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鬢
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びん
ふりがな文庫
“
鬢
(
びん
)” の例文
いずれも
鬢
(
びん
)
の毛を長く垂れて、尖った口を持った人びとで、ひとりの白衣の老人を先に立てて、李の前にうやうやしく礼拝しました。
中国怪奇小説集:14 剪灯新話(明)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
按
(
あん
)
ずるにこれは、深海の魚が、盲目になったのと同じ事である。日本人の耳は昔から、油を塗った
鬢
(
びん
)
の後に、ずっと姿を隠して来た。
上海游記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「さ、よいぞ。剃刀は下げてよい。こんどは髪だ、市松、うしろへ廻って、髪の根を締めてくれい、少々、
鬢
(
びん
)
だらいの水をしめして」
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
鬢
(
びん
)
はほつれ、眼は血走り、全身はわなわな
顫
(
ふる
)
えています。少女達は驚きながら
訳
(
わけ
)
を
訊
(
たず
)
ねると、女はあわてて
吃
(
ども
)
りながら言いました。
気の毒な奥様
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
籠は上に、棚の
丈
(
たけ
)
稍
(
やや
)
高ければ、
打仰
(
うちあお
)
ぐやうにした、
眉
(
まゆ
)
の優しさ。
鬢
(
びん
)
の毛はひた/\と、羽織の
襟
(
えり
)
に着きながら、肩も
頸
(
うなじ
)
も細かつた。
印度更紗
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
頭さえ曲げなかったら、横
鬢
(
びん
)
を掠めるくらいのところですんでいたはずで、いわばこれは卑怯のむくいともいうべきものであった。
湖畔
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
鬢
(
びん
)
にほつれるある女が夜間薬品店にあらわれると、
灯籠
(
とうろう
)
道でもあるくように蒼ざめて、淀川の水面に赤いレッテルの商標を投じた。
大阪万華鏡
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
けれども葉子はもう左手の小指を器用に折り曲げて、左の
鬢
(
びん
)
のほつれ毛を美しくかき上げるあの
嬌態
(
しな
)
をして見せる気はなくなっていた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
嬋娟
(
せんけん
)
たる花の
顔
(
かん
)
ばせ、耳の穴をくじりて一笑すれば天井から鼠が落ち、
鬢
(
びん
)
のほつれを掻き立てて
枕
(
まくら
)
のとがを
憾
(
うら
)
めば二階から人が落ちる。
十二支考:11 鼠に関する民俗と信念
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
そういう寂しいある夜のこと、紫の君はいつもになく、少しく蒼い顔をして、乱れた
鬢
(
びん
)
を掻き上げながら、長者の門を潜って来た。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
地図らしいものを
認
(
したた
)
めていると、それを
覗
(
のぞ
)
き込んでいるのが、
鬢
(
びん
)
をつめて色の浅黒い四十恰好のドコかで見たことのあるような男です。
大菩薩峠:23 他生の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
白っぽい
竪縞
(
たてじま
)
の銘仙の羽織、
紫紺
(
しこん
)
のカシミヤの袴、足駄を
穿
(
は
)
いた娘が曾て此梅の下に立って、一輪の花を摘んで黒い
庇髪
(
ひさし
)
の
鬢
(
びん
)
に插した。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
斜めに振り上げて、乱れかかる
鬢
(
びん
)
の毛を、キリキリと噛んだ女の顔は、そのまま歌舞伎芝居の舞台にせり上げたいほどの
艶
(
あで
)
やかさでした。
銭形平次捕物控:082 お局お六
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
礼儀ただしいので
躯
(
からだ
)
をこごめて坐っているが、退屈をすると
鬢
(
びん
)
の毛の一、二本ほつれたのを手のさきで
弄
(
いじ
)
り、それを見詰めながらはなす。
樋口一葉
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
いつも継母に叱られると言って、帰りをいそぐ娘もほっと息をついて、雪にぬらされた
銀杏返
(
いちょうがえし
)
の
鬢
(
びん
)
を
撫
(
な
)
でたり、
袂
(
たもと
)
をしぼったりしている。
雪の日
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
大きな
花弁
(
はなびら
)
の形に
結
(
ゆ
)
い上げられた夥しい
髪毛
(
かみのけ
)
が、雲のように
濛々
(
もうもう
)
と重なり合っている……その
鬢
(
びん
)
の恰好から、生え際のホツレ具合までも
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
鬢
(
びん
)
のほつれ毛が顔へ懸りまして、少し
微酔
(
ほろえい
)
で
白粉気
(
おしろいけ
)
のある
処
(
ところ
)
へぽッと桜色になりましたのは、
別
(
べっ
)
して美しいものでございます。
