がわ)” の例文
糟谷かすや西洋葉巻せいようはまきを口からはなさないのと、へたの横好よこずきにを打つくらいが道楽どうらくであるから、老人側ろうじんがわにも若い人のがわにもほめられる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まちなかとお人々ひとびとも、両側りょうがわみせもだいぶわったけれど、やはり、銀行ぎんこうは、そこにあり、そして、こうがわにたばこがありました。
街の幸福 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「無論、正義は君のがわにあるだろう。誤解されたんだ。君は穏かではないけれど、少くとも、道にはずれたことをする人間じゃない」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すると子供らは、その荒いブリキ色の波のこっちがわで、手をあげたりあし俥屋くるまやさんのようにしたり、みんなちりぢりにげるのでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「シンナイ」は「別の」「異っている」の意。「シンナイ・サム」(別な・がわ)は、もと他界から来る異類をさしたものらしい。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
訪う人もないこの幽居ゆうきょの御所へ、勝ちほこるがわの将軍として、ようお訪ねくだされましたの。お話の模様は、蔭でうかがっておりました。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
売らぬと云うがわは、人数にんずで関係地主の総数そうすう五十三人中の三十名、坪数で二十万坪の十二万坪を占めて居る。彼等の云い分はざッと斯様こうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
倉田工業は戦争が始まってからは、今迄の電線を作るのをやめて、毒瓦斯ガスのマスクとパラシュートと飛行船のがわを作り始めた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「こっちへ」といいながら平八は、堤を横切って向こうがわへ行ったが、「何んと一閑老土手の腹に、乱暴な足跡がついていましょうがな?」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長持の一方のがわに、ほかのとは違って、三尺以上もある様な長方形の白木の箱が、さも貴重品といった感じで、置かれてあるのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おまえさん、病院をまちがえたんだろ。この前を左へいくと、むこうがわにもひとつ病院があるから、そこへいってごらん。」
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
くらいの罵詈ばりは必ず聞こえるであろうと、つくづく物思いに沈みながら、この群集を去って旅館に帰ろうとすると、同じ公園のむこうがわに二
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それと共に十二世紀に於てはサラセン人のがわにも狂信的な信仰防禦の傾向が加わり、スペインはその烈しい戦場となった。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
わたしたちは、そのこうがわを取りいているかきねのそばまで行ってみて、はじめてハンケチをふっている人を見つけた。
そこで私は男に気づかれぬように、コールタールの小壜と、短い筆とを掌中に握り今までと反対のがわに立ちました。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そのがわみんながトントントンと鎧戸を落とす。硝子戸までガタガタとやる。反対の側のも二、三人は立ち上って来た。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
笹村のがわに、そんなことのないのが、お銀にとって心淋しかったが、それでもそのころ温泉場ゆばにいたある女から来た手紙や、大阪でわかい時分の笹村が
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
やっと! と私のがわに実在するものとして感じられるようになった、その大歓喜の面からしか表現出来なかった。
貞之助が振り返って見ると、幸子はベッドの上に上半身を起して、枕元まくらもとの卓上にある、がわがニッケルで出来ている魔法罎の表面を眺めているのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兄に関するHさんの話は、すべて学問とか研究とかいうがわばかりに限られていた。Hさんは兄の本領としてそれを当然のごとくに思っているらしかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
色といえば、恋とか、色情とかいう方面に就いての題目ではあろうが、僕は大に埒外に走って一番これを色彩というがわに取ろう、そのかわり、一寸仇ッぽい。
白い下地 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壮い男の往った方には女の出た待合のがわになった蕎麦屋そばやの塀のかどがあった。月の光はその塀に打った「公園第五区」と書いたふだのまわりを明るく照らしていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四番目のは——とにかく四番目以後の人にはこれと云う特色もなかったらしい。こちらがわの会葬者席にはまず校長が坐っている。その次には科長が坐っている。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「小川氏はどうなんだ」やがて登が眼をあげて訊いた、「あの人はどっちのがわに立っているんだ」
しかもあらゆる手だてを尽して人生を自分のがわに引き入れようとする——繊細とか憂鬱とかいうもの、つまり文学の病的な貴族性全体の味方につけようとするのは、不合理です。
やがて日暮ひぐがたかれすぼらしい小屋こやまえましたが、それはいまにもたおれそうで、ただ、どっちがわたおれようかとまよっているためにばかりまだたおれずにっているよういえでした。
