トップ
>
鬣
>
たてがみ
ふりがな文庫
“
鬣
(
たてがみ
)” の例文
補祭は用心しながら、濁流の
鬣
(
たてがみ
)
がもう届きそうになっている危なっかしい橋を渡り、小さな梯子を攀じ上って乾小屋の中へはいった。
決闘
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
荷馬橇の馬は、
狹霧
(
さぎり
)
の樣な
呼氣
(
いき
)
を
被
(
かぶ
)
つて氷の玉を聨ねた
鬣
(
たてがみ
)
を、寒い光に波打たせながら、風に鳴る鞭を喰つて勢ひよく駈けて居た。
菊池君
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
下げていた頭をもち上げ、若い馬が何かをうるさがって
鬣
(
たてがみ
)
をふるうように宏子が柔かい断髪をふるった途端、電話のベルが鳴り立った。
雑沓
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
海浜や道傍の到る処に
塵埃
(
じんあい
)
の山があり、馬車が何台も道につながれてあって、足の太い馬が毛の抜けた
鬣
(
たてがみ
)
を振って
懶
(
ものう
)
そうに
嘶
(
いなな
)
いている。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
さながら矢のごとくに流れる
眼眩
(
めまぐる
)
しさ! しかも波の色の毒々しいまでのドス黒さ! 黒泡の
鬣
(
たてがみ
)
を逆立たせつつ
噛
(
か
)
み合い
掴
(
つか
)
み合い
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
▼ もっと見る
彼は馬を停めようとして激しく轡を曳き緊めたが、馬は異様な嘶き声をあげ、
鬣
(
たてがみ
)
を逆立てて遮二無二、騎士を目がけて突進して行つた。
ディカーニカ近郷夜話 後篇:03 怖ろしき復讐
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
「大丈夫、大丈夫。ただ、振り落されないように、駒の
鬣
(
たてがみ
)
と、私の帯に、必死でつかまっておいでなさい」と、いって、
鞭
(
むち
)
打った。
三国志:02 桃園の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
半ば眠れる馬の
鬣
(
たてがみ
)
よりは
雨滴
(
しずく
)
重く
滴
(
したた
)
り、その背よりは
湯気
(
ゆげ
)
立ちのぼり、
家鶏
(
にわとり
)
は荷車の陰に隠れて
羽翼
(
はね
)
振るうさまの
鬱陶
(
うっとう
)
しげなる
わかれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
白斑
(
ぶち
)
の大きな木馬の
鞍
(
くら
)
の上に小さい主人が、両足を
蹈
(
ふ
)
ん張って
跨
(
また
)
がると、白い房々した
鬣
(
たてがみ
)
を動かして馬は前後に揺れるのだった。
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
唯
(
ただ
)
見る、それさえ不意な上、胴体は
唯一
(
ただひと
)
ツでない。
鬣
(
たてがみ
)
に鬣が
繋
(
つな
)
がって、胴に胴が重なって、
凡
(
およ
)
そ五、六
間
(
けん
)
があいだ
獣
(
けもの
)
の背である。
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
のっそりと
噯
(
おくび
)
をしたり、眼をぱちくりさせたり、
鬣
(
たてがみ
)
を振ってみたり、——それにもう刈りとられて仕舞うその早さ。あくなき人の残酷さ。
夜の靴:――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
左右に長い
鬣
(
たてがみ
)
を振乱して牝馬と一緒に
踴
(
おど
)
り狂って、風に向って嘶きました時は——
偽
(
いつわり
)
もなければ飾もない野獣の本性に返りましたのです。
藁草履
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
神経性の
痙攣
(
けいれん
)
が下唇の端をぴくぴくと引っ
攣
(
つ
)
らせ、くしゃくしゃになった
縮
(
ちぢ
)
れ
髪
(
げ
)
が、まるで
鬣
(
たてがみ
)
のように
額
(
ひたい
)
