しやう)” の例文
そしてまた、こゝにも、あらゆるまどはしの麦は芽を噴いてゐる。しやうこりもなく、情緒に誘はれるアダム……。神は無数に種子をいた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
長時間そこに立ち盡し、あれこれと氣を使ひ、最後に金を受け取る頃には、彼等は何となくこらしやうをなくして了つてゐた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
御米およねおれしやう餘程よつぽどわるいとえるね。うやると大抵たいていうごくぜ」と下齒したばゆびうごかしてせた。御米およねわらひながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
誰にでも突掛つゝかかりたがる興世王も、大親分然たる小次郎の太ッ腹なところはしやうに合つたと見えて、其儘そのまゝ遊んで居た。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おれのは憎いんでもないければ可愛かあいいといふんでもない………たゞしツくりしやうが合はんといふだけのことなんだ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
やがては、またヒステリしやうに落ちるのだらうと思ふと、どうしても、早くかの女の面前から遠ざかりたくなる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
こんな近くにあるものを、あんなに遠くまで探しに行くなんて、私の考へはよほどごろつきしやうにちがひない。
したゝか過ぎるほど強かな感じのする商人ですが、一人娘を喪つた悲歎は、しやうも他愛もなく身に沁みるのでせう。
ユウゴオのいた絵の多いのに驚いた。ロマンチツクな物ばかりではあるが、たしかな写実が根柢こんていと成つて居る。故人の狂𤍠と沈毅としやうとがそれ等にも窺はれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かど一足ひとあし出て、外の風にあたると、一町も千里もおんなじだと氣が輕くなつてしまふのにと、いふと、おつくうがるしやうなのを知つてゐるものは手を叩いて笑つた。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
で、たゞもんめ連出つれだ算段さんだん。あゝ、紳士しんし客人きやくじんには、あるまじき不料簡ふれうけんを、うまれながらにして喜多八きたはちしやうをうけたしがなさに、かたじけねえと、安敵やすがたきのやうなゑみらした。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何か無風帯へでも入つて来たやうなのんびりした故郷の気分が私のしやうに合はないのか、私は故郷へ来ると、いつでも神経がいらつくやうな感じだが、今もいくらかその気味だつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
縁と申すものは不思議なものでございますね。夢にも考へてをりません船の上の、云はゞ命がけといふ仕事でございませう。それが、ぴつたりわたくしのしやうに合ひましたんです。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「いや、完くしやうに合はないとみえて、未だにとんと眼くらの垣覗きさ。」
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
困るねえ、うけたまはりますればなに御邸おやしきから御拝領物ごはいりやうものきまして私共わたくしどもまでお赤飯せきはん有難ありがたぞんじますついで女房にようばうよろしくてえんだよ。亭「え。妻「本当ほんたうに子供ぢやアなし、しやうがないね、しつかりおしよ。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
誰も相手にしないしなびた男——この男のところへ、しやうの悪い女ではあるが、事件屋と一しよに呶鳴どなり込んで来ると云ふやうな出来ごとがあつたので、少からず驚いて、アパートの人たちは珍しげに
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「……お嬢さんには……」とばれた。他の言葉はお蝶には聞きとれなかつた。しやうは、とつくに悟られてゐて、かへつて冷かされたのではないかしら(お嬢さん、だつて!)——お蝶はそんな気がした。
お蝶の訪れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「異人の食べるお料理は、どうもしやうに合はないもんと見える。」
しやうを変へむと、十五より。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
柔和にうわしやうそなふれど
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
このをんなにはうま故郷こきやうみづが、しやうはないのだらうと、うたぐればうたぐられるくらゐ御米およね一時いちじなやんだこともあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
隅の方には古いながらも前桐まへぎり箪笥たんすも一本置いてあツて、其の上に鏡臺きようだいだの針箱だのがせてある。何れもしやうの知れたものだが、手入が可いので見榮みはえがする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
誰でもさうだらうが、私も体が弱るにつれて、それが悪臭なら無論、芳香であつても、すべてのにほひといふにほひには全くこらしやうがなくなつてしまふのである。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
フトその扱帶に手を觸れた平次は、この柔かく細く、しやういたんだところもない扱帶で、健康な十八娘を、聲を立てさせずに殺せるものか、それを考へてゐた樣子です。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
中にはちとしやうが悪くて、骨董商の鼻毛を抜いて所謂掘出物をする気になつてゐる者もある。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
さつせえ、いまに太陽様おてんとうさまさつせえても、濠端ほりばたかけて城跡しろあとには、お前様めえさま私等わしらほかには、人間にんげんらしいかげもねえだ。偶々たま/\突立つゝたつて歩行あるくものは、しやうくねえ、野良狐のらぎつねか、山猫やまねこだよ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いてえ、なにをするんだ。妻「あんま向脛むかうずねの毛が多過おほすぎるから三ぼんぐらゐいたつていや、痛いと思つたらちつたアしやうくだらう。亭「アいてえ。妻「痛いと思つたら、女房にようばうよろしくてえのを思出おもひだすだらう。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「貴様はしやうりもないやつだな。」
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「飛んでもない。——そんな話もないぢやありませんでしたが、二人はどうもしやうが合ひません」
この青年せいねんは、いたつてしやう神經質しんけいしつで、うとおもふと何所どこまですゝんでところが、書生しよせい時代じだい宗助そうすけによくてゐるかはりに、不圖ふとかはると、昨日きのふことまるわすれたやうかへつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
このこらしやうのなさもやはり病気が手伝つてゐた。無理をして余裕をつくり、いろいろ楽しい空想をして来たのにと思ふと、読むために持つて来た本を見てさへいまいましくてならない。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
山伏やまぶし兜巾ときんいたゞいたやうなものぢや、としやうれぬことふ。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
元来がこれれ一個の魔君で、余りしやうの良い者では無かつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何有なあに、僕は些と此様こんなな箇所がしやうかなつてゐるんでね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それには違ひないが、圓三郎は若い者をつかまへて、妙に意見がましいことを言ふから、お銀とはしやうが合はないやうです、——ケチな野郎と意見を言ふやつは大嫌ひですつて。
近所の衆の暗示に富んだ言葉を手繰つて平次と八五郎は鳥越のお百の家といふのに行つて見ると、四十男の文七は、七日ぶツ通しに呑んで、しやうも他愛もなく醉ひつぶれてゐるのです。
「歸るよ、武家の揉め事は、矢張り俺のしやうに合はないらしい」