牡丹餅ぼたもち)” の例文
祇園ぎおん清水きよみず知恩院ちおんいん金閣寺きんかくじ拝見がいやなら西陣にしじんへ行って、帯か三まいがさねでも見立てるさ。どうだ、あいた口に牡丹餅ぼたもちよりうまい話だろう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
行為アクションさ。本を読むばかりで何にも出来ないのは、皿に盛った牡丹餅ぼたもちにかいた牡丹餅と間違えておとなしくながめているのと同様だ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おとすその評判の塩梅あんばいたる上戸じょうごの酒を称し下戸の牡丹餅ぼたもちをもてはやすに異ならず淡味家はアライを可とし濃味家は口取を佳とす共に真味を
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
病気そのものが渇望していたところのものを、棚から牡丹餅ぼたもち的に与えられたことの喜びが、兵馬の苦痛をやわらげずにはおきません。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
陽暦で正月をましてとくに餅は食うてしもうた美的びてき百姓の家へ、にこ/\顔の糸ちゃん春ちゃんが朝飯前に牡丹餅ぼたもちを持て来てくれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
モチイヒすなわち今日のおはぎ牡丹餅ぼたもちのようなものだけが、モチであったはずだと思う人があるかも知らぬが、仮にそうだったところが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
天からでも降ったように、次の日には、塹壕や防柵ぼうさくの陣地にある兵隊たちの手へ、時ならぬ牡丹餅ぼたもちが、幾ツずつか配給された。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菓子は好物のうぐいす餅、さい独活うどにみつばにくわい、ものは京菜の新漬け。生徒は草餅や牡丹餅ぼたもちをよく持って来てくれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
虎杖いたどりもなつかしいものの一つである。日曜日の本町ほんまちの市で、手製の牡丹餅ぼたもちなどと一緒にこのいたどりを売っている近郷の婆さんなどがあった。
郷土的味覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わたしが今立っている酒屋のところにはおてつ牡丹餅ぼたもちの店があった。そこらには茶畑もあった。草原にはところどころに小さい水が流れていた。
火に追われて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先生に叱られるどころの沙汰ではない。学生がもしこの真似でもしようものなら、落第することだけは牡丹餅ぼたもち大の判こをして保証してもいい。
これが牡丹餅ぼたもちを作るとか白酒を作るとかいうのに比べて見ると、その冷めたい酸っぱのする酢を作るという所に、どうしても秋の心持がある。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
残り九十人の者どもわが意にかなわずとて銘々に商法を議し、支配人は酒を売らんとすれば九十人の者は牡丹餅ぼたもちを仕入れんとし、その評議区々にて
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いわんや五階から落ちたとすれば、牡丹餅ぼたもちを床の上へ落としたようにぺちゃんこにつぶれてしまうだろうと思います。
五階の窓:02 合作の二 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
手作りの牡丹餅ぼたもちやこわめしを届けたり、下の物さえないというかみさんに、古くて洗いざらしではあるが、自分や娘の物をそっと持っていったりした。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
作「だから金は何処どこから出るか知んねえ、富貴ふうき天にあり牡丹餅ぼたもち棚にありと神道者しんどうしゃが云う通りだ、おいサア行くべえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「片原に、おっこち……こいつ、棚から牡丹餅ぼたもちときこえるか。——恋人でもあったら言伝ことづけを頼まれようかね。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一つの法則を出ない、即ち、田を河の如くに渡るとか、糞尿ふんにょうのために入って風呂ふろをつかうような事をするとか、馬糞を牡丹餅ぼたもちとして食うとか、皆同一規である。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
食事以外には定まった休憩の時間はないが、一鉢あげるごとに、随意に渋茶も飲めるし、また薩摩芋さつまいもや時には牡丹餅ぼたもちなどの御馳走も、勝手にいただけるのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そいつァゆめ牡丹餅ぼたもちだの。十もんんだうちが、三りょうだとなりゃァ一しゅはあんまり安過やすすぎた。三りょうのうちから一しゅじゃァ、かみぽんくほどのいたさもあるまいて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しつかと押へ漸く蕎麥責をのがれしが此時露伴子は七椀と退治和田の牡丹餅ぼたもちに梅花道人が辭してより久しく誰人の手にも落ちざりし豪傑號を得たりしは目ざましかりける振舞なり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
葦「あの今日は亡父の三回忌に当りますので。わざと志の牡丹餅ぼたもちこしらえましたが。姉の手でござりますから。うまくはござりますまいが。どうか召し上ってくださいまし」
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
くさやの干物と牡丹餅ぼたもちじゃ勝負になるまい。負けだ負けだ私は負けだ。昔、権現さま逃げるが勝ちよと、そこで翌晩、お名残りに『信長記』を一席読むと尻に帆かけて逃げ出したのじゃ。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
市井人しせいじんとして、八十八の老婆で死んだのだが、手習師匠へもってゆく、お彼岸の牡丹餅ぼたもちをお墓場はかへ埋めてしまったのから運命が定まったのだといえば、人間の一生なんて実に変なものだ。
