散々さんざん)” の例文
君太夫が散々さんざん「武家出」と云っていたが、怪しいと思って、茶の手前をみると、通仙の娘である。貞柳の友人の子だから上手である。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
くろい大鷲おおわしは、伊那丸の頭上をはなれず廻っている。砂礫されきをとばされ、その翼にあたって、のこる四人も散々さんざんになって、気をうしなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五千年前から黄河治水を専門の学者政治家が散々さんざん智恵をしぼっても、今日に至るまで、全然五千年間定期洪水の起るがままである。
武者ぶるい論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして、最後さいごは、火花ひばならす、突撃戦とつげきせんでありました。てき散々さんざんのめにあわして潰走かいそうさしたが、こちらにもおおくの死傷者ししょうしゃしました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
人気が衰えた訳でもなく、雑誌記者などは散々さんざん彼の行衛を探し廻った程であったが、どうした訳か、彼はまるで行衛不明であった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とはいったが、それもお松には、一時の気休め言葉のように思われて、自分の部屋へ転げこむと、金包を抱いて散々さんざんに泣きました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
素六そろくなんざ、お前が散々さんざん甘やかせていなさるようだが、今の中学生時代からしっかりしつけをして置かねえと、あとで後悔こうかいするよ
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
散々さんざんぱら悩まされた五芒星呪文の正体が、ものもあろうに、ルイ十三世朝機密閣ブラック・キャビネット史の中から発見されたのだよ。いや言葉を換えて云おう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
きょうも散々さんざんパラ遊んだあげくに、もとの寝台にかえってさし向いになると、又おんなじ事を云ったから、妾は思い切って冷かしてやった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日は下谷長者町の筆幸ふでこうへ出かけて行って、そっと息子の幸吉にだけ会い、こういって散々さんざんおこり散らした村井長庵だ。そんな筈はないがなア。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かの子 ただ何となく垢抜あかぬけした感じがします。あれは散々さんざん今の新しさが使用しつくされた後のレベルから今いちだん洗練をた後にうまれた女です。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこでお礼として豚の頭を貰って来て、奥からなたを借りて来て、ず解剖的に脳だの眼だのく/\調べて、散々さんざんいじくった跡を煮てくったことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、この苦悩は巨人を殺すために与えられたむちではなかった。絶望と孤独が、散々さんざんに大きな魂をさいなみ続けた末、巨人は豁然かつぜんとして大悟したのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
散々さんざんパラ考えぬいた揚句、面倒になったのでダダイズムという奴を発明(しかしこれは本家がいる)したのだが、それがまた一ツの重荷になってしまった。
風狂私語 (新字新仮名) / 辻潤(著)
「どうして、おばさん、未だナカナカですよ」とお倉は笑って、「名倉さんの旅舎やどやで御酒が出るんですもの。散々さんざん彼処あすこで祝って、それからでなければ——」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どうもこの文無しで宿を取る人間に限って、大きな顔をして威張り散らして、散々さんざん大尽風だいじんかぜをお吹かせの上、いざ御勘定となると、実は、とおでなさいます。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
折角の書入れ日に雨は降る、姐さんには休まれる、いやいや散々さんざんですと、楽屋番の豊吉がこぼし抜いていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある時、裏の方ではげしい犬の噛み合う声がするので、て見ると、黒と白とが彼天狗てんぐいぬ散々さんざん咬んで居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それで要するに私の級がかちになって、皆は私を擁して喜んだが、そのかえりがけ一人になったところを、米村一派の連中から取りまかれて、散々さんざんになぐられたのだった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
永代えいたいの橋の上で巡査にとがめられた結果、散々さんざん悪口あっこうをついてつかまえられるなら捕えて見ろといいながら四、五人一度に橋の欄干から真逆様まっさかさまになって水中へ飛込み、暫くして四
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
散々さんざん苦労くろうばかりかけて、んのむくゆるところもなく、わか身上みそらで、先立さきだってこちらへ引越ひきこしてしまった親不孝おやふこうつみ、こればかりはまったられるようなおもいがするのでした。
さる方にて計らず一人の美き女に逢ひ候処、の錦をばはなやかに着飾り、先の持主とも知らず貧き女の前にて散々さんざんひけらかし候上に、恥まで与へ候を、彼女かのをんなは其身のあやまりあきらめ候て
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれども君の手紙に依れば、君は散々さんざんの恥辱を与えられたという事になって居りました。嘘ばかり言っている。君は、ことさらに自分を惨めに書く事を好むようですね。やめるがよい。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし私はこの父の厳しい譴責けんせきによって、つくづく自分の非を悟りましたので、散々さんざんその場で父に謝罪を致し、以来決して不心得を致しませんによって、今度だけはお許しを願いますと
里で散々さんざん練習をして来たよい口上こうじょうで、新たな家の姥と対談している姿を、眼をまんまるくして傍聴していた小娘たちが、それを自分たちの遊戯の名とし、または中心としようとした気持は
