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腥
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なまぐさ
ふりがな文庫
“
腥
(
なまぐさ
)” の例文
灣の南方を、町から當面の出島をかけて、
蝦蛄
(
しやこ
)
の這ふ樣にずらり足杭を見せた棧橋が見ものだ。雨あがりの漁場、唯もう
腥
(
なまぐさ
)
い、腥い。
熊の足跡
(旧字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
その時は熊の胆の色が少し
紅
(
くれない
)
を含んで、咽喉を出る時
腥
(
なまぐさ
)
い
臭
(
かおり
)
がぷんと鼻を
衝
(
つ
)
いたので、余は胸を抑えながら自分で血だ血だと云った。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
鶴嘴とシャベルで、
屍
(
しかばね
)
を切らないように恐る/\彼等は、落ちた岩の下を掘った。
腥
(
なまぐさ
)
い血と潰された肉の臭気が新しく漂って来た。
土鼠と落盤
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
蛇は二つに千切られて、ダラリと延びて下がったが、千切れた口から
滴
(
したた
)
った血が、焚火の上へこぼれたらしく、
腥
(
なまぐさ
)
い匂いがひろがった。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
時々板前をやると見えて、どこか
腥
(
なまぐさ
)
い
臭
(
にお
)
いのするのも胸につかえるようであった。お庄は明け方までおちおち眠ることが出来なかった。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
▼ もっと見る
その酢っぱい
腥
(
なまぐさ
)
いにおいは、バラックの生々しい赤や青の屋根の間を
仄
(
ほの
)
かに漂うて、云うに云われぬイヤラシイ深刻な気分を作っている。
街頭から見た新東京の裏面
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
客殿
(
きやくでん
)
の格子戸をひらけば、
腥
(
なまぐさ
)
き風の
一九五
さと吹きおくりきたるに恐れまどひて、人々
後
(
あと
)
にしりぞく。豊雄只
一九六
声を呑みて嘆きゐる。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
いきれにいきれて、
腥
(
なまぐさ
)
く、
暖
(
ぬる
)
くプンと臭って来る。おはぐろのともつれ合って、何とも言えない。……それで吐き戻したものがあった。——
露萩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
お
追従
(
ついしょう
)
を並べていないが、大塩中斎あたりが、雪は
潔
(
きよ
)
し聖君立旗の野、風は
腥
(
なまぐさ
)
し
豎子
(
じゅし
)
山を走るの路なんぞとお太鼓を叩いているのが心外じゃ
大菩薩峠:33 不破の関の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
腥
(
なまぐさ
)
き油紙を
拈
(
ひね
)
りては人の首を獲んを待つなる狂女! よし今は何等の害を加へずとも、
終
(
つひ
)
にはこの家に
祟
(
たたり
)
を
作
(
な
)
すべき望を
繋
(
か
)
くるにあらずや。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
「出刃庖丁は伝吉のだし、流し元は血だらけだし、
袢纏
(
はんてん
)
はプンと
腥
(
なまぐさ
)
いぜ。魚の血だか、人間の血だか解ったものじゃない」
銭形平次捕物控:095 南蛮仏
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そこら一面には、着物や肌着などが、
暴風雨
(
あらし
)
のあとの花のように飛散し、若い女の血の臭いが、
腥
(
なまぐさ
)
く
漾
(
ただよ
)
っているのだった。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
但初鰹の作者は必ずしも鰹の賞味者ばかりに限らぬ。この一句によって直に孟遠を
腥
(
なまぐさ
)
坊主にする必要もなさそうに思う。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
