“四辺:あたり” の例文
“四辺:あたり”を含む作品の著者(上位)作品数
田中貢太郎56
泉鏡花52
国枝史郎30
中里介山24
吉川英治19
“四辺:あたり”を含む作品のジャンル比率
芸術・美術 > 演劇 > 大衆演芸25.8%
文学 > 中国文学 > 小説 物語23.6%
文学 > 日本文学 > 小説 物語11.0%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
浅田は要件が済んでしまっても中々尻を上げようとせず、又新しい敷島に火を点けて、四辺あたりをジロ/\睨み廻していた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
凝視みつめる瞳で、やっと少しずつ、四辺あたり黒白あいろが分った時、私はフト思いがけない珍らしいものをた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
言いかけて四辺あたりを見まわしたまいし。小親の姿ちらりと動きて、ものの蔭にぞなりたる。ふッとあかりを吹消したまい、
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もうよかろう」と心でいって、四辺あたりひそかに見廻した時には、追分宿は山に隠れ、ともしび一つ見えなかった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
少し離れた草の中に、お供と見えて若侍が退屈らしい顔付をして、四辺あたりの風景を見廻していたがそれへ向かって話しかけた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、四辺あたりは静かであった。戸外を人の通る足音がする。音締ねじめの悪い三味線の音が、座敷のほうから聞こえても来た。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
滝田氏はきよろ/\四辺あたりみまはしたが、手紙が目につくと、猿のやうに手を伸ばして、それをたくつた。
老師はしばらく廊下にたたず四辺あたりの様子を窺ったが「よし」とつぶやくと左手の方へ静々と廊下を歩いて行った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四辺あたりには泊るに都合の好い岩もないものですからどこかそういう場所の見つかるまで降ろうという考えで進んで参りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
己だに聞くをはばかる秘密の如く、母はそのこたふる声をも潜めて、まして四辺あたりには油断もあらぬ気勢けはひなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一夜作いちやづくりの山が急に出来上ったような心持のしたお延は、舞台へ気を取られている四辺あたりへ遠慮して動かなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「湯島までやって頂戴な。」と、お庄は四辺あたりを見ないようにして低い声で言うと、ぼくりと後の方へ体を落して腰かけた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
同勢は空屋あきやへ寄って来てほしいままに酒をあおったり、四辺あたりはばからぬ高声で流行唄をうたったりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼は四辺あたりを見廻した。灯火ともしびのない部屋の中には、人のいるらしい気勢けはいもなかった。彼はじっと考え込んだ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
がんりきの周囲まわりで、あちらにもこちらにも紛失物の声がありましたので、四辺あたりがにわかに物騒ぶっそうになります。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人間の血であってみると、四辺あたりの草木の荒された模様から見て、よほどの人数が入り乱れて争ったものとしか見えません。
画家。(驚きて四辺あたり見廻みまわす。画室のちり一本もなきように綺麗に掃除しあるに心付く。)うむ、なるほど。
いておいで、この中だ。」と低声こごえでいった滝太郎の声も、四辺あたり寂莫せきばくに包まれて、異様に聞える。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すわやと見る目の前の、鷲の翼は四辺あたりを暗くした中に、娘の白いはだえを包んで、はたと仰向あおむけたおれた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は、ハッとなって、振返って、四辺あたりを見廻した。けれども幸い誰れもいなかった。もとより誰れもいよう筈はない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
伊右衛門はすばやく嬰児を抱きあげて、きょろきょろと四辺あたりを見た。其処にお岩の死骸があった。伊右衛門は駈けよった。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
別にキョロキョロするでもなく、一渡り四辺あたりを見廻したが、周作の姿へ眼を止めると、「参った!」といって手を突いた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ二張りの高提灯たかぢょうちんが式台脇に立ててあって、わびしく点もる灯の光が四辺あたりを照らしているばかり。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼がはっと思って四辺あたりを見廻すと、直ぐ其の隣室の書斎の中に、一人の男が彫像の如くつッたって居るのを見出しました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
