伊達だて)” の例文
が、あかたすきで、色白な娘が運んだ、煎茶せんちゃ煙草盆たばこぼんを袖に控えて、さまでたしなむともない、その、伊達だてに持った煙草入を手にした時、——
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
深窓しんそうな育ちでも、どこか女伊達だてめいた気風をもって、おそろしく仁義礼智の教えを守って——姿の薄化粧のように、魂も洗おうとした。
大西洋艦隊が太平洋に廻って、一緒に練習をやっているのは、伊達だてじゃない。わが国の兵器は、正確で恐ろしい偉力をもっている。
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一人の男がよろめきながら『腰の大小伊達だてにゃあささぬ、生意気なまいきなことをぬかすと首がないぞ!』と言って『あははははッ』と笑ッた。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
梅ばちくずしのあの手ぬぐいを伊達だて春駒はるごまかぶりにそろえながら、足拍子手拍子もろとも、いまや天下は春と踊り狂っていたからです。
したがって列はえんえんとつづき、本間孫四郎や伊達だて蔵人くろうど家貞などの兵が、先駆から列後までを見つつ順に麓へさがって行った。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ダイヤのネクタイピンなど、無いのを私は知って居りますので、なおのこと、兄の伊達だての気持ちが悲しく、わあわあ泣いてしまいました。
兄たち (新字新仮名) / 太宰治(著)
この記事が東京朝日新聞に出たのを見た滝野川たきのがわ伊達だて氏が、わざわざ手紙をよこして、チャップリンの文楽見物の事実を知らせてくれた。
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのたまらない伊達だてな味が好きで、平次の代理をするときは、平次に笑はれ乍らも、これを借用して來るのが八五郎の例でした。
大体福島県は紙漉の村が多いのでありまして、岩代いわしろの国では伊達だて山舟生やまふにゅう安達あだち郡のかみおよびしもの川崎村や耶麻やま熱塩あつしお村の日中にっちゅう
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
今後の男伊達だては決して威張いばり一方では用をなさぬ。内心かたくして外部にやわらかくなくてはならぬ。むかしの賢者も教えていわ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
(彼は眼は悪くないのであるが、いつ頃からか折々伊達だてに色眼鏡を掛ける癖が附いていた)あの秦皮とねりこのステッキをいた姿がぬっと現れた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一方カラハシという名称の行われていた区域も弘いようである。群馬県の佐野、栃木県の那須なす、福島県の伊達だてなどの実例を私は知っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの頭上の衣類の中に隠されてでもいるのか、そうでなければ、これは一本だけ特に長いのを伊達だてに差す遊侠無頼ゆうきょうぶらいのともがらででもあるのか。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生まれは仙台気仙村、父忠左衛門の時代まで、伊達だて家に仕えて禄をんだが、後忠左衛門江戸へ出で、医をもって業とした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ジャンセニストの者と不信仰者とは、清教主義者と伊達だて者とは、おのれの本能に仕えながらも同一の運命に仕えたのだった。
「ほほ、それではバル・セロナ生れの伊達だてものには見えないわ。それともお前さんはわたしに弱味でもあると思っているの。」
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
農夫とは思われぬ伊達だてあごや口元が、若若しい精気に満ち、およそ田畑とは縁遠い、ぬらりとした気詰りで、半被はっぴを肩に朝湯にでも行きそうだ。
会津あいづ藩士がつくったヨイチ郡黒川くろかわ村、山田村、伊達だて藩士がひらいたウス郡モンベツ村、イシカリ郡トウベツ村その他等々。
「仰しゃいまし、ちょっと足をいてお歩きになる姿はずいぶん伊達だてでございますわ、御自分でもそう思っていらっしゃるのじゃございませんの」
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むしばくらい尽そうとする力の怖ろしさは、けっして悪臭を慕ったり、自分自ら植つけた、病根に酔いしれるといった——あの伊達だて姿にはないのである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
黒子ほくろを貼った貴婦人と相乗りの軽馬車を駆っていく伊達だて者。その車輪にぶら下がるようにして一しょに走りながら、大声に哀れみを乞う傴僂の乞食。
第二番に何屋のかれ綺羅きらを尽くした伊達だて姿が、眼の前を次から次に横切っても、人々は唯、無言のまま押合うばかり。眼の前の美くしさを見向きもせず。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あいや、伊達だて侯……先刻よりお見受けするところ、御貴殿、首をまっすぐに立てたきり、曲がらぬようじゃが、いかがめされた。寝くじきでもされたか」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大の野心家であつた伊達だて政宗さへ、此年少気鋭な三代将軍の承職に当つて江戸に上つた際、五十人の切支丹の首が鈴ヶ森でねられるのを眼のあたり見て
ざっとこういう伊達だてな服装の不良紳士たちが沢山さまようという色町の通りに、僧形の二人がぶらぶら歩く姿は余程、異様なものであったろうと思います。
茶屋知らず物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それだから伊達だてじゃいけない、真から底からのまこと心からの仕事でなくちゃ駄目だというんだろ、分った。
