憤慨ふんがい)” の例文
耕吉は酒でも飲むと、細君に向って継母への不平やら、継母へ頭のあがらぬらしい老父への憤慨ふんがいやらを口汚なくらすことがあった。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
親方はどうどうとした様子であった、かれはれいの美しいしらが頭をまっすぐに上げて、その顔には憤慨ふんがい威圧いあつ表情ひょうじょうがうかべていた。
今より六、七十年前、英国の思想家のあいだに基督教キリストきょう柔弱にゅうじゃくに流るるを憤慨ふんがいして、いわゆる腕力的基督教マスキュラークリスチャニーチーを主張したものがあった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
魯侯は女楽にふけってもはやちょうに出なくなった。季桓子きかんし以下の大官連もこれにならい出す。子路は真先に憤慨ふんがいして衝突しょうとつし、官を辞した。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
すると老浮浪者は、ごそごそする髯面ひげづらを左右にふった。道夫はそれを見ると、さっきからこらえていた憤慨ふんがいを一時に爆発させて
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うれしいような、ずかしいような、それでいて憤慨ふんがいしたいような、変にこんがらかった感情が、かれの胸の中に渦を巻いていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わたしが軽騎兵への返事に、非常な憤慨ふんがい一瞥いちべつをくれたので、ジナイーダは手をたたくし、ルーシンは「でかした!」と絶叫ぜっきょうするさわぎだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
このひとはだ少女ではないか、それを汚れた眼鏡でみるなんて、と、ぼくは憤慨ふんがいしながら、あなたの話を聞いていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
憤慨ふんがいした権藤亥十郎の脱城はそれから間もない後に行われた。村重は、甚だしく怒って、その不忠をののしったが、家中の多くは沈黙の中にいた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしは先年支那へ遊んだ時、揚子江やうすかうさかのぼる船の中で、或るノオルウエイ人と一緒いつしよになつた。彼れは、支那の女の社会的地位の低いのに憤慨ふんがいしてゐた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
阪井の乱暴については何人なんぴとも平素憤慨ふんがいしていることである。人々は口をそろえて阪井を退校にしょすべきむねを主張した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それにきかへて日光につこうにある徳川氏とくがはしびようがあのとほり立派りつぱなのをて、蒲生君平がまうくんぺいなどが憤慨ふんがいして尊王そんのうねんおこしたので、まことにむりのないことであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「そんだつて箆棒べらぼうわけ衆等しらだつてさうだことばかりするものぢやねえ、つまんねえ」憤慨ふんがいしてかういふものも
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ハア、折角せつかくの日曜も姉さんのいらつしやらぬ教会で、長谷川の寝言など聞くのは馬鹿らしいから、今朝篠田さんを訪問したのです、——非常に憤慨ふんがいしてでしたよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
美禰子さんはひどく憤慨ふんがいして書生の無礼を叱ったが何の利目もない。いたずらが過ぎたのだ。二人の扮装が余りによく出来たので、書生にさえ見分けがつかぬのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
といって、審査員が、そんなに顔をつぶされても、そのために辞職もしないで、平気な顔をして審査員の職にいるし、出品者も、それに憤慨ふんがいして出品しなくなるわけでもない。
国民性の問題 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
源四郎はもちろん妻のしぶりに同情どうじょうしているが、さりとてまま母の冷淡れいたん憤慨ふんがいするでもない。だまって酒を飲み、ものを食っている。雨はいよいよ降りが強くなってきたらしい。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
社の方でも山田やまだ平生へいぜい消息せうそくつまびらかにせんと具合ぐあひで、すき金港堂きんこうどうはかりごともちゐる所で、山田やまだまた硯友社けんいうしやであつたため金港堂きんこうどうへ心が動いたのです、当時たうじじつ憤慨ふんがいしたけれど
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こういって、憤慨ふんがいした、職人しょくにんふうのおとこもいました。すずめをかわいそうにおもったのは、二人ふたり少年しょうねんだけではありません。ここにってているものが、みんなこころにそうおもったのです。
すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
強盜がうとう間違まちがへられた憤慨ふんがいまぎれに、二人ふたりはウン/\あせしぼりながら、一みちさかい停車場ていしやばで、其夜そのよ汽車きしやつて、品川しながはまでかへつたが、新宿しんじゆく乘替のりかへで、陸橋ブリツチ上下じやうげしたときくるしさ。
頭に氷袋をつけたまま私は走って岩谷の店先に行って、それが依然として赤いのをみて非常に憤慨ふんがいして帰って来た。とも角も、松平翁は一種の鬼才を持ったえら物であったのだろうと思われる。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
彼はそれを憤慨ふんがいしているが、むしろ彼の真の怒りは基督キリスト教に向っていた。
などと、憤慨ふんがいして帰って来ることもあったが、しかしそれは複雑した心の状態を簡単に一時の理屈りくつで解釈したもので、女の心にはもっとまじめなおもしろいところがあることがだんだんわかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あれ、またおとうさんが テン太郎のゆめの話で憤慨ふんがいしてゐますよ
