ころが)” の例文
旧字:
口の中にかう言つて、かれは僧衣ころもの上に袈裟けさをかけて、何年ともなく押入の中に空しくころがつてゐた鉄鉢てつばつを手にして、そして出かけた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
と番頭の頭をつ、番頭もおこり出し、無茶苦茶に胸倉を取って表へ二人を突出し、ポンと掛金かきがねをかけてしまう。叔母は地べたへころが
それから、私はガクガクする足を踏みしめながら、そこによこたわった兄の死体を側の古井戸までころがして行き、その底へと押しおとしました。
窟の中央の窪んだ処に諧譃おどけた人物が寄つて、尖柱戯(向うに立てゝあるとがつた木の柱を、こちらから木の丸をころがし掛けて倒す戯)
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
首は、鈍い音をたてて、彼の足許あしもところがった。次いで、首のない彼の身体は、たわらを投げつけたように、どうとその場に地響をうって倒れた。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちょうどその時、アアミンガアドは寝台ベットからころがり落ちそうになりました。向うから壁をコツ、コツと叩く音を聞いたからでした。
バサリと音して、一握ひとにぎりの綿が舞うように、むくむくとうずまくばかり、枕許の棚をほとんどころがって飛ぶのは、大きな、色の白いひとりむしで。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして五六間来ると其処等の山から切出す花崗石みかげいしの石材が路傍に五つ六つころがしてあつた。四人はそれぞれ其上に腰掛けた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
みよちゃんはいつも種々な玩具おもちゃを持っていてそれを皆に貸すのであった。其日誰かが投げた毬は、ころころところがって池田さんの板塀の中にはいった。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
煙草盆はひっくりかえす、茶碗がころがる、銚子は割れる、興奮のあまり刀を振りまわすこともあり、伊助の神経にはえられぬことばかしであった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
怪我人はそう云って、もうこれ以上しゃべれないと云う風に、クッションへぐったりところがって、口を開け、眼を細くした。
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
寺田先生は、小浅間にのぼられる道々にころがっている岩石の石片を眺められながら、これだけのことを考えられた。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あまあがりの桟道そばみちにかけてある橋の板を踏すべらして、がけころがちて怪我けがをしてから、病院へかつぎこまれて、間もなく死んでしまったと云うのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小使こづかいのニキタはあいかわらず、雑具がらくたつかうえころがっていたのであるが、院長いんちょうはいってたのに吃驚びっくりして跳起はねおきた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
銀色の玉がころがり出るのを上手に扱うのです。あやまったら大変です。そこら一面に銀色の小粒が拡がるのですから。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
こういう話ならいくつもころがっていた。長兄もあの時、家屋の下敷から身をい出して立上ると、道路を隔てて向うの家の婆さんが下敷になっている顔を認めた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
西、両国りょうごく、東、小柳こやなぎと呼ぶ呼出しやっこから行司ぎょうじまでを皆一人で勤め、それから西東の相撲の手を代り代りに使い分け、はて真裸体まっぱだかのままでズドンとどろの上にころがる。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たもとの中から記事文の下書きして置いた大半紙を抓み出し、ずんずんと裂きて紙縷こよりをよるに、意地わるの嵐またもや落し来て、立かけし傘のころころところがいづるを
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我国にも有形無形うけいむけい怪物ばけもの彼方あっちにも此方こっちにもゴロリゴロリころがって世の中はまるで百鬼夜行ひゃっきやこうの姿である。
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
ゴットン、ゴットンという御輿のころがされる音は、遅くまで谷底の方で、地響のように聞えていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
するとその拍子に、留吉の帽子が留吉の頭から飛去って、ころころところがってゆきました。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
ガーエフは、緑色羅紗の上でおとなしく小さな白い球をころがして一生を終った。今ロシア人は、ひろいグラウンドへ一つの大きい球をかっ飛ばし、それを追っかけ体ごところがり廻る。
シナーニ書店のベンチ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
如何いかにも力なく風に吹かれて、鉋屑かんなくずなどのようにころがってる侘しい落葉を表象させる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それからあらゆる智慧と経験に照らして土間にころがつてゐた地金の屑をかき集め、き、打ち、又焼き又叩き、虹蓋の秘伝を自ら編み出さうと夜の目も寝ずに苦心に苦心を重ねたが、どう工夫し
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
殊に西洋戸前とまえある押入の中に堅く閉籠りし事なれば其戸を開く迄物音充分聞えずして目を覚さずに居たる者なりそれ扨置さておき妾は施寧が躍出るを見てころがる如くに二階を降しが、金起は流石に男だけ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いつも紅茶のかすが溜っているピクニック用の湯沸器。ちつと離ればなれにころがっている本の類。紙切れ。そしてそんなものを押しわけて敷かれている蒲団。喬はそんななかで青鷺あおさぎのように昼は寝ていた。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
