沙汰さた)” の例文
たちまち、縣下けんか豐岡川とよをかがは治水工事ちすゐこうじ第一期だいいつき六百萬圓ろつぴやくまんゑんなり、とむねらしたから、ひとすくみにつて、内々ない/\期待きたいした狐狸きつねたぬきどころの沙汰さたでない。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いだいていたかも知れず一概いちがいに利太郎であるとは断定し難いまた必ずしも痴情ちじょう沙汰さたではなかったかも知れない金銭上の問題にしても
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ことわざに「地獄の沙汰さたも金次第」というも、運命の沙汰はこの限りにあらず。ゆえに、王公貴人も運命に対しては大いに迷うところあり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しかしその実、彼はいま笑うどころの沙汰さたでなかったのである。心臓はずきんずきんと打って、呼吸がのどにつまりそうなのであった。
嘉吉かきつの土一揆、民衆の強要による一国平均の沙汰さたは、彼の三十九歳の時のことで、民衆の運動は彼の熟知していたところであるが
立派な紳士でさえ「沙汰さたのかぎりだ」という言葉で眉根まゆねをひそめただけで、彼女に対する一切を取片附けてしまったのが多かった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
中には薄々うすうす感づいて沼南の口占くちうらを引いて見たものもあったが、その日になっても何とも沙汰さたがないので、一日社務に服して家へ帰ると
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
更に人格の深処に根ざした、我々が一生の一大事である。純を尊び雑をいやしむのは、好悪かうを如何いかんを超越した批判ひはん沙汰さたに移らねばならぬ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その求めごころの切なくつのるときには、たゞ痛痒い人恋しいぐらいの沙汰さたではなく、息も詰まるほど寒いものに締め絞られるのでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかるにもかかわらず、小野太左衛門はその説に感歎して、これを主人の伊達政宗だてまさむね言上ごんじょうし、後日に清悦せいえつ御目見おめみえの沙汰さたがあった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「本来は、驚かすつもりもなく、驚くべき何事もないのですが、少しもわたしを知らない人は、狂気の沙汰さたと思うかも知れません」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「その怪しい奴が女じゃとは、ますます不思議な沙汰さた、さては、女中どもの中に、一八郎と同腹どうふくのやつが住み込んでいるのではないか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沙汰さたという文字は、すなに石まじり見えざるを、水にて洗えば、石の大小も皆知れて、土は流れそうろう。見え来らざれば洗うべきようもなし。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
美留女姫は二度吃驚びっくり。もう銀杏の葉の字を読むどころの沙汰さたではない。慌てて逃げ出して、あとから来た白髪小僧の袖に縋って——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
さもさもこれは色恋などといった沙汰さたではない、何かもっと意味深長なことなのですよと言わんばかりの顔をする連中もある。
依怙えこのご沙汰さたはごかんべんくだせえましと、何が何してどう依怙の沙汰だか、どうせ死ぬからにはもっと詳しくけえて直訴すりゃいいんだ。
その可愛さがだんだん太々ふとぶとしくなり、しまいには食い殺してしまいたい気持ちになるのも酒の沙汰さただけとは云えないのだ……。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
しきりに起こる排外の沙汰さた。しかも今度のあさひ茶屋での件は諸外国との親睦しんぼくを約した大坂西本願寺会見の日から見て、実に二日目の出来事だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
事件全体が、どうも正気の沙汰さたではない。殊に玉村二郎にとって、この一ヶ月の出来事は、凡て凡て、一夜の悪夢としか考えられなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今更いまさらあらためて、こんなことをくのも野暮やぼ沙汰さただが、おこのさんといいなさるのは、たしかにおまえさんの御内儀ごないぎだろうのう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
徳政とやら申すいまわしい沙汰さたも義政公御治世に十三度まで行われて、倉方も地下じげ方もことごとく絶え果てるばかりでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
なぜといふに亀の背に歌かくといふ事既に不思議にして本気の沙汰さたと思はれぬに、しかもその歌の書き主が乳母である事いよいよ不思議なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかも向うからもちかけても来なかった娘を、突然妻に選ぼうとは、まったく賭事かけごとみたいな沙汰さたらしく見えるのであった。
お竹にはまだ何の沙汰さたもないが、いずれ町内預けになるだろうと、彼女は生きている空もないように恐れおののいていた。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よし吾々われわれを宇宙の本位と見ないまでも、現在の吾々以外に頭を出して、世界のぐるりを見回さない時の内輪の沙汰さたである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丁度西町奉行堀が遠藤の所に来てゐたので、堀自分はすぐに沙汰さたを受け、それから東町奉行所に往つて、跡部に出馬の命を伝へることになつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