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
夢の世を夢よりも
艶
(
あでやか
)
に
眺
(
なが
)
めしむる黒髪を、乱るるなと畳める
鬢
(
びん
)
の上には、
玉虫貝
(
たまむしかい
)
を
冴々
(
さえさえ
)
と
菫
(
すみれ
)
に刻んで、細き
金脚
(
きんあし
)
にはっしと打ち込んでいる。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
富士春は、
鬢
(
びん
)
を上げて、襟白粉だけであった。小太郎は、ちらっと見たまま、先へ歩いて行った。益満は、小太郎を追いながら
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
便所臭い三等車の隅ッこに、
銀杏返
(
いちょうがえ
)
しの
鬢
(
びん
)
をくっつけるようにして、私はぼんやりと、山へはいって行く汽車にゆられていた。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
隣家の伴蔵が覗いてみれば「骨と皮ばかりの痩せた女で、髪は島田に結って
鬢
(
びん
)
の毛が顔に下り、真っ青な顔で、裾がなくって腰から上ばかり」
我が円朝研究:「怪談牡丹灯籠」「江島屋騒動」「怪談乳房榎」「文七元結」「真景累ヶ淵」について
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
これにて母親が下手に向ひ吹く。維盛夫婦が出づると、平手にて上手へ進ます。この
中
(
うち
)
に
鬢
(
びん
)
の毛が両方より前へ長く下がる。
いがみの権太:(明治二十九年一月、明治座)
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
珊瑚
(
さんご
)
の
釵
(
かんざし
)
もつつましい。よく気を入れて見ると、
鬢
(
びん
)
の毛がちとほつれたまま写っている。顔に窶れの見えるのはそのためであるかも知れない。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
其度に自分の頬がお松の
鬢
(
びん
)
の毛や頬へさわるのであった。お松はわざと我頬を自分の頬へ
摺
(
す
)
りつけようとするらしかった。
守の家
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
また光る、また消える、また光る……。其中から、迷ひ出る樣に風に隨つて飛ぶのが、上から下から、橋の下を潜り、上に立つ人の
鬢
(
びん
)
を
掠
(
かす
)
める。
鳥影
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
劇
(
はげ
)
しい格闘が、
直
(
じき
)
に二人のあいだに初まった。小野田が力づよい手を
弛
(
ゆる
)
めたときには、彼女の
鬢
(
びん
)
がばらばらに
紊
(
ほつ
)
れていた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
その二人が何か小声で話しながら前に腰かけている老母の
鬢
(
びん
)
の毛のほつれをかわるがわるとりあげて
繕
(
つくろ
)
ってやっている。
雑記帳より(Ⅱ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
島田髷の腰から下のない骨と皮ばかりの女が、青白い顔に
鬢
(
びん
)
の毛をふり乱して、それが
蝋燭
(
ろうそく
)
のような手をさしのべて新三郎の
頸
(
くび
)
にからませていた。
円朝の牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
こないだあの方の出て往かれる時に
鬢
(
びん
)
をお洗いになった
泔坏
(
ゆするつき
)
の水がそっくりそのままになっているのにふと気がついた。
かげろうの日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
そこに
佇
(
たたず
)
んだ
容姿
(
すがた
)
をちらと見ると、蒼ざめた頬のあたりに
銀杏返
(
いちょうがえ
)
しの
鬢
(
びん
)
の毛が悩ましく
垂
(
た
)
れかかって、赤く泣いた眼がしおしおとして
潤
(
うる
)
んでいる。
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
鬢
(
びん
)
のあたりの白髪が少しめだってきたようである。額の
皺
(
しわ
)
も深くなったようだし、頬のあたりには、やや肉のたるみさえ感じられるようであった。
樅ノ木は残った:04 第四部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
おくみは蚊帳の裾に膝を突いてかう言ひながら、
鬢
(
びん
)
の後れ毛を掻き上げて、お脱ぎになつたシャツをさつきの洗つたばかりのと取りかへて置いた。
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
前髪をつまんで立てたり
鬢
(
びん
)
の毛を揃えたりすると、お顔のぜんたいがまるでお百姓のバラライカの絃が切れたみたいな様子になることもありました。
かもじの美術家:――墓のうえの物語――
(新字新仮名)
/
ニコライ・セミョーノヴィチ・レスコーフ
(著)
いつまでたっても、馬がいななくように笑っているので、お高は、気味がわるくなったが、それでも、ほっとして、
鬢
(
びん
)
のほつれ毛を指でなで上げた。
巷説享保図絵
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
髪の油か、何か分らないが、忍びやかな
丁子
(
ちょうじ
)
のにおいに似たものが、彼女の
鬢
(
びん
)
の毛と共にかすかに彼の
頬
(
ほお
)
にさわった。
