ひら)” の例文
まだディケンズ流の手法によって書いていた『失踪者』とはちがい、この『判決』は新しくカフカ独自の方法をひらく作品となった。
近頃になっては、昭和五年に世界各国は金禁止に伴って関税障壁を競い出した。鼈長のひらきかけた鼈甲製品の販路もほとんど閉された。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この絶好な機会へ、家康の意が向いたやさきへ、愚かにも、その虎視へ道をひらいて与えた者こそ、相州小田原の北条新九郎氏直うじなおだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半年か一年家政婦をたのんだ気もちで気らくに暮してみたら何かひらける道がないかとまでいったが、彼はまるで恐怖しているようだし
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
谷といっても水はないし、崖を切ひらいて五百坪ばかりの台地を造り、荒壁の貯蔵庫が三棟、ほかに番士たちの住む丸太小屋が三棟ある。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或いは首きりをしなければ運命をひらくことができない、どんづまりの生活に落ちこんでいるか、その何れかの人間たちであった。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
このことは、日本の国典研究に大きな影響を与へ、難解とされてゐた国学書、就中なかんづく国文学書の一般的研究に、一筋の道をひらいたのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
彼等ハ、先ヅ荒土ヲひらイテ種ヲキタリ。熟土ヲ耕ストハ事変リ、前人未開ノ地ニ、原始ノ鍬ヲ用フルノ困難ハ知ル人ゾ知ラン。
そして科学の仕上仕事は前者の人によっても出来るであろうが、本統に新しい科学の分野をひらく人は後者の型ではなかろうか。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ね、昔は吉野の花見と云うと、今のように道がひらけていなかったから、宇陀うだ郡の方を廻って来たりして、この辺を通る人が多かったんだよ。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
樺林かばばやしひらいて、また一軒、熊笹と玉蜀黍とうもろこしからいた小舎こやがある。あたりにはかばったり焼いたりして、きびなど作ってある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
このあたりは徳川幕府の調練場となり、維新後は桑茶くわちゃ栽付所うえつけじょとなり、更にひらかれて町となった。昔は薬園であったので、町名を元園町という。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『らんぷや御難ごなん』は「ひらけゆく電気」に書いたもの。これは卑近ひきんな生活の中に、科学を織りこんだもので、これまた一つの型だと思っている。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分の仕えている主人と現在の職業のほかに、自分の境地をひらいてゆくべき欲求も苦悶もなさすぎるようにさえ感ぜられた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
幾多の人びとは独歩のひらいた「武蔵野」の道を歩いて行つたであらう。が、僕の覚えてゐるのは吉江孤雁こがん氏一人だけである。
このほこらいたゞく、鬱樹うつじゆこずゑさがりに、瀧窟たきむろこみちとほつて、断崖きりぎし中腹ちうふく石溜いしだまりのいはほわづかひらけ、たゞちに、くろがね階子はしごかゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
事によると人がひらきに入った以前には、それより古い地名は一つもなく、多くの標前地名はかえって土着より後の仕事で
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
が、ともかく一族の中では、どのくらい幸運な部に属する自分か分らないと思って、彼は一生懸命に自分のほんとの道をひらくべき努力をつづけた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
会津あいづ藩士がつくったヨイチ郡黒川くろかわ村、山田村、伊達だて藩士がひらいたウス郡モンベツ村、イシカリ郡トウベツ村その他等々。
そして持前の根強い力で一人ぼつちの寂しい道をひらいてかうとはしたが、女の身にとつて掛替のない愛人の死はたとへがたない重荷であつた。
それはいかに荒れた色彩に乏しいものにしても私が血と涙とをもってひらきし大切な道である。私をどこか私に適した世界に導いてくれるであろう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
よき仕事をそうというのではなくして、それへの正しき準備をなすのである。あるいは結果を求めるのではなくして、結果への道をひらくのである。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
前途をきりひらこうと腐心している阿賀妻らの態度と、それを不甲斐なく見るもののあるのも是非ないことであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
時々に過ぎる雲のかげりもなく、晴れきった空だ。高原をひらいて、間引いたまばらな木原こはらの上には、もう沢山の羽虫が出て、のぼったりさがったりして居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あるいは書中いへるものよりも一歩を進め二歩をひらきて向上に路を示すを得ば余の目的は達したりといふべし。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それかと言って、仏蘭西フランス側に新たな花園がひらかれたでもありません。国境一つで全然地質が違うと見えます。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
彼はいかにして砂地すなじを田園に化せしか、いかにして沼地の水をはらいしか、いかにして磽地いしじひらいて果園を作りしか、これ植林に劣らぬ面白き物語ものがたりであります。
従来僧侶に従属した状態になっていたものがこの際神職独立の運命がひらけて来たのですから、全く有難い。
