どん)” の例文
私は、これまで斎藤茂吉についてはいろいろ余り書きすぎたので、今、いくらどんあたまをひねっても、どうしても書く事が浮かんでこない。
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
初回のときは、別になんとも思わんじゃったけんど、あんまり、毎回じゃけ、どんなわたしも、変に思うて見るようになりました。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
預けられた茶山の塾の壁に「山ぼんみず、先生どん」の出奔遺書をのこして京地へ走った一書生の頼久太郎は、今では、山陽外史頼襄らいじょうの名を
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おまえは、鈍吉どんきちだ。」と、いったのが原因げんいんとなって、生徒せいとたちは、かれのことをどんちゃんとあだするようになりました。
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
どんな、はずみのい、くづれる綿わた踏越ふみこ踏越ふみこしするやうに、つまもつれる、もすそみだれる……それが、やゝ少時しばらくあひだえました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ロミオ 心臟しんざう此處こゝのこってゐるのに、なんかへることが出來できようぞい? どん土塊つちくれめ、引返ひッかへして、おのが中心たましひさがしをれ。
しかしてふたたび白の独天下になった。可愛かあいがられて、大食して、弱虫の白はます/\弱く、どんの性質はいよ/\鈍になった。よく寝惚ねぼけて主人しゅじんに吠えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けれども僕には僕でまた相当の云草いいぐさがあるんだ。僕のどんは必ずしも天賦てんぷの能力に原因しているとは限らない。僕に時を与えよだ、僕に金を与えよだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どんな私たちにもよく腹に入りました。極楽へ参らせていただくためには、ただ念仏すればよいのでございますな。ただそれだけでよいのでございますな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
穀物のどっさりある連中は、難民のことをぶすくさ言う。そうとも。……飢えのため人間は頭が変になる。どんする、兇暴になる。飢えは甘いもんじゃない。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
俗にいわゆる貧すればどんするとの言は心理学上の事実にして経済学上の原理なり、富者ますます富めば貧者はいよいよ貧なり、貧より来る苦痛の中にこの絶望に沈むこと
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
折角せつかく御越おこしやさかい、山中やまぢうさがしましたがたつたぽんほか見附みつかりまへなんので、えらどんこととす」
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ひんすりゃどんになったように自分でせえおもうこのおれを捨ててくれねえけりゃア、ほんこったあ、明日の富に当らねえが最期さいごおらあ強盗になろうとももうこれからア栄華えいがをさせらあ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
貴孃あなた齋藤さいとう阿關おせきさん、面目めんもく此樣こん姿なりで、背後うしろければなんもつかずにました、れでも音聲ものごゑにもこゝろづくべきはづなるに、わたし餘程よつぽどどんりましたとしたいてはぢれば
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たいていのどんな親なら、これだけ聞かされてはおさまるはずがなく、「なにをぬかす、鰻掻きめら」と、ありあうを蹴散らしていきり立つところだが、さすがは老骨ろうこつ、そんな未熟な所為しょいはしない。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「他あやん、えらいどんなこっちゃけど、こらわいには読めんわ。」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
大きな水車がしぶきの息をふき、雫の汗をたらしてぐわらぐわらぐわらと恐しくまはつてゐる。糠埃のこもつたには無数の杵がこつとんこつとんとどんな音をたてて一本足の踊るやうに米をつく。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
「そりや嫌さ。ひんすればどんするツていふからね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「人間は矢っ張りどんやつが結局勝つものらしい」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そこが、ゆかしい。どんじゃ、鈍じゃ、と其許はよく、庄次郎を叱りおったが、やはり、見どころがあった。ああいうたちが、晩成するものじゃて」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
Oは東北の人だから、口のかたに私などと違ったどんでゆったりした調子があった。そうしてその調子がいかにもよく彼の性質を代表しているように思われた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
