たく)” の例文
「今は、闕下けっかに大乱の起っている非常時だ。朝夕の供御は、兵卒から上げてあるのに、この上、なにを贅沢なごたくをならべるのかっ」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実はあの時返事をツァ・ルンバにたくして出そうと思うて居ると、彼は私の宅へ寄らずに逃げてしまった。それでよう返事を出さなかった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
名を食糧しよくれうの不足にたくして又衆とわかる、明日は天我一行をして文珠岩もんじゆいわを発見せしむるあるをらざるなり、其矇眛もうまいなる心中やあはむにへたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
シューマンには卑俗な甘美さも、低劣な芝居気もない。ピアノにたくして、自分の思想の最も芸術的な表現を完成し尽そうとしているようだ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「あなたに身をたくしたばかりに、私はこのように苦労しなければならない」と、あるいはそう話しかけていたのかも知れない。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
(死に場所を選びつつ)今私の霊をあなたの御手みてたくしまする。(俊寛の死骸を負いたるまま岩の上より海に身を投げる)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それは田圃の近道をば田面たのもの風と蓮の花の薫りとに見残した昨夜ゆうべの夢をたくしつつ曲輪くるわからの帰途かえりを急ぐ人たちであろう。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
園は欠席届書を小母おばさんにたくし、不幸というのは父が頓死とんししたのだということを簡単に告げて、座を立つことになった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
また先生のおしえしたがいて赤十字社病院にいりたる後も、先生来問らいもんありてるところの医官いかんに談じ特に予が事をたくせられたるを以て、一方ひとかたならず便宜べんぎを得たり。
無尽蔵むじんぞうともいうべき詩句に、彼女への讃美さんびの情をたくしては、それを、どこかしら不自然でもあれば真剣しんけんでもある感激かんげきをもって、彼女に朗読して聞かせる。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ことにモール博士からたくされたこの黒い筒などをもっていることなどが発見されれば、さらにいいことはない。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「寄附した以上は早速建て直す責任がある。それを力説したんだが、奴、言を左右にたくして取り合わない」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たまたまちからりないでらされたのは、さういふとき非常ひじやう便利べんりなやうにいてあるので、どんなかげでもたくする場所ばしよもとめてころ/\ところがつてつては
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
○北野の御社のはじめ天慶てんきやう五年六月九日より勅命ちよくめいによりて建創たてはじむ。其起りは西の京七条にすみたる文子あやこといふ女に神たくありしによりてなり。(北野縁起につまびらかなり。)
これもやっぱり山野氏が養源寺の和尚を過信した結果なんですが、死体運搬をした蕗屋君は、やっぱり連類に相違ないので、和尚が勧めるままに、かくまい方をたくしたのです。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
六条の御息所みやすどころ左衛門さえもんの庁舎へ斎宮がおはいりになったので、いっそう厳重になった潔斎的な生活に喪中の人の交渉を遠慮する意味にたくしてその人へだけは消息もしないのである。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
鹿台ろくたいの財を発するには、無道むだうしやうほろぼさんではならぬと考へたのだ。己が意をこゝに決し、げんかれたくし、格之助に丁打ちやううちをさせると称して、準備に取り掛つたのは、去年の秋であつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
静かなる事さだまって、静かなるうちに、わが一脈いちみゃくの命をたくすると知った時、この大乾坤だいけんこんのいずくにかかよう、わが血潮は、粛々しゅくしゅくと動くにもかかわらず、音なくして寂定裏じゃくじょうり形骸けいがい土木視どぼくしして
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅にある日、節子を両親にたくしてから、岸本の心では、どうやら彼女を破滅から救い得たものと考えていた。節子に持上る縁談のことを聞く度に、一層彼は彼女の回復を確かめたように思っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
Mの声は常談じょうだんらしい中にも多少の感慨をたくしていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いたづらにその清き光をこゝにたくしたる影ばかりの身よ
白鳥 (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
城将柴田勝家と夫人のおいちかたが、幼き子らには罪なきものをと、その養育を、秀吉にたくしてきたあのときの可憐かれんな息女三名のことである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イギリスの文明は下層の労働者にまで淋しい旅愁をたくするに適すべき一種の音楽を与へた。明治の文明。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
朱塗りのはこは、騷ぎが一段落濟むまで平次が預り、親の三右衞門がお町に大事をたくした心持をくんで、勘當されたせがれの三之助を石井家へ入れてやらうとしましたが
○北野の御社のはじめ天慶てんきやう五年六月九日より勅命ちよくめいによりて建創たてはじむ。其起りは西の京七条にすみたる文子あやこといふ女に神たくありしによりてなり。(北野縁起につまびらかなり。)
生來せいらいつたことのないかれはおしな一人ひとり手頼てたのみであつた。おしななれてかれまつた孤立こりつした。さうして老後らうご到底たうてい勘次かんじたくさねばならぬことにつてしまつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
文字にたくして世に問うことによって、せめてもの心やりとしていた、その気持を想像しては、一種の共鳴を感じ、それをもって、彼自身もわずかになぐさめられることが出来たのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
折柄居士は「あなたがチベットへ行くならば法王にこの釈迦牟尼如来しゃかむににょらいのお舎利しゃりを上げて貰いたい」と言って舎利をおさめた銀製の塔とその捧呈書とそれから貝多羅葉ばいたらよう経文きょうもん一巻をたくされました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
バラオバラコという怪しい名前のことだ、あの脅迫状にたくしてあった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今、惣領の宗時に、その一つをたくし、召使たちの右往左往している廊を真っ直ぐに通って、わが室のほとりまで来てつと
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも醫者いしやへの謝儀しやぎ彼自身かれじしん懷中ふところはげつそりとつてしまつた。さうして小作米こさくまいつたくるしいふところからそれでもかれ自分じぶんないあひだ手當てあてに五十せんたくしてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼とお冬とのなげきをこめて、いやいや、そればかりではないのだ、この世のありとある、歎きの数々を一管のラッパにたくして、公園のすみから隅まで響けとばかり、吹き鳴らしていたのである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
必ず、短気を出して、世阿弥殿のたくにそむいてはならぬぞ。わしとて、そちが阿波をのがれる姿を見届けるまで、必ずみずから死を招くことはいたさぬ
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵が、細川家に晩生をたくした意中は、ただ老後の安養をむさぼらんがためでなかった。彼の胸の中にはむしろ壮年時代より大きな抱懐があったのである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉は即日、一書を封じて、早馬にたくした。三木城陥落かんらくを、信長の許へ急報したものであることは言をたない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがまた、前に来た新助と同じように、店の者の目をぬすんで、そッと、一本の封書をたくして帰っていく。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関勝かんしょうはそれを読んで感激にふるえた。郝思文かくしぶんに相談すると、これもまた否やはない。——俄に、家族を呼び、家事のあとをたくして、三名はその日のうちに東京とうけいへ急いだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元弘の忠臣菊池武時たけときが、賊将少弐大友しょうにおおともの軍に包囲されて、最期の孤塁から家郷の妻を思い、一子武重たけしげに歌をたくして、母のもとはしらせたというその辞世じせいを——いまの自分に思いあわせて
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、諸将にあとをたくして、ひそかに、また急に、上方かみがたへ馳せ上った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……だが。……だが叔父御には、わしの父下野守光綱しもつけのかみみつつな臨終いまわの折に、幼いわしを、どうぞ頼むぞと、叔父御へおたくしになった——その責任感が、いっぱいにあったのだ。お忘れになれなかったのだ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
質子ひとじちとして毛利家の手へたくしたものと思われまする
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「えい、そのごたくはあの世でかせ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遺孤いこたく
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)