つかせ給ひながら是は内々なり必ず沙汰さたべからずとおほせられたるがかく吉宗公が溜息ためいきつかせ給ふは抑々そも/\天一坊の身の上をおぼめしての事なり世の親の子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ダカラ世間の人も私の政治診断書を見て、れは本当の開業医で療治が出来るだろう、病家を求めるだろうと推察するのは大間違いの沙汰さたです。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
佛を引取るのは追つての沙汰さたを待つやうにとのお言葉で、親類の者が三四人顏を寄せ乍らも、今まで待つて居りました。
「泣いて困った。それに病気して……。君はひどいじゃないか。僕が悪いにしても、出たきり何の沙汰さたもしないなんて。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
斯う云う、何とはなし重苦るしい手持ぶ沙汰さた、間の悪い沈黙を破ったのは、一番きかなかった額の大きな子であった。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
町内の人は皆んな近くの国民学校に収容されてね、沙汰さたのあるまでは当分勝手に自宅へ戻ってはならんというわけさ。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
医者は窒扶斯チブスか、肺炎でも起さなければよいがと、貸間の老婆にも注意して行ったが、さいわいにしてそれほどの事もなく、三日目には入院の沙汰さたも止み
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分の感覚でさえが自分の経験したことを信じないような場合に、他人に信じてもらおうなどと期待するのは、ほんとに正気の沙汰さたとは言えないと思う。
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
口惜しい一方で、もしこんなことがおおやけ沙汰さたにでもなろうものなら、どんなおとがめをこうむるかも判らないと思った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
したがって、自己おのれの生活に対して、何の懺悔さんげも、反省もなしに、ただいたずらに世をのろい、人をうらむことは、全く沙汰さたの限りといわざるを得ないのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
左大臣良経に訴えたりしてめたが、ようやく内大臣の沙汰さたによって情勢一転し、定家・家隆いえたか隆房たかふさらが追加された。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
それもこれもつまりおとよさんのために、省作も深田にいなかったのだから、おとよさんが親にてられてもと覚悟したのは決して浮気な沙汰さたではない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「(前略)昔はだいぶ評判の事であったが、このごろは全くその沙汰さたがない、根拠の無き話かと思えば、「土佐今昔物語」という書に、沼澄ぬまずみ鹿持雅澄かもちまさずみおう
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今日跋渉ばっしょう、明日よりも漁猟にかかり、活路相開き、右人員ことごとく土着させたく存じ候間——ご仁恤じんじゅつのご沙汰さたなされたく伏して仰ぎ望み奉り候、昧死まいし謹言
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
みながこううわさしあった、だが一向なんの沙汰さたもなかった。それはこうであった。阪井は校長室によばれた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
金が出来たのに、付け上って、華族の娘をでももらいたいはららしいが、俺の娘を貰いに来るなんて狂人の沙汰さただ!
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何故なぜ己等おれたち縄張なはばりのうちもらつて歩く、其処そこおれはう沙汰さたをしなければ、もらふところでない、といふから、わたくし新入しんまい乞食こじきんにもぞんじませぬ、とふのを
それだから私は実に心配で、心火ちんちんなら可いけれど、なかなか心火どころの洒落しやれ沙汰さたぢやありはしません。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「それどころの沙汰さたじゃねえさ、軍医は投げちまって寄りつきもしねえ、ほかにも患者は大勢あるってえのに、おらあ島田初年兵からはなれることができねえ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かどなる人はこの店の前まで来たりける足音の聞えしばかりそれよりはふつと絶えて、音も沙汰さたもなし。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はたして外国人に干渉かんしょうの意あらんにはこの機会きかいこそいっすべからざるはずなるに、しかるに当時外人の挙動きょどうを見れば、別にことなりたる様子ようすもなく、長州騒動そうどう沙汰さたのごとき
しかしそれを善い事にして、くわ楊枝ようじで暮さんとする夫ありとせば、言語道断沙汰さたの限りである。
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
私は秉公持平説を口にする寺内、後藤二氏が憲政会ばかりを政権争奪者として悪罵し、政友会を専ら誠意に富んだ政党であるかの如く曲庇きょくひした偏頗へんぱ沙汰さたろうとします。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
たださえ食物が足りなくて戦争だのいろいろ騒動そうどうが起ってるのに更にそれを半分に縮減しようというのはどんなほかに立派な理くつがあっても正気の沙汰さたと思われない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)