つと)” の例文
当人は人一倍困悶こんもんしたが、何様どうも病気には勝てぬことであるから、暫く学事を抛擲はうてきして心身の保養につとめるが宜いとの勧告に従つて
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
沮喪そそうせず、妥協せずに、自分自身に最善を尽した生活律を建て得る「自由」と「聡明」の精神を養わせる教育につとめて欲しいと思う。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
何事なに? ……うしたの? ……何うしたの?」と、気にして聞く。私は、失敗しくじった! と、穴にも入りたい心地をつとめて隠して
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
実を云うと、僕と田口と疎遠になればなるほど、母はあらゆる機会を求めて、ますます千代子と接触するようにつとめ出したのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
南洲等つとめて之を拒ぎ、事終にむ。南洲人にかたつて曰ふ、七卿中他日關白くわんぱくに任ぜらるゝ者は、必三條公ならんと、果して然りき。
大山神社ごときは、県知事すでにその独立を許可されしも、郡吏この二重負担の恐るべきを説きて、まさに合併せんとつとめおれり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
例えば式内しきないの古社がほとんとその名を喪失したように、つとめてこの統一の勢力に迎合したらしいが、これと同時に農民の保守趣味から
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひげがないからお髯のちりを払うことは出来ないけれども、ご機嫌を伺うということはなかなかつとめたもので実に哀れなものです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
早稲田大学は学問の独立を本旨と為すを以てこれが自由討究を主とし常に独創の研鑽けんさんつとめ以て世界の学問に裨補ひほせん事を期す
早稲田大学の教旨 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼は独り批評家として之を論ずるのみならず、記実家として劇の内外に関する事実を報道すること、甚だつとめたりと言ふべし。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
円月堂ゑんげつだう、見舞ひにきたる。泰然自若じじやくたる如き顔をしてゐれども、多少は驚いたのに違ひなし。病をつとめて円月堂と近鄰きんりんに住する諸君を見舞ふ。
つとめて元気繕ひしに、中川様少し落ちつきたまへて、さては心安しいづれに後刻その手当せむなれど、先づそなたに問はで叶はぬ事のあり。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
家元なる人もまたかくの如き後進をたすけて行く事につとめて、ゆめにもその進路を妨げるやうな事をしてはならぬ。(八月三日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
われらの意味する愛国主義は、郷土の美を永遠に保護し、国語の純化洗練につとむる事を以て第一の義務なりと考うるのである。
持つて居る。つとめて其れに新しい価値を見いださうとする。奇異をもつて人を刺激する所があれば其れも新しい価値の一種でないか
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その時代は人知の最も進まぬときである。ちょっと聞いて自分の心にはなはだいやに思う説でも、一応は聞くだけの度量をやしなうことをつとめたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
文献の誠実なる研究をつとめないこと、また西人の学説を無批判に適用すること、などから来る欠陥の認められるものがあるように、余は考える。
章の家では桑に細君のあるのを聞いて、怒って燕児をせめたが、燕児がつとめてとりなしたので桑のねがいのようになった。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夫人は驚いてかごに乗ってゆき、かぎけて亭に入った。小翠ははしっていって迎えた。夫人は小翠の手をって涙を流し、つとめて前のあやまちを謝した。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そうして木の蓋と、鬱紺木綿を開くと、又も、どことなく緊張しかけて来た感情を押え付けようとつとめつつ、まず絵巻物の外側から見まわした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ナアンだこんなもの」という顔をする様につとめ、人に物を云うにも出来る丈け簡単に、形容詞や間投詞を省いて、ぶっきらぼうに云う様にした。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
バーニアカヴァールは善し、再び男子なんしを生まざればなり、カストロカーロは惡し、而してコーニオは愈〻あし、今もつとめてかゝる伯等きみたちを 一一五—
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
我らはヨブが悪をもって悪にむくいたと見たくはない。万一にもしかりとせば、我らはそれを学ばぬようにつとめねばならぬ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
我ははなはつとめたりといへども、こころよく笑ひゆく彼等に続くあたはずして、独のこされしことの殆夢のごとかりき。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
