いとな)” の例文
旧字:
いわんや運尽き世乱れてからは、「是に争ひ彼に争ふ、人を滅ぼし身を助けんといとなみ、悪心のみさへぎりて、善心はかつて起らざりき」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
産土うぶすなかみがあって、生死せいし疾病しっぺい諸種しょしゅ災難等さいなんとう守護しゅごあたってくれればこそ、地上ちじょう人間にんげんはじめてそのその生活せいかついとなめるのじゃ。
彼は、丁度殺人鬼が人を殺すのと、同じ興味を以て、同じ感激を以て、原稿紙の上に彼の血みどろの犯罪生活をいとなんでいたのだ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
からだをこしらえている細胞の間は、放電現象が起ったり、またそれを充電したり、そういう電気的のいとなみが行われていることなんだとさ。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
荊州の城中でも、毎年の例なので、孔明は、主君玄徳の留守ながら、祭をいとなみ、酒宴をもうけて、諸大将をなぐさめていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、故郷こきょうかえってきてからも、母親ははおやのおはかにおまいりをしたばかりで、まだ法事ほうじいとなまなかったことをおもしました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はただ常子と一しょに飯を食ったり、蓄音機ちくおんきをかけたり、活動写真を見に行ったり、——あらゆる北京中ペキンじゅうの会社員と変りのない生活をいとなんでいる。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日々ひびの事業について、実業家がその職業をいとなむにつけても同じこと、おのれがそんしたからとて、みだりにその罪を他人にかぶせるようなことはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
葬式の通知も郷里の伯母、叔父、弟の細君の実家、私の妻の実家、これだけへ来る十八日正二時弘前市の菩提寺ぼだいじで簡単な焼香式をいとなむ旨を書き送った。
父の葬式 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
生き延びているのを喜ぶ気持は、純粋なものであるか不純なものであるか、それは彼には判らなかった。そんなことを考えることすら無意味ないとなみに思えた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
葬式はどういう関係からであるか、善福寺では執行せられず、さほどには遠からぬ広尾の光林寺でいとなまれ、その亡骸はその裏手の岡に登る墓地に埋葬せられた。
墓畔の梅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
八五 土淵村の柏崎かしわざきにては両親ともまさしく日本人にして白子しらこ二人ある家あり。髪も肌も眼も西洋人の通りなり。今は二十六七ぐらいなるべし。家にて農業をいとなむ。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
事のよしをつげてお菊が戒名かいみやうをもとめ、お菊が溺死おぼれしゝたるはしかたはらに髪の毛をうづ石塔せきたふたつる事すべて人をはうふるがごとくし、みなあつまりてねんごろに仏事ぶつじいとなみしに
京の或る分限者ぶげんしゃが山科の寺で法会ほうえいとなんだときに、大勢の尊い僧たちが本堂にあつまって経をした。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや、いつになったら、人間はおたがいに信頼しんらいのできる共同生活をいとなむことができるようになるんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
娘と申せど主君のお胤なれば、何とぞ華族へ縁付けたく、それについても金力きんりょくなければ事かなわずと存ぜしゆえ、是まで種々しゅ/″\の商法をいとなみしも、慣れぬ事とてな仕損じ
私は土を愛し、田舎を愛し、土の人なる農を愛しますが、私の愛は都市にも海にもあらゆる人間と其いとなみとを忘るゝ事は出来ません。私は慾張りです。私は一切を愛します。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
年中あくせくとして歳月の廻るに支配されている外に何らの能事のうじも無い。次々と来る小災害のふせぎ、人をとぶらい己れを悲しむ消極的いとなみは年として絶ゆることは無い。水害又水害。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ほねをひろひつかきて九五塔婆たふばいとなみ、僧を迎へて菩提ぼだいのことねんごろにとぶらひける。
治療してもらっているのはどこかの奥さんらしくアッパッパを着て、スリッパをはいた両足をきちんとそろえて、仰向いています。何か日々のいとなみのなつかしさを想わせるような風情ふぜいでした。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そち先刻さっき良人おっとあとについてって、むかしながらの夫婦生活ふうふせいかつでもいとなみたいようにおもったであろうが……イヤかくしても駄目だめじゃ
全員の色にも同調な容子ようすがみえた。で彼は以後、故人の追善供養をただむねとしていた。すると早や七々忌のいとなみも近づいた或る日のことである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その少年しょうねんは、りんごのえていたのです。からだよわいので小学校しょうがっこうえると、自分じぶん果樹園かじゅえんいとなむことにしたのです。それで、自分じぶん一人ひとりではさびしいから
子供はばかでなかった (新字新仮名) / 小川未明(著)
