入用いりよう)” の例文
虚言うそいて……革財布は彼方で入用いりようとはなんだ、ちゃんと此処こゝに百金届いていますよ……其の百両の金は何処どっから持って来たんだ
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さうだ。洋行した時に集めたのだが、Pound や二十 Francs や二十 Mark のやうなものは、入用いりような時に両換を
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
無心に来られるたんびに、「そうそうはおれだって困るよ」とか何とかいいながら、いつか入用いりようだけの金子きんすは手文庫から取出されていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「大切といえば大切だけれど、与八さん、さしあたりそれを売って、お医者様のお礼やら、これからの入用いりようにしたいと思います」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人間といふものは、打捨うつちやつておくと、入用いりようのない、下らない事を多く記憶おぼえたがつて、その代りまた大切だいじな物事を忘れたがるものなのだ。
大根がわるいからわさびが入用いりようだが、元来、わさびはまぐろに好適というものではない。おろしさえよければ、わさびはなくもがなである。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
りたる事なれば其入用いりようにとかねてより貯へ置たり金子ありて貧苦ひんくの中にも失はざれば今度の支度に事かゝ此事このことはしもお光はまだ知ねば共に是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(一方の画架の処にひざを突き、掃除をしつつしずかに。)今度おかきになるものには顔のがお入用いりようなのではないでしょうか。顔の役に立つモデルが。
差し出たことだが、一ぴきか二ひきで足りるものなら、お客は幾人だか、今夜の入用いりようだけは私がその原料を買ってもいいから。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は「さては、早速さっそく入用いりようがあると見えるね」などとからかいながら、おしゃべりにも、その詳敷くわしい方法を説明したのである。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ナニ、俊子トシこの様な子供に其黄金機会がないとおいひのか?おまへ一寸ちよつと、さしあたりどんな黄金機会が入用いりようなのですか
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「そうです。穴掘り機械が入用いりようです。ここに私が持っているのが、人工ラジウム応用の長距離鑿岩車さくがんしゃです。さあ、安心して、この上におのりなさい」
これは無制限で何程でも入用いりようだけ支出しなければならん。とはいうもののむやみに法王の私用に使うということはなく大凡おおよそのきまりはあるそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「どうせ、この建物はこうしてありますから、皆さんにお貸し申します……御入用いりようの時は、何時でも御使い下さい」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれども立派な紳士の家は、半分も出来てはいないし、その年入用いりようの穀物や牛などの用意も出来ていませんでした。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
ヂュリ いゝえ、母樣かゝさま明日あすしき相應ふさはしい入用いりよう品程しなほど撰出えりだしておきました。それゆゑ、わたしにはお介意かまひなう、乳母うばはおそば夜中よぢゅう使つかくだされませ。
隣組から食料の配給をして貰うにも認印の入用いりようなのが日本現代の生活の特徴ですが、米国では預金を銀行から引出すにも署名だけで別に印鑑はいりません。
亜米利加の思出 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おいらァおめえの兄貴あにきだよ。——けた、たった一人ひとり兄貴あにきだよ。それも、百とまとまったかね入用いりようだというわけじゃねえ。四半分はんぶんの二十五りょうことむんだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「馬鹿、人が見たら笑うぜ、手なんか出して、ホラ、入用いりようだけ持って行くがいい——たんとはねえよ」
一生の内に又お言葉を交はす事が出来るかと夢のやうに願ふてゐました、今日までは入用いりようのない命と捨て物に取あつかふてゐましたけれど命があればこその御対面
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「何……?」圭子が改まって、やさしい言葉を使うときは、お金の入用いりようきまっているので、母親はたちまち警戒して、こわい眼で娘をながめながら無愛想にいった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
木山の納屋なやには、米杉べいすぎの角材や板や、内地ものの細かいものが少しあるだけだつたが、方々駈けまはつてやつ入用いりようだけのものを取そろへ、今度こそはまうけする積りで
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
大江山おおえやまの鬼が食べたいとおっしゃる方があるなら、大江山の鬼を酢味噌すみそにして差し上げます。足柄山あしがらやまくまがお入用いりようだとあれば、ぐここで足柄山の熊をおわんにして差し上げます……
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
すると親分が百両くらいなお入用いりようなら引取っておあげしろと、飛んだ小間物屋の旦那口調で、惜しいやね、五十両の封金二ツ、あんな小娘にくれてしまうなんて……、よっぽど
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると甚内の申しますには、あの男の力に及ぶ事なら、二十年以前の恩返しに、北条屋の危急を救ってやりたい、差当さしあた入用いりよう金子きんすの高は、どのくらいだと尋ねるのでございます。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは浅草座でやる倭一座の『日清戦争』の狂言に入用いりような臨時雇募集の広告だった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