向島むこうじまへいそぐ深夜の自動車がびゅんびゅんうなって、すぐ前はモダンな公園……というところですが、昔あの辺は、殺し場の書割かきわりめいた、ちょっとものすごいところで、むこうがわ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さてこの仕度が整えば日除けの背中当せなあて(ひごも)をつける。多くはみごで作り、がわを紺の布でとりこれに糸や布で模様をつける。様々あるが多く見るのは扇面である。縁起を祝うのであろう。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
玄関まで歩きながら、藤枝は、他のがわにおいてある二台の自動車を指した。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
弟子師匠と其所そこに区別が附いて相当の礼をして、師弟の関係の出来るのは、それは学文がくもんとか、武芸の方のことであって、普通町人がわの弟子入りは、単に「奉公」で「デッチ奉公」であります。
後世の武士道という方のがわからこれを見れば、実に妙な具合でありますけれども、これは智略勝れた少数の民族が、文化の後れた多数の民族に接する場合には、必要やむをえぬことでありまして
美佐子は玲子のがわから深い憤りを抱いていて、私をもそうした悪戯をする人間のひとりと見て、お前は浅草へなにしに来たのかと詰問したにちがいない、そう私はその時の美佐子の心を推しはかった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
白茶しらちゃ御納戸茶おなんどちゃ黄柄茶きがらちゃ燻茶ふすべちゃ焦茶こげちゃ媚茶こびちゃ千歳茶ちとせちゃなどがあり、色をもつ対象のがわから名附けたものには、鶯茶うぐいすちゃ鶸茶ひわちゃ鳶色とびいろ煤竹色すすだけいろ、銀煤色、栗色、栗梅、栗皮茶、丁子茶ちょうじちゃ素海松茶すみるちゃあい海松茶
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「こっちがわだけ、たれげておくんなさいな」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
少年しょうねんは、なかには、やさしいこころ婦人ふじんもあるものとおもって、そのうしろ姿すがた見送みおくりますと、おんなこうがわのたばこにはいりました。
街の幸福 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こっちがわまどを見ますと汽車はほんとうに高い高いがけの上を走っていて、その谷のそこには川がやっぱりはばひろく明るくながれていたのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかもなお皮肉なのは、その原因が、勝者のがわから瀕死の敵へ、起死回生のよろこびと絶好なすきとを与えていたことにある。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
反対のがわの廊下へと歩いて行ったが、さい前倭文子が隠れていた次の間のふすまの所で、あとに残った二人を振返ると、何ともいえぬ毒々しい調子で
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
前に言うた忠さん、それから千歳村墓地敷地買収問題の時、反対がわ頭目とうもくとなって草鞋わらじがけになって真先に働いたしっかり者の作さんも亡くなりました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
津田の所へは父の方から、お秀のもとへは母のがわから、京都の消息がおもに伝えられる事にほぼきまっていたので、彼は文通の主を改めて聞く必要を認めなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朋輩ほうばいの出て往ったのを気にしていた、三人の女給が、いたガラス戸のがわに立って外の方を見ていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
殊に倉田工業が毒瓦斯ガスのマスクやパラシュートや飛行船のがわなどを作る軍需品工場なので、戦争の時期においてはそこに於ける組織の重要なことは云う迄もないのだ。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
細君のがわに於ても、これ丈けのことをして置けば、まさかの場合に言う丈けのことが言える。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すると父親がうまやにはいって来て、しずかにこうがわのドアを開けた。そして二人、かたに重い荷をせおった男を外からび入れて、やはり用心深い様子で、またドアをめた。
もちろん抱え主のがわから見た均平の目にも、物質以外のことで、非人道的だと思えることも一つ二つないわけではなく、それが男性の暴虐な好奇心から来ている点で、許せない感じもするのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうして井戸の一方のがわに不細工に出来た階段がある。
「この川をこうへえてやろうかな。なあにわけないさ。けれども川のこうがわは、どうも草がわるいからね」とひとりごとをいました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やかたがわになってみれば、何千がんといっても多寡たか馬糧まぐさで、いてもしいものではあるまいが、でるにでられない蛾次郎と竹童こそ災難さいなんである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だんなさま、不思議ふしぎなこともあるもんです。それは、とうてい人間にんげんのゆけるようなところでありません。嶮岨けんそやま、またやまおくで、しかもたにこうがわです。
大根とダイヤモンドの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その知識の詳密精細しょうみつせいさいなる事はまた格別なもので、向って左のどの辺に誰がいて、その反対のがわに誰の席があるなどと、まるで露西亜へ昨日きのう行って見て来たように
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)