まい)” の例文
ところへ虎に食われた弟子天より降りわざわいを脱れんとならば仏にまいれと教え一同を仏教に化した、話が長いから詳しくここに述べ得ぬ。
車が迎えに来て、夫妻はいとまを告げた。鼈四郎はこれからどちらへとくと、夫妻は壬生寺みぶでらへおまいりして、壬生狂言の見物にと答えた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
七「まことに宜くお出でなすった、帝釈様たいしゃくさまへおまいりに行こうと思って、帰りがけにお寄り申そうとおうめとも話をして居たが……お梅」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
遠方の神々へおまいりに行った者が、居村きょそんに還って来てから執り行う儀式に、ドウブルイという名が今でも関西には広く分布している。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
仏前にまいるにも、弟子と話すにも、南縁みなみえんから、三十六峰の雲をながめているにも、その膝には、母乳ちちを恋う良人おっとの分身をのせていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久しいあとで、その頃薬研堀やげんぼりにいた友だちと二人で、木場きばから八幡様はちまんさままいって、汐入町しおいりちょう土手どてへ出て、永代えいたいへ引っ返したことがある。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大社たいしゃにおまいりするとみやげ物としてどの店にも山ほど並べている。だが出雲の焼物の中でこの「出雲焼」ほど醜悪な貧弱なものはない。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「このごろはどうしていらっしゃるか、多賀の宮の秋祭りにはきれいにおつくりをして、お姉さん達とおまいりにゆくのを見ました」
蜆谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
観音様におまいりにくる人たちの中にまじって、目つきの鋭い、へんな男が、こっそりようすをうかがってるようでもありました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しめやかにお墓まいりをして親兄弟の家へも寄らずに帰って来るようにしていたが、幸子もうすうすそのことは知っていないでもなかった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくしが峯のお寺へまいるのは、ひと年に二度ばかりでございます。春早く雪が消えるころと、秋の終りころとでございます。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
こんなとこに、葬うものもなく一人ぽっちでいらっしゃるやや様がおいとしくて、わたしはコッソリおまいりに来たのです。……
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宿外しゅくはずれの鶴屋という旅籠屋はたごや暖簾のれんをくぐると、平次はいきなり番頭を呼出して、五日前の晩の、浜町の江の島まいりの連中のことを訊ねました。
「怪しいことね。物怪もののけか何かがいたのだろうか。あるいはと思うこともあるけれど、石山まいりの時はけがれで延びたのだし」
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「もし行くなら、一度坊やにおまいりをさせたいから成田さんへ連れて行って下さい。お鳥目あしがかからないでよござんすよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お二人がお父様のお墓まいりをしていられた時に、また諍いが起ってその時かっとして、妹さんがお姉さんをお撃ちになったんだろうって……。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
神馬は白馬で、堂に向って左の角にうまやがあった。氏子のものは何か願い事があると、信者はその神馬をき出し、境内の諸堂をおまいりさせ、豆を
天満天神に朝まいりした五花街の女たちが、ふたたびねむるころ、北浜界隈かいわいは車だまりから人力車が一掃されて、取引市場をとりまいた各商店では
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
日和ひよりおりなどにはわたくしはよく二三の腰元こしもとどもにかしずかれて、長谷はせ大仏だいぶつしま弁天べんてんなどにおまいりしたものでございます。
「そうだ。近く片瀬の龍口寺へまいると申しておった。きのうは久しぶりに会うて、お前のことをいろいろ話してまいった」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二十五日の夜から十四日間その事をやるので、毎夜十二時から朝までお経を読みます。それは誰もがまいらなければならん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それに真如院をはじめその辺一帯に集まってる寛永寺の末寺はほとんど墓地をもっていないためおまいりや葬式がなくすっきりと閑寂を極めていた。
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)
まいりをすますと、あとこころをひかれながら、九だんさかりました。そして、まち停留場ていりゅうじょうへきて電車でんしゃをまっていました。
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
実家に帰っているという柳吉の妻が、肺で死んだといううわさを聴くと、蝶子はこっそり法善寺の「縁結えんむすび」にまいって蝋燭ろうそくなど思い切った寄進をした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「もうやめだやめだ、こんなこといってると、かもに笑われる。おとよさん省さん、さあさあ蛇王様へまいってきましょう」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その裡に、彼女の心にも、少女らしい計画プランが考えられていた。そうだ! の次の日曜にも、お墓まいりをして見よう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
手荷物を水畔すいはんの宿に預けて、石山の石に靴や下駄の音をさせつゝ、余等は石をひろい、紅葉を拾いつゝ、石山寺にまいった。うどくらい内陣の宝物も見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
