うね)” の例文
勘次かんじ畦間うねまつくりあげてそれから自分じぶんいそがしく大豆だいづおとはじめた。勘次かんじ間懶まだるつこいおつぎのもとをうねをひよつとのぞいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
松原つづきの小松が極めてとび/\にそれらの砂丘に散らばり、所によつてはそれとも見えぬ痩麥が矢張りうねをなして植ゑられてゐた。
中原は今しも百メートルばかり向ふの水面を浅く、大鯨おほくぢらのやうになみうねを立てて、まつしぐらに敵艦目がけて突進する魚雷を指さした。
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
かりしほと麥は刈られぬ。刈麥の穗麥は伏せて、畝竝うねなみにさららと置きぬ。麥刈ればそよぐさみどり、うねにすでに伸びつる陸稻をかぼならしも。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
という声が頻りと多かったが、武蔵は山畑のうねを這って、その人々の手分けして駈けまわるさまを時々、山の方から振返って見ていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵さんは、あたりの野良に人かげのないのを見済まして、うねの中に手を入れて芋を掘りだした。大きな芋が五ツ六ツころげでた。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
(ひい。)とをんなこゑさぎ舞上まひあがりました。つばさかぜに、はなのさら/\とみだるゝのが、をんな手足てあしうねらして、もがくに宛然さながらである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だんだんとうねりを作って続く樹の海の向うに、大洞、足柄、山伏の山々——その山伏山のむこう側に、今はない田万里の廃墟があるので。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
重い作切鍬よりも軽いハイカラなワーレンホーで無造作にうねを作って、原肥無し季節御構いなしの人蔘にんじん二十日大根はつかだいこんなどくのを
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「まだ袋を開けちやいかんよ。ちやんとうねを作つてからだよ。かういふ風に塊りのないやうに土をならしてからでないとね」
美談附近 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
こうすると雪面上に高いうねが一本出来ることになる。この畝を東西に通じておくと、畝の南側斜面には太陽光線がほぼ直角に当るわけである。
農業物理学夜話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
今日はその左の野の中を行くのであるが、それが見る限り綺麗に長いうねの線条を以て、豆や高粱の芽を二寸ほど載せてゐる。
人々が畑のうねから起き上り、国道へ下りた。国道は再び人の波だった。然し、伊沢は動かなかった。彼の前にも巡査がきた。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
この一種の明るみが田園村落をいっそう詩化している。大きくうねをなして西より東へ走った、成東のおかの繁りにはうす蒼く水気がかかっている。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この仕事が早いとともに純真なものだったら! 雪がふかいときは人々は鉄の馬に雪沓ゆきぐつをはかせ、巨大なすきで山から海沿いにかけてうねをつくり
うねと畝との間に横になると、いっそ、このまゝ死んでしまいたい、と思いました。私は、残してきた妻や子供たちのことが、眼に浮んできました。
其下の縁に沿うて白山小桜の咲いている細いうねを少し登ると好い平に出た。この広いそしてわずかに南東に傾いた原のような平が猫又山の頂上だった。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
今一本の新らしい砂のうねを作り……青年呉一郎はやはり、こっちに背中を向けながら、老人の前に突立って、鍬を動かす手許を一心に見守っている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
天鵞絨びろうどの峰はその前に仮山つきやまのようにうねりあがっていた。そこは窪地くぼちのようになって遠くの見はらしはなかったが、お花畑のように美しい場所であった。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜の大空の野にきらめくうねをつける星辰せいしん——眼に見えぬ野人の手に扱われる銀のすき——その平和を汝はもっている。
黒ずんで見える峰々が、入りくみ、絡みあって、深々とうねっている。其が見えたり隠れたりするのは、この夜更けになって、俄かに出て来た霞の所為せいだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
土佐の韮生にろうの山の中などでは、岩に自然のみぞが出来ているのを、昔山姥が麦を作っていたうねの跡だといいました。(南路志。高知県香美かがみ郡上韮生村柳瀬やないせ
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お屋敷の屋根からとんでくる鳩が麦のうねをホジくった。鳩は麦の種子を食う。金肥えの鰊粕を食う。鳩を追う。が、人がいなくなると、鳩はまたやって来る。
名勝地帯 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
私は穀物その他の植物のうねが、地形図の等高線と全く同様に、丘をめぐって水平線に並んでいるのに気がついたが、これは雨が土壌を掘り出すのを防ぐ為で
一様に規則正しいうねや囲いによって、たとえば玉菜の次に豌豆があり、そのうしろに胡瓜きゅうりの蔓竹が一とかこい、という順序に総てが整然とした父の潔癖な性格と
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その形状のごときも地図に書かれてあるのは変な具合になって居りますが、今私のいった通りにちょうど八咫やたの鏡がうねくって蓮華れんげの形のようになって居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
麦はうねなしのばら蒔き、肥料を施さずしてよく出来たり。地味の豊饒思ふべし。春は野の花夥しく咲くと聞く。今はツユあをい、矢車、野しゆん菊、人参にんじんの類のみ。
そして、めいめいに、気が向けば、うねのへりで、同郷出身の女、矢車草の花と、つい話が長くなる。
突然、あだかもこれから攻めよせて来る海の大動乱を知らせる先触れのよう、一きわ、きわだった大きな波が、二三うねどこからともなく起って、入江の口へ押しよせました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
また或る者はくはの刃を時々キラキラと太陽の光に照返へらせながら去年のうね犂返すきかへしてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
お定は、露を帶びた裏畑を頭に描き出した。ああ、あの紫色の茄子のうね! 這ひはびこつた葉に地面を隱した瓜畑! 水の樣な曉の光に風も立たず、一夜さを鳴き細つた蟲の聲!
