山颪やまおろし)” の例文
枕を削る山颪やまおろしは、激しく板戸いたどひしぐばかり、髪をおどろに、藍色あいいろめんが、おのを取つて襲ふかとものすごい。……心細さはねずみも鳴かぬ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
台拍子、宮神楽、双盤そうばん、駅路、山颪やまおろし、浪音、そこへ噺の模様に従って適当にこれらの鳴物があしらわれていく。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ちかけた壁、古いもみの並木路のある、灰色のさゝやかな古風な建物たてものの中に——これらはすべて山颪やまおろしに吹きたわめられてゐた——固い植物の花しか咲かない
戸一重外とひとへそとには、山颪やまおろしの絶えずおどろおどろと吹廻ふきめぐりて、早瀬の波の高鳴たかなりは、真に放鬼の名をもおもふばかり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし、そこまでを見とどけたのは、先駆の物見隊だけで、尊氏の本隊は、なお地蔵堂のあたりにとどまり、吹きすさぶ風花かざばなまじりの山颪やまおろしの下にその晩は夜営していた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秩父ちゝぶの雪の山颪やまおろし、身を切るばかりにして、戸々こゝに燃ゆる夕食ゆふげ火影ほかげのみぞ、慕はるゝ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お島がたのしみにして世話をしていた植木畠や花圃はなばたの床に、霜が段々しげくなって、吹曝ふきさらしの一軒家の軒や羽目板に、或時は寒い山颪やまおろしが、すさまじく木葉を吹きつける冬が町を見舞う頃になると
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その第一世だった明石あかし志賀之助しがのすけは身のたけ六尺五寸、体量四十八貫、つづいて大関を張った仁王におう仁太夫にだゆうは身のたけ七尺一寸、体量四十四貫、同じく大関だった山颪やまおろし嶽右衛門たけえもんは体量四十一貫
飯綱いいづなにも黒姫くろひめにも炭焼の煙がたつ。煙が裾曳すそびくのは山颪やまおろしであろう。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
そして山気は山颪やまおろしの合方となッて意地わるく人のはだを噛んでいる。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
上帆ひらきをあげよ、山颪やまおろし
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
山颪やまおろし
極楽とんぼ (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
するど山颪やまおろしると、舞下まひさがくもまじつて、たゞよごとすみれかほり𤏋ぱつとしたが、ぬぐつて、つゝとえると、いなづまくうつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こつ/\と石を載せた、板葺屋根いたぶきやねも、松高き裏の峰も、今は、渓河たにがわの流れの音もしんとして、何も聞えず、時々さっと音を立てて、枕に響くのは山颪やまおろしである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
脚絆きゃはんを堅く、草鞋わらじ引〆ひきしめ、背中へ十文字に引背負ひっしょった、四季の花染はなぞめ熨斗目のしめ紋着もんつき振袖ふりそでさっ山颪やまおろしもつれる中に、女の黒髪くろかみがはらはらとこぼれていた。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よるの樹立の森々しんしんとしたのは、山颪やまおろしに、皆……散果ちりはてた柳の枝のしなふやうに見えて、鍵屋ののきを吹くのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
館の電飾が流るるように、町並の飾竹が、桜のつくり枝とともにさっと鳴った。更けて山颪やまおろしがしたのである。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青い火さきが、堅炭をからんで、真赤におこって、窓にみ入る山颪やまおろしはさっとえる。三階にこの火の勢いは、大地震のあとでは、ちと申すのもはばかりあるばかりである。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥様おくさま、』とぶのが、山颪やまおろしかぜひゞいて、みゝへカーンとこだまかへしてズヽンとなうえぐる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よ、朝凪あさなぎうらなぎさいさぎよ素絹そけんきて、山姫やまひめきたゑがくをところ——えだすきたるやなぎなかより、まつつたこずゑより、いだ秀嶽しうがく第一峯だいいつぽう山颪やまおろしさときたれば、色鳥いろどりれてたきわたる。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ゆきふかくふと寂寞せきばくたるとき不思議ふしぎなるふえ太鼓たいこつゞみおとあり、山颪やまおろしにのつてトトンヒユーときこゆるかとすれば、たちまさつとほる。天狗てんぐのお囃子はやしふ。能樂のうがくつねさかんなるくになればなるべし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……ザザッ、ごうと鳴って、川波、山颪やまおろしとともに吹いて来ると、ぐるぐると廻る車輪のごとき濃く黒ずんだ雪の渦に、くるくると舞いながら、ふわふわと済まアして内へ帰った——夢ではない。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
………ザヾツ、ぐわうとつて、川波かはなみ山颪やまおろしとともにいてると、ぐる/\と𢌞まは車輪しやりんごとくろずんだゆきうづに、くる/\とひながら、ふは/\とまアしてうちかへつた——ゆめではない。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
時々どっと山颪やまおろしに誘われて、物凄ものすごいような多人数たにんず笑声わらいごえがするね。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
欄干に一枚かかった、朱葉もみじひるがえらず、目の前の屋根に敷いた、大欅おおけやきの落葉も、ハラリとも動かぬのに、向う峰の山颪やまおろしさっときこえる、カーンと、添水がかすかに鳴ると、スラリと、絹摺きぬずれの音がしました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恐毛おぞげふるって立竦たちすくむと涼しさが身に染みて、気が付くと山颪やまおろしよ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悚毛おぞけふるつて立窘たちすくむとすゞしさがみてくと山颪やまおろしよ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)