高尚こうしょう)” の例文
しかしてこの人なることばはあるいは高尚こうしょうな意味に用いることもあれば、またすこぶる野卑やひなる意味をふくませることもある。たとえば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それでつりに行くとか、文学書を読むとか、または新体詩や俳句を作るとか、何でも高尚こうしょうな精神的娯楽を求めなくってはいけない……
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やれ理想、やれ人格、信仰だの高尚こうしょうだのと、看板かんばんさわぎばかり仰山ぎょうさんで、そのじつをはげむの誠心せいしんがない。卑俗ひぞくな腹でいて議論に高尚がる。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この世のものとも思われぬ高尚こうしょうな香を身体からだに持っているのが最も特異な点である。遠くにいてさえこの人の追い風は人を驚かすのであった。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「なるほどそれに狩猟だなんて、ずいぶん高尚こうしょうな学科もおやりですな。私の方ではまあ高等専門学校や大学の林科にそれがあるだけです。」
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
不図ふとがついてると、その小人こびと躰中からだじゅうから発散はっさんする、なんともいえぬ高尚こうしょう香気におい! わたくしはいつしかうっとりとしてしまいました。
貴族の妻とてもやはり同様で、高尚こうしょうなる品格いわゆる華族の妻として備えて居るような品格のある人を見ることはごく少ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
取扱わるる題目だいもくは、ことごと高尚こうしょう純潔じゅんけつなものばかり、そして他人に示すよりも、私自身の指南車しなんしゃとしてよいものばかりであった。
それから靴なども一々小間使に命じておぬがせになるのだとか、それもやはりT—老が言っていましたよ。なかなか高尚こうしょうな趣味というものですね。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
学校の教は人の心事を高尚こうしょう遠大えんだいにして事物の比較をなし、事変の原因と結果とを求めしむるものなれば、一聞一見も人の心事を動かさざるはなし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一、あるいは解しがたきの句をものするを以て高尚こうしょうなりと思惟しいするが如きは俗人の僻見へきけんのみ。佶屈きっくつなる句は貴からず、平凡なる句はなかなかに貴し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
高尚こうしょうで健全で男性的な趣味はほかにいくらでもある、趣味が劣等だと人格も劣等になる、きみはそれを考えないのか
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ヤレ自然の美だ風韻ふういんだのと大層高尚こうしょうらしい事を唱える癖に今の文士はく下品な卑しい忌味いやみな文章を書きたがる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一つの教室に属するいくつかの実験室には、指導者の風格などという高尚こうしょうな話は別として、卑近ひきんな実験技術の知識がいつの間にか集積して来るものである。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「世の中には人間以上の力の存在が必ずある。人々はこれに気付き、高尚こうしょう敬虔けいけん情操じょうそうを養わねばならぬ」と。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
で、そのところついに一つことにしてしまう。まち生活せいかつするのはこのましくい。社会しゃかいには高尚こうしょうなる興味インテレースい。社会しゃかい瞹眛あいまいな、無意味むいみ生活せいかつしている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
鯉は何故なにゆえに鯉なりや、鯉とふなとの相異についての形而上けいじじょう学的考察、等々の、ばかばかしく高尚こうしょうな問題にひっかかって、いつも鯉を捕えそこなう男じゃろう、おまえは。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
へんに慷慨こうがいな歌だネエ。どんな人がかいたのかしらんが。歌はイイネ。実に高尚こうしょうないいものだ。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
何とはなしに私は、この叔父が、私の今まで接して来た人々のうちで一番高尚こうしょうな人のように思えた。が、別にたいして話したいこともないので、ただそこらを歩いてみた。
そうしてそれをどこやら文化的な高尚こうしょうなものみたいな概念にでっち上げる傾きがあるようで
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
この開展かいてんせる瑩白色花蓋えいはくしょくかがいへんの中央に、鮮黄色せんおうしょくを呈せる皿状花冕さらじょうかべんえ、花より放つ佳香かこうあいまって、その花の品位ひんいきわめて高尚こうしょうであることに、われらは讃辞さんじしまない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それでこの見知らぬ国へ連れられて来て、わずかの間に、相手になる日本人の気心をのみ込んで卑屈な妥協を見いだすにはあまりに純良高尚こうしょうすぎた性質をもっていたのである。
解かれた象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
見識も高尚こうしょうで気韻も高く、洒々落々しゃしゃらくらくとして愛すべくたっとぶべき少女であって見れば、仮令よし道徳を飾物にする偽君子ぎくんし磊落らいらくよそお似而非えせ豪傑には、或はあざむかれもしよう迷いもしようが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一方は、燃ゆるがごとき新情想を多能多才のうつわに包み、一生の寂しみをうちめた恋をさえ言い現わし得ないで終ってしまった。その生涯しょうがいはいかにも高尚こうしょうである、典雅である、純潔である。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
