よろい)” の例文
「そういわれるとこまるが、とにかく私はね、この人間が着ているよろいをぬいでみれば、早いところその正体がわかると思うんだがね」
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
呂州判官ろしゅうはんがんとは、日本軍にまできこえた明の豪将ごうしょう、一万の兵をしたがえる呂州判官兵使柯大郎へいしかたいろうといって、紺地錦こんじにしきよろいを着ていたのであった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
上物のよろいだけでも三、四十りょう、ほか具足やら腹巻やら、かずと来たら、ちょっと、めまいがしそうな程のおあつらえだ。ただ弱ったのは日限さ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
続いてよろいであろう金属の触れあうような音も聞えて来た。おやと思って見ると、騎馬武者の一隊が前から来ているところであった。
首のない騎馬武者 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
よろい長刀なぎなた、大刀をかいこんであっという間もなく延暦寺の額をたたき割って、「うれしや水、鳴るは滝の水、日は照るとも絶えず」
その一つは、萌黄匂もえぎにおいよろいで、それに鍬形くわがた五枚立のかぶとを載せたほか、毘沙門篠びしゃもんしのの両籠罩こて小袴こばかま脛当すねあて鞠沓まりぐつまでもつけた本格の武者装束。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
甚兵衛は朝からの戦いでかなり疲れていて、よろいの重さが、ひしひしと応えるのに、その男は軽装しているために、溌剌たる動作をなした。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
けれども、それは何、わかいもの同志だから、萌黄縅もえぎおどしよろいはなくても、夜一夜よっぴて戸外おもて歩行あるいていたって、それで事は済みました。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西の雲はまっかにかがやき蠍のも赤く悲しく光りました。光の強い星たちはもう銀のよろいを着て歌いながら遠くの空へ現われた様子です。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
虎曰く共に闘うべし、汝に道を借さずと。猪また語るらく、虎汝暫く待て、我れ我が祖父伝来のよろいけ来って戦うべしという。
お品さんは浪花屋の天水桶へ目印のしおりを書いて、ここへ入りましたと教えておきながら、霊岸橋を渡ってよろいわたしの方へ行ったことになるぜ
そのよろいかぶとなどを念入りに吟味し、更に松岡緑芽まつおかりょくがに依頼して太刀流しの図を描かせ、奉書刷りの一枚絵にして知己に配ったりした。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
糸屋でこそあれ辻屋は土地の旧家で身代もなかなかしっかりしたもの、普通の糸屋とちがって、よろいおどしの糸、下緒さげおなど専門にして老舗しにせであった。
『太平記』に「雨の降るが如くにける矢、二人の者共がよろいに、蓑毛の如くにぞ立たりける」。一つはさぎくびに垂れたる蓑の如き毛のこと。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
けれどもこれほどのえらい将軍しょうぐんをただほうむってしまうのはしいので、そのなきがらによろいせ、かぶとをかぶせたまま、ひつぎの中にたせました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
宏大なる一室に紙帳を釣らせて、その中に敷皮を敷いて、白絹の陣羽織に白金物しらがなもの打ったよろいを着て、坐っているのが大谷刑部少輔吉隆である。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
武者絵むしゃえ錦絵にしきえ、二枚つづき三枚つづきの絵も彼のいうがままに買ってくれた。彼は自分の身体からだにあう緋縅ひおどしのよろい竜頭たつがしらかぶとさえ持っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
われ人共に、何をもってしてもいやし難い無限に続く人生の哀音なるものが僕の弛緩しかんした精神のよろいの合せ目から浸み込むためか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かかりけるところに、本間孫四郎重氏、黄瓦毛の太く逞しきに、打乗って、紅下濃くれないすそごよろい着て、和田の岬の波打際に、たんだ一騎にて御入来。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
よろいかぶと、兵隊靴、右手に日本刀、左手に槍、背に猟銃、腹巻にはピストルをさしこんでいて勇ましい。あたりをうかがい、誰も見えないと
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
俺にはその時この外套がよろいのように厚ぼったく頼もしく感ぜられたのだ。俺は毒々しい喜びを感じながら真直ぐ切符売場へ進んで行ったのだ。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
が、そのため息がまだ消えない内に、今度は彼の坐っている前へ、金のよろい着下きくだした、身のたけ三丈もあろうという、おごそかな神将が現れました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
手に取って検べて見ると、大蠍の正体は、薄い金属を芯にして、布を張り絵の具を塗った、よろいのような感じのものであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
物語や立廻りの都合はあれど、光俊がこのいそがしい中で一旦よろいを脱ぎてまたきりにこれを着するは想像せられぬことなり。
これも張ぼての金紙づくりのよろいを着用に及んで張ぼての馬を腰へぶら下げてヤアヤアといいながら蛸を追い廻すのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