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
確かにそこはさして深くなく、膝、腰、せいぜい深い所で
鬢
(
びん
)
の毛がぬれる程度であった。暫く行ったところで、男は
現代語訳 平家物語:10 第十巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
春枝夫人
(
はるえふじん
)
もいと
晴々
(
はれ/″\
)
しき
顏色
(
がんしよく
)
で、そよ/\と
吹
(
ふ
)
く
南
(
みなみ
)
の
風
(
かぜ
)
に
鬢
(
びん
)
のほつれ
毛
(
げ
)
を
拂
(
はら
)
はせながら
餘念
(
よねん
)
もなく
海上
(
かいじやう
)
を
眺
(
なが
)
めて
居
(
を
)
る。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
額
(
ひたい
)
から
鬢
(
びん
)
の辺へかけて、
梳
(
す
)
き
手
(
て
)
の力がはいるたびに、お民は目を細くして、これから長く
姑
(
しゅうとめ
)
として仕えなければならない人のするままに任せていた。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
銀杏返
(
いてふがへし
)
を
引約
(
ひつつ
)
めて、
本甲蒔絵
(
ほんこうまきゑ
)
の
挿櫛
(
さしぐし
)
根深
(
ねぶか
)
に、大粒の
淡色瑪瑙
(
うすいろめのう
)
に
金脚
(
きんあし
)
の
後簪
(
うしろざし
)
、
堆朱彫
(
ついしゆぼり
)
の
玉根掛
(
たまねがけ
)
をして、
鬢
(
びん
)
の
一髪
(
いつぱつ
)
をも乱さず、
極
(
きは
)
めて快く結ひ
做
(
な
)
したり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
やがて、ぱらりと名人の
鬢
(
びん
)
の毛が、三筋、四筋、六筋、七筋、青白く思案に沈んだそのほおにみだれかかりました。
右門捕物帖:27 献上博多人形
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
その風
鬢
(
びん
)
をかすめて過ぎつと思うほどなくまっ黒き海の
中央
(
まなか
)
に一団の雪わくと見る見る奔馬のごとく寄せて、浪子が
坐
(
ざ
)
したる岩も砕けよとうちつけつ。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
玉の
腕
(
かいな
)
は温く我
頸筋
(
くびすじ
)
にからまりて、雲の
鬢
(
びん
)
の毛
匂
(
にお
)
やかに
頬
(
ほほ
)
を
摩
(
なで
)
るをハット驚き、
急
(
せわ
)
しく見れば、
有
(
あり
)
し昔に
其儘
(
そのまま
)
の。
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
雪もよいの
闇空
(
やみぞら
)
から吹く新鮮な冷風が
心地
(
ここち
)
よく
鬢
(
びん
)
や顔に当たっても枯れ果てた心の重苦しさはなおらなかった。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
男は三十四五歳の、髪の毛を
房々
(
ふさふさ
)
と分けた好男子、女は二十五六歳であろうか、
友禅
(
ゆうぜん
)
の
長襦袢
(
ながじゅばん
)
の襟もしどけなく、古風な
丸髷
(
まるまげ
)
の
鬢
(
びん
)
のほつれ
艶
(
なま
)
めかしい美女。
悪魔の紋章
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
それが崩れるとまた暫く何も出来ずに居たが、ようよう
丸髷
(
まるまげ
)
の女が現れた。その女の
鬢
(
びん
)
が両方へ張って居るのは四方へ放って居る光線がそう見えるのである。
ランプの影
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
そして、そのうちの或る者は、
鬢
(
びん
)
に霜を置いても帰ろうとしない。この種の「
漂泊の猶大人
(
ワンダリング・ジュウ
)
」の多くを、人は今ふらんす国セエヌ河畔の峡谷に見るであろう。
踊る地平線:06 ノウトルダムの妖怪
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
湯の音がしたかと思うともうあがって、濡れて光る
鬢
(
びん
)
を鏡もみず掻きつけながら、おさやは店先の神棚の前へ行った。マッチをすって右と左と御燈明をつけた。
猫車
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
夫 (知らん顔をして)「もし、この女の
鬢
(
びん
)
を吹く風しもにゐたら、
白粉
(
おしろい
)
のぷんとしたかをり、髪の油のなまめかしさで、まだ年の若いのが判断されたゞらう」
世帯休業
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
また別離を悲しみて伏し沈みたる
面
(
おもて
)
に、
鬢
(
びん
)
の毛の解けてかかりたる、その美しき、いじらしき姿は、余が悲痛感慨の刺激によりて常ならずなりたる脳髄を射て
舞姫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
〽青
簾
(
すだれ
)
川風肌にしみじみと汗に濡れたる(枕がみ袖たもと) 合
鬢
(
びん
)
のほつれを
簪
(
かんざし
)
のとどかぬ(愚痴も惚れた同士命と腕に堀きりの櫛も洗い髪幾度と風に吹けりし)
ながうた勧進帳:(稽古屋殺人事件)
(新字新仮名)
/
酒井嘉七
(著)
鬢
漢検1級
部首:⾽
24画
“鬢”を含む語句
鬢髪
両鬢
鬢付
霜鬢
小鬢
鬢櫛
乱鬢
糸鬢奴
鬢掻
雲鬢
鬢附
鬢毛
鬢附油
糸鬢
堅鬢付
横鬢
鬢盥
片鬢
鬢付油
鬢糸
...