「何事ぞ」の句は花を見るのに何の必要があって長い刀をさしているのだ、無用なことだ、と伊達だてに長刀を帯びている人の無風流をあざけったのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
男は八丈の棒縞ぼうじまの着物に、結城紬ゆうきつむぎの羽織を着ていたが、役者らしい伊達だてなところは少しもないのですよ。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
真田信仍が天王寺口で歩兵の槍で以て伊達だての騎馬で鉄砲に勝ちたるを未曾有みぞうの事と持て囃すが、似た事もあって、南チリへ侵入したスペイン最上の将士を撃退して
諸君、もう一度、君達の胸のバッジをみたまえ。光輝こうきある日の丸の下に、書かれた Japanese Delegation の文字は、伊達だてでは、ねエんだろ。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それからその方たちを好く思ふといふことでは幾人かは立派な、堂々とした、中年の方だと思ひ、他の方たちは若くて伊達だてで、綺麗で、元氣があるとは思つてゐます。
黒眼鏡であったため友人達は元々私は目が悪くないのに伊達だてでかけてきたのだろうと考えて、翌日から眼鏡なしでも買って貰えないせいだと思われないのが幸せであった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
をとこ塵塚ちりづかさがす黒斑くろぶちの、ありてようなきものともゆべし、此界隈このかいわいわかしゆばるゝ町並まちなみ息子むすこ生意氣なまいきざかりの十七八より五にんぐみにんぐみこししやく八の伊達だてはなけれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その意味は、官軍先鋒せんぽう嚮導隊きょうどうたいなどととなえ当国へまかり越した相良惣三さがらそうぞうらのために周旋し、あまつさえその一味のもの伊達だて徹之助に金子二十両を用だてたのは不埓ふらちである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
葉子はそこにいかにも伊達だて寛濶かんかつな心を見せているようだったが、同時に下らない女中ずれが出来心でも起こしはしないかと思うと、細心に監視するのも忘れはしなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ワーニャ (家から出てくる。おそい朝飯のあとで一寝入りして、だらけた様子をしている。ベンチに腰をおろして、伊達だてなネクタイを直す)そう……(間)。ふむ、そう……
そのとき内匠頭とならんで勅使饗応役に任ぜられた伊達だて左京亮は、加賀絹数巻、黄金百枚、それに加えて狩野探幽の描いた竜虎りゅうこの図双幅をおくったということになっているが
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
彼らの主君であった伊達だて邦夷は、さかやきの伸びた額をおさえ、いささか唇をまげたあの顔で、遠い海の彼方かなたに視線を投げていた。思いが胸にあふれているときの様子であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
南蛮船が来航し、次で和蘭陀オランダからもって来る。支那シナとの交通はもとよりのことである。香木の伽羅きゃらを手に入れることで、熊本の細川家と仙台の伊達だて家との家臣が争っている。
嘗て「近代の憂欝」といふ言葉も流行したくらゐ、西洋でも、ハムレット以来、懐疑と魂の漂泊を誇示する青白い憂欝は、詩的で、ちよつと伊達だてな、青年好みの時代色でありました。
「そんならひとつ盤に相談しときまひよ。」といふ詞は伊達だてではない。それを聴いては、もうどんな道理を持つて行つてもむなしかつた。交渉に行つた記者はかんかんになつて引き下つた。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
どの顏げて武士よと人に呼ばるべき、腐れし心をいだきて、外見ばかりの伊達だてに指さん事、兩刀の曇なき手前に心とがめて我から忍びず、只〻此上は横笛に表向き婚姻を申入るゝ外なし
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それがために何だかえらそうに見えるという伊達だてからかけていたのであろう。
ソコで私がこの藩主にむかって大に談じられる由縁ゆかりのあるとうのは、その藩主と云う者は伊達だて家の分家宇和島うわじま藩から養子に来た人で、前年養子になると云うその時に、私があずかっおおいに力がある
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
案内されて廻縁まわりえんからはいって来た客人——年頃は主じとあまり違わぬ三十何歳、細いまげをすずしく結って、伊達だて好みの茶壁の着付、はかまはわざと穿かずに、無紋紺地の短か羽織を軽く羽織って
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
まるできつねみたいに狡そうに肩をすりながら、彼女のそばへ寄って行って、彼女の掛けている椅子いすの背に、伊達だて格好かっこうをしてもたれかかり、さも得意げな、追従ついしょうたらたらの薄笑うすわらいをうかべながら
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
このはなは婬婦いんぷなりしが娘おくま容顏きりやう衆人しうじんすぐれて美麗うつくしく見るものこゝろうごかさぬものなく二八の春秋はるあきすぎて年頃に及びければ引手ひくて數多あまたの身なれども我下紐わがしたひもゆるさじと清少納言せいせうなごんをしへも今は伊達だてなる母を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『君、今夜は伊達だて男が来ていなそうだね』と突然、生駒君が私に言う。
美音会 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
これは伊達だてに飾ってあるのではない、僕は朝夕これを執って、わが家の同人の誰でもを相手に剣術の練習をする、たまらなく気が滅入って始末のつかぬ時には、これで戦争ごっこをして気分をはら
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)