トップ
>
懐
>
なつ
ふりがな文庫
“
懐
(
なつ
)” の例文
旧字:
懷
そのとき、
露子
(
つゆこ
)
は、いうにいわれぬ
懐
(
なつ
)
かしい、
遠
(
とお
)
い
感
(
かん
)
じがしまして、このいい
音
(
おと
)
のするオルガンは
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
ってきたのかと
思
(
おも
)
いました。
赤い船
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
油絵で見るような天使が大きな白鳥と遊んでいるありとあらゆる美しい
花鳥
(
はなとり
)
を集めた異国を想像してどんなに
懐
(
なつ
)
かしみ焦がれたろう。
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
過去はぼんやりしたものです。そうして
何処
(
どこ
)
かに
懐
(
なつ
)
かしい匂いを持っています。あなたはそれを
巧
(
たくみ
)
に使いこなして居るのでしょう。
木下杢太郎『唐草表紙』序
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と、お濱さんが
書院
(
しよゐん
)
の庭あたりで
喚
(
よ
)
んで居る。貢さんは
耳鳴
(
みヽなり
)
がして、其の
懐
(
なつ
)
かしい女の
御友達
(
おともだち
)
の声が聞え無かつた。兄はにつと笑つて
蓬生
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
(著)
先刻ちらと見た
懐
(
なつ
)
かしい顔に、親愛なる母親に、または、「死も噛み込めない」岩のように感ぜられる、自分の
頑丈
(
がんじょう
)
な一身に……。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
▼ もっと見る
並んで手を
繋
(
つな
)
ぎ合ってもいるし、また背中合せに
丈
(
たけ
)
くらべをしているようでもあり、何となく人
懐
(
なつ
)
かしい山に見えるからである。
火と氷のシャスタ山
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
こいつはまァ、気のいい、ひと
懐
(
なつ
)
っこいやつではありまするが、ただひとつ困ったことは、喰べるものに気むずかしいことでござります。
キャラコさん:10 馬と老人
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
木へも登り、地をも馳け、鳥をも蛇をも捕って食う動物だが何うかすると人に
懐
(
なつ
)
いて家の中へ飼って置かれると、兼ねて聞いた事はある
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
彼れは
懐
(
なつ
)
かしさの余り、その香水を所有したいと云ふ欲望にかられ、ほんの一二滴をシャンダーラム夫人へ
乞
(
こ
)
うた訳なのである。
アリア人の孤独
(新字旧仮名)
/
松永延造
(著)
「お節さんから電話でございます」と言って下宿の女中が取次いでくれる
度
(
たび
)
に、岸本はよく電話口のところへ行って
懐
(
なつ
)
かしい声を聞いた。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
わけても
徒然
(
つれづれ
)
ごとに亡夫の昔語を語るを聞きてこの上のうも満足に思いぬ、「この人までもかくまで亡夫に
懐
(
なつ
)
きてあるか」と
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
父を知らず、母を知らずと言った児は、父と母とを一緒にしたよりも強い
懐
(
なつ
)
かしさでこの太った男に抱きついてしまいました。
大菩薩峠:05 龍神の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
四五日前に、善く人にじゃれつく可愛い犬ころを一匹くれて行った田町の吉兵衛と云う爺さんが、今夜もその犬の
懐
(
なつ
)
き具合を見に来たらしい。
躯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
そういう父や母の姿にひきかえて、おばあさんの姿は、その
懐
(
なつ
)
かしい顔の一つ一つの線から
皺枯
(
しわが
)
れた声まで、私の裡に生き生きと残っている。
幼年時代
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
彼女は、鍋の中へ、
柄杓
(
ひしゃく
)
に一杯水を入れる。二本の薪をくっつけ、灰を
掻
(
か
)
きまわす。やがてまた、
懐
(
なつ
)
かしいしゃんしゃんいう音が聞こえ出す。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
という
懐
(
なつ
)
かしい言葉が添えられてあったのでした。かくて十月八日マルセイユ出帆の北野丸に
塔乗
(
とうじょう
)
して十一月十七日に
神戸
(
こうべ
)
に到着されたのです。
アインシュタイン教授をわが国に迎えて
(新字新仮名)
/
石原純
(著)
突然、人影が見えなくなつたといふのは、犬がその人の足もとまで
懐
(
なつ
)
いて来たので、誰かその人が、犬の頭を撫でようと身を
屈
(
かが
)
めたに相違ない。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
あの灯の
点
(
とも
)
っている
懐
(
なつ
)
かしい窓の障子を明けると、年をとったお父さんとお母さんとが
囲炉裏
(
いろり
)
の
傍
(
そば
)
で
粗朶
(
そだ
)
を
焚
(
た
)
いていて
母を恋うる記