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ちょうど春のことで、彼は三日の間じゅう菜園うねをおこしていた。三日目に幼児に洗礼を受けさせることになったが、それまでにグリゴリイはもう何か心に思案を決めていた。
今日は卯平に会い、市有開墾地の農作組合で必要な肥料のことを聞くためにやって来たのである。ようやく頂上の道まで出ると、上の方の畑で卯平はしきりにうねをおこしていた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
良人おっとは吹きすさぶ風を物ともしずに終日馬上に駆けめぐり、或は冬の乾ききった大気を息づまるほど満喫し、或るときは徒歩かちうねあぜわたり、樹の枝に髭を撫でられそうな森林の中を
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
あいつはその畑をほとんど鋤いてしまって、あと小さいうね一つ残しただけだ。兄弟たち、一つ手を貸しに来てくれ。あいつの始末をつけないと、折角せっかく骨折ほねおりもだいなしになってしまう。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
うねもある。なかには氷罅クレヴァスもある。ときどき、ひょうのようなのがばらばらっと降ったり、粉塩を小滝のように浴びることがある。と、ふとそばの壁をみたとき、思わず私ははっと呼吸いきをとめた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
非番に当るのでゆっくり朝食を済ませた玄一郎が、雨あがりの暖かい日のさす縁側に出て庭を見ていると、向うの物置の蔭にある菜園で、なつが、くわを持ってしきりにうねの土を柔らげていた。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人々はあるいは百人、あるいは五十人、うねのごとくに並び坐しました。
附合つけあいの中に「豆の葉も色づく鳥羽のうね伝ひ 林紅」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
相和あひやはらぎてたのしみて、自他のべつ無きうね種子たね
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
うねの胸で 俺が摘むのは
うちならされしうねにゐる
短歌集 日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
麦のうねの風にさかごとく。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かりしほと麦は刈られぬ。刈麦の穂麦は伏せて、畝竝うねなみにさららと置きぬ。麦刈ればそよぐさみどり、うねにすでに伸びつる陸稲をかぼならしも。
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みちのゆくには、藁屋わらやちひさく、ゆる/\うねみちあらはれた背戸せどに、牡丹ぼたんゑたのが、あのときの、子爵夫人ししやくふじんのやうにはるかのぞいてえた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかうすひかりはたけうねかたちづくつてなが小山こやま頂點ちやうてんえていくらもちからおよぼさなかつた。どのうねでもそのかげ依然いぜんとしてしろかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そうこうしているうちにわたしの豆畠は——そのうねはつなぎ合わすとすでに七マイルも植わっている——草取りされるのを今か今かと待っていた。
一枚の畑は、幅が四十間から五十間くらい、長さが二町から三町あって、縦にずっとうねが通っているわけである。
コロラド通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
前はうねから畝へ花毛氈はなもうせんを敷いた紫雲英の上に、春もやゝ暮近くれちかい五月の午後の日がゆたかににおうて居る。ソヨ/\と西から風が来る。見るかぎり桃色ももいろさざなみが立つ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
三人は小さな山のうねりを東の方へ越していた。背の高い女は、若い女の乳母であった。章はこうして山の中に、二人の女が暮しているのが不思議でたまらなかった。
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)