と、クニ子らしい憤慨ふんがいのしかたをした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
Cの母堂ぼだうまで憤慨ふんがいした。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
小山嬢はひたいに青筋をたてて憤慨ふんがい面持おももちで突然闖入ちんにゅうしたる背の高い美女をにらみつけている。美貌の青年は、にやりと笑っている。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
信雄の無節操むせっそう弾劾だんがいし、出し抜かれて、窮地に立った徳川方の立場を——また天下への面目をどうするか——と、みな悲涙をたたえて憤慨ふんがいした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浦和中学の三年生と二年生はいつも仲が悪かった、年少の悲しさは戦いのあるたびに二年が負けた、巌はいつもそれを憤慨ふんがいしたがやはりかなわなかった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
折々青年にして時々の新聞を見て大いに憤慨ふんがいし、その日の感情により自分の将来の職業を定めんとする者がある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ぼくははなはだ、憤慨ふんがいしたが、弱いのだから止むを得ません。ただ、半べそをきつつ、「ひどいわ。意地悪」と叫んでいる内田さんに、たいへん愛情を感じました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
恐れる代りに憤慨ふんがいした。手品使いみたいな怪賊の悪戯いたずらいかった。で、彼も亦、弟の二郎などと同じ様に、賊を探し出し引捕えることを心願する一人となった訳である。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しからんな。名の為にじつを顧みないに至つては閥族ばつぞくの横暴もきはまれりだ。」と憤慨ふんがいした。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たとえだれの手であろうと……よしんばどんな可愛かわいらしい手であろうと、それでぴしりとやられたら、とても我慢がまんはなるまい、憤慨ふんがいせずにはいられまい! ところが、一旦いったん恋する身になると
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「しかし、それは時局がら憂うべき傾向だなんて憤慨ふんがいした人もいたからね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
石橋いしばしわたしとのこの時の憤慨ふんがいふ者は非常ひじやうであつた、何故なにゆゑ山田やまだ鼎足ていそくちかひそむいたかとふに、これよりさき山田やまだ金港堂きんこうどうから夏木立なつこだちだいする一冊いつさつを出版しました、これ大喝采だいくわつさい歓迎くわんげいされたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
老人ぢいさん憤慨ふんがいへぬやうにかためたこぶしひざがしらへてゝいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「おじさんは、うそつきだね。」と、おとうとは、憤慨ふんがいしました。
緑色の時計 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は笹川への憤慨ふんがいを土井に言わずにはいられなかった。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
と、いかにも若者らしい感情を頬に燃やして主税は憤慨ふんがいするのだった。——それはつい昨日きのう晦日みそかに起った事なのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうがかつて吉田松陰よしだしょういん先生のじゅくにいたとき、一夜、他の塾生じゅくせいとともにを囲んで談話しているあいだに、公は時の長州藩ちょうしゅうはんの家老が人を得ないことを憤慨ふんがいした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なお本職を指して米国べいこく市俄古シカゴ悪漢ギャング団長アル・カポーンに買収されたる同市警察署長某氏に比するものあるは憤慨ふんがいを通り越して、そぞろ噴飯ふんぱんを禁じ得ざるなり
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お膳が運ばれた、チビ公は小さくなってへやの隅にすわった、かれは今日きょうこの席へこなければよかったと思った。いろいろな空想は失望や憤慨ふんがいにともなって頭の中に往来した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
刑事は、民間探偵のひとりぎめの処置を、しきりと憤慨ふんがいしています。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
くちてゝ憤慨ふんがいへぬものゝやうにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すると、すえおとうとが、二人ふたり言葉ことば憤慨ふんがいをして
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
犯行の動機は、カフェ・ゴールデン・バットで金のために女を奪われたことを極度に憤慨ふんがいしたためだった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『もう、議論は飽いたな。憤慨ふんがいもよそう。要するに、るか為らないかだ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、いくら憤慨ふんがいして見たところで、水が引く訳ではなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「日本人だったら、僕は憤慨ふんがいするなあ。しかしS国というのは悪魔のようなことを平気でやる国ですね」
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)