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
妾は親の
膝下
(
しっか
)
にありて厳重なる教育を受けし事とて、かかる親しみと愛とを以て遇せらるるごとに、親よりもなお
懐
(
なつ
)
かしとの念を禁ぜざるなりき。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
懐
(
なつ
)
かしさに包まれながら、家臣たちに笠をあずけ、衣服の
埃
(
ほこり
)
を打たせたり、
草鞋
(
わらじ
)
の
緒
(
お
)
など
解
(
と
)
かせていると、奥からばたばたと駈けて来た一家臣が
剣の四君子:02 柳生石舟斎
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
二人は疲れた足をひきずって、日暮れて
路
(
みち
)
遠きを感じながらも、
懐
(
なつ
)
かしいような心持ちで宮地を
今宵
(
こよい
)
の当てに歩いた。
忘れえぬ人々
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
「願わくは深く謀り遠く慮り、姦を探り変を伺いて、之に示すに威を以てし、之を
懐
(
なつ
)
くるに徳を以てし、兵甲を煩はさずして自ずから臣隷せしめよ」
特殊部落の成立沿革を略叙してその解放に及ぶ
(新字新仮名)
/
喜田貞吉
(著)
可愛
(
かわゆ
)
き児の、何とて小親にのみは
懐
(
なつ
)
き寄る、はじめて
汝
(
な
)
が頬に口つけしはわれなるを、
効
(
かい
)
なく
渠
(
かれ
)
に
奪
(
と
)
らるるものかは。
照葉狂言
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そのセパードはアムールといってステキに大きい、
人懐
(
ひとなつ
)
こい犬で、その中でも玲子と、玲子の先生の中林哲五郎には特別によく
懐
(
なつ
)
いているのであった。
継子
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ふるさとが
懐
(
なつ
)
かしく森の、あの塔で、星や小鳥と話していた時のほうが、いっそ気楽だったように思われるのです。
ろまん灯籠
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
そう
言
(
い
)
われたかと
見
(
み
)
ると、
次
(
つ
)
ぎの
瞬間
(
しゅんかん
)
には、お
爺
(
じい
)
さまの
手
(
て
)
の
中
(
なか
)
に、
私
(
わたくし
)
の
世
(
よ
)
にも
懐
(
なつ
)
かしい
懐剣
(
かいけん
)
が
握
(
にぎ
)
られて
居
(
お
)
りました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
鬚
(
ひげ
)
多く、威厳のある中に
何処
(
どこ
)
となく優しいところのある
懐
(
なつ
)
かしい顔を見ると、芳子は涙の
漲
(
みなぎ
)
るのを
禁
(
とど
)
め得なかった。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
懐
(
なつ
)
かしくそれを眺めたことで、私の作に相違ない旨を箱書して持ち主に戻しましたが、何んでも持ち主は千五百円とかで手に入れたのだそうであります。
幕末維新懐古談:50 大病をした時のことなど
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
秀吉のために横面を
撲
(
なぐ
)
られて恐怖した彼が、家康によって撫でられたので、そこまで
懐
(
なつ
)
いて来たのであり、秀吉、家康の硬軟二道の外交術が、南洋諸国を
秀吉・家康二英雄の対南洋外交
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
このワグマンという人も奇人で、手を出して雀を呼ぶと、鳥が
懐
(
なつ
)
いて手に止りに来たというような人柄でした。
諸国の玩具:――浅草奥山の草分――
(新字新仮名)
/
淡島寒月
(著)
幼馴染の老木であるからの親しみでなく、此の心が彼の心に流れ込んだ神会の
懐
(
なつ
)
かしみである。彼女は狂へるものの様に彼女の胸を幾度も幾度も押しつけた。
夜烏
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
七、八種もある馬属中馬と驢のみ測るべからざる昔より人に
豢
(
か
)
われてその用を足した事これ厚きに、その他の諸種は更に
懐
(
なつ
)
かず、野生して今に
迨
(
およ
)
んだも奇態だ。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
非常に
懐
(
なつ
)
かし気な
眸
(
ひとみ
)
で余を見守っていた。殆んどもう婚約は出来た。しっかりやろうぞ。「秋風記」プランを立てているがうまくゆかぬ。少し今日は憂鬱である。
青べか日記:――吾が生活 し・さ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
野生のもの、しかも智能のたかい猿人的獣類が、わずか十日か二週間でこうも
懐
(
なつ
)
くはずがあるだろうか。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
人
懐
(
なつ
)
つこいこと此の上ない性質を見抜いてゐるだけに、たとへ、息子のためとは云へ、この少女に対して残酷であることはどうしてもできないといふ気がしてゐる。
落葉日記
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
人妻に懸想してその夫をほろぼすほどの無道人に、誰が親しみ
懐
(
なつ
)
こうぞ。師直はわが子ばかりか、味方にも主君にも
疎
(
うと
)
