凝視みつめ)” の例文
机の端に置き忘れて行った新しい角帽を凝視みつめながらその時の気持を思い出そう思い出そうと努力したが、この時に限って不思議な程
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まして得三高田等は、驚き恐れつ怪しみて、一人立ち、二人立ち、次第に床の前へ進み、じっと人形を凝視みつめつつ三人みたり少時しばらく茫然たり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「…………」私は凝乎じっと亭主の面を凝視みつめた。「僕も今それを考えているところなのだよ。昨日もあすこで逢ってしまったが……」
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
んでゐるむねには、どんな些細ささいふるえもつたはりひゞく。そして凝視みつめれば凝視みつめほどなんといふすべてがわたししたはしくなつかしまれることであらう。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「お梅さんどうかしたのですか」と驚惶あわただしくたずねた。梅子はなおかしらを垂れたまま運ばす針を凝視みつめて黙っている。この時次の
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この時我見しに、ベアトリーチェは左に向ひて目を日にとめたり、鷲だにもかくばかりこれを凝視みつめしことあらじ 四六—四八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼はそっと起き上って蝋燭ろうそくをつけた。真直ぐに立上っていく焔を凝視みつめているうちに、彼の眼の前に、大きな部屋が現れた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
何を云ッても取合わぬゆえ、お勢も仕方なく口をつぐんで、しばらく物思わし気に洋燈ランプ凝視みつめていたが、それでもまだ気に懸ると見えて、「慈母さん」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
良久しばらくしてのぞいてるとうを歩兵ほへい姿すがたはなくて、モ一人ひとりはうそば地面ぢべたうへすわつて、茫然ぼんやりそら凝視みつめてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
眼球をだんだんとよく凝視みつめてゐると、これはほんものの眼球ではなく、ラムネの玉ではありませんか、見物人が呆れてぽかんとしてゐると、老人の手品師は
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
何故と云へば、わしは睫毛の間からも、彼女が虹色にきらめきながら、太陽を凝視みつめてゐる時に見えるやうな、紫の半陰影に囲まれてゐるのを見たからであつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
何処が悪いのか知らなかつたが、いつも疲れきつた、ものううささうな様子をして、寝床の上で脇息けふそくもたれ、苦りきつた恐しい顔をして、ぢつと一方を凝視みつめて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
母ちやんと御返事なさいますとネ、——ジツと凝視みつめらしつた奥様のお目から玉の様な涙が泉の様に——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
依然と試合の二人へ瞳を放たず凝視みつめていたが、我を忘れたかのように、思わずアッとしとねから膝を辷らせた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
視力の鈍った左の眼一つで、遠近さえ判然とせぬ病室の天井を、ジッと凝視みつめていると、その中に、ぽっかりと、心持ち頬をこわばらした「おんな」の顔が写った。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
真名古はと見ると、これも憑かれたように爛々と眼を光らせながう、瞬きもせずにその方を凝視みつめている。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
やがて、そのうちの黄と紫が動き出した。自分は両眼の視神経を疲れるまで緊張して、この動くものをまたたきもせず凝視みつめていた。もやは眼の底からたちまち晴れ渡った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『マア!』と言つて、智恵子はやみながらさつと顔を染めた。今まで男に凝視みつめられてゐたと思つたので。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何の火急の用かと不審気な宮の面を凝視みつめながら低く語る頼政の声は、宮の心に強くひびいた。
その地図の下に立ってみすぼらしい身装みなりの青年が、その地図の上の距離を計ったり、っと凝視みつめていたりして、淋しい表情で帰って行くのを、私は幾度いくど見かけたか知れなかった。
郷愁 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
皆は皆熱心にトムちやんの顔を凝視みつめて立ち停りました。後の方にゐたの小さい子供は、トムちやんの顔がよく見えないので、他人ひとの袖の下から顔を出したりなどしてゐました。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
その時、突然に振り向いた彼は、私の眼が彼の顏をじつと凝視みつめてゐるのに氣がついた。
うめせいおもいのほかわるびれた様子ようすもなく、わたくしかおをしげしげ凝視みつめってります。
女は私を認めましたが、最初はうたぐってでもいるように、只凝視みつめて黙っていました。