に垂れかかっている。
紅い花
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
すりきれたくしゃくしゃの
鬣
(
たてがみ
)
は、主のそそけた髪にも似て来、しょぼしょぼ濡れている眼は、主のそれと同じくいつも
目脂
(
めやに
)
をたたえていた。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
私は横飛びに二メートルほど飛んで
鬣
(
たてがみ
)
をつかまへると、引きずられながらも背中へよぢ登りました。かうなれば仔馬は確実に私のものです。
亜剌比亜人エルアフイ
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
確
(
しか
)
と検して置こうと言うて野猪の
鬣
(
たてがみ
)
の直ぐ
側
(
そば
)
に生えおった高い
薄
(
すすき
)
に
攀
(
よ
)
じ登りサア駈けろと言うと同時に野猪の鬣に躍び付いた
十二支考:02 兎に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
父
(
ちゝ
)
なるものは
蚊柱
(
かばしら
)
の
立
(
たつ
)
てる
厩
(
うまや
)
の
側
(
そば
)
でぶる/\と
鬣
(
たてがみ
)
を
撼
(
ゆる
)
がしながら、ぱさり/\と
尾
(
を
)
で
臀
(
しり
)
の
邊
(
あたり
)
を
叩
(
たゝ
)
いて
居
(
ゐ
)
る
馬
(
うま
)
に
秣
(
まぐさ
)
を
與
(
あた
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
しかしそれは着物を着てゐて、馬の
鬣
(
たてがみ
)
のやうに荒々しい、黒い
白髮
(
しらが
)
まじりの房々とした毛が頭と顏をかくしてゐるのであつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
ドカリと椅子に腰をおろした深沢深は、首を
一
(
ひ
)
と振り
鬣
(
たてがみ
)
のような長髪をかき上げて、いきなり象牙の
鍵
(
キイ
)
に指をおろしました。
奇談クラブ〔戦後版〕:16 結婚ラプソディ
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
この時女は、裏の
楢
(
なら
)
の木に
繋
(
つな
)
いである、白い馬を引き出した。
鬣
(
たてがみ
)
を三度
撫
(
な
)
でて高い背にひらりと飛び乗った。
鞍
(
くら
)
もない
鐙
(
あぶみ
)
もない
裸馬
(
はだかうま
)
であった。
夢十夜
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
乃至
(
ないし
)
は
眞夜中
(
まよなか
)
に
馬
(
うま
)
の
鬣
(
たてがみ
)
を
紛糾
(
こぐらか
)
らせ、
又
(
また
)
は
懶惰女
(
ぶしゃうをんな
)
の
頭髮
(
かみのけ
)
を
滅茶滅茶
(
めちゃめちゃ
)
に
縺
(
もつ
)
れさせて、
解
(
と
)
けたら
不幸
(
ふかう
)
の
前兆
(
ぜんてう
)
ぢゃ、なぞと
氣
(
き
)
を
揉
(
も
)
まするもマブが
惡戲
(
いたづら
)
。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
彼れははじめて立停った。痩馬も歩いた姿勢をそのままにのそりと動かなくなった。
鬣
(
たてがみ
)
と
尻尾
(
しりっぽ
)
だけが風に従ってなびいた。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
金色の獅子は銀の眼玉をむいててつぺんに宝珠をいただき、まつかな狛犬は金の眼玉を光らせて
鬣
(
たてがみ
)
をふりみだしてゐる。
銀の匙
(新字旧仮名)
/
中勘助
(著)
福島からは略ぼ直流して来た川も、
佐太
(
さた
)
と
粟代
(
あはしろ
)
とで、二回の屈曲をする、その間の高瀬では、川浪が白馬の
鬣
(
たてがみ
)
を振ひながら、船の中へ闖入して来た。
天竜川
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
馬の
頭
(
かしら
)
が、
鬣
(
たてがみ
)
に月の光を払って、三たび向きを変えた時、次郎はすでに馬背にあって、ひしと兄の胸をいだいていた。
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
