こいし)” の例文
うつくしいてて、たまのやうなこいしをおもしに、けものかはしろさらされたのがひたしてある山川やまがは沿うてくと、やまおくにまたやまがあつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
如何に愛し合って居る男女でも、刹那せつな々々の気分の動きがその純情に不純のこいしを混じえぬと、どうして云い切ることが出来ましょう。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こいしはばらばら、飛石のようにひょいひょいと大跨おおまたで伝えそうにずっと見ごたえのあるのが、それでも人の手で並べたにちがいはない。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手頃のこいしを拾い集めた彦兵衛は、露草を踏んで近づきながら石を抛って烏と犬とを一緒に追い、随全寺の石垣下へ検分に行った。
一個々玉をあざむこいしの上を琴の相の手弾く様な音立てゝ、金糸と閃めく日影ひかげみだしてはしり行く水の清さは、まさしく溶けて流るゝ水晶である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小川はこいしの上をちょろちょろと流れ、旅びとは街道に砂ほこりを立てて往来していたのに、ラザルスは死んでいたのであった。
夏の日は北国の空にもあふれ輝いて、白いこいし河原かわらの間をまっさおに流れる川の中には、赤裸あかはだかな少年の群れが赤々とした印象を目に与えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
惣兵衞は土手づたいに綾瀬のかたへ逃げてくと、ガヤ/″\多勢おおぜい黒山のように人が立って居りまして、バラ/″\こいしほうりました。
山はこのあたりではけわしくて石だらけだったが、その山腹からこいしがばらばらと離れて、樹の間をがらがらと音を立てて跳びながら落ちて来た。
南岸みなみぎしは崖になつてゐるが、北の岸は低く河原になつて、楊柳やなぎが密生してゐる。水近いこいしの間には可憐いたいけ撫子なでしこが処々に咲いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
薄霜を帯びた枕木とれたレールの連続が、やはり白い霜をかぶったこいしの大群の上に重なり合っているばかりであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こいしだらけの空地に口を開いて倒れているのは、意外にもたったいま別れて来たばかりの松屋鶴子だったのである。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かもの河原には、丸葉柳まるはやなぎが芽ぐんでいた。そのこいしの間には、自然咲のすみれや、蓮華れんげが各自の小さい春を領していた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その声はまるで氷の上へばらばらとこいしを投げたように、彼の寂しい真昼の夢を突嗟とっさあいだに打ち砕いてしまった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
河原のこいしは、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉トパースや、またくしゃくしゃの皺曲しゅうきょくをあらわしたのや、またかどからきりのような青白い光を出す鋼玉やらでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大きな銀杏いちょうのこずえが、巨人の手を振るようになびき、吹きちぎられた葉がこいしのようにけし飛んでいた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
戸板からしずくが落ちて、日和ひよりつづきで白く乾いている庭のこいしの上へしたたり、潰れたいちごのような色をした。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とおって湖底のこいし一つ、水草一本さえ数えられるかと疑われるばかり……スパセニアの死体が上がったのは、舟を出してから二時間余りの後だったというのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
空き地にはところまだらに雑草が生えていた。そこはかつて砂利置き場にでも使ったのか、いちめんにこいしがちらばっていて、その合間あいまにかたまって草が伸びている。
しじみ河岸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高い、闇黒の新しい天井から、つゞけて、こいしや砂がバラバラッバラバラッと落ちて来た。弾丸が唸り去ったあとで頸をすくめるように、そのたび彼等は、頸をすくめた。
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
隣村の伊太郎と云う血気ざかり壮佼わかいしゅが、某夜あるよ酒をひっかけて怪物の探検に来たが、その途中どこからともなくこいしが飛んで来て、眉間に当って負傷したので蒼くなって逃げ帰った。
唖の妖女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
或る日、一人の旅人は一首の棄歌すてうたをしるし、紙にこいしをのせ風にも立たぬようにして行った。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
こいしを投ぐるがごとき暴雨の眼も明けさせず面を打ち、一ツ残りし耳までもちぎらんばかりに猛風の呼吸いきさえさせず吹きかくるに、思わず一足退きしが屈せずふるって立ち出でつ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
或は又石で築いた防波堤を壊して、それをまるでたゞのこいしのやうに、ころがしてしまふ。
予神田錦町で鈴木万次郎氏のしゅうとの家に下宿し、ややもすれば学校へ行かずに酒を飲み為す事なき余り、庭上に多き癩蝦蟆いぼがえるこいしを飛ばして打ち殺すごとに、他の癩蝦蟆肩をそびやかし
外には烈風はげしきかぜいかさけびて、樹を鳴し、いへうごかし、砂をき、こいしを飛して、曇れる空ならねど吹揚げらるるほこりおほはれて、一天くらく乱れ、日色につしよくに濁りて、こと物可恐ものおそろしき夕暮の気勢けはひなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
