やす)” の例文
「そんな冗談を言わないで、一枚おみやげに買ってください。だんだん暖かくなると毛皮も売れなくなる。今のうちやすく売ります。」
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「とてもやすく仕切るので、素人しろうとの商売人にはかなわないよ。復一、お前は鼎造に気に入っているのだから、代りにたんまりふんだくれ」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一着の厚い上衣はたいがいの目的のためには三着のうすい上衣の用をし、やすい着物はまったく購買者に適した値段で買いえられる。
しかも何物にも換え難い一粒種の愛嬢の命が買えるのだ。「こんなやすい取引はない」と、太っ腹の布引氏は忽ち思案を定めたのである。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今日けふ牧野事務員に託してマルセイユ迄く仲間だけ甲板デツキ用のたうの寝椅子を買つて貰つたが、一個一円五十銭づつとはやすい事である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「しっかりやるにも何にも、小学程度の読み書き算盤そろばん丈けですから、策の施しようがないんです。あれでは俸給もやすい筈ですな」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
多くの家具を腹の立つほどやすく売払っても、老婆の給料まで悉皆すっかり払って行くことは覚束おぼつかない、いずれ名古屋から送る積りだ、とも言った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「すると、何時の間にかおもしろくなつて、つい俄師にはかしの気持になられまんがな。やすいもんだつせ、本は古本屋で五十銭だしたよつてな。」
帳元へ這入らねえとあきねえは出来ねえ訳でごぜえますが、それを御存じねえから、なるたけやすく売るので、遠くから買いに来るようになったので
爺様に、頭の髪さ赤い布片きれでも縛って、少しの間、やすぐ売って歩いで見ろ——って言われたごとあったが、俺なあ婆様、そうして見だのしゃ。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
栄蔵は、木なりを見て来た「まさ」に、年も食って居る事だし、虫もついて居ないのだから、やすく見つもっても七八十円がものはあると云った。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それは出来るだけやすく、しかも責任ある仕事をさせることが出来た。むろん、街の請負師の間でそういう競争がなされることを予期していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
天秤商人てんびんあきうどつてるのは大抵たいていくづばかりである。それでも勘次かんじやすいのをよろこんだ。かれわづかぜに幾度いくたび勘定かんぢやうしてわたした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それから水瓜、甘藍キャベツ球葱たまねぎ、球葱は此辺ではよく出来ませんが、青物市場であまりやすかったからI君が買って来たその裾分すそわけという事でした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「いやこれは大変、浪さんはいつそんなにお世辞が上手じょうずになったのかい。これではえりどめぐらいはやすいもんだ。はははは」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
千両の茶碗を叩きつけたところはちと癇癪かんしゃくが強過ぎるか知らぬが、物にとらわれる心を砕いたところは千両じゃやすいくらいだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とあまりに度はずれなやすさに吃驚びっくりしてしきりに蒲団をいじり廻している私の側へ来て、親父も愉快そうに蒲団を撫でます。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
何んしよまア。かう米がやすうては良い衆も難儀するし、小前こまへのもんも仕事が無うて、米の廉いには代へられんなア。……こんな時に高い税の配布を
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なるほど貴嬢あなたのおっしゃる通り家庭料理の本意は原料のやすい品物を美味おいしくこしらえて食べるのと、棄てるような者を利用してお料理に使うのですね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
君達も知つてるだらうが近頃縁日夜店に出てゐる大道競売屋、あれだよ。口上くちさき欺騙ごまかしてやすく仕入れたいかさまものをドシ/\売附けて了うのだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
しかも、江戸の人気は、一時、広海屋方に集まって、あれこそ、やすい米を入れてくれた恩人と持てはやされるであろうよ。一人は泣き、一人はよろこぶ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
暗闇はやすいものだ。そして、スクルージはそれが好きであった。が、彼はその重い戸を閉める前に、何事もなかったか検めようとして、室々を通り抜けた。
それよりは家賃をやすくして私等わっちらが自力で一杯も飲めるようにしてくれた方がほんのこと難有ありがてえや。へこへこ御辞儀をして物を貰うなあちっともうれしくねえてね。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これを商人にたとえていえば、物品をやすく買ってたかく売りたいというのがその希望であろうが、時に相場が下がったり、品物が毀損きそんしたりしてうまく行かぬ事がある。
そしてやすく買おうとすることにも甚だしきはない、他人の女の人はただ美しく過ぎるが、陶器だけは何とかして手に入れることが出来ないかと、心を砕く、事実
