ころ)” の例文
元禄十一年(1698)に出版された貝原損軒そんけん(益軒)の『花譜』には「正保しょうほころはじめてもろこしより長崎へきたる」と述べ
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
お年のころなり御様子なり、てっきり貴方に違いないと、直ぐこちらへ飛んで参り、向うのあの荒物屋で聞いてお尋ね申しました。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「大津止泊のころ」という前書がついている。湖畔の家に泊って、行水をすました湯を月夜の湖に捨てる、というだけの事である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
青葉に黒味の強くなるころのことで日中は暑かったが、立山の麓になったこの宿屋では陽が入ると涼しすぎる程の陽気であった。
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一一〇五更ごかうそら明けゆくころ一一一うつつなき心にもすずろに寒かりければ、一一二ふすまかづかんとさぐる手に、何物にや籟々さやさやと音するに目さめぬ。
例の如く文人、画師えし、力士、俳優、幇間ほうかん芸妓げいぎ等の大一座で、酒たけなわなるころになった。その中に枳園、富穀、矢島優善やすよし、伊沢徳安とくあんなどが居合せた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
其大小の事は兎も角も彼大臣のころにして、此島の事未だ如何なることか今の世にさえ明かならざるに、よもしれもせまじくまた人家もあらざるやう覺ゆ。
他計甚麽(竹島)雑誌 (旧字旧仮名) / 松浦武四郎(著)
積不善の五六千円に達せしころ、あだかも好し、畔柳の後見を得たりしは、とらに翼を添へたる如く、現に彼の今運転せる金額はほとんど数万に上るとぞ聞えし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すぐころ福羽君に一寸ちょっと御目にかゝり、御咄おはなしきゝ候間、ちと/\三八在宿に候まゝ、御とまりがけにても御出待上候。万々拝顔のうへ申入候。めでたくかしく。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
この分厘にいたく倦きたるころとて、前途のおもんぱかりなく、やめにせばやとひたすらすゝむ、母君もかく塵の中にうごめき居らんよりは、小さしといへども門構への家に入り
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
余十一歳のころ、親族児玉氏片山忠蔵(即ち北海である。)の門人たるを以て、余を引いて名字を乞ふ。片山余が名を命じ、名こう字は千里とす。其の後片山氏京に住す。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夏のはじめつころ、天皇埴安はにやすの堤の上などにいでまし給ふ時、かの家らに衣をかけほしてあるを見まして、実に夏の来たるらし、衣をほしたりと、見ますまに/\のたまへる御歌也。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その年の暮はさほど寒さもはげしくはなく、もう二、三日で大晦日おおみそかが来ようというころになった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寛政のころに当りて、払朗察フランス国にポナパルテなる者あり、国乱を払い鎮めて自立して王たり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
... それ後の証拠なるべし。さる程に、あがるは三十四五までのころ、さがるは四十以来なり。返返かえすがえすこの比天下のゆるされを得ずは能を極めたりとおもふべからず。云々うんぬん。」またいう。
求よ爾は何如いかん。対えて曰く、方六、七十、しくは五、六十(里の国)、求これおさめば三年に及ばんころ、民を足らしむべし、その礼楽の如きは以て君子をたん。赤よ爾は何如。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
詔使到来を待つのころほひ、常陸介ひたちのすけ藤原維幾朝臣あそんの息男為憲、ひとへに公威を仮りて、ただ寃枉ゑんわうを好む。こゝに将門の従兵藤原玄明の愁訴により、将門其事を聞かんが為に彼国に発向せり。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
二十余年経て建長五年のころ、改葬せんとて墓をほりたりけるに、すべて物なし、なほふかくほるに、黄色なる水のあぶらの如くにきらめきたるが涌出わきいでけるを、汲みほせどもひざりけり
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大納言国経朝臣あそんの家にはべりける女に、いと忍びて語らひ侍りて行末までちぎりけるころ、此の女俄かに贈太政大臣(時平)に迎へられて渡り侍りにければ、文だにも通はす方なくなりにければ
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雲雀ひばりなく小田おだに土持つころなれや 珍碩
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そして、漁師が久兵衛の家に着いたのは八時やつに近いころであった。久兵衛と女房は午飯も喫わずに地炉の傍でぽかんとしていた。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
柄長くしいの葉ばかりなる、ちいさき鎌を腰にしつ。かごをば糸つけて肩に懸け、あわせみじかに草履穿きたり。かくてわれ庵を出でしは、の時過ぐるころなりき。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「大そうの長い櫛でございましたので、そのころの御婦人はお使なさらなかつたさうです、今なら宜しかつたのでせう」
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
いつのころより五三ともの津の袖といふ五四妓女あそびものにふかくなじみて、つひ五五あがなひ出し、ちかき里に別荘べつやをしつらひ、かしこに日をかさねて家にかへらず。
我等は毎歳春三月のころ渡島し、七月上旬皈帆の節獵舟獵具等を小屋に納め置、翌年渡島の節まで毫も差違なかりしに、去年元祿五年より小屋をあばほしいままに器械を奪ひ
他計甚麽(竹島)雑誌 (旧字旧仮名) / 松浦武四郎(著)