此故
(
このゆゑ
)
に
腥
(
なまぐさ
)
き
血
(
ち
)
の
臭
(
にほひ
)
失
(
う
)
せて
白粉
(
おしろい
)
の
香
(
かをり
)
鼻
(
はな
)
を
突
(
つ
)
く
太平
(
たいへい
)
の
御代
(
みよ
)
にては
小説家
(
せうせつか
)
即ち
文学者
(
ぶんがくしや
)
の
数
(
かず
)
次第々々
(
しだい/\
)
に
増加
(
ぞうか
)
し、
鯛
(
たひ
)
は
花
(
はな
)
は
見
(
み
)
ぬ
里
(
さと
)
もあれど、
鯡
(
にしん
)
寄
(
よ
)
る
北海
(
ほつかい
)
の
浜辺
(
はまべ
)
為文学者経
(新字旧仮名)
/
内田魯庵
、
三文字屋金平
(著)
解雇される心配も、血だらけな母の顔も、鈍い圧迫と共に消えて了つて、勝誇つた様な
腥
(
なまぐさ
)
い笑が其顔に漲つて居た。
病院の窓
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
何處からと無く
腥
(
なまぐさ
)
いやうな
溝
(
どぶ
)
泥臭
(
どろくさ
)
いやうな一種
嫌
(
いや
)
な臭が通ツて來て
微
(
かすか
)
に鼻を
撲
(
う
)
つ……風早學士は、此の臭を人間の生活が
醗酵
(
はつかう
)
する惡臭だと謂ツてゐた。
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
四人の帰化入籍、遺言書の作成と続いて、算哲の自殺に逢着すると、突如
腥
(
なまぐさ
)
い
狹霧
(
さぎり
)
のような空気が漲りはじめた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
その強引の手の先は、自分の心臓の血を塗ってむん/\
腥
(
なまぐさ
)
いにおいがするようです。わたくしはこの手紙を読んだあと、危く前へひかれて涙ぐみながら
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
日の
暮
(
くれ
)
に平潟の宿に帰った。湯はぬるく、便所はむさく、魚は
鮮
(
あたら
)
しいが料理がまずくて
腥
(
なまぐさ
)
く、水を飲もうとすれば
潟臭
(
かたくさ
)
く、
加之
(
しかも
)
夥
(
おびただ
)
しい
蚊
(
か
)
が
真黒
(
まっくろ
)
にたかる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
良秀は燈台の火の下で
掌
(
てのひら
)
に何やら
腥
(
なまぐさ
)
い肉をのせながら、見慣れない一羽の鳥を養つてゐるのでございます。
地獄変
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
私は、見当もつかない
夜更
(
よふ
)
けの町へ出た。波と風の音がして、町中、
腥
(
なまぐさ
)
い
臭
(
にお
)
いが流れていた。
小満
(
しょうまん
)
の季節らしく、
三味線
(
しゃみせん
)
の音のようなものが遠くから聞えて来る。
風琴と魚の町
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
三二
千晩
(
せんば
)
が
嶽
(
たけ
)
は山中に沼あり。この谷は物すごく
腥
(
なまぐさ
)
き臭のする所にて、この山に入り帰りたる者はまことに少なし。昔何の隼人といふ猟師あり。その子孫今もあり。
遠野物語
(新字旧仮名)
/
柳田国男
(著)
駕「旦那、お前さん何か
腥
(
なまぐさ
)
い物を持っておいでなさりゃアしませんか、
此処
(
こか
)
ア狐が出ますからねえ」
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
そうか。——すると蠅男と僕とは、すでに事件の最初から血
腥
(
なまぐさ
)
い戦端をひらいていたんだ。そういうこととは今の今まで知らなかった。うぬ蠅男め、いまに太い鉄の棒を
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
しかるに後には段々それがひどくなって来て、我が神明穢れを忌み給うという思想に付会して、肉食は血
腥
(
なまぐさ
)
く、神がその穢れを嫌ってこれを近づけないという事になって来た。
賤民概説
(新字新仮名)
/
喜田貞吉
(著)
死んでからはその屍骸を獣が
噉
(
くら
)
い、鳥が
啄
(
ついば
)
み、四肢が分離して流れ出し、
腥
(
なまぐさ
)
い悪臭が三里五里の先まで匂って人の鼻を
衝
(
つ
)
き、皮膚は
