綺麗きれい)” の例文
ゆきなか紅鯛べにだひ綺麗きれいなり。のお買初かひぞめの、ゆき眞夜中まよなか、うつくしきに、新版しんぱん繪草紙ゑざうしはゝつてもらひしうれしさ、わすがたし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「地下鉄会社が買入れた独逸ドイツ製の穴掘り機械だ。地底の機関車というやつだ。三トンもある重い機械が綺麗きれいになくなってしまったんだ」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「先生、私の宅へいつかいらっしゃいましな。そりゃあ綺麗きれいな花があるの。だって、葉子さんのお宅の庭よかずっと広いんですもの」
先生の顔 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「まあ、綺麗きれい。」妻は睡眠不足の少し充血した眼を見張った。「いちど、林檎のみのっているところを、見たいと思っていました。」
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いったい蓮華は清浄しょうじょうな高原の陸地にはえないで、かえってどろどろした、きたな泥田どろたのうちから、あの綺麗きれいな美しい花を開くのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
顎鬚あごひげ綺麗きれいに削り、鼻の下のひげを短かく摘み、白麻の詰襟服つめえりふくで、丸火屋まるぼやの台ラムプの蔭に座って、白扇はくせんを使っている姿が眼に浮かぶ。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その女中が私を、ある夜銭湯に連れて行った。そうすると浴場には皆女ばかりいる。年寄りもいるけれども、綺麗きれいな娘が沢山にいる。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
真黒にすすけた段梯子だんばしごを上ると、二階は六畳と四畳半の二間ふたま切りで、その六畳の方が雪子の居間と見え、女らしく綺麗きれいに飾ってある。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その人のなつかしさと共に何時いつも思ひ出さずに居ないのは、南さんの着た羽織は誰のよりも綺麗きれいなものだつたからだらうと思ひます。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ぶときはそのはねじつうつくしいいろひらめきます。このとりはね綺麗きれいですが、ごゑうつくしく、「ぶっ、ぽう、そう」ときつゞけます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
室は綺麗きれいに掃除されたり。床の間の掛物、花瓶かびん挿花さしばな、置物の工合なんど高雅に見えて一入ひとしおの趣きあるは書生上りの中川がたしなみあらず。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「お延の返事はここにある」といって、綺麗きれいに持って来た金を彼に渡すつもりでいた彼は躊躇ちゅうちょした。その代り話頭わとうを前へ押し戻した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「焼しめ」という浜行きの一種の焼き物をこしらえて商売としていました(これは綺麗きれいな彩色画を焼き附けた日用品の陶磁器です)
おしょさんのうちへは、綺麗きれいな娘さんたちが多く来た。みんな美しい人だった。お母さんや、ばあやさんの自慢の娘さんたちだった。
しかし松山さん、先方から改めてびて来た場合には、貴郎あなたの方でも綺麗きれいさつぱりと秋子さんを円満に青木家に渡して下さるのでせうね
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「ほら、あの失われた世界への入口のところ、カヌーがもう行けなくなるあたりね。あの細い川のところ、あそことても綺麗きれいだったわ」
それに綺麗きれいな人いうもんは、自分では器量鼻にかけへんつもりでも、やっぱり何とのう自信のある様子態度に現われるもんですやろか
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「五年が十年でもいい、おらあ立派に年貢を納めて綺麗きれいな体になってくるんだ、おらあこれから新規蒔直まきなおしに始める気だ、あばよ」
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あそこに水天宮さまが見えてるでしょう。あそこの浜辺に綺麗きれいな貝殻がたくさんありますから、拾っていらっしゃいな」という。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「おもしろくなくっても、田圃たんぼに麦や、米ができなきゃ困るじゃないか。……西洋の草花でも造りゃ綺麗きれいでおもしろいかもしれないが」
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
いつでも心のどこかの隅に、横着な、便佞べんねいな希望が綺麗きれいに離れ去ってしまった事はない。しかし自分にはそれより強い理性がある。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
褪紅色たいこうしょくの上品な訪問着アフタヌーンを着けて綺麗きれいな優しそうな眼は幾分疲れを帯びた風情に恍惚うっとりと見開いていたが、こないだホテルで逢ったとおり
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
壁も天井もすすけて、床板ねだも抜けた処さえあるらしいが、隅々まで綺麗きれいに片づいていて、障子や襖紙ふすまがみの破れも残らず張ってあるなど
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姉は感心したようにことばをかけた。お島はたすきがけの素跣足すはだしで、手水鉢ちょうずばちの水を取かえながら、鉢前の小石を一つ一つ綺麗きれいに洗っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
綺麗きれいさっぱりとあなたに差上げてしまっても惜しいとは思わない——つまり、盗むことの興味が自分の生命で、盗み出した財物は