敵からよじ登られる防寨は電光の
鬣
(
たてがみ
)
をふりかぶったかと思われた。襲撃は狂猛をきわめて、防寨の表面は一時襲撃軍をもって満たされたほどだった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
そうしてその中で燃えている火は、血を含んででもいるように見え、そこから吹き出している墨のような煙りは、
黒駒
(
くろこま
)
の
靡
(
なび
)
かせる
鬣
(
たてがみ
)
のようであった。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
手綱をしゃくられて長い
頸
(
くび
)
を立てる馬は、ふりかぶる
鬣
(
たてがみ
)
の下に丸い眼を見ひらいた。ぎらりと赤い夕陽が反射した。堀大主典の馬がだく足で前に出る。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
モルヴァアクは暴風の風のように激しく高く
嘶
(
いなな
)
いて、
鬣
(
たてがみ
)
をふりみだしながら、ダフウトの方に駈けて行った。
髪あかきダフウト
(新字新仮名)
/
フィオナ・マクラウド
(著)
やはり南無妙法蓮華経と響いていたのでございましょう……海の波がしらは獅子の
鬣
(
たてがみ
)
のようだと、人様が申しましたが、私共が聞きますと、大洋の波の音は
大菩薩峠:23 他生の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ちぎれかかった雨雲の尾は鴻島の上に垂れかかって、磯から登る潮霧と一つになる。近い岬の岩間を走る波は白い
鬣
(
たてがみ
)
を振り乱して狂う銀毛の獅子のようである。
嵐
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
或るものはべた/\した革紐に似て居り、畳んだリボンのやうなのもあり、長い
鬣
(
たてがみ
)
のやうなものもある。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
権現さまは頭にはウマの
鬣
(
たてがみ
)
などをむすびつけているが、オシシにはこれは神であるからそんな野蛮な真似はせずことごとく紙を裁ち切って下げている。そこが違う。
東奥異聞
(新字新仮名)
/
佐々木喜善
(著)
馬は
鬣
(
たてがみ
)
をだんだんにかき乱して、脇腹には汗をしたたらせ、鼻息もひどくあらあらしくなってきます。
世界怪談名作集:05 クラリモンド
(新字新仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
かくいひつつ
被
(
かぶ
)
りし帽を
脱棄
(
ぬぎす
)
てて、こなたへふり向きたる顔は、
大理石脈
(
だいりせきみゃく
)
に熱血
跳
(
おど
)
る如くにて、風に吹かるる金髪は、
首
(
こうべ
)
打振りて長く
嘶
(
いば
)
ゆる
駿馬
(
しゅんめ
)
の
鬣
(
たてがみ
)
に似たりけり。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
しばらく彼は馬に一息つかせながら、磨墨の頸を軽く叩き、
鬣
(
たてがみ
)
を愛撫して武士の生甲斐とでもいうものを感じていた。すると、そのとき、彼の眼に妙な情景が映った。
現代語訳 平家物語:09 第九巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
その機に乗じて平吾は黒馬を飛ばし、その新馬浪岡の左斜めから
鬣
(
たてがみ
)
に飛びつき、首に綱をかけた。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
老僕の傍には
盛
(
さかり
)
をすぎた一匹の
獵犬
(
ポインター
)
と名だたるバンタム、これは小さな老ぼれの小馬で、もじやもじやの
鬣
(
たてがみ
)
に長い赤錆色の尾をたらし、睡たげに、温和しく路傍に立つて
駅伝馬車
(旧字旧仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
次兄が彼を馬の背に抱へ上げてくれる。彼は小さい身体を
弾
(
はず
)
ませて、
鬣
(
たてがみ
)
を指の間でしつかりと捉む。次兄が彼の背後にのつて、彼等は蒼然と暮れかゝる家の前の路に出る。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