赤黒
(
しゃくこく
)
となって犬の屍骸よりも醜くなること
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
わるく
腥
(
なまぐさ
)
い臭気があたりに漲りわたつて臭かつた。小さな活動小屋には色の褪せた
幟
(
のぼり
)
が二三本立つてゐた。少し行くと、また自動車が向うから来た。白い埃が烟のやうに颺つた。
草みち
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
褐色のシャツを着た悪者は、小屋の方へ行ったがやがて
襤褸片
(
ぼろきれ
)
で刃をぐるぐると巻き附けた大きな
鉞
(
まさかり
)
を持ち出して来た。黒い襤褸には何だか
腥
(
なまぐさ
)
い血の染みが附着しているようだ。
捕われ人
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
坊主と神主とで、雙方とも退窟の多い職業であつたから、老僧——其の頃は血氣盛りの
腥
(
なまぐさ
)
坊主であつたが、持ち前のごりがんはもう見えてゐた——と老神主とはよく往來してゐた。
ごりがん
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
なんといふ罰あたりだらう! 今夜は精進の
蜜飯
(
クチャ
)
だといふのに、このひとは
肉入団子
(
ワレーニキ
)
を、こんな
腥
(
なまぐさ
)
い
肉入団子
(
ワレーニキ
)
を食つてゐる! ほんとにおれとしたことが、なんといふ馬鹿だらう
ディカーニカ近郷夜話 後篇:02 降誕祭の前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
お前のやうな
腥
(
なまぐさ
)
のお世話には能うならぬほどに餘計な女郎呼はり置いて貰ひましよ、言ふ事があらば陰のくす/\ならで此處でお言ひなされ、お相手には何時でも成つて見せまする
たけくらべ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
欧人これを試みた者いわく、
腥
(
なまぐさ
)
くてならぬ故臭い消しに
炙
(
あぶ
)
る前、その肉をやや久しく酢に漬け置くべし味は鰻に優るとも劣りはせんと(ピエロチの『パレスチン風俗口碑記』四六頁)
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
藍色
(
あいいろ
)
の、嫌に光る
釉
(
くすり
)
の掛かった陶器の円火鉢である。跡から十四五の
襷
(
たすき
)
を掛けた女の子が、誂えた
酒肴
(
さけさかな
)
を持って来た。徳利一本、
猪口
(
ちょく
)
一つに、
腥
(
なまぐさ
)
そうな
青肴
(
あおざかな
)
の切身が一皿添えてある。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
ただ、日毎に身の
周囲
(
まわり
)
が白つぽく色あせて、漂白された
腥
(
なまぐさ
)
い視野が、日と共に広々と遠く延びて行くやうである。茫漠として——
泌
(
し
)
みつくやうな、どうも、遣り切れない虚しさである。
蝉:――あるミザントロープの話――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
ジリジリと皮膚の焦げる何とも言えぬ異様な
腥
(
なまぐさ
)
さがプウンと鼻を
衝
(
つ
)
いて、人垣と人垣の間や往来に散らばった
土嚢
(
どのう
)
のような蒲団の隙間から、ガヤガヤと黒い影が大声に
罵
(
ののし
)
り合っていた。
生不動
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
勇猛
(
ゆうみょう
)
精進潔斎怠らず、
南無帰命頂礼
(
なむきみょうちょうらい
)
と真心を
凝
(
こら
)
し
肝胆
(
かんたん
)
を砕きて三拝
一鑿
(
いっさく
)
九拝一刀、刻み
出
(
いだ
)
せし木像あり難や三十二
相
(
そう
)
円満の
当体
(
とうたい
)
即仏
(
そくぶつ
)
、
御利益
(
ごりやく
)
疑
(
うたがい
)
なしと
腥
(
なまぐさ
)
き
和尚様
(
おしょうさま
)
語られしが、さりとは浅い
詮索
(
せんさく
)
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
ソレでマア戦争帰りの血
腥
(
なまぐさ
)
い奴も
自
(
おのず
)
から静になって塾の治まりが付き、その中には
真成
(
ほんとう
)
な
大人
(
おとな
)
