白鷺しらさぎ)” の例文
大鷲おおとり神社の傍の田甫の白鷺しらさぎが、一羽ち二羽起ち三羽立つと、明日のとりまちの売場に新らしく掛けた小屋から二三にんの人が現われた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
其船頭そのせんどう悠然いうぜんとして、片手かたてあやつりはじめながら、片手かたてみづとき白鷺しらさぎ一羽いちはひながらりて、みよしまつたのである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
清楚なる者は白沙浅水、涼風起り白鷺しらさぎ飛ぶ。洋風なる者は束髪長裾、俗にこれを嬢と呼び、和装なる者は雲髻うんけい寛袖、俗にこれを姫といふ。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
するとあたかも白鷺しらさぎの大群のような真白な軍隊が道をはばめて待っていた。見れば、姜叙、楊阜以下、すべて白い戦袍せんぽうに白い旗をかかげて
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゴシック式、絵画的な風景を背景にして香港ホンコンの海の花園を、コリシャン・ヨット・クラブの白鷺しらさぎのような競走艇が走る。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
五月頃は水田に水がまんまんとみなぎつてゐて、ところどころに白鷺しらさぎが下りてゐる。白鷺は必ず小さな群を成して、水田に好個の日本的画趣を与へる。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
それがこの庭までやつてくるのだ。夏のやうに白鷺しらさぎが空をかすめて飛ばないのは物足ものたりないけれども、それだけのつぐなひは十分あるやうな気がする。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
矢に射抜かれた白鷺しらさぎが一羽、ばたばたと落ちて来て、樹蔭の暗い地面の上で、むざんに綿毛をちらすのが見えた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夕立の後では、ここ以外ではめったに見られないようなくっきりと美しいにじが、空いっぱいに橋をかける。その丸い橋の下を、白鷺しらさぎが群をして飛んでいる。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
私のために大きな稗蒔きの鉢をかって、柴橋しばばしをかけさせたり、白鷺しらさぎをおかせたり釣師の人形を水ぎわにおくために金魚も入れたり、白帆船をうかせたりしてくれた。
赭色たいしゃになりてはすの茎ばかり情のう立てる間に、世を忍びげの白鷺しらさぎがそろりと歩む姿もおかしく、紺青色こんじょういろに暮れて行くそらにようやくひかり出す星を背中にって飛ぶかり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
早い話が房州がよいの白鷺しらさぎ丸にチョイと乗組んだと思うと、直ぐに横須賀の水雷艇と衝突させる。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私達がわい/\と大きな歡聲くわんせいを擧げて林の中から飛出すと、シラチブチの明るい野良やらには人ツ子一人居ず、はた/\と白鷺しらさぎが飛び出す、ピユチクピユチク空で鳴く鳥がゐる。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
その時反絵の眼には、白鷺しらさぎの羽根束をかかえた反耶はんやの二人の使部しぶが、積まれた裸体の鹿の間を通って卑弥呼の部屋の方へ歩いて行くのが見えた。反絵の拡げた両手は、だんだんと下へ下った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
たがいに何か冗談を言い合った末に、杜は女をわが船へ乗せてゆくと、やがて女は一羽の白鷺しらさぎとなって雪のなかを飛び去ったので、杜は俄かにぞっとした。それから間もなく、彼は病んで死んだ。
徳川三百年の風流の生粋きっすいが、毛筋で突いたやうな柳と白鷺しらさぎ池水ちすいきざみ込まれた後藤派の目貫めぬきのやうなものを並べて、自分の店から持つて来たいろ/\の専門の道具や薬品を使つて手入れしながら
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
わがゆきはのどにはあらずよ白鷺しらさぎ浮足うけあし吾妹わぎもくるしくば
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夕影しづかにつがひ白鷺しらさぎ下り
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
客は、なまじ自分のほかに、離室はなれに老人夫婦ばかりと聞いただけに、廊下でいきなり、女の顔の白鷺しらさぎに擦違ったように吃驚びっくりした。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い光のしまが、ななめに天地をかすめている、遠くからながめると、飛んでくる白鷺しらさぎとも見える二つの蓑笠みのかさをかぶった者が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、それもしばらくすると、一本の柳が川のほとりに生えた、草の長い野原に変りはじめる。その又野原から舞い上る、何羽とも知れない白鷺しらさぎの一群。………
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
半之助は息をつくために、大きく突き出た岩のところで、立ち停ったが、そのときふと、築地の丸茂の庭で、白鷺しらさぎを射とめた、あの弓の名手のことを思いだした。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また彼はプノンペンから自動車に搭乗して国境のゴム園に車をカンボジヤの原野、白鷺しらさぎの飛ぶ直線道路を、水田に遊ぶ水牛のなかを疾走させた。そこでは彼の富のために働く同胞がいた。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
見渡す青葉、今日しとしと、窓の緑に降りかかる雨の中を、雲は白鷺しらさぎの飛ぶごとく、ちらちらと来ては山の腹をしりえに走る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌る朝は、夜の明けないうちから、津軽平つがるだいらの何十里に、笛太鼓の音が流れていた。初夏の薫風くんぷうに白いつばさを拡げて、青田の上を白鷺しらさぎが群游していた。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