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
綺麗きれいさつぱりと世の中を見捨てられなかつたのでせうか。本当は、ダラットの山の中で死んでゐたら、なほさら美しかつたと思ひます。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
餘所よそをんな大抵たいてい綺麗きれいあかおびめて、ぐるりとからげた衣物きものすそおびむすしたれて只管ひたすら後姿うしろすがたにするのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「この場に成てそうとぼけなくッても宜いじゃ有りませんか。いッそ別れるものなら……綺麗きれいに……別れようじゃ……有りませんか……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
例年始めに法王が来られるそうですが、その時には法王がお臨みにならんで駐蔵大臣ちゅうぞうだいじんが来られた。その扮装いでたちは余程綺麗きれいな飾りです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
綺麗きれいな綺麗な、水晶のようなのがいていましたし、——だから、おばあさんは何にも心配することも、いそがしい用事もない訳でした。
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
家の中は綺麗きれいに片付いて長火鉢なぞぴか/\拭き込んでありました。しまという女中とコロという赤砂糖色の猫が一匹いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
樹々の中では、モミジの葉がいちばん綺麗きれいだ。もう半分ばかり紅葉こうようしている。かつてカスミ網が張ってあったのは、この樹の根元である。
庭の眺め (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
が、花簪はなかんざしが傾いたり、だらりの帯が動いたり、舞扇まひあふぎが光つたりして、はなはだ綺麗きれいだつたから、かもロオスをつつつきながら、面白がて眺めてゐた。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
実際、お菊が初めて目見得に来た時に比べると、屋敷の内も余ほど綺麗きれいになった。殊に台所などは見違えるように整頓して来た。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
感情に本づく事は勿論もちろんにて、ただうつくしいとか、綺麗きれいとか、うれしいとか、楽しいとかいふ語をくると著けぬとの相違に候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ここらで鴎外に対する在来の見方は綺麗きれいかたをつけて、これを変改するよりほかはない。それには唯一の方法しかあまされていない。
いわないで、どうぞ土屋さん、何にもなしに綺麗きれいに任せてください。おとよさんにあやまらせろというなら、どのようにもあやまらしょう
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
綺麗きれいな飲み水のなかでは水浴びをし、水浴びをする器で水を飲む。そして、その時の都合に任せて、その両方のどちらにでもふんをたれる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
燧石ひうちいし黒曜石こくようせきや、安山岩あんざんがんるいつくつたものがおほいのでありますが、ときには水晶すいしよう瑪瑙めのうのような綺麗きれいいしつくつたものもあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
と吸ひ付け「あなた方あ、お開帳参でございますね、若子わこ様は道草だ、わつちどもの在処の子供と違ひ、お綺麗きれいのお生れでございますねえ」
むかしはあんなに草深かったのに、すっかり見ちがえる位、綺麗きれい芝生しばふになってしまいましたね。それに白いさくなどをおつくりになったりして。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
暮れかかる夕もやの中から一艘の綺麗きれいに飾った小船が汀に向って滑るように近づいてくると、ぴたりと進むのを止めて、船を横向きにした。
近衞家このゑけ京武士みやこぶしは、綺麗きれいあふぎで、のツぺりしたかほおほひつゝ、片手かたてなはまんで、三げんはなれたところから、鼻聲はなごゑした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そこにはK村では見られないような綺麗きれいな顔をした女もいた。仁右衛門の酒は必ずしも彼れをきまった型には酔わせなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのうち私は、家の中はいつもと違って綺麗きれいに片付いていることや、みんなが総体に、そわそわと忙しそうにしているのに気がつきました。
背が高くて、丈夫そうで、丸髷まるまげ綺麗きれいに結っていました。それがはつでした。顔の道具も大きく、がっしりしていて、頼もし気に見えます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
青春再びかえらず、とはひどく綺麗きれいな話だけれども、青春永遠に去らず、とは切ない話である。第一、うんざりしてしまう。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それだから、ちょうどそのとき、一匹の大きなセッター種の綺麗きれいな毛並の犬が、榛の木の並樹の土堤を、一散に走ってくるのを知らなかった。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
くどかったりする時にはさながら京人形のようにその綺麗きれいな、小さい口を閉じてしまって石のごとく黙ってしまうのである。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
牢の中の吉之助も丈夫で綺麗きれいすぎるし、——もう一つ、あの脅かしの手紙の寫が怪しい、——手掛りはうんとあるぢやないか