よそ)” の例文
いや、これに対しても、いまさらよそうちへとも言いたくなし、もっと其家そこをよしては、今頃間貸まがしをする農家ぐらいなものでしょうから。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうしてそうわからないんだろうなあ。末ちゃんはお前たちとは違うじゃないか。よそからとうさんの家へ帰って来た人じゃないか。」
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それより俺は、花見船を嫌つて、釣に行つたといふ義弟の伯次が餘つ程怪しいと思ふよ。そつとよその船で引返す手もあるぢやないか」
「だが、それだけの単純な出来事だとしても、よその男が夜中やちゅうにお前の寝室で死んだという事実は打消すわけに行かんじゃないか」
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しかし自分はこれからよそへ寄り道をして帰るから、日が暮れてから持参してくれといった。喜右衛門はすべて承知して別れた。
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其の時ちやうど父はお宮の用事で四五日泊りがけによそへ行つてゐたが、母は忽ち其の見も知りもしなかつた修驗者とねんごろになつて
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
真面目ならば、こうまで言った話は解らんけりゃならん。私が一時を瞞着まんちゃくして、芳をよそかたづけるとか言うのやなら、それは不満足じゃろう。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かつまた、ただ今は、いろいろ拙者に対して苦言を聞かしていただき、あれにてよそながら、有難いと思って聞いていました。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この報知しらせを耳にした時、豊後守の驚愕はよその見る眼も気の毒なほどで、怏々おうおうとして楽しまず自然勤務つとめおこたりがちとなった。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
気の毒な思をしてお前との約束を変易へんがへするのも、私たちが一人娘をよそへ遣つて了ふのも、究竟つまりは銘々の為に行末好かれと思ふより外は無いのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あるいはまたこの種族はよその国から非常の古代にここに移住して来て、そこでこういう風になったものであるかも知れぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
どうかして僕がよそから工面くめんしなければならないのは貴女あなたにもわかるでせう。だから今夜はこれだけおもちなさい。あとは二三日うち如何どうにかますから。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一日肩を凝らしてようや其彫そのほりをしたも、もし御髪おぐしにさして下さらば一生に又なき名誉、うれしい事と態々わざわざ持参して来て見ればよそにならぬ今のありさま
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一生に三度恋をして、そのうち二度まではよそうちの女中を相手だつたといふから、相応かなりだらしのなかつた男に相違ない。
鎮江には王鼎の友達の一人がいたが、往った日はちょうどよそへ往って留守であったから、まず其処の旅館へあがった。
蘇生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「今日は雨が降って淋しいから、お前、その伊勢の国の話をしてごらん、わたしはどこへも出ることがいやだから、よその国のことは少しも知らない」
與吉よきちが三つにつたのでおつぎはよそ奉公ほうこうすことに夫婦ふうふあひだには決定けつていされた。ころ十五のをんなでは一ねん給金きふきん精々せい/″\ゑんぐらゐのものであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
世の飢饉にい、女の夫、妻に告ぐらく、わが家貧窮して衣食にくるしむ、汝はよそへ行き自活の処を求むべし、と。
「死ぬたって、私は亭主持だもの。好いてるにしろ、不好すかぬにしろ、とにかく源様に任せた体で見れば、自分の勝手によそのお前様と死ぬ訳には行かない。」
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
文「いえ/\中々喧嘩口論などはは懲りてよそへも出ませんくらいでございますから決して致しません」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と長く声を引いて独言ひとりごとを言っているのを、夫人は横目にながめて、「浦よりをちぐ船の」(我をばよそに隔てつるかな)と低く言って、物思わしそうにしていた。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
『少し相談があるから、今夜七時半に僕の下宿へ來給へ。僕はよそを廻つてそれ迄に歸つてるから。』
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
わたくしなどは随分ずいぶんきびしい、けわしいみちまねばならなかった一人ひとりで、苦労くろうひとしおおおかったかわりに、幾分いくぶんよそかたよりはやあかるい世界せかいることにもなりました。
早速余は出掛けて行くと、少し話したいことがあるが、うちよりはよその方がよかろうと言って居士は例のヘルメットを被って表に出た。余はそのあとにいて行った。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「お師匠さん、ごめんなすって下さい。華紅かこうさんが、よそのお弟子さんと間違えられたのですよ。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