先に来ていた行家は、御所の小門のほうにたたずんでいたが、急いで——と手を振って知らせ、なお四辺あたりを見張っていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さては盗賊どろぼうと半ば身体からだを起してきょろきょろと四辺あたりを見廻したが、しんとしてその様子もない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それが静かに四辺あたりを濡らして降り出して来た雨を見ると、漸く手足もそれ/″\の場所に帰つた様に身がしまつて来る。
なまけ者と雨 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
あいにく四辺あたりに何の花もなかったので、わたしは名も知れない雑草のひと束を引き抜いて来て、つつしんで墓の前に供えた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つるべ落としと云われるほど暮れるに早いこの頃の日は、見る見る裾野を夜に導き、朦朧もうろう四辺あたりを闇にした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ト言い懸けて敢て言い詰めず、宛然さながら何か捜索さがしでもするように愕然がくぜんとして四辺あたり環視みまわした。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
御厨子を据えて、さてどこへ置直そうと四辺あたりた時、蚊帳の中で、三声みこえばかり、いたく明がうなされた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ホームズがブラウンとつれ立って出て来た時には、夕映ゆうばえは消え去って、四辺あたりは灰色の黄昏が迫りかけていた。
「これまでは四辺あたりに人がいて、勝負するにもこだわりがあったが、今夜こそ本当に二人だけだ、思う存分切り合おうぜ」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遠寺の鐘さえ鳴り出した。一瞬ひとまたたき毎に四辺あたりは暗く成るのであった。冷たい風は二人の肌に迫るので有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
——小林氏は築地行きの乗替切符を持つて、きよと/\四辺あたりを見廻したが、何処にもそれらしい電車は見られなかつた。
四辺あたりの木立を揺がすものは、なお止まない雨と風とであり、闇夜を赤く染めているものは、燃えている赤坂城の火の光であった。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
巡査はう決心して、再び四辺あたりに鋭い眼を配ると、岩角に結び付けられたるの長い毛綱けづなを見出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
開いたけれどもなんだかまりが悪くて、たれか見てゐやしないかときよろ/\四辺あたり見𢌞みまはした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しつ! 静かに!」君香は四辺あたりを素早く見廻はし乍ら云つた。「一寸、出ていらつしやい! 大変な事なのよ!」
冬薔薇のような赤いいきいきとした花は、ねずみ色にぼかされた四辺あたりの物象の中にみょうにきわ立って見えた。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あから顔の医師いしゃ薬籠やくろうを持ってあがって来た。医師いしゃは細君の傍へ往って四辺あたりの様をじっと見た。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
虚無僧は、涙をふいて、何かはッと気をとり直したように、四辺あたりを見廻した。そして、窓の雨戸へ懐剣のさきを差し入れた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加奈子は思わず四辺あたりを眺めました、が上野公園の木立の中で、虫眼鏡むしめがねを手に入れる工夫は思いつきません。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
松三は、どうかしてこの不快な沈黙を破りたいと、しきりにそのいとぐちを考えたり四辺あたりを見廻したりしていた。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
もう日没ひぐれになっているのか四辺あたりが灰色になって見えた。女は許宣のあがってくるのを楊柳の陰で待っていた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
黒い霧とも壁とも判らない物に四辺あたりを囲まれた中に、血みどろになった人がうようよといて、それがのたうって悶掻き叫んでいた。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おおいなる桟敷の真中まんなか四辺あたりみまわして、ちいさき体一個ひとつまず突立つったてり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田もはたも山も一色ひといろの、もう四辺あたり朦朧もうろうとして来た、稲なんぞは、手で触るぐらいの処しか
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしはどこに一てん申分もうしぶんなき、四辺あたり清浄せいじょう景色けしき見惚みとれて
