)” の例文
しかし、相つづく諸方への派兵のために、あいにく、陵の軍にくべき騎馬の余力がないのである。李陵はそれでも構わぬといった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
銭塘せんとう杜子恭としきょうは秘術を知っていた。かつて或る人から瓜をく刀を借りたので、その持ち主が返してくれと催促すると、彼は答えた。
しかしそれがしは不肖にして父同様の御奉公がなりがたいのを、かみにもご承知と見えて、知行をいて弟どもにおつかわしなされた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これと云う句切りもなく自然じねんほそりて、いつの間にか消えるべき現象には、われもまたびょうを縮め、ふんいて、心細さの細さが細る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
間斷かんだんなく消耗せうまうして肉體にくたい缺損けつそん補給ほきふするために攝取せつしゆする食料しよくれうは一わんいへどこと/″\自己じこ慘憺さんたんたる勞力らうりよくの一いてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこで、親たちは、自分のガキ共を、山仕事、野良のら仕事の手伝いをさせる時間をいても、与八のところへよこすようになりました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新涼の頃からぼんやりそんなことを考えていた矢先、思いがけず仏事で郷里へ帰ることになり、二三日の暇を大和にく機会が出来た。
壁画摸写 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
会いたいし、男との仲もきたいしさ。そこでお前、毎日のように郵便局へぶっ飛ばしたり、町の長官の所へお百度を踏みだした。
追放されて (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
また山羊は知らず、綿羊が殺されかるるを毎度見たが、一声を発せず、さしたる顛倒騒ぎもせず、こんな静かな往生はないと感じた。
つまり、友だちが暑中休暇後に上京する——貧乏な大学生で——その旅費の幾分をいて、一所に連れて出てもらいたかったので。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしそれは元本に傷をつけないで利子の一部を与えるか、もしくは自己の生活を犠牲にしない程度で財産の一部をいたにすぎない。
一万円の稿料の半分をいて、富岡はゆき子に送つたのだが、その金が、子供をおろす病院の費用になつた事も、皮肉な気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
養鶏談の長かりけるうちに眼前の料理場にてはレデーケーキも美事みごとに出来上り、一人の料理人はとり俎板まないたに載せてその肉をき始めたり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
継母にはまたしかられるかもしれないがき吉左衛門が彼にのこして行った本陣林のうちをいてその返済方にあてたいと頼んだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朱桓は若いが胆量たんりょうのある人だった。さきに城兵五千をいて、羨渓せんけいの固めに出してしまったので、城中の兵は残り少なく、諸人がみな
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ高利の術たるや、渇者かつしやに水を売るなり。渇のはなはだしへ難き者に至りては、決してその肉をきてこれを換ふるを辞せざるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分の仕事が実にいそがしい主人が、たまにはめんどうと思っても、主人は主人のひまをいてわたくしのためにしてれます。
記録の語る所によれば、宜野湾ぎのわん間切は寛文三年(二百二十年前)に浦添・北谷ちゃたん中城なかぐすくの三間切をいて置いたとのことである。
浦添考 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
「頑固なお方でございましたゆえ恨みをうけたのでござりましょうよ。……子さえできている二人の仲を生木なまきをさくようにかれたお方だ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうしてそれがたま/\後家になっていたか、或は無理じいに夫婦の仲をかれたかして、秀次に迎えられたのかも知れない。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それに馴れてしまっていた伸子は、いま皿の上で何心なくいたフランス・パンの柔かい白さに目から先におどろいた気持がしたのだった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかし折れて電光の如くおどつた鋒尖きつさきはマス君のパンタロンはげしくいたに過ぎなかつた。人人は奇蹟の様に感じてホツと気息いきをついた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
二度にいたりなどして受取っているのだが、分けても此の頃は種々いろんなことが心の面白くないことばかりで、それすら碌々に書いてもいない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
更に人のコレクションをいて売れと言うが如きに至っては、およそ紳士としてのデリカシーを持ち合わせない人の申し分と言うべきである。
新大典侍の方からして北方の地をいてくれとの交渉が永正七年にあったのを見ると、どうしても地続きとしか思われぬ。
彼が第二の世界を十分に愛しつつも、第三の世界のために、より多くの時間をくようになったのに、不思議はなかった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