泣出なきだしもしまいとつたから、ひさしぶりで、こちらも人間にんげんこゑきたくなつて、口元くちもとはなしてやると、あとをきさうにもしないのだ。よそてゐるやうだ。
殺された女が事件をよそに悠々と落ついて、たった一人で何時までも湯槽ゆぶねつかっているなり、流しているふりしていたと考えれば、幾分合理性も認められるが、浴客中に
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八 黄昏たそがれに女や子供の家の外に出てゐる者はよく神隠しにあふことはよその国々と同じ。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
あんたのいるところはやぐら下のまつ川といったな。ま、いずれそのうちにはよそながら栄三郎どのに会うおりもあるであろうから、気を大きく持って……お! それから、何よりも身体を
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それと同時に伯父さん伯母さん達は、よその村へ越して行つたと云ふことでした。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
していやがったが、よくよくおれに愛想あいそをつかしゃアがったと見えてよそへ片付いてしまやアがったんで、つい娘や子供の事もそれきり放捨うっちゃって置いたんだがね、数えて見るともう十八だ。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「万事新太郎と一緒にやって貰うさ。よそに負けない待遇をする。仕事といって別にむずかしいことはない。家のものだから特に忠実に勤めて、店員に模範を示してくれゝば宜い。何うだね?」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あの当時は、私についていた者は一、二千人もあったろうか? いやそれではきかなかったかも知れない。だのに、今となっては、よそながらでも、私の姿を見送ってくれる者もいないのだ」
箱書に持って見える人は、恐らく、よそから手に入れたものに違いありませんが、そんな直し物などとは知らずに持って来られるのでしょう。また知っていたら持って来られもしないだろうと思います。
迷彩 (新字新仮名) / 上村松園(著)
三人の子供を抱えてよその家に厄介になった気苦労も、あのやさしい美しい嫁さんの為めに、忘れて仕舞ってた位であった。おかみさんは、いろ/\思出すごとに、断片的に楯井さんに聞くのであった。
惨事のあと (新字新仮名) / 素木しづ(著)
禿げたあたまのきさくからよその畑を見回みまはる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すると先生がまた問題をよそへ移した。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きな、ふとった体躯からだをしたよそ内儀おかみさんなぞが、女というものは弱いもんですなんて、そんなことを聞くと俺は可笑おかしく成っちまう……
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それより俺は、花見船を嫌って、釣に行ったという義弟の伯次がよっぽど怪しいと思うよ。そっとよその船で引返す手もあるじゃないか」
「打捨って置けませんとも……。そのうちによそから手でも着けられた日にゃあ、親分ばかりじゃねえ、この湯屋熊のつらが立ちませんからね」
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「これなども、やはりよそからとぎを頼まれて、預かっている名刀の一つですが、ごらんなさい、惜しいさびをわかせています」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よその子供等が裾にからまって来ると、彼女は優しい身振りでそれをけたり、抱きとめたりした。そしてその母親たちには莞爾にこやかな笑顔をむけた。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
主翁ていしゅは冷酷な男であったから初めは寝たふりをして返事をしなかったが、何時までたっても旅僧が去らないので、「もう寝たから、よそへ往って頼むが好い」
怪しき旅僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一体語学が達者に出来るのは得なもので、独逸のゲエテはよその国のことばを一つ覚えるのは、やがて一つの世界を殖やすやうなものだと言つたかに覚えてゐる。
阿父さんや阿母さんが不承知だと謂つても、そりやあんまひどいわ、余り勝手だわ! 私は死んでもよそへは適きはしませんから、可いわ、可いわ、私は可いわ!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
世間体にも、容体にも、せてもはかまとあるところを、毎々薄汚れたしま前垂まえだれめていたのは食溢くいこぼしが激しいからで——この頃は人も死に、やしきよそのものになった。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わしはこれから、ちとよそへ行かねばなりませぬ。あの、お君さん、お嬢様がお前さんに会いたいから、手がすいたら遊びに来るようにとお言伝ことづてでござんすよ」
『少し相談があるから、今夜七時半に僕の下宿へ来給へ。僕はよそを廻つてそれ迄に帰つてるから。』
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
八 黄昏たそがれに女や子供の家の外に出ている者はよく神隠かみかくしにあうことはよその国々と同じ。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
課長あなたの頓死といわれるのははからずして自分だけで偶然の死を招いたという意味でしょうが、しかしそれに死ぬような原因をよそから与えた者があれば、それはやはり他殺なんですからネ」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)