がみ)” の例文
旧字:
そそけがみの頭をあげて、母は幾日か夢に描きつづけた一男の顔を、じっと眺めた。涙が一滴ひとしずく、やつれた頬をつたって、枕のきれぬらした。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
ぼくは別れて、後ろの席から、あなたの、お下げがみと、内田さんの赤いベレエぼうが、時々、動くのを見ていたことだけおぼえています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
眼鏡めがねをかけているのが、有田ありたくんのおかあさん、ひくいちぢれがみのが、あずまくんのおかあさん、ふとっているのは、小原おばらくんのおかあさんさ。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其処そこ婿君むこぎみが、紋着もんつきはかまながら、憔悴せうすゐした寝不足ねぶそく血走ちばしり、ばう/\がみやつれたのが、弔扎てうれいをうけにえたのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夏の炎天えんてんではないからよいようなものの跣足すあしかぶがみ——まるで赤く無い金太郎きんたろうといったような風体ふうていで、急足いそぎあしって来た。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
畫題ぐわだいは『自然しぜんこゝろ』と謂ツて、ちらしがみ素裸すつぱだかわかをんなが、新緑しんりよく雑木林ざふきばやしかこはれたいづみかたはらに立ツて、自分のかげ水面すゐめんに映ツてゐるのをみまもツてゐるところだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
とたがいにいましめあって、ふたたび道をいそぎだすと、あなたの草むらから、月毛つきげ野馬のうまにのったさげがみの美少女が、ゆらりと気高けだかいすがたをあらわした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供ごころにいたくその身の上に同情したのだろう、ひとつ違いの二人は、ふり分けがみ筒井筒つついづつといった仲で、ちいさな夫婦めおとよと、長屋じゅうの冗談の的だったのだが……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
がみにした女隠居おんないんきょが一人、嫁入よめいまえの娘が一人、そのまた娘の弟が一人、——あとは女中のいるばかりである。Nさんはこのうちへ行った時、何か妙に気の滅入めいるのを感じた。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……わたしは三遍さんべんそこをのぞきに行ったが、油じみたうわりを着て、ほおのこけた顔をした、もじゃもじゃがみせた男の子が十人ほど、四角な印刷台木いんさつだいぎめつける木の梃子てこ
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
近頃ちかごろはやりもののひとつになった黄縞格子きじまごうし薄物うすものに、菊菱きくびし模様もようのある緋呉羅ひごらおびめて、くびからむねへ、紅絹べにぎぬ守袋まもりぶくろひもをのぞかせたおせんは、あらがみいあげた島田髷しまだまげ清々すがすがしく
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
話し声が近く聞こえると思うと、お菊の声も確かに聞きとれて、ふたりが背戸せどからはいってくるようすがわかった。まもなくまっ黒なあらがみを振りかぶった若い顔が女房の後について来た。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
少しは力の恢復かいふくして来たお銀が、がみ姿で裏から入って来たとき、笹村の顔色がまだ嶮しかった。笹村はその時、台所へ出て七輪の火を起して、昼のおかずを煮ていたが、甥も側に働いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もつれがみわげにゆふべく
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
わけて柳のさばきがみ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あねや、おとうとは、むらのはずれまでおくってゆきました。そして、むすめは、うしろがみかれるようにりかえり、りかえりいってしまったのであります。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と軽い返事で、身軽にちょこちょこと茶の間から出たおんなは、下膨しもぶくれの色白で、真中からびんを分けた濃い毛のたばがみすすびたが、人形だちの古風な顔。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かざりのないたばがみに、白い上衣うわぎを着たあなたが項垂うなだれたまま、映画をまるで見ていないようなのも悲しかった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「さア——来た以上、仕方がない。不本意ながら、おたくを血だらけに致すよりほか、まず、みちはござるまい。斬合きりあいには、ざんバラがみが一番邪魔じゃまでござる。手拭いを一本——」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蜀朝廷は実にいつも遠きに孔明の後ろがみを引くものであった。ここにおいて孔明は
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みだれがみししおきたるみ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
かれは、なんとなくうしがみかれるような気持きもちがしましたが、おそるおそるまえかって、あるしました。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
歯を染めた、面長おもながの、目鼻立めはなだちはっきりとした、まゆおとさぬ、たばがみ中年増ちゅうどしま、喜蔵の女房で、おしなという。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに、髪もほこりのままのつかがみで、木綿筒袖の、見得もふりもないのを裾短すそみじかに着、腕には重たげな手籠をかけ、口達者な長屋女房の揶揄からかい半分なさえずりのなかに、物売りの腰を低めているのだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、黒襟の半纏をズッこけそうに引ッかけて、やけのあらがみ、足の指にはチョッピリ鳳仙花ほうせんかべにをさしていようという、チャキチャキの下町ッ児、大変者たいへんものの風格だから、園絵は思わず用心をして
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
常にそれを、たばがみにしてカツシとしろがねかんざし一本、濃くつややかにうずたかびんの中から、差覗さしのぞく鼻の高さ、ほおの肉しまつて色は雪のやうなのが、まゆを払つて、年紀としの頃も定かならず
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(わたくしなどにうしがみを引かれ遊ばすな)
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何が、いま産れるちゅう臨月腹りんげつばらで、なあ、ながれに浸りそうにさばがみで這うて渡った。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰か趣向をしたんだね、……もっとも、昨夜ゆうべの会は、最初から百物語に、白装束や打散ぶっちらしがみで人をおどかすのは大人気無い、にしよう。——それで、電燈でんきだって消さないつもりでいたんだから。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)