白鷺しらさぎが一羽ひっそりと翼をやすめているのを、源七郎は名ある絵巻でも見るような気持で眺めていた。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
清らかな一すじの流れと申し、あるいはまたその流れへ御放しになった、何羽とも知れない白鷺しらさぎと申し、一つとして若殿様の奥床しい御思召おおぼしめしのほどが、現れていないものはございません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浪路は、あちこち枝をくぐった。松を飛んだ、白鷺しらさぎの首か、はぎも見え、山鳥の翼の袖も舞った。小鳥のように声を立てた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梅雨のれ間のさざ波は、そよそよ陽を射返して、折々、白鷺しらさぎの羽音のするほか、敵味方の陣営も、ここの一城も、実にしいんとひそまり返っていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われさ行水ぎょうずいするだらかえる飛込とびこ古池ふるいけというへ行けさ。化粧部屋のぞきおって白粉おしろいつけてどうしるだい。白鷺しらさぎにでも押惚おっぽれたかと、ぐいとなやして動かさねえ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よくこの柳には川魚かわうおついばみに来る白鷺しらさぎの群れを見かけるのであるが、きょうはその白鷺が一羽も影を見せていないかわりに、前髪に結った一人の若衆が
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっと浮世に返ると、枯蓮の残ンの葉、折れた茎の、且つ浮き且つ沈むのが、幾千羽の白鷺しらさぎのあるいはたたずみ、あるいは眠り、あるいは羽搏はうつ風情があった。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襖絵ふすまえ白鷺しらさぎを見つめている。自鷺の眼だけに黄色い彩具えのぐが塗ってあった。鷺が彼を睨んでいるようでもある。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白鷺しらさぎが——わたしはこれには、目覺めざむるばかり、使つかつて安扇子やすせんす折目をりめをたゝむまで、えりのすゞしいおもひがした。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くず島田しまだすそいているので、堅気の時よりはずっと背がたかく見え、そして、この女には、どういう身装みなりよりもこうして泥水へ白鷺しらさぎのようにあしを入れている姿が
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なき母をあこがれて、父とともに詣でしことあり。初夏はつなつの頃なりしよ。里川に合歓花ねむあり、田に白鷺しらさぎあり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、青木川の土橋を、白鷺しらさぎのように、ばらばらっと渡って行くのを見送りながら
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竜巻がまだ真暗まっくらな、雲の下へ、浴衣の袖、裾、消々きえぎえに、冥土めいどのように追立てられる女たちの、これはひとり、白鷺しらさぎひなかとも見紛みまごうた、世にも美しい娘なんです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まさしく五重塔ごじゅうのとうの、あやしき老人を射抜いぬいたとおもったのに、ぱッと、そこから飛びたったのは、一羽の白鷺しらさぎ、ヒラヒラと、青空にまいあがったが、やがて、日吉ひよしの森へかげをかくした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白鷺しらさぎがすうつとくびばしたやうに、くるまのまはるにしたがうて眞白まつしろいとつもるのが、まざ/\とえる。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あの虚無僧が白鷺しらさぎのように立って、ピタリと対手あいての阿波侍へ尺八を向けた——その阿波侍の刀の鋭さを見ていたお綱は、やにわに膳の小皿をとって、パッ——と二つ三つ投げつけたのだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白鷺しらさぎがすらりとくびばしたやうに、くるまのまはるにしたがうて眞白まつしろいとつもるのが、まざ/\としろい。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは足利殿のおもものとも見えない狂女のまなじりだった。世の姫君そだちの女性とは根本からちがっている。たとえば、走るにしても、気のちがッた白鷺しらさぎなぎさに何かを探し廻るような迅さであった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衣物きものを脱がせた親仁おやじはと、ただくやしく、来た方を眺めると、が小さいから馬の腹をかして雨上りの松並木、青田あおだへりの用水に、白鷺しらさぎの遠く飛ぶまで、なわてがずっと見渡されて
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白鷺しらさぎの群れのように、婦人たちの一隊は、鎮台の山にかくれた。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ええ、ござりますとも、人足ひとあしも通いませぬ山の中で、雪の降る時白鷺しらさぎが一羽、疵所きずしょを浸しておりましたのを、狩人の見附けましたのが始りで、ついこの八九年前から開けました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「忠次、いみじくも申したり。おくしたる者の眼には、田に飛ぶ白鷺しらさぎも、敵の旗かと見えておくれ立つとか。はははは、まず両人の報告の程度なら、信長も大安心というもの——家康どの、祝されてよかろう」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、れ/\としてつやあるはぎは、蘆間あしまに眠る白鷺しらさぎのやうに霧を分けて白く長かつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白鷺しらさぎのようだな……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見馴みなれねえ旅の書生さんじゃ、下ろした荷物に、そべりかかって、腕を曲げての、足をおめえ、草の上へ横投げに投出して、ソレそこいら、白鷺しらさぎ鶏冠とさかのように、川面かわづらへほんのり白く
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)