なぎさに寄せて来る波までがこの月夜の静寂を破ってはならないとつとめるかの如く、かすかな、遠慮がちな、ささやくような音を聞かせているばかりである。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こは事難ことむづかしうなりぬべし。かなはぬまでも多少は累を免れんと、貫一は手をこまぬきつつ俯目ふしめになりて、つとめてかかはらざらんやうに持成もてなすを、満枝は擦寄すりよりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
貧弱な体躯を有った者の・体格的優越者に対する偏見をつとめて排しようとはしながらも、私は何かしら可笑おかしさがこみ上げて来るのを禁じ得なかった。
貸していただこうと毎日つとめているのです。しかし博士は、一向、そういう気になって下さらない。博士、私は、そんなに信用出来ない人間でしょうか
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つひには其處そこ恐怖おそれくははればぼうたゝいたり土塊つちくれはふつたり、また自分等じぶんら衣物きものをとつてぱさり/\とたゝいたりしてそのすことにつとめるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しか村民そんみんあひだにはかういふ非常時ひじようじたいする訓練くんれんがよく行屆ゆきとゞいてゐたとえ、老幼男女ろうようだんじよ第一だいいち火災防止かさいぼうしつとめ、ときうつさず人命救助じんめいきゆうじよ從事じゆうじしたのであつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
何がな与八の本心のよろこびを迎えようとつとめているくらいですから、お松の方から改めて、こんなことを言い出すのは、自分としても心持よくないし
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なげきに枝を添うるがいたわしさに包もうとはつとめたれど……何をかくそう、姫御前ひめごぜは鏁帷子を着けなされたまま
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
言語以外の方面に於てもあまねく文献の蒐集攷究をつとめられると同時に、国語学の上にも益々新資料を供給されることを自分は著者に熱望して止まないのである。
これも鍵なりに坐っていたが、晴れやかな話し手はいつも雪枝の組で、そらすまいとはつとめていたが、こっちの組はさながらしびれた半身のように白けていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
世人の持つ誤った独断的知識の粉砕につとめ、対話、問答を用いて知者と自称するソフィスト達を追求した。
辞典 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
この演段もしくは解義については和算家は、はなはだつとめたものであった。刊本にもこれを記したものがあり、写本類の多くは問題の解義を記したものである。
一瞬時なりともこの苦悩この煩悶を解脱のがれようとつとめ、ややしばらくの間というものは身動もせず息気いきをも吐かず死人の如くに成っていたが、倏忽たちまち勃然むっく跳起はねおきて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は人と違って旅行するのが面倒、否むしろ嫌いで、機会は随分あったけれどもつとめてそれを避けた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
両方で知っている人のうわさをしたり、病院で見て来た話しをしたりする。まれには美術文学の話しもする。そしてなるたけ病人に多く物を言わせないようにつとめている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
さうして病後の體をつとめて力一杯働いて居た。春三郎はそれを見て今これだけ力める位なら何故せつぱ詰つた場合に獻身的に働いて呉れなかつたのかと恨めしく思つた。
「本當に、何んにもない。」と、私は、すゝり泣かうとするのを抑へつけようとつとめながら、考へた。そして私の苦しみの無力な證據たる數滴の涙をいそいで拭きとつた。
サンタは色蒼く、ひとみ常ならず耀かゞやけるが、友の詞を聞きていふやう。われも熱にかゝれりと覺ゆ。されど日曜日には病をつとめて往くべし。友のためには命をさへ輕んずべし。
他日を期して秀吉の怒りを和げることにつとめて、朝鮮遠征軍には従軍教師を送ることもできた。
天下後世にその名をほうにするもしゅうにするも、心事の決断如何いかんり、つとめざるべからざるなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私はふと砂糖の焦げるような臭をいだ。砂糖が燃えたなと思った。我々は近所から駆けつけた人々と共に、かねて備えつけてあるバケツに水を汲んで嵐の中を消火につとめた。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一方当主に直った良平は、真弓を妹のように愛撫して、その心持をきずつけないようにつとめ乍ら
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
僕はさういふ想像を抑制することをつとめてゐるのに、又してもその想像が起つてならない。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
大いにつとめよや、吾人! 生きがいあれや吾人! これ吾人の面目でなくて何んであろう。
勝四郎は木位の前を退いて男女の名取に挨拶あいさつした。葛藤はここに全く解けた。これが明治三十六年勝久が五十七歳の時の事で、勝久は始終病をつとめてこの調停の衝に当ったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これより後なお真の友義というものわれらが中に絶えずば交わりはつとめずとも深かるべし、ただわが言うべきを言わしめたまえ、貴嬢のなすべきことは弁解をつとむることにはあらで
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)