逆手さかて)” の例文
逆手さかてにとって万吉がパッと立った。お綱が蝶のように飛び離れると一緒に、三次、隼人はやとためなども、腰を立てて凶猛な気配りになる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆手さかてもちまゝうしなひてたふたりしかば是は何事なにごとならんと氣付きつけあたへて樣子やうすきく敵討かたきうちなりと申ゆゑ半左衞門はんざゑもんおほいに驚き早々さう/\町役人ちやうやくにん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「後ろへ廻って、右逆手さかてで切ると、あんな具合になるが、後ろから斬られながら、お政の手はどう伸びて下手人の髪を掴むんだ」
この点にいたると婦人はあなどるべからざる強いところがある。日ごろは一つのやさしき飾りに過ぎぬ「かんざし逆手さかててば恐ろしい」。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「いいか。おぬしも考えてみろ……右の肩口から左の乳下へ、といえば、どうじゃな、その刀を握るものは逆手さかてでなくてはかなうまい?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼はそれを逆手さかてに持って起ちあがろうとする時、半七のつかんでいる南京玉は、青も緑も白も一度にみだれて彼の真向まっこうへさっと飛んで来た。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十文字を逆手さかてに持って、上から突き伏せる形をしてみるのかと思えば、躍り上って空飛ぶ鳥を打って落すように変化しました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よくも揃った非道な奴らだと、かッと逆上のぼせて気も顛倒てんどう、一生懸命になって幸兵衛が逆手さかてに持った刄物のつかに手をかけて、引奪ひったくろうとするを
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その手に平打ひらうちの釵が光るのを登は見た。逆手さかてに持ったその釵は銀であろうか、先のするどくとがった二本の足は、暗がりの中で鈍く光ってみえた。
老人の小吏は、磨ぎすました出刃を逆手さかてに持つと、獣の肉をでもくように、死体の胸をずぶずぶと切り開いていった。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
反動がずいぶん非道ひどくてビックリしたけども、逆手さかてに持った引金の引き方をウルフから教わっていたので、指を折るようなヘマな事はしなかった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はては丘のごとく、葉をかさねた芭蕉の上に、全身緑の露を浴び、白刃に青きしずくを流して、逆手さかていてほっと息する。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
露月はアッと叫びざま、虚空をつかんでうめいたが、呉羽之介は猿臂えんぴを伸して藻掻もがく相手を組伏せたまま、小刀逆手さかてにズバズバと細首をき切って了いました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
もう弾丸たまをこめ直すひまもありませんから、いきなり銃を逆手さかてに持ち直し、とびかゝつて来ようとする大熊の頭を力まかせになぐりつけましたが、岩のやうなその頭は
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
新公は障子を後ろにしたなり、ぢつとお富をにらみつけた。何時か髪も壊れたお富は、べつたり板の間に坐りながら、帯の間に挾んで来たらしい剃刀かみそり逆手さかてに握つてゐた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
箕浦は衣服をくつろげ、短刀を逆手さかてに取って、左の脇腹へ深く突き立て、三寸切り下げ、右へ引き廻して、又三寸切り上げた。刃が深く入ったので、創口きずぐちは広く開いた。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
貫一は息も絶々ながらしかと鞄を掻抱かきいだき、右の逆手さかてに小刀を隠し持ちて、この上にも狼藉ろうぜきに及ばばんやう有りと、油断を計りてわざと為す無きていよそほひ、直呻ひたうめきにぞ呻きゐたる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
総督は逆手さかてをとって、彼がいつぞや土木局の連中を相手にもちあげたさる醜聞しゅうぶんを、わざわざ言い出したので、彼は弁明これ努めて、何分なにぶんにもあのころはまだ未経験だったので——と
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
八重事代主の神をし來て、問ひたまふ時に、その父の大神に語りて、「かしこし。この國は天つ神の御子にたてまつりたまへ」といひて、その船を蹈み傾けて、天の逆手さかて青柴垣あをふしがきにうち成して
流石けがすに忍びでや、墨染の衣は傍らの松枝まつがえに打ち懸けて、身に纏へるは練布の白衣、脚下に綿津見わたつみの淵を置きて、刀持つ手に毛程の筋の亂れも見せず、血汐ののりまみれたる朱溝しゆみぞの鞘卷逆手さかてに握りて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
リーロフは、空の酒壜を逆手さかてにとって、電話器になげつけた。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
銃床逆手さかてもろに
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
肉親の愛情、その対手あいてが何者であるかも目には止めないで、帯のあいくちに手をやるが早いか、キラリと抜いたのを袖裏へ逆手さかてに隠して
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆手さかてに取直し胸のあたりへ押當てつかとほれと刺貫さしつらぬき止めの一刀引拔ば爰に命は消果きえはてに世に不運の者も有者哉夫十兵衞は兄長庵の爲に命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お角は自衛の剃刀を逆手さかてに持って、一方には寄せ来る折助の強襲に備えて味方を励まし、一方には繋がれたムクの方を見てれに焦れたが