智慧ちえの深そうな目の御色も時によると朦朧どんより潤みをって、疲れ沈んで、物を凝視みつめる力も無いという風に変ることが有ました。私は又た旦那様のあごから美しく白く並んだ御歯が脱出はずれるのを見かけました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
云ってから、そっと母の眼を凝視みつめ
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なおも凝視みつめる。
と写真を直視しているのにも堪えやらぬように、顔をそむけながら突っ立っていた亭主が、震え声を出して私の口許を凝視みつめていた。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
照子は眼中に涙をたたえて、きっ婦人おんな凝視みつめながら、「それでは。」となお謂わんとすれば、夫人ひそかにそのたもとを控え、眼注めくばせしてめらる。振切って
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雄弁になって来る彼女の表情をジイット凝視みつめているうちに、彼女の眼付きの中に一種異様な美しい光が、次第次第に輝き現われて来るのを発見した。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕はおりおり足を止めて地を凝視みつめていると、蒼白あおじろ少女むすめの顔がありありと眼先に現われて来る、どうしてもその顔色がこの世のものでないことを示している。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこ女王樣ぢよわうさま眼鏡めがねをかけ、氣味きみわるほど帽子屋ばうしや凝視みつめられました、帽子屋ばうしやさをになつてふるへてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
生活のためにはどんな事でもする覚悟でいたのだが、自分が食うために豚を屠るのは……その藻掻もがき苦しむ酷な有様を自分の手によってかもし、それをまのあたり凝視みつめるのは……。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼の注意がその人たちの方に集注し、彼に氣付かれないで凝視みつめることが出來ると分ると、私の眼は、我知らず、彼の顏の方に惹かれた。私は眼を伏せたまゝゐることは出來なかつた。
ダンテはヨハネが肉體を有するや否やを見んとて特にこれを凝視みつめたり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
漆黒の、炯々けいけいと射るような眼でコン吉を凝視みつめながら
今まで男に凝視みつめられてゐたと思つたので。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
その婦人にすがりついて涙を一杯留めた眼で凝乎じっと老爺の方を凝視みつめているのはまだやっと十二、三の青白い頬をした世にも美しい少年の姿であった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
両方の眼を拳固げんこで力一パイこすりまわした。寝台の足の先の処をジイッと凝視みつめたまま、石像のように固くなった。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
のですが、それが、黒目勝くろめがちさうひとみをぱつちりとけてる……に、此處こゝころされるのだらう、とあまりのことおもひましたから、此方こつちじつ凝視みつめました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「なるほどこいつは益々ますます解りにくいぞ」と松木はつぶやいて岡本の顔を穴のあくほど凝視みつめている。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
女王樣ぢよわうさま滿面まんめんしゆをそゝいだやうに眞赤まつかになつておいかりになりました、暫時しばしあひだ野獸やじうごとあいちやんを凝視みつめておでになりましたが、やがて、『あたまばすぞ!ね——』とさけばれました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
が、立ち上つたまゝ彼は再び私を凝視みつめた。彼は頭を振つた。
と云つて、ヂッと僕を凝視みつめるのです。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただ眼をまん丸に見開いて鼻っ先にかぶさっている袋のあらい目を凝視みつめながら、両方のお乳を痛いほどギュッと掴んでいたわ……夢じゃないかしらと思って……。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだその場を動こうともしないで私を凝視みつめている家内の顔が、みるみる何ともいえぬ凄まじい形相に変ってきて、その腰から半身以下が真っ紅に染まりながら
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
手を取って、顔を上げさせ、右手めての指環を凝視みつめながら、するりと抜いて、胸に垂れたるお鶴の指へ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云つて、ジツと僕を凝視みつめるのです。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
昂作は掌に乗っかった五十銭玉を凝視みつめながら、繰り返し繰り返しその言葉の意味を考えようとした。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……心をめて、じっと凝視みつめるのを、毎日のように、およそ七日十日に及ぶと、思入ったその雛、その人形は、莞爾にっこりと笑うというのを聞いた。——時候は覚えていない。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)