しい学者風の少年も多く、
至極
(
しごく
)
勉強してます/\塾風を高尚にして、明治四年まで
新銭座
(
しんせんざ
)
に居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
一陣の
腥
(
なまぐさ
)
い風と共に変に翳った。
登山は冒険なり
(新字新仮名)
/
河東碧梧桐
(著)
口の中が
腥
(
なまぐさ
)
いや。
放浪者
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
一人
(
いちにん
)
の一生には百の世界がある。ある時は土の世界に入り、ある時は風の世界に動く。またある時は血の世界に
腥
(
なまぐさ
)
き雨を浴びる。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と
婆
(
ばば
)
が
唱
(
とな
)
える。……これが——「
姫松殿
(
ひめまつどの
)
がえ。」と耳を貫く。……
称名
(
しょうみょう
)
の中から、じりじりと
脂肪
(
あぶら
)
の煮える
響
(
ひびき
)
がして、
腥
(
なまぐさ
)
いのが、むらむらと来た。
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
将軍家お膝元大江戸でさえ
餓莩
(
がひょう
)
道に横たわり死骸から発する
腥
(
なまぐさ
)
い匂いが空を立ち籠めるというありさまであった。
開運の鼓
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「恋」というものの詰らなさ……アホラシサをゾクゾクするほど感じさせられながら、シンミリした火薬の煙と、
腥
(
なまぐさ
)
い血の匂いの中に立ちすくんでいた。
ココナットの実
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
解雇される心配も、血だらけな母の顏も、鈍い壓迫と共に消え去つて、勝誇つた樣な
腥
(
なまぐさ
)
い笑が其顏に漲つて居た
病院の窓
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
獲ものゝ魚は
鯔
(
いな
)
であることは、この魚特有の精力的な
腥
(
なまぐさ
)
いにおいが近づくまえに鼻をうつので知られました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
勝手の強い姑の
伴
(
とも
)
ばかりして、毎日行かせられるのを、お庄も飽き飽きしていた。口で言うほどでもない姑は、外へ出れば出たで
腥
(
なまぐさ
)
いものにも箸を着けていた。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
割箸
(
わりばし
)
を添えて爺が手渡す
丼
(
どんぶり
)
を受取って、
一口
(
ひとくち
)
啜
(
すす
)
ると、
腥
(
なまぐさ
)
いダシでむかッと来たが、それでも二杯食った。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
腥
(
なまぐさ
)
い風がドコからともなく吹き渡って来て、お銀様の身辺にせまると同時に、湖面湖上いっぱいに黒雲が立ち
塞
(
ふさ
)
がったものですから、こんなところに長居は無用と
大菩薩峠:39 京の夢おう坂の夢の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
三二
千晩
(
せんば
)
ヶ
岳
(
だけ
)
は山中に
沼
(
ぬま
)
あり。この谷は物すごく
腥
(
なまぐさ
)
き
臭
(
か
)
のするところにて、この山に入り帰りたる者はまことに
少
(
すく
)
なし。昔何の
隼人
(
はやと
)
という猟師あり。その子孫今もあり。
遠野物語
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
おれの前には妻が落した、
小刀
(
さすが
)
が一つ光っている。おれはそれを手にとると、一突きにおれの胸へ
刺
(
さ
)
した。何か
腥
(
なまぐさ
)
い
塊
(
かたまり
)
がおれの口へこみ上げて来る。が、苦しみは少しもない。
藪の中
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
腥
漢検1級
部首:⾁
13画
“腥”を含む語句
血腥
腥気
腥膻
腥風
腥羶
腥物
腥臭
腥風血雨
生腥
腥風雨耶血
腥靭
荒淫腥食
腥血
腥蕈
葷腥
万里腥風
血腥気
腥燕脂
腥氣
腥坊主
...