万吉郎は無意識に砂利場のこいしを拾っては河の面にげ、また拾っては擲げしていた。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
若者一個庭前にて何事をかなしつつあるを見る。こいし多きみちに沿いたる井戸のかたわらに少女おとめあり。水枯れし小川の岸に幾株の老梅並びてり、かきの実、星のごとくこの梅樹うめきわより現わる。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
小屋の入口には縄筵なわむしろがぶら下っている。それを排して内に入ると、六畳ぐらいの板の間があり、あとは土間になっていた。土間というより砂地に近く、こいしや貝殻などが散らばっている。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
火山の皮膚も、柔かい砂や、灰や、こいしが、ざわついているため、水の流れたあとも、雪のすべった筋道も、鮮やかな美しい線条や斑紋を織り成す、富士の八百九沢に見らるる大日沢であるとか
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そこで常に砦のうちにこいしを蓄えておき、賊がせて来るとつぶてを投げて防ぐ。——自慢ではないが、私の投げる礫は百発百中なので賊も近ごろは怖れをなし、あまり襲って来なくなりました。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我等は又た時々頭上に響く其こいしの音を甘受しながら漸く眠りに落ちようとする心から覚醒して仕事にとりかかるのである。その礫の音、人の往来を妨げる人垣、それらは我等に我慢が出来る。
発行所の庭木 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
こいしの多い砂利じやりが軋つて私のゐるのを悟られぬやうに、私は芝生しばふの縁を歩いた。彼は私が通らなくてはならない處から一ヤードか二ヤード離れた花床の中に立つてゐた。確かにあの蛾が彼を惹きつけたのだ。
露にぬれたこいしが次第に乾いてゆく、そして冷たい空気が静に流れた。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
細い砂を踏んで、こいしのあるところまで行くと、そこにはなみが打寄せている。旅人の群も集って来ている。はしけに乗る男女の客は、いずれも船頭の背中を借りて、泡立ち砕ける波の中を越さねば成らぬ。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
急いで本社に駆け戻ると、まさに群衆が包囲して、こいしの雨を降らせている真ッ最中であった。ケガをしても、つまらぬから、一応、印刷工場へ逃げこんだが、このあとの、勤務評定はユカイであった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
爺やは云いながら、こいしを拾って、ゴムに当てがった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こいしのやうにそれが地上に落ちるのを。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
雨に濡れたるこいしみち、色蒼白く。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ひとり見る蛇籠じやかごこいし
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
轣轆とこいしは噛む
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こいしはばら/\、飛石とびいしのやうにひよい/\と大跨おほまたつたへさうにずつとごたへのあるのが、それでもひとならべたにちがひはない。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
河原かわらこいしは、みんなすきとおって、たしかに水晶すいしょう黄玉トパーズや、またくしゃくしゃの皺曲しゅうきょくをあらわしたのや、またかどからきりのような青白い光を出す鋼玉コランダムやらでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
日に晒された幅広い道路のこいしは足を焼く程暖く、蒸された土の温気が目もくらむ許り胸を催嘔むかつかせた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
林を縫って流れている小川があり、水が清らかだったので、底のこいしさえ透けて見えた。それを左門が跨いで越した時、水に映った自分の姿を見た。顔に精彩がなかった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
虎之助は奈美と並んで、川原の冷たいこいしの上に腰を下ろしながら、亡き父の事、達者ではいるがひどく子煩悩な母の事、孝心のあつい弟思いの兄の事などを、問われるままに語った。
内蔵允留守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしてまだ死に切らないたらの尾をつかんで、こいしのように砂の上にほうり出す。浜に待ち構えている男たちは、目にもとまらない早わざで数を数えながら、魚をもっこの中にたたき込む。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
数をとなえだした。興に惹かれるまま唄のように節をつけて底のこいしを読んでいるのだ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのまま隊長の視線はすがるように彼をとらえて離さなかった。心の底でたじろぐものがあって、彼は思わず足を引いた。長靴の裏に食い込んだこいしが堅い床木にれていやなおとを立てた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
沼の上には翡翠かわせみが、時々水をかすめながら、こいしを打つように飛んで行った。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)