)” の例文
旧字:
孫七もひげの伸びたほおには、ほとんど血のかよっていない。おぎんも——おぎんは二人にくらべると、まだしもふだんと変らなかった。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
坊門ノ宰相清忠は、そうそう下山して行ったが、途中の輿こしのうちでも、瘧病おこりかかったようなだるい熱ッぽさを持ちつづけて帰った。
日の色は以前より薄かった。雲の切れ間から、落ちて来る光線は、下界の湿しめのために、半ば反射力を失った様に柔らかに見えた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うつるにつれて黄蝋の火は次第にすみにおかされて暗うなり、燭涙しょくるいながくしたたりて、ゆかの上にはちぎれたるうすぎぬ、落ちたるはなびらあり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
はぎ桔梗ききょう女郎花おみなえし、りんどう、そういう夏と秋とに用意された草々には、まだ花は見られなかったが、そのはいは充分にあった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そしてすべての過去にのような不快を感じて箱ごと台所に持って行くとつやに命じて裏庭でその全部を焼き捨てさせてしまった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
どうしてどられたものか静かにこちらをふり向いてニッコリと笑いながら「見てはいかん」という風に手を左右に振られました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
裸にされた血ののない青白い肉体と、着物で包まれた赤赤した顔の対照である。それ等の顔には目が光って理知が閃いている。
レンブラントの国 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
従来これまでに無い難産なんざんで、産のが附いてから三日目みつかめ正午まひる、陰暦六月の暑い日盛ひざかりにひど逆児さかごで生れたのがあきらと云ふおそろしい重瞳ぢゆうどうの児であつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
右近は弁の尼なども姫君の遺骸のなくなっていたことはどっているのであるから、隠してもしまいには薫の耳にはいることに違いない
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さびしいいえのようすをると、もない三じょうに、子供こどもは、ひとりでねているのでした。きよは、かわいそうになりました。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こわかっただけで、無事にすんだのである。その顔色が、だんだん血のを帯びてくるにつれて、不安と驚愕きょうがくが、人々の心から消えて行く。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いま気がついて、ムカムカとを催しても、彼の喰った栄螺は、もはや半ば以上消化され、胃壁を通じて濁った血となったのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もなく、何のこともなくさばき去ったのを有難いと思った……ものの、そのあと、つまらないことで事を毀したのにこまった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ひどい地震でございましたね、と謂いますとね、けげんな顔をして、へい、と謂ったッきり、もないことなんで、奇代で奇代で。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「奴、晩酌ばんしゃくをたのしむくせがありますから、酒のの廻ったころを見計って襲うのも手でござりまするが、——もう少し容子ようすを見まするか」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
薄い毛を銀杏返いちょうがえしに結って、半衿はんえりのかかった双子ふたこの上に軟かい羽織を引っかけて、体の骨張った、血のの薄い三十七、八の大女であった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
語ったような具合いに、自然で飾りがなく、寄席よせへ行ってもそのとおりしゃべったらどうや? その方がよほど自然でおもしろいやないか?
