伯母をば)” の例文
妻や伯母をばはとり合はなかつた。殊に妻は「このお天気に」と言つた。しかし二分とたたないうちに珍らしい大雨たいうになつてしまつた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ねえ、お父さん、指環をとりもどして。ねえ、真奈のだいじな、だいじな、広島ひろしま伯母をばさんから頂いた指環ですもの。ねえ、ねえ。」
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
もしこれが小梅こうめ伯母をばさん見たやうな人であつたら———小梅こうめのをばさんはおいとと自分の二人を見て何ともへないなさけのある声で
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
祖母おばあさんや伯母をばさんが針仕事はりしごとをひろげるのもその部屋へやでしたし、とうさんが武者繪むしやゑ敷寫しきうつしなどをしてあそぶのもその部屋へやでしたし
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
勘次かんじたゞひゞきてながら容易よういめぬあつ茶碗ちやわんすゝつた。おつぎも幾年いくねんはぬ伯母をばひとなづこいやう理由わけわからぬやう容子ようすぬすた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
桂次けいじいまをる此許こゝもと養家やうかゑんかれて伯父をぢ伯母をばといふあひだがらなり、はじめて此家このやたりしは十八のはる田舍縞いなかじま着物きものかたぬひあげをかしとわらはれ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、洋服やさんの伯母をばさんにいただいた洋服を着て、お友達のあひるさん所へ見せびらかしにでかけてゆきました。
お猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子古川アヤ(著)
感じて思はず落涙らくるゐ仕り如何にも彦兵衞には有之これあるまじ外に人殺ありと申たるに相違さうゐ御座なく候と申ければ大岡殿聞給ひさらば馬喰町米屋市郎左衞門伯母をばころし金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
伯母をばいまだ髪もさかりになでしこをかざせる夏にれは生れぬ (弟の子の生れけるに夏子と名をえらみて)
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
伯母をばめひ同士が奉公してゐると言ひますが、おさのの方は、彈三郎のめかけだつたといふ近所の噂が本當でせう。
くだんの僧の伯母をばにてはべりける女は、心すきすきしくて好色はなはだしかりけり、年比としごろのをとこにも少しも打ちとけたるかたちをみせず、事におきて、色ふかく情ありければ、心うごかす人多かりけり
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うちでは祖母おばあさんや伯母をばさんやおひなまで手拭てぬぐひかぶりまして、伯父おぢさんやぢいやと一しよはたらきました。近所きんぢよから手傳てつだひにはたらひともありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なにとはなしにはりをもられぬ、いとけなくて伯母をばなるひと縫物ぬひものならひつるころ衽先おくみさきつまなりなど六づかしうはれし
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長吉ちやうきちは第一に「小梅こうめ伯母をばさん」とふのはもと金瓶大黒きんぺいだいこく華魁おいらんで明治の初め吉原よしはら解放の時小梅こうめ伯父をぢさんを頼つて来たのだとやらふ話を思出おもひだした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その部屋のそとを通りかかると、六十八になる伯母をば一人ひとり、古い綿わたをのばしてゐる。かすかに光る絹の綿である。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もよくやう育しけるが米屋市郎左衞門が伯母をばの殺されたる霜月しもつき十七日の夜麻布邊へきやく乘行のせゆきおほいにおそくなりて丑刻やつどきごろ福井町の我が家へ歸り來るに誰やらん天水桶てんすゐをけにて物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「私と伯母をば樣は此處に居りました。下女のお稻はお勝手で御膳を揃へてゐたやうでございます」
そこで、遠くの町にゐる伯母をばさんのところへ二人であそびに出かけることになりました。
お猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子古川アヤ(著)
ぢいたんだな、おらねえけりやだまつてりてくべとおもつたんだつけが、明日あしたまで伯母をばさんかえ風呂敷ふろしきるつちからしてくんねえか、こめ脊負しよつてくんだから」おつぎは突然だしぬけにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
伯母をばさんあの太夫たゆうさんんでませうとて、はたはたけよつてたもとにすがり、れし一しなれにもわらつてげざりしがこのみの明烏あけがらすさらりとうたはせて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
伯母をばさん」と云ふ。「まだ起きてゐたの?」と云ふ。「ああ、今これだけしてしまはうと思つて。お前ももう寝るのだらう?」と云ふ。後架こうかの電燈はどうしてもつかない。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
下し勘辨かんべん致す樣に申渡たれど彦兵衞に相違なし伯母をばの敵なりとてしきりに吟味を相願ふ故彦兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
根岸ねぎし伯母をばさんにも相談して見ませう。多分間に合ひませう。」とお節が言つた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
伯母をばさんは子供のころ自分をば非常に可愛かはいがつてれた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕等はその時にどこへ行つたのか、かく伯母をばだけは長命寺ちやうめいじの桜餅を一籠ひとかごひざにしてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まだいとけなくて伯母をばなる人に縫物ならひつる頃、衽先おくみさきつまなりなどづかしう言はれし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
味噌みそうちつくり、お醤油しやうゆうちつくり、祖母おばあさんや伯母をばさんのかみにつけるあぶらまでには椿つばきしぼつてつくりました。はやしにある小梨こなしかはつてて、黄色きいろしるいとまでめました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
僕は鵠沼くげぬま東屋あづまやの二階にぢつと仰向あふむけに寝ころんでゐた。その又僕の枕もとにはつま伯母をばとが差向ひに庭の向うの海を見てゐた。僕は目をつぶつたまま、「今に雨がふるぞ」と言つた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
暑気はなはだし。再び鎌倉に遊ばんかなどとも思ふ。薄暮はくぼより悪寒をかん。検温器を用ふれば八度六分の熱あり。下島しもじま先生の来診らいしんを乞ふ。流行性感冒のよし。母、伯母をば、妻、児等こら、皆多少風邪ふうじやの気味あり。
僕「それは驚くだけですよ。伯母をばさんには見当けんたうもつかないかも知れない。」
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
僕はまだ小学時代からかう云ふ商人の売つてゐるものを一度も買つた覚えはない。が、天窓てんまど越しに彼の姿を見おろし、ふと僕の小学時代に伯母をばと一しよに川蒸汽へ乗つた時のことを思ひ出した。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
妻は二階に眠れる多加志たかしを救ひに去り、伯母をばは又梯子段はしごだんのもとに立ちつつ、妻と多加志とを呼んでやまず、すでにして妻と伯母と多加志をいだいて屋外に出づれば、さらに又父と比呂志ひろしとのあらざるを知る。