にはみなひと病氣びやうきになります、入用いりようなものがありません、なんとなれば、これみな親切しんせつ神樣かみさま不熱心ふねつしんでありますから。』診察しんさつとき院長ゐんちやうはもううより手術しゆじゆつことめてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
国元では伜が今までにない初めての入用いりよう、定めし急な買物であろうと、眼鏡は掛ても書簡てがみの裏は透さずに、何がしという為替かわせを早速送り越したので、貞之進は見るより早くその暮方
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
電車賃やその外のつましい入用いりようを引くと、おくみ一人の口を立てるのにかつ/\ぐらゐなわけだつたので、苦しい目を厭ふ養母は、おくみさへどこかへめることが出来たら、いつそ
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
たいでもさわらでも、どっちでもできます、お魚軒さしみがお入用いりようなら、お魚軒もとれます」
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「でも、どんなことで、家事むきに入用いりようなことがあるかもしれませんからね……」
父は五つになる僕を背負ひ、母は入用いりようの荷物を負うて、青根あをね温泉に湯治たうぢに行つたことがある。青根温泉は蔵王山を越えて行くことも出来るが、そのふもとを縫うて迂回うくわいして行くことも出来る。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
第一に必ず入用いりようなものがホップス即ち葎草りっそうといって麦酒の種に使う草です。少し苦みを持っていて醗酵性の強いものです。食品屋へ行くと何処どこにでも売っていますからそれを買っておおきなさい。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
入用いりようの節は又いつでも、と云われて薬の包を渡されたものの、代金を取ってくれないのに当惑しながら、お忙しいところを何ですからこれで失礼いたしますと、一往は云って見たのであるが、いえ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そうね、坊っちゃんには、何にも関係がなさそうね。……あ、そうそう、今度来る時小母さん坊っちゃんに、またいいもの持って来て上げましょうね? 坊っちゃん、何がお入用いりよう? やっぱり飛行機の道具?」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
始まる前に道具立が入用いりようなんだよ。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「でも、急なお入用いりようならば、わたしから御老女様へお願いしてみるのがいちばん近道と思います、快く聞き届けて下さるに違いありません」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
半「誠に親孝行な事だ、器量と云い姿と云い申分がないから、お前さんの入用いりようだけの金子きんすを上げますが、親類が得心でなければ証文は出来ません」
お延はすぐ入用いりようの品を箪笥たんすの底から出してやろうかと思った。けれども彼女はまだ津田から何にも聞いていなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
格別のやくにはたゝんといふのだよ、着るものや、たべるものや、雨露をしのぐ家はみんな両親にそなへてらふのだから、外に大した入用いりようはないではないか?
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
もっともとおぐらいまでの小児が、家からここへ来るのには、お弁当が入用いりようだった。——それだけに思出がなお深い。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
午食ひるしょくの支度もしなくてはならない。もう間もなく入用いりようになる子供のあわせの縫い掛けてあるのも縫わなくてはならない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
月五十円の手当のうちで親元へ十円ずつの仕送りも、またこれから先入用いりようの衣服も皆その中で仕払うようにしろ。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いのししの肉は牛肉や鶏のようにたいしてうまい味があるというものではないから、白色の脂身あぶらみ入用いりようである。
「いかゞでございませう、このお品では。それからお洗濯せんだくなさいますうち別のがお入用いりようだと存じますが。」
しよううちまた言葉ことばはすこと出來できるかとゆめのやうにねがふてました、今日けふまでは入用いりようのないいのちものとりあつかふてましたけれどいのちがあればこその御對面ごたいめん
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
相談が一決して、病人のみとりは哲雄君が一人で引受け、ほかの二人は、ポパイをつれて大いそぎで山をくだって、海岸の洞窟から入用いりようの品々を運ぶことになりました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さらにもう一つ、日本建の二階家になぜ煙突が入用いりようなのであるかと考えては、いけないであろうか
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どうのこうのと、はなせばなげ訳合わけあいだが、取早とりばやくいやァ、おいらァかね入用いりようなんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
恐らく母が入用いりようの金ではあるまい。姉一人でいる金としたならば、一体何の金だろう。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)