神田を過ぎて下谷へ出た。朧月おぼろづきが空にかかっていた。四辺あたりが白絹でも張ったように、微妙な色にかされていた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同じ事を三度続けると、何かしら鈍い圧迫が頭脳あたまに起つて来て、四辺あたりが明るいのに自分だけ陰気な所に居る様な気がする。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼はハッとして四辺あたりを見廻すと、ホールの正面にあたったつきあたりの階段を緑色のドレスを着た女が上ってゆくのを認めた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
七兵衛が指揮のもとに、大勢は窟の外へ一旦引返ひっかえして、四辺あたりに立ったる杉やもみの大枝を折った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とわめきながら、四辺あたりあるきまわりました。そして、しまいには一けんけん、よそのうちおとずれて、
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
広巳は四辺あたりに眼をやった。そこは右側にいばらの花の咲いた生垣があって、それが一度往ったことのある家のように思われた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
李一は驚いて四辺あたりを見廻したが、誰も少女らしいものがいないので、どうもガラスの箱の中から話しかけているのだと考えました。
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そこへ植わった風情に、四辺あたりに人もなく一人立って、からかさを半開き、真白まっしろな横顔を見せて、生際はえぎわを濃く
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのよそおい四辺あたりを払って、泰西の物語に聞く、少年の騎士ナイトさわやかよろったようだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうも四辺あたりが静かなものだ。しかし同じ静かさにしても、この時、このところは、少々静かさの調子が違っている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
青年は絶えずポケットの内なる物を握りしめて、四辺あたりの光景には目もくれず、野を横ぎり家路いえじへと急ぎぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
四辺あたりみまはし、衣紋えもんなほして、雪枝ゆきえむかつて、背後向うしろむきに、双六巌すごろくいは
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と専斎は這い出した。朦朧もうろう四辺あたりは薄暗い。見霞むばかりの広い部屋で、真ん中に金屏風が立ててある。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はいった所が土間である。土間の向こうが店らしい。店の奥に座敷があってそこに行燈が点っている。そうして四辺あたりには人影もない。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして掌面てのひらで丸薬のやうに円めると、はじだまか何ぞのやうに一々それを指先きで四辺あたりに弾き飛ばしたものだ。
四辺あたり憚からぬ澄んだ声が響いて、色せた紫の袴をなびかせ乍ら、一人の女が急足いそぎあし追駆おつかけて来た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
目の露したたり、口許くちもとほころびそうな、写真を取って、思わず、四辺あたりを見て半紙に包もうとした。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ややありて戸を開き差出さしいだしたる得三の顔は、まなこ据って唇わななき、四辺あたりきっと見廻して、
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忽ち大原家より駆け出したるお代嬢、四辺あたりを見廻して大原の姿を見付け「満さーん、其処そこであにしているだ」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けれど私の心は、此の四辺あたりの静かな裡に一つあって、眠ることも出来なければ、安らかに居ることも出来なかった。
感覚の回生 (新字新仮名) / 小川未明(著)
丈助は忍んで小三郎の跡を躡けてまいり、四辺あたりを見まするとパッタリ往来ゆきゝも絶えました様子ゆえ、うしろから声をかけ、
漸く四辺あたりの暗さが薄らいで来た。木の間を伝って、何処どこからか、暁角ぎょうかくが哀しげに響き始めた。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
急に四辺あたりが明るくなって夜が明けたようになった。雨がんで月の光が射してきたところであった。大異はやっと気がおちついた。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
時雄は激昂げっこうした心と泥酔した身体とにはげしく漂わされて、四辺あたりに見ゆるものが皆な別の世界のもののように思われた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
金助は相変らず歯の浮くような追従ついしょうを並べて、四辺あたりをキョロキョロ見廻しながら、お松に導かれて廊下を歩いて行きます。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それで、四辺あたりを見廻していると、少し離れたところの机の上にも、その左右にも、おびただしい書物が散乱しているのであります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おそわれたるごとく四辺あたりみまわし、あわただしくの包をひらく、衣兜かくしのマッチを探り、枯草に火を点ず。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとを見送った米友は、ふーむと一つ深く鼻息を鳴らして、そうして、そこはかとなく四辺あたりを見廻したものです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