危険がようやく迫ると知って、重太郎の眼はにわかけわしくなった。彼は例の野性を再び発揮したのであろう、洋刃ないふ逆手さかてに持って庭の真中まんなかに進み出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
といううちに私は、短剣を逆手さかてに振りかざしながら、寝台ベッドの上に仰臥している未亡人の方へ、よろめきかかって行った。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
振り返ると梯子段の上には、雌猫めねこのようなお辰が、これも匕首あいくち逆手さかてに不気味な薄笑いを浮べて立っております。
ト大様にながめて、出刃を逆手さかてに、面倒臭い、一度に間に合わしょう、と狙って、ずるりと後脚をもたげる、藻掻もがいた形の、水掻みずかきの中に、くうつかんだ爪がある。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兄が相手にしないので、その村人は一体どんな容子ようすかと家の中をのぞいて見た。すると、盗人は光遠の妹を背後から両足でいて、その胸に逆手さかてに持った短刀をさしあてている。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして犬の血のついたままの脇差を逆手さかてに持って、「お鷹匠衆たかじょうしゅうはどうなさりましたな、お犬牽いぬひきは只今ただいま参りますぞ」と高声たかごえに言って、一声こころよげに笑って、腹を十文字に切った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此のまゝけ置かばのちの恐れと、伴藏は差したる刀抜くより早く飛びかゝって、出し抜けに力に任して志丈に斬り付けますれば、アッと倒れる所をし掛り、一刀逆手さかてに持直し
甲斐は会釈して答えた、「涌谷さまの云われたとおり、事は極めて重大であって、どう動いても幕府に逆手さかてを取られかねません、ただ隠密に陰謀を抑え、抑えて抑えぬく以外に手段はなかったのです」
逆手さかてに持っていた重蔵の大刀が、キラリと光を動かしたかと思うと、新九郎の顔から胸板へかけて、サッと鮮麗な血潮が流れた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
振り返ると梯子段の上には、雌猫めねこの樣なお辰が、これも匕首あひくち逆手さかてに不氣味な薄笑ひを浮べて立つて居ります。
よせおほせの通り逆手さかてなれども夫はかれ手勝手にて押たるも知れず左角とかく白状が證據にて爪印はまことおきてまでなれば其邊の尋は致し申さずと答ふるにぞ外記はかうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのうち一本ひともと根からって、逆手さかてに取ったが、くなくなしたやつ胴中どうなかを巻いて水分かれをさしてれ。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
の近くには黒いさび痕跡あとさえ見えていたが、彼女はそれを右手の指の中に、逆手さかてにシッカリと握り込むと、背後うしろの青白い光線にかざしながら二三度空中に振りまわして
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
目前の獲物に気を奪われていた𤢖共は、暗い中から突然おどり出たお葉の姿に驚くひまもなく、彼女かれ逆手さかてに持ったる簪の尖端とがりは、冬子に最も近き一人いちにんの左の眼に突き立った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、その叱責が無理であることは、叱責している兄自身がよく分かっていた。兄は、切腹する切腹すると叫びながら、幾度も短剣を逆手さかてに持った。そのたびに温厚な弟が制した。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と考えて居りますと、片方かたっぽでは片手でさぐり、此処こゝあたり喉笛のどぶえと思う処を探り当てゝ、懐から取出したぎらつく刄物を、逆手さかてに取って、ウヽーンと上から力に任せて頸窩骨ぼんのくぼ突込つッこんだ。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
武蔵がその雪風よりも鋭い声で斬るようにいうと、逆手さかてに棒を握って、喰い付くような眼をすえていた権之助の髪の毛が、針ねずみのように、っと立った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其處を不意に背後うしろから、匕首あひくち逆手さかてに喉を掻き切り——その上八千兩の小判を持つて逃げた——
……饂飩屋うどんやかどに博多節を弾いたのは、転進てんじんをやや縦に、三味線さみせんの手を緩めると、撥を逆手さかてに、その柄ではじくようにして、ほんのりと、薄赤い、其屋そこの板障子をすらりと開けた。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何だか白く光る刃物のようなものを……コンナ風に……逆手さかてに持っているようで……そいつが真正面を見詰めたままり身になって、解けかかった帯をダラリと背後に引ずりながら
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
暗い中でも眼の鋭い彼は、洋刃ないふ逆手さかて振翳ふりかざして直驀地まっしぐらに市郎の寝床へおどかかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
刀を逆手さかてに持直し、肩胛かいがらぼねの所からうんと力に任して突きながらこじり廻したから、たった一突きでぶる/\と身を慄わして、其の儘息は絶えましたが、ふもとから人は来はせぬかと見ましたが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは希臘風ギリシヤふうの短剣の形だった。復讐ふくしゅうの女神ネメシスが、逆手さかてつかんでいるような、短剣の形だった。信一郎は、その特異な、不思議な象眼に、はげしい好奇心を、そそられずにはいられなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
よもや、自分のうしろから、そんな男が見えたために、対手あいてが二の足をふんだとは知らない。ただ一念に、匕首あいくち逆手さかてにかまえ、最後の心支度をして待った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
萬兵衞は通人らしくたしなみの良い男で、外出でも思ひ立つて、髯をあたりに入つたところを、後ろから忍び寄つた曲者に、逆手さかてに持つた剃刀で右の頸筋をやられたのでせう。