後、君の船室へもサロンへも顔を出さなかったので、僕はもう帰ったのかと思っていた。
出帆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
甲板かんぱんの上に若い英吉利イギリスの男が犬を抱いて穏かに寝ていたと云ったら、海のようすもたいていは想像されるだろうと思う。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのふねには、一つのはたっていなければ、んでいるひとたちの姿すがたすら、甲板かんぱんにはあらわれていなかったのです。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鼠色の服を着けさふらて、帽は黒のおほへるをして甲板かんぱんに立ちさふらふに、私を不思議さうのぞかぬはなく、はづかしくさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
帰りの海路では印度インド洋を全速力で航進する汽船の甲板かんぱんから身を躍らせて、船尾に垂らしたロープにつかまりながら海水浴を楽しむのを常としたのみか
夫人ふじん少年せうねんとをその船室キヤビンおくつて、明朝めうてうちぎつて自分じぶん船室へやかへつたとき八點鐘はつてんしよう號鐘がうしようはいと澄渡すみわたつて甲板かんぱんきこえた。
きょうは、この王子の誕生日たんじょうびだったのです。それで、こんなににぎやかに、お祝いの会が開かれているのでした。水夫たちが、甲板かんぱんおどりをはじめました。
わたしはなぜかれを甲板かんぱんの上にいて行かなければならなかったか、そのわけを説明せつめいすることができなかった。