遂に清国よりして償金二千百万ドルを出し、これに加うるに香港の地をき、さらに五港を開き、以て南京条約を締結せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
冷淡無情で盲目で聾である人間らは、動物を締め殺し、その腹をき、筒切りにし、生きながら煮、苦痛にもがくさまを見ては面白がっている。
六月みなつきつちさへけて照る日にも吾が袖めや君に逢はずして」(巻十・一九九五)等は、同じような発想の為方しかたの歌として味うことが出来る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
老人の小吏は、磨ぎすました出刃を逆手さかてに持つと、獣の肉をでもくように、死体の胸をずぶずぶと切り開いていった。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あるいは妊婦のはらき、あるいは人を木の上にのぼらせて、下からそれを射って、その人間が落ちてくるのを見てたのしんだと伝えられている。
私に興味を感じたら、お仕舞しまいまでお読み下さい。僕はまだ二十歳の少年なので、貴重なお時間をいていただくのも、心苦しいまでに有難く存じます。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いわゆるらず山にいて入った者の、主観的なる制裁は多様であった。最も惨酷なるものは空へ引きあげて、二つにいて投げおろすといった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
殊に私達が目の當りに黒岩山を見ると、斯程かほどに幾日も其の山の爲にかなければならなかつた事が不思議に思へた。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
忽ち隻翼は又そばだち起り、竹をく如き聲と共に、一翼はひたと水に着き、一翼ははげしく水をしぶきを飛ばすと見る間に、鳥も魚も沈みて痕なくなりぬ。
どじょうきは、素人しろうとの手に負えぬものとなっているが、それは急所にきりが打ち込めないからで、その急所は目の付け根とおぼしいところの背骨にある。
一癖あるどじょう (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
籠に入れた鮎が腐る恐れがあるとすれば、鮎を出して二枚にき薄く塩して、河原の石にはり付け日光にさらして干物とすれば珍味として賞玩するに足りる。
香気の尊さ (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「若菜集」にはまた眞白く柔らかなる手にきばんだ柑子かうじの皮をなかばかせて、それを銀のさらに盛つてすゝめらるやうな思ひのする匂はしくすゞしい歌もある。……
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
少しばかりの収入にありつくようになってからは、そのなかからいくらかずついて贈ることも怠らなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それにピッタリ当てはまっているのだから、神尾喬之助、くるったと見せて、狂ったどころか、内実は虎視眈々こしたんたん、今にも、長じんいて飛来ひらいしそう……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と其の夜一夜を祈り明かし、夜の白々しら/\と明くるを幸い、板子いたごいたる道具にて船を漕ぎ寄せようと致しますると、一二丁は遠浅で、水へ入れば腰のあたり
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
をさくとは、めじりを、とげのようなものでいて、すみれて、いれずみをすることをいふ、ふる言葉ことばであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
なお間違いのないように、ふだを渡しておこう……と云って自分の名刺を半分にいて、一つを支配人に渡し、残りの一つを自分のポケットに入れたそうです
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぎらぎらするまで硎ぎ澄ませしちょうなを縦にその柄にすげたる大工に取っての刀なれば、何かはたまらん避くる間足らず左の耳をぎ落され肩先少し切りかれしが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
このエネルギーの小部分をいて電車の乗客の顔を柔らげる目的に使用する事は出来ないものだろうか。
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
紙片かみきれを指でもつて花片はなびらや葉のかたいて、それを小器用にひねり合はせたものだが、案内者の説明によると近頃上流婦人の間にそれが流行となつてゐるのださうだ。
かくうしてきもかれもせぬなかかれたむすめの、そののちなげきとったらまた格別かくべつでございました。
その前から、明治三十年の頃から、居士は和歌の革新を思い立ってその方に一半の努力をいていたのであったが、その方は余も碧梧桐君もあまり関係はなかった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
家の分立と抗争とが、関東封建勢力によって暗に誘導されているものとすれば、ここにもまざまざと王朝伝統を弱め、ひきく封建勢力の作用を感じうるのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
無意義の労働を省いて益々ますます有効に労働する事も出来、これまで手足の労働にのみ使用した時間をいて、もっと幸福な生活——精神生活をも営み得ると思うのである。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)