花をちぎる事によって、新たな形を生み出して世人の考えを高尚こうしょうにする事ができるならば、そうしてもよいではないか。われわれが花に求むるところはただ美に対する奉納を共にせん事にあるのみ。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ある時は葉子は慎み深い深窓しんそうの婦人らしく上品に、ある時は素養の深い若いディレッタントのように高尚こうしょうに、またある時は習俗から解放された adventuress とも思われる放胆を示した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこの先生は私のまだあわない方で実にしゃれたなりをして頭の銀毛などもごく高尚こうしょうなドイツりに白のモオニングを着て教壇きょうだんに立っていました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
高尚こうしょう遠大えんだいにして、通常人の及ばざるところ、たまたま及ぶことあれば、生涯しょうがいに一度か二度あって、専門的に修むる者にあらざれば、単に茶話さわかて
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
生計を求むるにいそがわしく、子弟の教育をかえりみるにいとまあらず。故に下等士族は文学その他高尚こうしょうの教にとぼしくしておのずからいやしき商工の風あり。(貧富を異にす)
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、かれまちものをかく部下ぶかのようにあつかうにもかかわらず、院長いんちょうアンドレイ、エヒミチばかりは、教育きょういくがあり、かつ高尚こうしょうこころをもっていると、うやまいかつあいしていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
女の子の遊び事にしても玉子を孵化かえして雛にしたり雛を育てて大きくしたりする事は高尚こうしょう優美なたのしみを与えて自然と科学上の智識を覚えさせるようになります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
赤シャツのようなやさしいのと、親切なのと、高尚こうしょうなのと、琥珀こはくのパイプとを自慢じまんそうに見せびらかすのは油断が出来ない、めったに喧嘩も出来ないと思った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この世で六条院の賀宴のほかに、高尚こうしょうなものの集まってよい席というものはない筈なのだ」
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
それ以来、私の眼に触れるよみものとしては、ただ新聞だけだった。が、その新聞すらも読むことを許されなかった。子供は新聞なんか読むものでない。これが祖母たちの「高尚こうしょうな意見」だった。
おい、このトランクの中に香水をちょっと振りいておくれ。紳士の高尚こうしょうな心構えだ。よし、これで荷作りが出来た。さあ、出発だ。オフィリヤ、留守るす中はお父さんのお世話を、よくたのんだぞ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
もしぼくらが親を失い貧乏になったら青木のごとく苦学するだろうか、きみはいつも青木を軽蔑けいべつするが、それがきみの劣等の証拠しょうこだ、活動に趣味を有するものは高尚こうしょうな精神的なものがわからない
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私たちはいそがしくくつやずぼんをぎ、そのつめたい少しにごった水へつぎから次とみました。まったくその水の濁りようときたら素敵すてき高尚こうしょうなもんでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なに事をなすにも感情をまじえることは危険である。むろん感情と一口に言っても高尚こうしょうな感情もあるが、言うまでもなく今述べる感情は一時の客気かっきである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
このなかには人間にんげん知識ちしき高尚こうしょう現象げんしょうほかには、ひとつとして意味いみのある、興味きょうみのあるものはいのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
教育の精神は単に学問を授けるばかりではない、高尚こうしょうな、正直な、武士的な元気を鼓吹こすいすると同時に、野卑やひな、軽躁けいそうな、暴慢ぼうまんな悪風を掃蕩そうとうするにあると思います。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の実家さとは少し地位もあり資産もあった方ですから私は浮世の風波を知らずに育って学校へ入ってからもその時分の教育法で無闇むやみ突飛とっぴ高尚こうしょうな事ばかり習ったものです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
或は経史けいしを読み或は兵書を講じ、騎馬きば槍剣そうけん、いずれもその時代に高尚こうしょうなづくる学芸に従事するが故に、おのずから品行も高尚にしていやしからず、士君子しくんしとして風致ふうちるべきもの多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
常陸守は婿の少将の三日の夜の儀式をどんなふうに派手はでに行なおうかと思案をしたのであるが、高尚こうしょうなことは何もわからぬ男であったから、ただ荒い東国産の絹を無数に投げ出し
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ペネタ形というのは、蛙どもでは大へん高尚こうしょうなものになっています。平たいことなのです。雲のみねはだんだんくずれてあたりはよほどうすくらくなりました。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
先生は「日本における英国の隠者いんじゃ」というような高尚こうしょうな生活を送っているらしく思われた。
その偽物を床の間へかけて風流だとか高尚こうしょうだとかひとりでよがって台所では青銅鍋からかねなべを使っているような似非風流が長く流行したら日本国も亡びるね。我邦の風流は大概実用と背馳はいちしている。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「そんなに私が不愉快なものに思われますか、高尚こうしょう貴女きじょはそんなにしてお見せになるものではありませんよ。ではもうあんなお話はよしましょうね。これから私をお憎みになってはいけませんよ」
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)