陶古の女人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いろいろ価のやすい日用品、食料品を商ふ市で、主に労働階級の者を相手にしてゐるやうである。川魚を天麩羅てんぷらにして売つてゐたり、類の競売などは幾組もある。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
岡田先生は何事でも三段論法で断言されるのであったが、私に教えて言われるには、『商売を繁昌させるのは難かしいことではない、良い品をやすく売ればよろしい』
わずか、三百円で、姉の女優としての素質が、ハッキリ認められるのなら、こんなにやすいことはないわ
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
材料に無理がある時、器は自然のとがめを受ける。また手近くその地から材料を得ることなくば、どうして多くを産み、やすきを得、すこやかなものを作ることが出来よう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ねえさん、勘定だよ。何? 百二十文。酒が一本付いているぜ、それも承知か。やすいや、こりゃ」
校長はせた白い狐ですずしそうなあさのつめえりでした。もちろん狐の洋服ですからずぼんには尻尾しっぽを入れる袋もついてあります。仕立賃もやすくはないと私は思いました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
往昔むかしの寺子屋を其儘そのまま、学校らしい処などはちっともなかったが、其頃は又寄宿料等もきわめてやすく——僕は家から通って居たけれど——たしか一カ月二円位だったと覚えて居る。
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
売り立て品の数々を挙げ、師匠の「山茶図」が八千二百円ではやすすぎる、と頻りに言った。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
上等のオランダ麻でこしらえた、いい襟であった。オランダと云うだけは確かには分からないが、番頭は確かにそう云った。ベルリンへ来てからは、やすいので一度に二ダズン買った。
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
パアマネント一つかけるのにもなるべくやすい美容院へ行くと云う風だったのであるが、最近は又、化粧の仕方から衣裳いしょう持ち物の末に至るまで、際立きわだって派手で贅沢ぜいたくになっていた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
持ツて来ます爺やから取りましたのでございますが、さう申しては不躾ですけれども、十せんに二枚でございます。家にじツとしてゝ取ります方が、の位おやすいか知れませんです。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
それから鶴の形のしたお菓子を呉れた。湯で菓子を貰ふなぞは東つ子に取つてそれこそ前代未聞だ。坊つちやんの時代には湯銭はやすかつた。流しをつけて『八銭で済む』と書いてある。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
船もよいし、リヴァプール汽船会社のよりは賃金もやすい。もしお前がここへ来てくれて、ジョンストンハウスへ投宿するなら自分は何等かの方法で、お前に会う手段を講ずるつもりである。
はじのあさみどりなる、内あかく紫くろき、かさ厚く七重八重なる、葉牡丹は大いにうれし。牡丹とも見ずや葉牡丹、やすきその株ながら、株立つとこの庭もに、豐かなり乏しともなし。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
僕は薄気味が悪くなって、もう何も話す元気がなくなったので、そうそうに立ち去ってしまった。もちろん約束通りに一週間分の間代まだいを払って来たが、そのくらいのことで逃げ出せればやすいものさ
の雑誌も九号くがうまでは続きましたが、依様やはり十号からよくが出て、会員に頒布はんぷするくらゐでは面白おもしろくないから、あたひやすくしてさかん売出うりだして見やうとふので、今度こんどは四六ばい大形おほがたにして、十二ページでしたか
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その時価よりも十銭近くやすいという実際の利益を十分に嬉しく感じながらも、一面では、寺内内閣の施設さえ早く宜しきを得ていたら、こうした心にもない恩恵を受けなくても済むものをと思って
食糧騒動について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
H教授の話では、その三つの工場はどれも、水運がよく電気がやすく理想的な立地条件にある工場で、こういう工場ばかりをねらうところに、案外問題解決のかぎが潜んでいるようだということであった。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
斯く語りつゝ、男は又から/\と笑ひて云ふ。やすき價なり。この宿の客人に、還錢かんぢやうのかく迄廉きことは、その例少からん。都よりの馬のしろ、六日の旅籠はたごを思ひ給へ。われ。我志をば既に述べたり。
優善はやすい野菜を買ったからといって、県令以下の職員に分配した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
病毒少くして揚代あげだいやすければ醜業婦の能事のうじおわるなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そりゃあ値段もやすいし、虫の仲間では一番下等なものかも知れませんが、松虫や鈴虫より何となく江戸らしい感じのする奴ですよ。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甘藷さつまいもやすいからとか、七面鳥の肉は高価たかいからとかいふ、その値段の観念にわづらはされないで、味自身を味はひ度いといふのだ。
とんと手前てまい商いのことは知りません、家来がやると申すので始めましたのだけれども、やすう売るのを咎めるのはおかしいように心得ます
リゼットは二日ほどやす葡萄酒ワインほかは腹に入れないことを話した。廉葡萄酒だけは客のために衣裳戸棚クロゼットの中に用意してあった。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)