併し挙止閑雅といふ語は、まだ日本語の洗礼を受けてゐないから、これはいけない。磊落といふ語も、さつぱりしたと云ふ意味ならば、日本語だが、石がころがつてゐると云ふ意味ならば日本語ではない。
言文一致 (新字旧仮名) / 水野葉舟(著)
受信機のあった丁度真下と思われるところに、さきほど彼が点検したと同じ形の目盛盤が一個、腹をむけてころがっていたのでした。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おッ魂消たまげた司法主任が、夢中で廊下へ飛び出ると、二つの争う人影が、三号室の前で四ツに組んでころがっている。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
桟橋さんばしすなわち魚市場の荷上所で、魚形水雷みたいなかつおだとか、はらわたの飛び出した、腐りかかったさめだとかが、ゴロゴロところがり、磯のと腐肉のにおいがムッと鼻をついた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いらつて、あたかころがつて来て、したまぶちの、まつげをおかさうとするのを、うつつにもめつける気で、きっひとみゑると、いかに、普通見馴みなれた者とは大いに異り、ひとツはくろがねよりも固さうな
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし仏壇ですから中から打付かるものは花立が倒れるとか、香炉がころがるぐれえの事ですから、気遣きづけえはございません、嘘だと思召すなら丁度今途中で買って来た才槌せいづちを持ってますから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
錦を故郷に飾つたためしはいくらも眼の前にころがつて居るから、志を故郷に得ぬものや、貧窶ひんるきやう沈淪ちんりんしてうにもうにもならぬ者や、自暴自棄に陥つた者や、乃至ないしは青雲の志の烈しいものなどは
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
仲々うまたくんだと思いましたが老人を殺せば倉子の亭主は疑いを受けて亡き者に成り其上老人の財産は倉子にころがこんで倉子は私しの妻に成ると云う趣向ですから石一個ひとつで鳥二羽を殺す様な者でした
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
金というものは、或人にとってはいくらでも無駄にごろごろころがっているものだ。或人にとってはそれは貴い労力の結晶なんだ。また或人にとっては如何なる額の汗を以てしても得られない宝なんだ。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼女は子供と溶け合ってぼんやりころがっている。——
未開な風景 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そのとき、強い風のため、みどりのたもとから脱脂綿が吹き飛ばされると、コロコロところがって星尾の前に行ったのであろう。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
竹の皮散り、貧乏徳利のころがった中に、小一按摩は、夫人にかじりついていたのである。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汚い下宿の四畳半にころがって、味気ない其日そのひ其日を送って行かねばならないのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と云いながら死物狂に成ってのぼる処を、水棹で払われ、また続いて斬り掛けました事ゆえ、勇助も年が年なり、数ヶ所すかしょの手傷に身体しんたい自由ならず、其の儘船の中へころがり込み、身を震わし
すると、三つ積んであるトランクの一番上のものが、ころころと下にころがりおちた。すると、二つ重ねてあったトランクから、ぬっと人間の首が出た。
そのこずえ、この額と相対して、たとえば雪と花の縁を、右へ取り、舞台の正面、その明星と、大碧玉の照る処、京人形と木菟が、玩弄品おもちゃころがったようになって拝んだあとで、床の霞に褄を軽く
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云いさまうしろへ飛び退さがりながら細身の刀を引抜き、刀脊打みねうちに原文の肩をドンと打ちましたが、腕が冴えておりますから余程こたえたと見えまして、アッと云ってころがりながら横道へバラ/″\と逃げる。
大江山警部は、若い婦人の屍体したいころがっているという二輌目の車輌の前へ、かけつけた。窓がパタリと開いて、多田刑事の泣いているような顔が出た。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
南北みなみきた何方どちら医王山道いおうざんみちとでもりつけてあればまだしもだけれど、ただ河原にころがっている、ごろた石の大きいような、その背後うしろから草の下に細い道があるんだもの、ちょいと間違えようものなら
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けわしい坂でありますから踏み外してこれもころがり落ちました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして函の中には、小さい薬びんが一つころがっていて、せんの間から、酒がにじんで、ぷーんといいかおりを放っていた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
キャッと云って飛上とびあがった友だちと一所いっしょに、すぐ納戸の、父の寝ている所へ二人でころがり込みました。これが第一時の出現で、小児こどもで邪気のない時の事ですから、これは時々、人に話した事がありますが。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
由「荷てえば大層ころがってますね」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
驚いたのは、そればかりではありません。細田氏のかばねの側には四角なテーブルが、対角線のところから三角形をなして真二つに割れてころがっているのでした。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)