それらの人は別におそろしいとは思わない。広く解し深く解し、鋭意それによって新しい境地をひらいてゆく人には、なんだか恐しいような尊敬の念が起るのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
併しヨーギは十二の少年ながら、一層元気に、草を刈り灌木を伐り倒して、父親の鍬先をひらいて行った。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一気に繁昌はんじょうおもむいたが、もとよりあまねく病難貧苦を救うて現安後楽の願ひを成就じょうじゅせんとの宗旨しゅうしであれば、やがて江州ごうしゅう伊吹山いぶきやまに五十町四方の地をひらいて薬草園となし
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
この笠松はその昔「あし」ととなえた蘆荻ろてきの三角洲で、氾濫する大洪水のたびごとにひたった。この狐狸こり巣窟そうくつあばいて初めてひらいたのがの漂流民だと伝えている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
お鷹匠ばかりでなく、三宅侯の邸内にはあの画技に勁烈けいれつな意気と共に軽妙な写生の一面をひらき、現実に早くから目を醒ましていた蘭学者の渡辺崋山が住んでいたのである。
あの人の行くべき道は今僅ながらひらけて来た。私と云ふものが傍に居るから、友人も同志もあの人に離れて居るけれど、独りになつてしまへば、誤解もとけ、嘲笑もきえる。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
山肌にひらかれたわずかの田畑は、自儘じまま馬蹄ばていに掘りかえされるし、働き手の男は、山人足に狩り出される。その上、何やかやの名目で取り立てられる年貢、高税の数かず——。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
西北諸蛮しょばん概して地を奪い疆域きょういきひらくを以て勢とす。威力日に強く、また航海の術に長ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
十二曲の交響曲詩シンフォニック・ポエムを書いて、楽壇に大きな時代をかくし、近代音楽の黎明れいめいの鐘を高らかにき出したフランツ・リスト、——一面においてピアニストとして前人未踏の境地をひら
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
このごろ自分の郷里が外人のおほく集つてくる避暑地としてひらかれだしてゐるのを知ると、こんな事をして妻子をかかへながらうろうろしてゐるよりはと、自分の家に戻つてきて
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
もし長くその椅子に坐していたら必ず新生面をひらく種々の胸算むなざんがあったろうと思う。正倉院しょうそういんの門戸を解放して民間篤志家の拝観を許されるようになったのもまた鴎外の尽力であった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
肉のとり方がとても巧く、如何にも木というものを意識しているところがあって、新しい面をひらいている。そういう意味であの像はなかなかいいと思う。天平の乾漆は概して皆よい。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
そんな頑丈な身體をしてるし、辛抱強いのに、机の前でいぢけてるのは詰まらないぢやないか。先日こなひだ山から見た島を借りて桃を栽ゑても、後ろの禿山はげやまひらいても何か出來さうぢやないか。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
その上の二千尺もあろうという坊主山でふさがれ、後ろの杉や松の生えた山裾の下の谷間は田や畠になっていて、それを越えて見わたされる限りの山々は、すっかり林檎畠にひらかれていた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
その竹藪はぎ倒され、逃げて行く人の勢で、みちが自然とひらかれていた。見上げる樹木もおおかた中空でぎとられており、川に添った、この由緒ゆいしょある名園も、今は傷だらけの姿であった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
保存食肉は単に食肉を保存するために発明されたのだろうか? いや、諸君の内なるすべての新大陸と新世界とのためのコロンブスとなり、貿易のではなく思想の新しい航路をひらきたまえ。
広々ひろびろとしたはたけが、みずしずくなか宿やどっていました。しかも、無限むげんに、ふかく、ふかく、とおく、とおく、そのしずくなかひらけていたのです。そのはたけには、黄色きいろな、かぼちゃのはながいくつもいていた。
ロイドは、自発的に勤労を申出た二百人の土人を指揮して、未明から、ヴァエア山巓さんてんへの道をひらいていた。其の山頂こそ、スティヴンスンが、生前、埋骨の地と指定して置いた所だった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その子供のえる数は統計がないからくわしい事は分りませんが、余程沢山なものだろうと思われる。ネパール国内は日本の山家の土地がひらけて居るように、どこへ行っても田畑が拓かれてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
自分の頭にたかツたはひは、自分で逐ふさ。つまづいたツて、倒れたツて、人は何でも自分の力で、自分の行く道をひらいて行ツた方が、一番安心だ。それがまた生存せいぞんの意義にも適してゐるといふもんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
なぜこれらの富を守り栄えしめることによって、沖縄の運命を切りひらこうとしないのでしょうか。貧しい一面よりも富める一面をよくよく理解することが、真に沖縄を救う道ではないでしょうか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
多くの門弟を引きつれて来て峻嶮しゅんけんを平らげ、山道をひらき、各国に信徒を募ったり、講中を組織したりして、この山のために心血をささげた覚明、普寛、一心、一山なぞの行者らの気魄きはくと努力とには
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)