み憎まれて、その身の滅亡は疑うまでもない。
小坂部姫
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
またその生れた子供が、母に
懐
(
なつ
)
き、母にすがり、母を慕い、母を愛するのに、その母の醜い容貌が何らの妨げにもならなかった。実際、醜いと感じたことすらなかった。
私の母
(新字新仮名)
/
堺利彦
(著)
わたしが
嬉
(
うれ
)
しかったのは、子供たちが
懐
(
なつ
)
かしげに、このまじめな老僕のまわりを跳びはね、また、犬を抱いてやったことだ。犬は喜んで、からだ全体をゆりうごかした。
駅馬車
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
とあるは犬に与える
残殽
(
ざんこう
)
にだも不自由をして
懐
(
なつ
)
いた犬に
背
(
そむ
)
かれたのを心淋しく感じたのであろう。
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
私は何とも言いがたいそのにおいの
懐
(
なつ
)
かしさにそのまま蚊帳の
裾
(
すそ
)
をはねて寝床に
転
(
ころ
)
げ込むと、初めの内はやさしく私を忍ばせたお前が何と思ったか寝床に横たわりながら
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
モーツァルトの
絢爛
(
けんらん
)
さもブラームスの端正さもないが、
懐
(
なつ
)
かしさと優しさと、
泌
(
し
)
み出る愛情と輝く美しさは、人間に音楽あって以来、かつて例を見ざる
比
(
たぐい
)
のものである。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
お力も
何処
(
どこ
)
となく
懐
(
なつ
)
かしく思ふかして三日見えねば
文
(
ふみ
)
をやるほどの様子を、
朋輩
(
ほうばい
)
の
女子
(
おんな
)
ども岡焼ながら
弄
(
から
)
かひては、力ちやんお楽しみであらうね、
男振
(
おとこぶり
)
はよし気前はよし
にごりえ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
「なに。御馳走になるから云うのではないが、なかなか
好
(
い
)
い細君だよ。入院している子供は皆
懐
(
なつ
)
いている。好く世話をして
遣
(
や
)
るそうだ。ただおりおり御託宣があるのだ。」
独身
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
……本家の台所を預かるようになってからは、
甥
(
おい
)
の中学生も「姉さん、姉さん」とよく
懐
(
なつ
)
いた。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
「まあそんな調子でね、十二三の中学生でも、N閣下と云いさえすれば、
叔父
(
おじ
)
さんのように
懐
(
なつ
)
いていたものだ。閣下はお前がたの思うように、決して一介の
武弁
(
ぶべん
)
じゃない。」
将軍
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
今になってやっと、見ても見飽きない気持で、たまらなく
懐
(
なつ
)
かしい気持で、
眺
(
なが
)
めるんだわ……
桜の園
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
彼にとってジョーンは
碇
(
いかり
)
であった。時には厄介千万であったが、又時には落付かせて呉れる
錘
(
おもり
)
であった。嫌に取り
済
(
すま
)
したのが生意気に見えて
癪
(
しゃく
)
に触ったが、
懐
(
なつ
)
かしくも思った。
決闘場
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
花は形が大きく
且
(
か
)
つはなはだ
風情
(
ふぜい
)
があり、ことにもろもろの花のなくなった
晩秋
(
ばんしゅう
)
に咲くので、このうえもなく
懐
(
なつ
)
かしく感じ、これを愛する気が
油然
(
ゆうぜん
)
と
湧
(
わ
)
き出るのを禁じ得ない。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
中学の校帽
凛々
(
りゝ
)
しく戴ける後姿見送りたる篠田は、やがて
眸子
(
ひとみ
)
を昨日
己
(
おの
)
が造れる新紙の上に
懐
(
なつ
)
かしげに転じて「労働者の位地と責任」と題せる論文に
一
(
ひ
)
とわたり目を走らせつ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
後妻と云うのは、気質の従順な、
何時
(
いつ
)
も愉快そうな顔をしている女で、
継子
(
ままこ
)
に対しても真の母親のような愛情を見せたので、継子も非常に
懐
(
なつ
)
いて、所天も安心することができた。
藍微塵の衣服
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
“懐”の意味
《名詞》
ふところ
ものを抱くときの胸のあたり。
着衣したとき、胸と体の間の空間。
金銭の持ち合わせ。
(出典:Wiktionary)
“懐”の解説
懐(ふところ)とは、衣服の胸の辺りの内側の部分である。また、仮に何も身につけていなくとも、前に出した両腕と胸とで囲まれる空間も、懐と呼ばれる。さらに拡大解釈して、何かに囲まれた空間のことを、懐と言う場合もある。なお、現実の空間ではなく、考え(胸中)のことを指す場合もある。
(出典:Wikipedia)
懐
常用漢字
中学
部首:⼼
16画
“懐”を含む語句
懐中
人懐
追懐
懐胎
懐紙
懐疑
懐妊
懐中物
懐中時計
可懐
内懐
山懐
感懐
懐姙
懐抱
胸懐
懐出
御懐
述懐
鬱懐
...