よろいの仮面に似た黄褐色の怒髭どし乱髯らんぜん。それ等に直面して、その黒い瞳に凝視されたならば、如何なる天魔鬼神でも一縮ひとちぢみに縮み上ったであろう。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
よろいかぶとや太刀や長柄や、旗さし物などをたずさえて、これも元気よく帰って来て、岩壁の右側からはいって行き、出る者と入る者とが顔を合せると
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よろい作りの工業家などもこれから出ているらしく、おそらくしゅく・エタの仲間となったものもまたその中にはあったらしい。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
うごめくものの影はいよいよその数を増し、橋むこうの向井将監の邸の角から小網町こあみちょうよろいの渡し、茅場町の薬師やくしから日枝神社ひえじんじゃ葭町よしちょう口から住吉町すみよしちょう口と
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「正義のためだ。そうだ、正義のためだ。オフィリヤ、よろいを出してくれ。お父さんは、いけないお父さんだったねえ。」
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
徳川家康とくがわいえやす(従五位上侍従このとき三十一歳)は紺いろにあおいの紋をちらしたよろい直垂ひたたれに、脛当すねあて蹈込ふみこみたびをつけたまま、じっと目をつむって坐っていた。
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今日一つの刀剣を見ましても、ああいうよろいのようなものを見ましても、また仏像を見ましても、鎌倉時代というものはとにかく尊いものであります。
じっさい、彼の進出はほかの恋敵にとっては退却せよという信号であり、だれもよろいをつけたライオンの恋路を邪魔しようなどとは思いもしなかった。
国への江戸土産みやげに、元結もとゆい、油、楊枝ようじたぐいを求めるなら、親父橋おやじばしまで行けと十一屋の隠居に教えられて、あの橋のたもとからよろいの渡しの方を望んで見た時。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうして、自分は古いよろいをみつけて、それを手に入れたいと思うから、裏通りまで一緒に来てくれないかと言った。
火事場の稼ぎにもゴムのよろいに身を固むることを忘れざれば天狗てんぐ鼻柱はなばしら遂に落るの憂なく、老眼今なほ燈下に毛蝨けじらみひねつて当世の事を談ずるの気概あり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
驕慢きょうまんの虚偽——民族の驕慢や、階級の驕慢や、宗教の驕慢や、文化や芸術の驕慢など、あらゆる驕慢の虚偽は、それが鉄のよろいとなり、剣とたてとを供給し
それは柏木の氏神よろい大明神が、やはり平将門の鎧を御神体としているといういい伝えがあったからであります。(共古日録。東京府豊多摩とよたま郡淀橋町柏木)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
よろいをとり戻したぞ」と彼は告げた。それはある負債の代償に私が地主の家に預けた私の祖先の遺物である。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
ばうのさきには、よろいをきたサムライや、あか振袖ふりそでをきたオイランがだらりとくびをたれてゐました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
よろいを衣の中に著せて、河のほとりに到つて船にお乘りになろうとする時に、そのいかめしく飾つた處を見遣つて、弟の王がその椅子においでになるとお思いになつて
その横の洋服屋では首のない人間がぶらりと下がり、主人は貧血の指先で耳を掘りながら向いの理亭の匂いを嗅いでいた。その横にはよろいのような本屋が口を開けていた。
街の底 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その目にうつったのは、けんを抜きはなって、いつなんどきでもお医者さんの首をちょんぎろうと身がまえているよろいをきた人の姿でした。お医者さんはきもをつぶしました。
門の両側には、よろいかぶとを着た兵士がズラリと並んでいます。そして、その兵士たちはなんともいえない恐ろしい顔つきをしているので、私は思わずゾッと寒気がしました。
両側は崩れ放題の亀甲石垣きっこういしがき、さきは湊橋みなとばしでその下が法界橋ほうかいばし上流かみへ上ってよろいの渡し、藤吉は眇眼すがめを凝らしてこの方角を眺めていたが、ふと小網町の河岸縁に真黒な荷足にたりが二
家臣たちに迎えられて広忠が岡崎城に帰る日が来た頃には、吉良一族は、城主持広の歿後ぼつご戦乱の波にもまれて今川勢の強襲に遭い、藤浪なわてよろいふちの戦いにもろくも敗れた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
しばらく進むと右からマツクラという沢が来ている、マツクラ沢の対岸の岩側が緂々たんたん筋のように見えるからよろいグラ(岩の転か)と呼ばれてある、鎧グラの上方を登るのであるが
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
鉄のよろいと鋼鉄の胸当てとをつけたその偉大な騎兵隊の狂猛な圧力は、歩兵を押しつぶした。軍旗のまわりに立っている数人の兵が、一個連隊の位置を示してるものもあった。
桐生氏きりゅうしの子孫の家に蔵する所の輝勝てるかつの像を見るに、南蛮胴なんばんどう黒糸縅くろいとおどしそで草摺くさずりの附いたよろいを着、水牛のつののような巨大な脇立わきだてのあるかぶとかぶって、右の手に朱色の采旆さいはいを持ち
船長は、しかし、今は充分に「因襲的尊厳」のよろいを着て、旗、差し物沢山で控えていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)