桜井の家は蓮正寺れんしょうじの近所で、おまいりの鰐口わにぐちの音が終日しゅうじつ聞こえる。清三は熊谷に行くと、きっとこの二人を訪問した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かように申されました時、弁信は、一議に及ばず、これこそ望むところとあって、直ちに翌日の明星をいただいて坊を出で、音なしの滝にまいりました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
明日あす朝早くにおしよ、おまいりを済ましてすぐまわって見ようよ。あんまりおそくなると叔父さんに悪いから。』
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
リボンはやはりクリイム色で容赦なくみひらいた大きい目は、純一が宮島へまいったとき見た鹿の目を思い出させた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「さあ、帰ろうか」と言って、栄一はすそほこりを払って、同じ道を下った。墓地近くなって、のろのろ下りてくる弟を待合せて、妹の墓と祖母の墓とへまいった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
それがすむと氏神速玉神社に初もうでする。ほかにもちらほらおまいりの人を見かけた。日露戦争(わが十四才)の時には特にお詣りが多かったのをおぼえている。
新宮 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
日常のこととてはただ午前には墓より寺にまいり、午後よりは訪いくる佐太郎に慰められ、夜はく寝るばかりなりき、佐太郎もまたこの家に以前よりは繁く通いぬ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
「そこで君に頼みがあるんだがね、幸伯父は養老院行きの前に、多磨のおん墓にまいりたいと言うんだ」
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
女は化銀杏の下から斜めに振り返って余がまいる墓のありかを確かめて行きたいと云う風に見えたが、生憎あいにく余の方でも女に不審があるので石段の上からながめ返したから
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「肥後の本妙寺は朝から晩迄トヽカチ法蓮経ほれんぎょトヽカチ法蓮経、みなひとまいるばい。そら、キンキラキン」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は、この「服装」でスカラ・サンタへおまいりしたわけではありませんが、私の尾行者は、どこかで私を見初みそめて、それから、この尾行を始めたものに相違ありません。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
彼は、正木のお祖母さんといっしょに、よくお墓まいりをした。お墓の前にしゃがむと、彼は拝むというよりは、じっと眼をすえて地の底を見とおそうとするかのようであった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼はある日散歩のついでにふと柳島やなぎしま萩寺はぎでらへ寄った所が、そこへ丁度彼の屋敷へ出入りする骨董屋こっとうやが藤井の父子おやこと一しょにまいり合せたので、つれ立って境内けいだいを歩いている中に
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そういう折にはいつも観音かんのん様とその裏の六地蔵様とにおまいりするだけで、帰りには大抵並木町なみきちょうにある母方のおばさん(其処そこのおじさんはきん朝さんというはなだった。……)
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「今日、保叔塔へおまいりしたいと思います、一日だけお暇をいただきとうございますが」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
荒神様へまいるもよい。ついでにここを通ったらば、霎時しばらくこの海岸に立って、諸君が祖先の労苦をしのんでもらいたい。しかし電車で帰宅かえりを急ぐ諸君は、暗い海上などを振向いても見まい。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
明智光秀も信長を殺す前には愛宕へまいって、そして「時は今あめが下知る五月さつきかな」
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
してますよって、朝は遅うおすし、昼からは毎日おまいりにゆくか、そでなけや活動が好きでよう活動見に往きますよって、いつも夜の今時分からでないとうちにいいしまへんもんどすさかい
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
でも、今度はとどこおりなく江戸下りが出来まして、お目にかかられ、かように嬉しいことはござりませぬ。それに、ただ今道すがら、八幡さまにおまいりいたしますと、孤軒老師にはからず御対面。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
谷中の一乗寺にその墓があるが、今でも時々思い出しておまいりしている。
ヒウザン会とパンの会 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
京都の諸坊、諸司、諸衛が、おのおの一団となって、田楽を踊りながら、寺へまいり、街衢がいくをうろつくのである。高足一足、腰鼓、振鼓、銅鈸子どびょうし編木びんざさら殖女養女うえめかいめの類、日夜絶ゆることなしとある。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
就中なかんずくきもを冷したというのは、ある夏の夜のこと、夫婦が寝ぞべりながら、二人して茶の間で、みやこ新聞の三面小説を読んでいると、その小説の挿絵が、アッという間に、例の死霊が善光寺ぜんこうじまいる絵と変って
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
「やあ、やあ。今そこで上の伏見屋の隠居につかまって、さんざんしかられて来た。あの金兵衛さんは氏神さまへおまいりに出かけるところさ。どこへもかしこへもお辞儀ばかりだ。庄助さん、いずれあとでゆっくり聞こう。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)