「留守ごとに牡丹餅ぼたもちでもこしらえて食うかいの。」とばあさんは云い出した。
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
悪く行き合せると、田舎の事だから牡丹餅ぼたもちをこしらえてる、餡粉あんこの草餅を揉んでる。まあまあ、どうぞお一つ、それやアお一つ、てこ盛りで、勧め方があくどいからね。それに野天のてんは暑いし。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
他の不規則ふきそくに高低は或はき或はりて全体ぜんたいを大なる牡丹餅ぼたもちの如き形とし兩面れうめん中央部ちうわうぶには尖端せんたんの鋭き石片せきへん又は鹿しか角抔つのなどて、他の小石を槌として之をち徐々にくぼみをまうけしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「あんたも正子も、まるで棚の上の牡丹餅ぼたもちぐらいに考えてるのね。」
一つ身の着物 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「遣ったり取ったり節季の牡丹餅ぼたもちか——。」
命婦みゃうぶより牡丹餅ぼたもちたばす彼岸かな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
牡丹餅ぼたもちうまいな
十五夜お月さん (旧字旧仮名) / 野口雨情(著)
こう云いながらふたを取ろうとすると、彼女はかすかに苦笑をらした。重箱の中には白砂糖をふりかけた牡丹餅ぼたもちが行儀よく並べてあった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ついでに着せもしてやらうと青山の兄から牡丹餅ぼたもちの様にうま文言もんごん、偖こそむねで下し、招待券の御伴おともして、逗子より新橋へは来りしなりけり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
普通の家庭でも女等が集まると、おすしをつけるとか牡丹餅ぼたもちをつくるとかする、それと同じような訳で、尼どもが集まって甘酒をつくるというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
たとえば山口県の柳井やないではあざみをウサギグサ。これは福島県の相馬そうま地方でも、野薊を馬の牡丹餅ぼたもちというから、多分は兎がよろこんで食べる草という意であろう。
新屋のあねえに、やぶの前で、牡丹餅ぼたもち半分分けてもろうた了簡りょうけんじゃで、のう、食物たべものも下されば、おなさけも下さりょうぐらいに思うて、こびりついたでござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これまで京都堺町にて売弘め候牡丹餅ぼたもちも少し流行におくれ強慾に過ぎ候、三条通にて山の内餅をつき込み……
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「佐原屋の息子の茂吉は、宵のうちは帳場に居て、亥刻よつ(十時)頃から奥の部屋へ引取ったということで——これは番頭も小僧も牡丹餅ぼたもちほどの判をすそうで——」
第二が一人っ子であまやかされているということでも聞いたのだろう、突然そんなことを云いだして、ついに「牡丹餅ぼたもち」という綽名あだなが付いたのもみよのおかげである。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
有名なおてつ牡丹餅ぼたもちの店は、わたしの町内の角に存していたが、今は万屋よろずやという酒舗さかやになっている。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おもちゃや駄菓子だがしを並べた露店、むしろの上に鶏卵や牡丹餅ぼたもち虎杖いたどりやさとうきび等を並べた農婦の売店などの中に交じって蓄音機屋の店がおのずからな異彩を放っていた。
蓄音機 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
洒落しやれ御主人ごしゆじんで、それから牡丹餅ぼたもち引出ひきだしてしまつて、生きたかへるを一ぴきはふんできました。
日本の小僧 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
例年れいねん隣家となりを頼んだもち今年ことし自家うちくので、懇意こんいな車屋夫妻がうすきね蒸籠せいろうかままで荷車にぐるまに積んで来て、悉皆すっかり舂いてくれた。となり二軒に大威張おおいばり牡丹餅ぼたもちをくばる。肥後流ひごりゅう丸餅まるもちを造る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
命婦みょうぶより牡丹餅ぼたもちたばす彼岸ひがんかな
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
御彼岸おひがんにお寺詣てらまいりをして偶然方丈ほうじょう牡丹餅ぼたもちの御馳走になるような者だ。金田君はどんな事を客人に依頼するかなと、椽の下から耳を澄して聞いている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つぶしあん牡丹餅ぼたもちさ。ために、浅からざる御不興をこうむった、そうだろう。新製売出しの当り祝につぶしは不可いけない。のみならず、酒宴の半ばへ牡丹餅は可笑おかしい。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次第によつては、大名にもなれまいものでもあるまいといふ、誠に棚から牡丹餅ぼたもちの沙汰です。
「生意気なことを言うな。それはそうと与八、遊びに来い、檀家だんかから貰った牡丹餅ぼたもち饅頭まんじゅうがウンとあって本尊様と俺とではとても食いきれねえ、お前に好きなほど食わしてやる」
へえよろしうございます…………何処どこかくさうな、アヽ台所だいどころへ置けば知れないや、下流したながしへ牡丹餅ぼたもちを置いてをけふたをしてと、人が見たらかへるになるんだよ、いかえ人が見たらかへるだよ
日本の小僧 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あんまり棚から牡丹餅ぼたもちすぎるんで、なかには渋る者もあったですが、百姓をしていたでは一生かかっても五両なんて金は持てねえだし、つまりは金にひかされてうんといってしまったですよ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)