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
平生顔の色など変える人ではないけれど、今日はさすがに包みかねて、顔に血のが失せほとんど白蝋はくろうのごとき色になった。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
さびしいがはあたつてゐる。すべてが穏かな秋のなかばのあかるさだ。かがやきの無いかがやき。物音の無い、人のも無い庭、森閑とした庭、幽かな庭。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「少々糖尿ダイアビチズがありましてね、医者から禁じられていますから、一切しません。禁じられなくても、もうこの年ではね」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
八幡下の田圃を突切つっきって、雑木林の西側をこみちに入った。立どまってややひさしく耳をました。人らしいものゝもない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おだやかすぎる秋川というひとに、こんなはげしいところがあるとは、思ってもいなかったので、サト子はおされて
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
居酒屋や食べ物屋のごとくで彼を釣ろうとするのもあるし、呉服屋や宝石屋のごとく洒落気しゃれけでとらえようとするのもあるし、理髪店、靴店
駕籠の中はヒッソリして、ほとんど血の通う人のはあるまじき様子です。眠っていたならば覚めねばならぬ、覚めていたならば起きねばならぬ。
私は、半ばにとられながら、その釦を押した。何処かで、かすかに合図のベルが鳴ったようだ——。どうも実に風変りなバー・オパールである。
白金神経の少女 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「うむ、かつをがするので皆な外の者共ア看視まもつて居る。俺等も行かんならんのやれど、誰も人が居らいで、今誰かに頼まうと思うて来たのやが。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
だが、職業柄、巡査丈けは、流石さすがにぼんやりしている訳にも行かず、を我慢しながら、兎も角も死体に近寄って、無惨な切口などを取調べた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今にもまんずるはいの断えず口もとにさまよえるとは、いうべからざる愛嬌あいきょう滑稽こっけい嗜味しみをば著しく描きいだしぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
死物狂いの逆寄さかよせなどをたくむようなぶりはなかったかな。いや、奥方に行き逢うたばかりでは、それも判るまい。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それより私、光ちゃんに子供出来たいうこと初耳ですけど、なんぞそんなエでもあったんですか」いいますと、「へえ? 初耳?——」いうて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
病に疲れてものうく、がさして、うっとりとして来るにつれて、その嫁入衣裳のキレは冷たい真白まっしろな雪に変る。するとそりの鈴の音が聞えて来る。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
女はない調子で低くかう云ふと、蒼褪あをざめた顔に、かすかな小皺をたゞよはせて冷やかに笑つた。そして「まあ御馳走の遅いこと。どうしたんだらう。」
重くわづらひたる人は、おのづから髪髭かみひげも乱れ、ものむづかしきけはひも添ふるわざなるを、痩せさらぼひたるしも、いよいよ白うあてなるして、枕を
私は産のが附いてはげしい陣痛の襲うて来る度に、その時の感情を偽らずに申せば、いつも男が憎い気が致します。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
その上、まぐろが熱し過ぎるというのは野暮やぼである。まぐろのなまを好まない人は余儀よぎないことであるが、前者のやり方の茶漬けに越したことはない。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
金を出してもらいに来ながら、下らない見栄みえをすると自分でも思ったけれ共、どんな人間でも持って居る「しゃれ」がそうさせないでは置かなかった。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
夜の空気を揺るがせて余音の嫋々を伝うるとき寒灯の孤座に人知れず泣く男の女房に去られてと聞いてもそのを嗤うよりは、貰い泣きするが情だ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
此だけの語が言いよどみ、淀みして言われている間に、姥は、郎女の内に動く心もちの、およそは、どったであろう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
わたしはかれのまっすぐな、かざのない性質が好きだったし、かてて加えて、この久しぶりの面会が、わたしの胸に呼びさましてくれた追憶ついおくのおかげで
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
時雨しぐれそぼふる午下ひるすぎ火の乏しき西洋間の教授会議または編輯へんしゅう会議も唯々わけなくつらきもののうちに数へられぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
喜久井町の自家うちに戻ると、もう彼れ是れ二時を過ぎていた。さて詰らなさそうに戻って見れば、家の中は今更に、水の退いた跡のようで、何のもしない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
今でもまだがあるのかもしれない。おたくの小説なんか、よく読んでいますよ。——あら、もうお銚子はから
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
お願いは、これまで君らの間に何事もなかったように、そんな振りも見せないようにして貰いたいのだ。僕としてはせいぜい彼女あれに尽してやって、また愛を
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
別府べっぷさんの口調くちょうねつしてきて、そのほおが赤くなるにつれて、星野仁一ほしのじんいちの顔からは、がひいていった。選手せんしゅたちは、みんな、頭を深くたれてしまった。
星野くんの二塁打 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
私達は誰にもどられずに路地を抜け出そうとする間ぎわ、向うからきょうはお竜ちゃんが一人きりでぶらっとくるのを認めて、大いそぎで物蔭へかくれた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それを聞くと、この滑稽作家が持前の悪戯いたづらはむくむくと頭をもちあげかゝつた。作家は一膝のり出した。
ハイドンの悪戯いたずらは、マリア・テレジアにお仕置しおきされて以来、死ぬまで続いた。諧謔好かいぎゃくずきで、陽気で、邪念のないハイドンは、子供好きで有名でもあった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼はわざと身じろぎして、隠れているなどとはにも見せないように、何やら大きな声でひとり言を言った。
そうしてこれはまざのない、心からの本当の軽さらしい。「桔梗様を目付けに行きますので。そうして是非とも桔梗様を、お見付けしなければなりません」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)