前の年には妻を迎えこの年には新に家を築造したのみならず、枕山はそのころに至って自らその詩風の旧調を脱して新生面を開き来ったことを知り欣喜きんき措くべからざるものがあった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わづかに幾局の勝負を決せし盤の上には、ほとんど惜き夢の間にれて、折から雨もれたれば、好者すきものどももつひ碁子きしをさめて、惣立そうだちに帰るをあたかも送らんとする主の忙々いそがはしともすころなり
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小佐川といふ処に至らんとするころは未申の刻も過ぎつらんと覚えて、山の色もいとくらく、殊にきのふよりしめやかに雨降りて、日影もさだかには知れず、先の宿までは又三里もあれば
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
子路率爾そつじとしてこたえて曰く、千乗の国大国の間にはさまりて加うるに師旅しりょを以てしかさぬるに饑饉ききんを以てせんとき、ゆうこれをおさめば、三年に及ばんころ、勇ありみちを知らしめん。夫子之をわらう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
京管領細川右京太夫政元は四十歳のころまで女人禁制にて、魔法飯綱の法愛宕の法を行ひ、さながら出家の如く、山伏の如し、或時は経を読み、陀羅尼だらにをへんしければ、見る人身の毛もよだちける。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「又思ふに、幸の時は、近き国の民をめしオフスる事紀にも見ゆ、然ればさきだちて八九月のころより遠江へもいたれる官人此野を過る時よみしも知がたし」(考)という想像説を既に作っているのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
此の歌は、国経卿そのころよみ給ひけるとぞ
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はつ雪の降出すころや昼時分 傘下
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そして、鵜が四五ひきの魚をのどに入れたと思うころを見はからって、鵜匠は手縄てなわいて舟に曳き寄せ、ぐいとその喉を絞ってうおるのであった。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
過るころ天地あめつちも砕けぬばかりのおどろ/\しき音して地ふるふに、枕上まくらがみ燈火ともしび倒れやせむと心許なく、臥したるままにやをら手を伸べつつ押さへぬ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
商人となりて京に一〇まうのぼらんことを頼みしに、雀部いとやすくうけがひて、いつのころはまかるべしと聞えける。
なつころ染殿そめどの辰巳たつみやま木隱こがくれに、君達きみたち二三人にさんにんばかりすゞんだうちに、春家はるいへまじつたが、ひとたりけるそばよりしも、三尺許さんじやくばかりなる烏蛇くろへび這出はひでたりければ、春家はるいへはまだがつかなかつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕等は曾て少壮のころツルゲネフやフロオベル等の文学観をよろこび迎えたものである。歴史及び伝説中の偉大なる人物に対する敬虔の心を転じて之を匹夫匹婦が陋巷の生活に傾注することを好んだ。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
明日あすうまころ、この傍のみちを旅人が通るから、そのかさを飛ばして、それをりに水に入って来るところを引込んで、その体を借りるつもりだ」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「まちまちし秋の半も杉のかどをぐらきそらに山風ぞふく。これは旧作也。此ころの事ゆゑ書候。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
僕も年少のころ吉原遊廓の内外ではしばしば無頼の徒に襲われた経験がある。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
五月雨のころは過ぎて世は七月の暑い世界となった。某日あるひの夕方平太郎と権八の二人は、二筋川の方へ納凉に往っていた。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蘭軒の門人等が「蘭軒医話」を著録したのは此ころの事であつたらしい。此書は其筆授者に従つて異同がある。山田椿町ちんていの校本には「附録一巻」があつて、此二月十四日の識語がある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
何時のころのことであったか、高崎の観音山の麓に三人の小供を持った寡婦が住んでいた。それはある歳の暮であった。
白い花赤い茎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
朝餉あさげおわころには、藩邸での刻の大鼓たいこが鳴る。名高い津軽屋敷のやぐら大鼓である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その日ひる近いころであった。広巳は山内容堂やまのうちようどうの墓地のある間部まなべ山の近くを歩いていた。広巳の気もちは混沌こんとんとしていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
孔子こうし堯舜ぎょうしゅん三代の道を述べて、その流義を立てたまへり。堯舜より以下を取れるは、其事のあきらかに伝はれる所なればなり。されども春秋のころにいたりて、世変り時うつりて、其道一向に用ゐられず。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
未だ二月の余寒の強いころにあっては、蠅は珍らしかった。九兵衛はもう蠅の出る時候になったのかと思ったが、それにしてもあまり早すぎるのであった。
蠅供養 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
余は幼きころより嚴しき庭の訓を受けし甲斐に、父をば早く喪ひつれど、學問の荒み衰ふることなく、舊藩の學館にありし日も、東京に出でゝ豫備くわうに通ひしときも、大學法學部に入りし後も
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
それはじぶんが私立大学を卒業して、新進の評論家としてかたわら詩作をやって世間から認められだしたころの姿であった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)