鬣
(
たてがみ
)
も
梳
(
す
)
くし、細い尻尾も編む。手で、また声で、機嫌をとる。眼を海綿で洗い、
蹄
(
ひづめ
)
に
蝋
(
ろう
)
を引く。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
たとえば猛獣が雷鳴を怖れてその
鬣
(
たてがみ
)
の地に敷くばかり頭を垂れた時のように、「
巡査
(
おまわり
)
が来た!」
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
転落を怖れる私をその
鬣
(
たてがみ
)
に
獅噛
(
しが
)
みつかせたりするというような怖ろしい状態になって来た。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
「ふうむ。この小さな馬が、いまにも土煙を立て、
鬣
(
たてがみ
)
を振って、走り出しそうに見えるテ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
獅子の
鬣
(
たてがみ
)
のやうに怒つた髪、鷲の眼のやうに鋭い目、その人は昂然と歩いてゐた。少年の僕は幻の人間を仰ぎ見ては訴へてゐた。僕は弱い、僕は弱い、僕は僕はこんなに弱いと。
鎮魂歌
(新字旧仮名)
/
原民喜
(著)
ぶるぶると
鬣
(
たてがみ
)
の
雫
(
しずく
)
を切り乍ら、一番乗りの歓呼の土手へ、おどるように駈けあがった。
山県有朋の靴
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
荒布
(
あらぬの
)
の前掛を締めた荷揚の人足が水に臨んだ倉の戸口に
蹲踞
(
しゃが
)
んで凉んでいると、
往来際
(
おうらいぎわ
)
には荷車の馬が
鬣
(
たてがみ
)
を垂して眼を細くし、蠅の
群
(
む
)
れを追払う元気もないようにじっとしている。
夏の町
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
吾心頭には稻妻の如く昔のおそろしかりしさま浮びたり。
瞬
(
またゝ
)
くひまに街の兩側に避けたる人の黒山の如くなる間を、兩脇より血を流し、
鬣
(
たてがみ
)
戰
(
そよ
)
ぎ、口より
沫
(
あわ
)
出でたる馬は馳せ來たり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
ちびた
鬣
(
たてがみ
)
は丁寧に梳かれ、身体はさっぱりと
爬
(
か
)
かれて、
垢
(
あか
)
ひとつついていなかった。
キャラコさん:10 馬と老人
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
学名はエジュアス・ヘミオニスであるとのことだ。その大きさは日本の大きな馬ほどあって背中の色は茶がかった赤い色で腹が白い。背筋がまっ黒で尾は驢馬の尾のごとく細く
鬣
(
たてがみ
)
もある。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
牙
(
きば
)
を
鳴
(
な
)
らして
此方
(
こなた
)
を
睨
(
にら
)
んで
居
(
を
)
つたが、それも
僅
(
わづ
)
かの
間
(
あひだ
)
で、
獅子
(
しゝ
)
は
百獸
(
ひやくじう
)
の
王
(
わう
)
と
呼
(
よ
)
ばるゝ
程
(
ほど
)
あつて、
極
(
きわ
)
めて
猛勇
(
まうゆう
)
なる
動物
(
どうぶつ
)
で、
此時
(
このとき
)
一聲
(
いつせい
)
高
(
たか
)
く
叫
(
さけ
)
んで、
三頭
(
さんとう
)
四頭
(
しとう
)
鬣
(
たてがみ
)
を
鳴
(
な
)
らして
鐵車
(
てつしや
)
に
飛掛
(
とびかゝ
)
つて
來
(
き
)
た。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
“鬣(たてがみ)”の解説
たてがみ(漢字表記:鬣、騣、巤、騌、鬃、鬉、鬐、鬛。英語名:Mane、Crest)とは、動物(特に哺乳類)の頸部もしくは頭部に密集して生える長い毛のことである。代表的なものとして、ウマやライオン、ハイエナなどのものがある。時にヒトの頭髪や髭もたてがみの一種と解釈される。体温調節(保温および放熱)や、頭部・頸部の物理的保護のためにある部位と考えられている。
(出典:Wikipedia)
鬣
漢検1級
部首:⾽
25画
“鬣”を含む語句
鬣狗
鬣毛
蒼鬣魚
鬣髪
馬鬣封
鬣逆