おおい)” の例文
翰は平生手紙をかくにも、むずかしい漢文を用いて、同輩を困らせては喜んでいたが、それは他日おおいにわたしを裨益ひえきする所となった。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おおいに喜ぶのだろうに、不幸にして先方が其人でなく、当方もワシントンでないのであって見ると、今更何とも苦情の言いようがない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
であるから、特に旅行をする若い人達、島へ行く人、岬へ行く人、さういふ人々に、私はおおいに新らしい釣りを始めて貰ひたいと思ふ。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
私も小窓へ廻ることにはおおいに心をそそられたのであるが、夫よりも長次郎谷を下って見たいという望みの方が少し強かったのである。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
隅の階子段はしごだんて空ざまに髯をしごいた。見よ、下なる壁に、あのひぐまの毛皮、おおいなる筒袖の、抱着いたごとく膠頽べたりとして掛りたるを——
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで、更におおいにすすめたのであるが間もなく、一度上京して、いろいろな人に逢って決したい。そのついでに立ち寄るという手紙が来た。
江戸川氏と私 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さすがに茶人だ僕はまた君が三日も茶を飲まないではすこぶる茶に渇してることと思ってから買わしたがそうであったかとおおいに笑った。
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それは寛正の頃、東国おおい旱魃かんばつ太田道灌おおたどうかん江戸城にあって憂い、この杉の森鎮座の神においのりをしたしるしがあって雨降り、百穀大にみのる。
即ち一日に五十六銭の利あり。しかれども瓦斯の使用は軽便と清潔と人の手数とを省く点において費用の減少よりもなおおおいなる利益あり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
また前にいえるごとく、大臣と小姓組との身分はおおいことなるがごとくなれども、小姓組が立身りっしんして用人ようにんとなりし例はめずらしからず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこで政宗もおおいに感悟して天下を敵に取らぬことにしたというのである。いずれにしても原田宗時や片倉小十郎の言を用いたのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「実に気の毒な事をしたもんだ。定めし転任先をさがす間活計かっけいに困ったろうと思ってね。今度逢ったらおおいに謝罪の意を表するつもりだ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むかし唐土もろこし蔡嘉夫さいかふといふ人間ひと、水を避けて南壟なんろうに住す。或夜おおいなる鼠浮び来て、嘉夫がとこほとりに伏しけるを、あわれみて飯を与へしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
満洲及び北京から帰朝したての意気込もあり、豊富に資料も蓄えていたし、この調査にはすこぶる興味を持っておおいに満足して職務を服した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それに河野は川越から帰ると、又直ぐ大阪の方へ遊びに行って、其処から又『俺はおおいに遊んで居るよ。』と云うようなハガキをよこした。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先生は予がこのこうともないしをふか感謝かんしゃせらるるといえども、予の先生にうところ、かえってだいにしておおいしゃせざるべからざるものあり。
しかも彼は卓然たくぜんとして世俗の外に立ち独り喜んで万葉調の歌を作り少しも他をかえりみざりしはけだし心におおいに信ずる所なくんばあらざるなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
我々われわれまちはなし面白おもしろい、知識ちしきのある人間にんげん皆無かいむなのは、じつ遺憾いかんなことじゃありませんか。これは我々われわれっておおいなる不幸ふこうです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これは句を作る人もおおいに注意しなければならぬことであるが、また句を見るものもよほど心に掛けて見分けねばならぬのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
探偵の事件には往々おう/\かくまでに意外なる事多し此一事は此後余が真実探偵社会の一員と為りてよりもおおいに余をして自らかえりみる所あらしめたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
部屋の中は真暗で横梁よこはり椽木たるきが頭の上で震えていた。しばらく震えているうちに、おおいに持上ってわたしの身体の上に堆積した。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
いつも憤然ふんぜんとしておおいいかり、さながら自分の愛人を侮辱ぶじょくされた時の騎士きしのごとく、するど反撃はんげきやりをふるってき当って行った。
父も母も呼んで来て引き合せたうえで、おおい饗応ごちそうをして、その日から老人にいてもらおうと思って、老人にそのことを云ってみると、老人は
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかしもしわが国の動物画家たる応挙おうきょにこの文字を示したならば、彼はおおいに喜んでこれ真の動物描写であるというであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
世にもおおいなる宗匠に対する深い哀悼の言葉をば、どうぞ、皆さん、影の人々の口から、とくと、お聴き取り下さいまし。
鎌倉の覇業を永久に維持するおおいなる目的の前には、あるに甲斐かいなき我子を捨殺しにしたものの、さすがに子は可愛いものであったろうと推量おしはかると