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『ああ貴方あなたもここへれられましたのですか。』とかれしわがれたこえ片眼かためほそくしてうた。『いや結構けっこう散々さんざんひとをこうしてったから、こんどは御自分ごじぶんわれるばんだ、結構々々けっこうけっこう。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その塩鯖の※包かわづつみを手にするやいなやそれでもって散々さんざんに源三をった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
飛上がったと思うと、もう一遍にはたき落す。それから散々さんざん玩具にした揚句あげくに、空腹だとむしゃむしゃと喰ってしまうのである。猫の神経の働きの速さと狙いの正確さには吾々人間は到底かなわない。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「そらもううちは阿呆あほやよって、そない散々さんざん利用しられて、道具に使われて、踏みつけにしられながら、今の今まで此処ここから先も気イついたことあれへなんだ。それにしてもまあ何んちゅうことやろ。——」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つめたい頭腦で遠慮無く散々さんざんけなしてもらひませう
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「あれ、あの石橋しゃっきょうの欄干に腰かけて、さっき散々さんざん、わが輩を苦しめやがったさい坊主と行者のきゅうしょう一が、まだ執念ぶかく見張っている」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この重大事件を予め知っていながら其筋そのすじに届けでなかった不都合を散々さんざんに責められたが、彼が知名の実業家の息子であったこと
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
万一射ちころされたとしても散々さんざん甘味うまみな酒にれたあとの僕にとって『死』はなんの苦痛でもなければ、制裁とも感じない。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いし散々さんざんにお神酒みきをいただいて行った形跡もあります。矢大臣の髯を掻きむしって行ったのもこのやからの仕業と覚しい。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いよ/\上手じょうずのように思われておよそ一年ばかりは胡摩化ごまかして居たが、何かの拍子ひょうしにツイばけの皮が現われて散々さんざんののしられたことがある、と云うようなもので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さりとて今さら仕様もないので、彼は市五郎の看護を他の人びとにたのんで、自分だけはひとまず城内へ戻ることにした。戻ると、果して散々さんざんの始末であった。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
君も散々さんざん聞かされた……そこで卒業と同時に、火の玉のようになって日本を飛び出して朝鮮に渡ったのが、ちょうど水産調査所官制が公布された明治二十六年の春だったが
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
汽車で明す夜といえば動揺する睡眠に身体からだも頭も散々さんざんな目に逢う。動いて行く箱の中で腰の痛さに目が覚める。皮膚があかだらけになったような気がする。いろいろなごみが髪と眼の中へ飛込む。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
落城後らくじょうごわたくしがあちこち流浪るろうをしたときにも、若月わかつきはいつもわたくし附添つきそって、散々さんざん苦労くろうをしてくれました。で、わたくし臨終りんじゅうちかづきましたときには、わたくし若月わかつき庭前にわさきんでもらって、この訣別わかれげました。
浅野内匠頭が短慮のために、いかに多くの家臣や、その家族の者たちが、みじめな姿を、散々さんざんに、ちまたにさらして泣いた事か——その実例を
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎夜、一旦、ここへ集まって踊りの音頭を揃えた連中が、散々さんざんに踊り抜いて、おのおのその土地土地へ踊りながら帰る。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
嘘もけばこびも献じ、散々さんざんなことをして、藩の物をただ取ろう/\とばかり考えて居たのは可笑おかしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
散々さんざんなぐって気絶させ、それからあの塀を越えてあの石炭の吊り籠に載せる。それだけでよいのだ。あとはあの殺人器械がドンドン片づけてくれる。ここのところを見給え。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その中に立ちまじって毎日叱られたり小突かれたり、散々さんざんひどい目に会わされた上に、万一病みわずらいになった暁にも、まわりが他人ばかりでは碌に看病してくれる者もあるまい。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
餌を一つやるにも、思う存分芸当をやらせて、散々さんざん楽しんでから、やっと投げ与えるという風で、非常に面白いものだから、私はニヤニヤ笑いながら、いつまでもそれを見物していた。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
散々さんざんに井戸へ当り散らした神尾主膳は、投げ捨てた槍を拾い取って、この土蔵をめがけて突進して来ました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一座をひきいる丸木花作まるきはなさく鴨川布助かもがわぬのすけとが散々さんざん観客を笑わせて置いて、定紋じょうもんうった幕の内へ入った。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山国の遅桜おそざくらが、いまの一の狂風に、どこからともなく散々さんざんに花をくだち降らしていたらしい。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「愈々俺は道化役者だ。まさか最初の発見者が百姓の小せがれだろうとは思っても見なかった。これで散々さんざんこいつらのおもちゃになって、珍妙な恥さらしを演じて、それでおしまいか」
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこか此処ここかと声するかたを辿って行くと、いやが上にも生い茂れる熊笹や歯朶しだの奥に於て、たしかに人のうめくを聞いた。そこらの枝や葉は散々さんざん踏躪ふみにじられて、紅い山椿のつぼみが二三輪落ちていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)