立派な葬儀がいとなまれた程で、世人は誰一人これを疑わず、名探偵非業ひごうの最後を惜しまぬ者はなかったのである。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕はこれらを合せればどうにか家計をいとなめると思ひ、前から結婚する筈だつた友だちのめいと結婚した。僕の紫檀したん古机ふるづくゑはその時夏目先生の奥さんにいはつて頂いたものである。
身のまはり (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
田島さんの報告によれば、小牧は東京にて相当の生活をいとなみいたりしが、磯貝の父のために財産を差押えられ、妻子にわかれて流転るてんの末に、鹿沼の町にて職工となりたる也。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
隋の煬帝ようだい長安ちょうあん顕仁宮けんじんきゅういとなむや河南かなん済渠さいきょを開きつつみに柳を植うる事一千三百里という。
「引き算と割り算は、数の勘定に役に立つだけでもうたくさんです。人間と人間との関係に引き算や割り算があってはなりません。人生のいとなみは、すべて足し算と掛け算で行きたいものです。」
青年の思索のために (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ある人が人間の行為として最下等なる職業をいとな数多あまたの醜業婦について
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「ここには、亡き馬超ばちょうつかがある。いまわが蜀軍の北伐ほくばつに遭うて、地下白骨の自己を嘆じ、なつかしくも思っているだろう。祭をいとなんでやるがよい」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野犬やけんの一ぐんは、ジャックを中心ちゅうしんにして、自分じぶんたちの生活せいかついとなむことにしました。かれらは、どこへいくにも一塊ひとかたまりとなって、いつでもてきたる用意よういをしていました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗立本そうりゅうほんとうこう県の人で、父祖の代から行商をいとなんでいたが、年のけるまで子がなかった。
言葉を換えて云うと、それ程彼は愛について貪婪どんらんであった。そして、余りに貪婪であるが故に、彼は他人を愛することが、社交生活をいとなむことが出来なかったのであるかも知れない。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
無論むろん男女だんじょ区別くべつがあって、夫婦生活ふうふせいかついとなむのじゃ……。』
なお優游ゆうゆう自適の生活をいとなむ方法はすくなくはあるまい。
地方民も豪族も、長いあいだの不安と暗黒に漂って来て、各〻が自分たちのいとなみにだけ追われていたかたちだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きっと、これはははいかりであろうとおもいましたから、子供こどもは、ねんごろに母親ははおや霊魂たましいとむらって、ぼうさんをび、むら人々ひとびとび、真心まごころをこめて母親ははおや法事ほうじいとなんだのでありました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
閏七月二日の朝五つ時(午前八時)に金助の葬儀は小梅の菩提寺でいとなまれた。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
当時の菰田家のあるじというのは、癲癇てんかんの持病を持っていて、それがこうじて、少し前に一度死を伝えられ、附近の評判になった程の立派な葬式さえいとなんだのですが、それが、不思議にも生き返って
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とまの下から鼠鳴ねずみなきをするお角のことばだのが、幾度となく繰返されるうちには、このとま舟の世帯が、何をいとなむものだかという事をさとらぬわけはありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、ねんごろにおじいさんをほうむって、みんなで法事ほうじいとなみました。
犬と人と花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その昔の土豪時代の大家族制度のように軒をならべて穏やかに町家暮らしのいとなみをしているからだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで病歿された故幽斎公の三年忌のいとなみやら、生前幽斎公と親しかった公卿くげたちや知己へのあいさつやら、また、故人の文庫や遺物の整理など悉皆しっかいすまして、きのう淀川船で下り
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、町屋の殷賑いんしんなさまや軒毎のいとなみを見て、心からうれしそうにつぶやいた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十月、大葬のいとなみがすむと、後村上の即位も、かたちばかり執りおこなわれた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「仮宮も出来あがったから、とりあえず、太牢たいろうを供えて、宗廟の祭をいとなもう」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって、滞留中、二の丸にいて、父の法事などもいとなんですましたという。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
したが、かかるむごに、このような親効おやがいもない親の下に生れたのが、そもそも、運のない子。……ま、気をとり直せ。せめて、夫婦ふたりして、子の通夜つやなど、今夜はここでいとなんでやるしかあるまいが
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)