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おおいに盛んに泳いで見る事はすこぶる海国男子として結構な事であるが、人は自分のすきな事を他人にすすめたがるものなのだ。それは静坐法と同様だ。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
流石さすが東京と実はおおいに感心させられた。その会合の遣方やりかたを習ったら、九州へのいいお土産が出来ると考えたからであった。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
我輩の友人にアーヴィンという文士として相当に名をとどろかした米人がある。この人が昨年の夏頃作った詩がある。これを読んで我輩はおおいに感服した。
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのぜにを一手に引受ひきうけ海外の市場に輸出しおおいもうけんとして香港ホンコンに送りしに、陸揚りくあげの際にぜにみたる端船たんせん覆没ふくぼつしてかえって大にそんしたることあり。
その結果美保子さんもおおいに心が動いて、言いにくいことではあるが、社会正義のため、——君、即ち千種十次郎君立ち会いの上で、明日の午前十時に
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
また背面の土州藩は有名なる板垣等が早くより薩長の志士と結んで伏見の戦にもおおいに働いたのであって、なお今度朝廷からは松山征討の命が下った。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
其様そんな時には例の無邪気で、うッかりそばへ行って一緒に首を突込もうとする。無論先の犬は、馳走になっている身分を忘れて、おおいいかって叱付ける。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
為に悲境を見る事あり、おおいに失望して、更に粗喰と不自由とを以て勤めて其損害の幾分つぐのわんことを勤めたり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
テワスに魅力を感じたためであるが、いったいその頃は、理蕃政策上、内地人巡査が蕃婦と結婚することは、上司の方でもおおいに奨励していたのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
われ、おおいに驚きて云いけるは、「如何ぞ、「るしへる」なる事あらん。見れば、容体ようだいも人に異らず。蝙蝠かわほりの翼、山羊のひずめくちなわうろこは如何にしたる」と。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そうか、諸君もやったのか、驚ろいた、その昔はみんな馬鈴薯党なんだね」と上村はおおいに面目を施こしたという顔色かおつき
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから廃院の住人たちを調べて来てくれること、——これだけをやって来てもらえば、おおいに助かるんだがね。
と事を分けての話に文治もおおいに悦んで、帰り掛けに柳橋の同朋町どうぼうちょうに居るお村の母親お崎ばゞあの所へ参りました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これらはし仏教徒ならば論をたず、仏教徒ならざるも又おおいに参考に資すべきである。更に釈迦は集りきたれる多数の信者に対して決して肉食を禁じなかった。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
裸なる卓にれる客の前に据ゑたる土やきのさかずきあり。盃は円筒形えんとうがたにて、燗徳利かんどくり四つ五つも併せたるおおいさなるに、弓なりのとり手つけて、金蓋かなふた蝶番ちょうつがいに作りておおひたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
二、三枚位も進んだかと思う頃、氏は突然東都を去って、台湾へ行かれたので私はおおいに失望した。
「古琉球」自序 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
二兄一姉死して、一姉なお郷里に存す。これを見ておおいに驚き、打電して東京の家族に問い合わす。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
すなわち「人の悪の地におおいなると其心の思念おもいすべ図維はかる所の恒に惟悪これあしきのみなるを見たまへ」
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
やはり此巻(二五二六)に、「待つらむに到らば妹がうれしみとまむすがたを行きて早見む」というのがあり、おおいに似ているが、この方は常識的で、従って感味が浅い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
只わしらのおおいに当局者に頼みたいことは、上来じょうらいほんの大体だけを述べた陰徳と労力主義との二つを教育の中心にして万端の施設をそれから割出して欲しいと云うことである。
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
関西では吉益東洞よしますとうどう、といふやうな名医が出て、共に古方こほうの復興を唱へ、実技もおおいあらたまり、この両派の秀才が刀圭とうけいつかさどる要所々々へ配置されたが、一般にはまだ、行きわたらない。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しかし上宮太子の、憂悩のあまり祈念されたところは、後代において必ずしもまっとううされたとはいえない。更におおいなる悲痛の裡に、天武天皇は位を継ぎ、憂悩を深めたのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ダンセニイは米国にこそおおいに歓迎されているが、彼の英本国においてはあまり流行児ではないようである、我々日本人が彼をうけ入れても受け入れなくとも、それはどうでもよい。
ダンセニーの脚本及短篇 (新字新仮名) / 片山広子(著)
年々歳々春が来て、桜花さくらの外に、今年は特に博覧会が人気を呼んで上野はおおいに賑わった。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)