命をしても此帷幕の隙見すきみをす可く努力せずに居られぬ人をわらうは吾儕われらどん高慢こうまんであろうが、同じ生類しょうるいの進むにも、鳥の道、魚の道、むしの道、またけものの道もあることを忘れてはならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まゝたるのおぬひが此瀬このせちてくは道理だうりなり、ものへばにらまれ、わらへばおこられ、かせればざかしとひ、ひかえにあればどんかられる、二新芽しんめ雪霜ゆきしものふりかゝりて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「他あやん、えらいどんなこっちゃけど、こらわいには読めんわ」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ずいぶんお前もどんですね。エエ、なんてえ血のめぐりが悪いんだろう。あれほど、私が嫌だという気ぶりをみせていたものを
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またあまり物に驚かない、いたってどんな男です。けれども出立ぜんあなたからいろいろ依頼を受けたため、兄さんに対してだけは、妙に鋭敏になりたがっていました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
短気の石山さんが、どんな久さんを慳貪けんどんに叱りつける。「車の心棒しんぼうかねだが、鉄だァて使つかるからナ、おらァ段々かせげなくなるのも無理はねえや」と、小男こおとこながら小気味よく稼ぐたつ爺さんがこぼす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
物見役には、動作も鈍くて、すべてがのろい男だったが、元康は、そば物見として、大勢のはやぶさの中には、きっと一羽、このどんからすぜて使った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美的にも倫理的にも、智的にも鋭敏過ぎて、つまり自分を苦しめに生れて来たような結果におちいっています。兄さんには甲でも乙でも構わないというどんなところがありません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かんのわるい子だったよ、物覚えものろかった。夜道にころんで、崖のソギ竹で片目をわるくしたようなどんな子だった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「好いだろう」と答えた僕の声はいかにもどんに聞こえた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや笑えません。どうしてそれがしは、こう人の心を見るにどんなのでしょう。むしろ己れの不敏に哀れを催します」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくらどんな武松にでも、その三名の殺気満々な眼つきには、すぐこう気づかずにいられないものがある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねえさんだって、お忙しいでしょ。兄はあの通りな真正直者ましょうじきもの。清河県にいた頃から、どんで才覚なしでただ稼ぐ一方と、世間さまからもとかく小馬鹿にされ勝ちな兄でしたからね。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、北条遺産の没収地には、限りがあり、恩賞不足、あるいは、恩賞未受の人数には際限さいげんがない。——どんな武士大衆も、ここへきてみな考えた。どう考え出したかといえば。
周瑜しゅうゆ、孔明のどん、いまこの所へ来てさとった。彼、偶然にも、赤壁の一戦に、我をやぶって、勢い大いにふるうといえども、要するに弓下手ゆみべたにもまぐれあたりのあるのと同じだ。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堂上における“尊氏なし”などという排他的空気にも、彼はどんのようでいて鈍感ではない。とくに六月六日の宵からは、すでに非常をさとって、六波羅一帯は急武装にかかっていた。
「それや大した内助だ。いくらどんな足利殿でも、内には誰か一人ぐらい経理の才物がいるに相違ないと見ていたが、それが武蔵守師直だったか。師直と申す狒々ひひだったのか。あはははは」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんに生れついた性分なら仕方がないようなものの、阿呆あほうもいい加減にしろ、いい加減に。——馬鹿には馬鹿なりの辛抱づよいところがあるものだが、貴様ときたひには、その辛抱もない。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひんすればどんするということわざどおりに成り落ちる人間もあるし、また反対に、逆境に立つや、なお持ち前の生命力の充溢じゅういつを示して、逆境いよいよその人の深い所の素質をゆかしくたたえて見せ
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世に生きとし生ける雑多な人間——どん、お天気、軽薄、付焼刃つけやきば、いかなる凡才にせよ、何かの役に立たないという者はなく、何か一面の特性をもたないという者はないけれど
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お杉ばばは、年よりのどんを、若い者たちから見くびられたように取って
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(使者というものは、どんにも卑屈にもなれる者でのうては出来ぬ)
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あいかわらず思考力のどんな“ぶらり駒殿”とでも見ているらしい。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんさんには適任というものだ」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)