空がしだいに暗くなった。日が暮れて行く頃のように、四辺あたりがしんとしている。馬車がいま絶壁の上を行くのだ。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
出入口の前に扉がある。内部が厳重にとざされている。その前に立った小四郎は、四辺あたりを憚ったひそやかな声で、
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は気易いのびのびした心持で、四辺あたり見窄みすぼらしい石版画の額や、黄色くなった窓レースを眺め廻した。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
けれど、四辺あたりには、なまぐさいかぜいて、つきひかりは、びたようにあかかったのでした。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
青い鳥は巌の一方へ廻ってやはり尖を伝って往ったが、巌が次第に低くなって四辺あたり荊棘いばらの茂った処へ往くと見えなくなった。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と呼んで見ようとしても死滅したような四辺あたりの寂寞が唇を壓し、舌を強張こわばらせて声を発する勇気もない。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
花房一郎の方の「足の勇」が飛び付く暇もなく、女の手は素早く口へ、四辺あたりはプンと杏仁のにおいがします。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ところが顔の先へ押し付けられた夕刊をけて、四辺あたりを見廻した彼は、急におやと思わざるを得なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気早な冬の陽ではあったし、それに空模様はいよいよ怪しくなって来ていたので、もう四辺あたりの色合はすっかり物悲しげに夕づいて見えた。
(新字新仮名) / 渡辺温(著)
どんなに火の光を洩らすまいとしても、絶対には防ぐことは出来なかった。しらじらと四辺あたりが明るんで見えた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その夜譔は、自分のへやで独り燭を明るくして坐っていた。もうかなり夜が更けて四辺あたりがしんとしていた。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
不図ふと立止りて四辺あたり回顧みまわし、駭然がいぜんとして二足三足立戻ッて、トある横町へ曲り込んで
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
信吉は、現にズボンの裾を濡らしてる。靴も幾分ジクついてるのだが、そんなことには気をとめず、熱心に四辺あたりの様子を見まわしていた。
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
四辺あたり滔々とうとうたる濁流であります。高い所には高張たかはり炬火たいまつが星のように散って、人の怒号が耳を貫きます。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは美しい女であったが、珏の方を見てにっと笑って、何かいいたそうにしたが、やがて秋波ながしめをして四辺あたりを見た後にいった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
亡き父の豪奢は、周囲を巡つてゐる鉄柵にも、四辺あたりの墓石を圧してゐるやうな、一丈に近い墓石にも偲ばれた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ひどく心細い心を抱いて、今日も深川の住居から神田の方までやって来たが、ふと気が付いて四辺あたりを見ると、鍛冶橋狩野家の門前である。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紐を手繰たぐって腰へ挿み、藤八猿を肩にしたまま、お葉は田安家の土塀の内側の、植込の根元に身をかがめ、じっと四辺あたりを見廻した。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうちに焼けただれた砲弾のような太陽がグルグル廻りながら、平野の地平はてへ没してしまって、間もなく四辺あたりは暗くなった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうちに四辺あたりがすっかり暗くなって、時化しけ模様になった海がすぐ家の前でざわざわと浪をたてだした。
海坊主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と検事は彼女の顔色を見て、すかさず追及した。彼女が哀願するように眼をあげてちらっと四辺あたりを見まわした時、林が横から口を出した。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
貴下あなたの御病気を幸いといっては恐縮千万、はははは、」と、四辺あたりはばかった内証わらい
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丁度秋の中頃の寒くも暑くもないこころよい晩で、余り景色が好いので二人は我知らず暫らく佇立たちどまって四辺あたりを眺めていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)