ぎゃく)” の例文
ぎゃくに受くる膝頭ひざがしらのこのたびは、立て直して、長きうねりのかかとにつく頃、ひらたき足が、すべての葛藤かっとうを、二枚のあしのうらに安々と始末する。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで、お医者は病人をつかまえて、上下かみしもぎゃくに置きかえて、死神が病人のあたまのほうに立つことになるようにしました。
今日の小春日和、山科の光仙林から、ぎゃく三位一体さんみいったいが宇治醍醐だいごの方に向って、わたましがありました。逆三位一体とは何ぞ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
松男君まつおくん比良夫君ひらおくんんだ。そして足掛あしかけでたおそうとしたが、比良夫君ひらおくん相撲すもう選手せんしゅだから、ぎゃくこしをひねって松男君まつおくんしてしまった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「あのオナガガモを見ろよ!」と、きりの中からさけぶ声が聞こえます。「北海ほっかいのほうへぎゃくもどりしているじゃないか!」
ぎゃくの方向にまげたり、しっぽの方から頭へもって行ったり、どうしてもだめでしたが、三日ほどしたら、どうやらそれらしい字ができはじめました。
「の」の字の世界 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
まず、自分は右か左かに、どのくらいまがるくせがあるか、それをたしかめて、それから目かくしをした時は、それだけぎゃくにまがる気持きもちあるく……。
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あるときは、ほとんどあやうかったところをのがれられてぎゃく敵軍てきぐんおとしいれられたこと、あるときは、おも病気びょうきにかかられたのを、神術しんじゅつ使つか巫女みこあらわれて
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
するとわたしはこちらからぎゃく反問はんもんして、わずかにこれに答えることができた。あの人たちにとってわたしが子でないならば、なぜぼくを捜索そうさくしたか。
そういう人びとは、情勢がさらにかわれば、または逆転すれば、反対はしなくなるだろうし、ぎゃくに主戦論者になったり軍備賛成者になるだろうと思われます。
清水幾太郎さんへの手紙 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
ややあつて、大跨おおまたの足あとは、ぎゃく退しさつたが、すツくと立向たちむかつた様子があつて、切つて放したやうに
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
拳闘けんとう柔道じゅうどうでは、そのやり方がまるでちがう。拳闘はなぐるいっぽうである。柔道は投げる、おさえこむ、める、ぎゃくをとるというわざだ。どうして試合をしたらいいか。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
ベンヺ 馬鹿ばかな! そこがそれ、おさへられ、げんぜられるためしぢゃ。ぎゃく囘轉まはるとうたのがなほり、ぬるほど哀愁かなしみべつ哀愁かなしみがあるとわすれらるゝ。
「ほう、そうですか。では、あと十五分で、もとの原へもどしてあげます。だから心配いりません。さあ、それでは極微の世界にお別れして、ぎゃくの方向へとびますよ」
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
佐久間勢さくまぜいも、一どは秀吉方ひでよしがた中川清兵衛なかがわせいべえを破ったそうですが、丹羽長秀にわながひでが不意の加勢についたため、勝軍かちいくさぎゃくになって、北国勢ほっこくぜいは何千という死骸しがいを山や谷へすてたまま
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ばれ、だいひいきものでした。それは背中せなかをぐいとたかくしたり、のどをごろごろらしたりぎゃくでられるとからことまで出来できました。牝鶏めんどりはというと、あしがばかにみじかいので
それがまただんだんよこれて、前のレンズの形をぎゃくにくりかえし、とうとうすっとはなれて、サファイアはこうへめぐり、黄いろのはこっちへすすみ、またちょうどさっきのようなふうになりました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「この際、山城のぶんぎゃくに出たほうがよいように思う」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と正三君も今はよんどころなく、鉄砲をぎゃくにした。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
好かぬ昔に飛び込んで、ありがたくほどけ掛けた記憶のよりぎゃくに戻すは、詩人の同情である。小夜子は急に小野さんと近づいた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気のどくな親方はこんなふうにして、いかめしい権力けんりょく命令めいれいぎゃく喜劇きげきたね利用りようしようとしていたのである。
小川土佐守おがわとさのかみなど配置よろしくしいておいて、左近将監一益さこんしょうげんかずますばいをふくんで寄せてきたところを、ぎゃくに、ワ——ッとときの声をあげさせて、敵が森へ逃げんとすれば森の中から
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おじいさんは、食卓おぜんにすわっても、さじをしっかりもっていられないで、スープを食卓布テーブルかけの上にこぼしますし、いちど口に入れたものも、ぎゃくもどりして流れでるようなありさまでした。
さむいかぜいてふゆぎゃくもどりしたようなでありました。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
照彦てるひこ様は空気銃をぎゃくに持って
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
時間軸じかんじくぎゃくもどり
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「源さん、世の中にゃ随分馬鹿な奴がいるもんだねえ」と余のあごをつまんで髪剃かみそりぎゃくに持ちながらちょっと火鉢の方を見る。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぎゃく、曹賊を殺して、順、漢室の復古をたすけよ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見苦しいたたじわが幾筋もお延の眼にった。アイロンの注意でもしてやるべきところを、彼女はまたぎゃくった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、最後に彼と彼の家庭の調子が程好く取れているからでもあり、彼と社会の関係がぎゃくなようで実はじゅんに行くからでもある。——話がつい横道へれた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これが加茂かももりだ」と主人が云う。「加茂の森がわれわれの庭だ」と居士こじが云う。大樹たいじゅぐって、ぎゃくに戻ると玄関にが見える。なるほど家があるなと気がついた。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
心持くびを前の方に出して、胡坐のひざへ片手をぎゃくに突いて、左の肩を少しそびやかして、右の指で煙管を握って、薄いくちびるの間から奇麗きれいな歯を時々あらわして、——こんな事を云った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ややしばらく眺めていると今度は掌がむずゆくなる。一刻の安きをむさぼったあとは、安きおもいを、なお安くするために、裏返して得心したくなる。小野さんは思い切って、封筒を机の上にぎゃくに置いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただふかすだけなら勘弁のしようもあるが、しまいには煙を輪に吹いて見たり、たてに吹いたり、横に吹いたり、乃至ないし邯鄲かんたんゆめまくらぎゃくに吹いたり、または鼻から獅子の洞入ほらいり、洞返ほらがえりに吹いたり。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はつい今まで自分の過去をろくでなしのようになしていたのに、酔ったら急に模様が変って、後光ごこうぎゃくに射すとでも評すべき態度で、気燄きえんき始めた。そうしてそれが大抵は失敗の気燄であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それよりぎゃくに行った方が便利じゃないか」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長い羅宇らおを、ぎゃくに、親指のまたに挟んで
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)