歳月としつき)” の例文
歳月としつきと、雨と風と日の光が、こんなに鳥右さんをやつれさせてしまひました。けれども鳥右さんの心は喜びでふくらんでゐました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
にたゝへておたかくとはいひしぬ歳月としつきこゝろくばりし甲斐かひやうや此詞このことばにまづ安心あんしんとはおもふものゝ運平うんぺいなほも油斷ゆだんをなさず起居たちゐにつけて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いたずら歳月としつきを送ッたを惜しい事に思ッているのか? 或は母の言葉の放ッた光りに我身をめぐ暗黒やみを破られ、始めて今が浮沈の潮界しおざかい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
『おわかれしてから随分ずいぶんなが歳月としつきましたが、はからずもいまここでおにかかることができまして、こころからうれしうございます。』
考えると、よくこんな商売をきもせず、長の歳月としつきやられたものだ。長蔵さんだって、天性御前さん働く気はないかねに適した訳でもあるまい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かえって心配の種子たねにて我をも其等それらうきたる人々と同じようおぼいずらんかとあんそうろうてはに/\頼み薄く口惜くちおしゅう覚えて、あわれ歳月としつきの早くたてかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
和尚さんは、話し終つて『黄金の甕が、永い歳月としつきのうちに川へ落ちさうになつたので、一ツ目小僧に化けて人に知らせたのぢや。いいか、判つたか』
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
そののちなが歳月としつきておしなはゝんだとき以前いぜんはなしたりいたりしてものあひだにのみわづか記憶きおくかへされた。おしなはゝこし病氣びやうきつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一瞬間のうちに限りない歳月としつきを押しつめたようで、私はその重荷の下にふらふらと昏倒しそうになります。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
長い歳月としつきの間、まじめな御用の時も、遊びの催しにもお身近の者として離れず侍してきて、だれよりも多く愛顧を賜わった院の、なつかしいお優しさを思うと
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうして色んな噂が立ったり消えたりしているうちに二十年の歳月としつきが流れて今日こんにちに到った訳で……いわば品夫は、そうした二十年ぜんの惨劇がこの村に生み残した
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一向島内の御法はわきまえませぬが、何か一箇年いっかねんに両三度罪人どもへ娑婆飯とか申して米の御飯ごはんを下され候由、わずかの事を楽しみに歳月としつきを送ります無気力の囚人ども
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その以来再び世間に出ようともせず、子々孫々ここに平和の歳月としつきを送っているので、世間のことはなんにも知らない。秦のほろびた事も知らない。かんおこったことも知らない。
雨にも打たれ風にももまれ、往時を想うて泣き今に当って苦しみ、そして五年の歳月としつきよどみながらも絶ず流れて遂にこの今のあわかたまりのような軽石のような人間を作りあげたのである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それらの銀貨は、そこで、歳月としつきを経ているらしかった。どれもこれも眠っているようだ。まれに眼を覚ましているのもある。すみから隅へ押し合い、入り混じり、そして数は無数だ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しかしそんなものはこの歳月としつき唯「おかる勘平かんぺい」のような狂言戯作げさく筋立すじだてにのみ必要なものとしていたのではないか。それが今どうして突然意外にも不思議にも心を騒がし始めたのであろう。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もっとも平和な時でさえも、わしはあまり陰気だったから。あなたがたには、長い歳月としつきの間さぞわしががた重荷おもにだったろう。でもわしをきらってくださるな。わしはあまりにさびしい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
二十九年と七カ月の歳月としつきを費やし遥々ようよう万里の波濤はとうを越えて漂着したこの一個の函をめぐって、今や世界学者の論争は白熱化しているということが、同じくこの外電によって報じられている。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もし他日、歳月としつきたって、再びここに遊ぶ日の想い出にもなろうかと。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歳月としつきは かなしきかなや うるはしの み子らほろびて 蜻蛉あきつながるる
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それにしても私の四肢てあしは、我が浮浪の幾歳月としつきに衰へてゐたので
面白い半分に歳月としつきおくって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その場合ばあひにはかなら今迄いままでむつまじくごしたなが歳月としつきさかのぼつて、自分達じぶんたち如何いか犧牲ぎせいはらつて、結婚けつこんあへてしたかと當時たうじおもさないわけにはかなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けてもれても、るものはただやまばかり、ひたすら修行しゅぎょう三昧ざんまいなが歳月としつきおくったわたくしでございますから、尚更なおさらこのうみ景色けしきったのでございましょう
沈み果てぬる破舟やれぶねの我にもあらず歳月としつきを、空しく杉の板葺の霰に悲しき夜を泣きて、風につれなき日を送り、心くだくる荒磯の浪の響に霜の朝、独り寐覚めし凄じさ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それの形になって現われるようなこともなくて歳月としつきがたつうちに、中宮ちゅうぐうのほうには宮たちも多くおできになって、それぞれごりっぱにおなりあそばされたにもかかわらず
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
重吉はこの歳月としつき昼のうちはめったに表通おもてどおりへ出たことがないので、冬の日影もたちまち夏のようにまぶしく思われ、二重廻にじゅうまわしも着ずに出て来た身には吹きすさむ風の寒さ。急に腹が減ったような心持もする。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何といふ長い歳月としつきだつたらう。何といふつらい毎日だつたらう……。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
不自由をこらえて御当家へ願い、住みこませると、長の歳月としつき御丹精を戴いた御主人様の大恩を忘れ、奉公人の身の上でありながら、御主人様の令嬢と不義いたずらをするとは、何と云う心得違の事じゃ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わざとらずがほつくりながらもくれなゐわれしらずおほ袖屏風そでびやうぶにいとゞこゝろのうちあらはれて今更いまさらきたることもありひとみぬひまの手習てならひ松澤まつざはたかとかいてまた塗隱ぬりかくすあどけなさ利發りはつえても未通女氣おぼこぎなりおなこゝろ芳之助よしのすけごとしとくちにはいへど歳月としつきはわがためゆづるたゆみしやうにおぼえてかしらすほどのまどろかしさよ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その場合には必ず今まで睦まじく過ごした長の歳月としつきさかのぼって、自分達がいかな犠牲を払って、結婚をあえてしたかと云う当時を憶い出さない訳には行かなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なが歳月としつきあいだには随分ずいぶんいろいろのこと御覧ごらんになられたでございましょう……。』
歳月としつきが重なり、みかどが即位をあそばされてから十八年になった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)