香気こうき)” の例文
旧字:香氣
テーブルのうえには、カーネーションや、リリーや、らんのはななどがられて、それらの草花くさばな香気こうきじって、なんともいえない
煙突と柳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なるほどなるほど、味噌はうまく板に馴染なじんでいるから剥落はくらくもせず、よい工合に少しげて、人の※意さんいもよおさせる香気こうきを発する。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しっとりとしたこの部屋のなかで繰り返される兄と妹のやさしげな日常が、香気こうきのように画面のなかに漂っているのである。
人形町の可愛かわいらしい灯の中で青苦い香気こうきのある冷し白玉を喰べ、東京でも東寄りの下町の小さい踊り場を一つ二つ廻って、貝原はあっさり小初の相手をして踊る。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
朝のが、ゆらゆらとかいのあいだからしてくると、つよい気高けだか香気こうき水蒸気すいじょうきのようにのぼって、ソヨとでも風があれば、恍惚こうこつうばかりな芳香ほうこうはなをうつ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この全身をパフの香気こうきに叩きこめられた少女等——、蠱惑こわくすると技術を知りながら、小学生にも劣る無智——。山鹿とはなんという恐ろしい教育をする男であろう。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
テッポウユリは沖繩方面の原産で、つつの形をした純白の花が横向きに咲き、香気こうきが高い。このユリを筑前ちくぜん〔福岡県北東部〕では、タカサゴと呼ぶことが書物に出ている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
どれもこれもうまくもなさそうだが、香気こうきがあるのでちょっと愛相あいそうになったものであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
憲一は思いきって盃を口のふちへやった。それは香気こうきの高い酒であった。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おとこは、こちらの石油せきゆかんのふたをりました。青々あおあおとした、強烈きょうれつ香気こうき発散はっさんする液体えきたい半分はんぶんほどもかんのなかになみなみとしていました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分も一の球を取って人々のすがごとくにした。球は野蒜のびるであった。焼味噌の塩味しおみ香気こうきがっしたその辛味からみ臭気しゅうきは酒をくだすにちょっとおもしろいおかしみがあった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
思わず、三人とも異口同音に、低くうめいた。そのなかは、まるで春のように明るく、暖かく、気のせいか、何か媚薬びやくのように甘い、馥郁ふくいくたる香気こうきすらただよっているのが感じられた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
サクユリは、伊豆七島いずしちとうにおける八丈島はちじょうじまの南にある小島青ヶ島の原産で、日本のユリ中、最も巨大なものである。花は純白で香気こうき強く、実にみごとなユリで、この属中の王様である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そのほか、いろいろのくさがあって、香気こうきたか紫色むらさきいろはなや、黄色きいろはなが、はるから、あきにかけてえずいています……。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
通常紫色の花が咲き、においが高いから、香気こうきく西洋人に大いにとうとばれている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
また、店頭てんとうのガラス内側うちがわには、あかあおしろむらさきのいろいろのはなが、いい香気こうきはなっていました。そのみせまえにいくと、あね内側うちがわをのぞきました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みどりもりなかはいると、ちょうど緑色みどりいろ世界せかいはいったような気持きもちがいたしました。あしもとには、いろいろのちいさなくさはないていて、いい香気こうきはなっていました。
どこで笛吹く (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで、太陽たいようは、このふたりのねがいをきいてやりました。そのすみれからは、香気こうきりました。そして、そのうぐいすからは、いいこえうばってしまいました。
すみれとうぐいすの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれは、自分じぶん不注意ふちゅういだったつぐないとして、あとの一つを大事だいじにしました。やがて、それは、初夏しょかそらしたで、しろきよらかなかんじのする香気こうきたかはなひらきました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
たった一ついたばらのはなが、うすやみそこからかおって、いい香気こうきをあたりにただよわせていました。
花と少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、このひと心臓しんぞうまるようなはな香気こうきは、またなんともいえぬかなしみをふくんでいるのです。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのしまく、はないろは、もっとしろくてゆきのようです。香気こうきはもっとたかく、そらいろは、もっとあおえているし、うみいろは、たとえようもないほど、あおく、またむらさきです。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
のぶは、あおはなに、はなをつけて、その香気こうきをかいでいましたが、ふいに、がりました。
青い花の香り (新字新仮名) / 小川未明(著)
このうす紫色むらさきいろの、はなはなたか香気こうきは、なんとなく彼女かのじょこころかなしませずにいませんでした。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
しゃくのますと石油せきゆをくむしゃくがあって、おとこはそのしゃくあおれる液体えきたいなかむせつな、七つ八つの少年しょうねんが、熱心ねっしんにかんのなかをのぞいて、その強烈きょうれつ香気こうきをかいでいるのでした。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
なつのはじめのころに、一ぽんのばらに、しろゆきのようなはなきました。そのはなは、さちが、草花屋くさばなやで、ばなったときのはなよりも大輪だいりんで、香気こうきたかかったのであります。
花と少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はなもまたいろいろで、一ぽんくきに、一つしかはなかないもの、一茎ひとくきむらがってはなくもの、香気こうきたかいもの、まったく香気こうきのしないもの、そのいろにしても、紫色むらさきいろのもの、淡紅色たんこうしょくのもの
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるのこと、やしの木蔭こかげで、あお着物きものをきて、しろきれあたまいたかかりおとこが、おおきなパイプで、いい香気こうきのするたばこをすぱすぱとって、いしこしをかけて、かんががおをしていました。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
いくら香気こうきがあっても、またきれいにいていても、かぜといっしょにばされたり、れたしたになったりしては、たまりませんからね。今日きょうは、あなたのところにいてくださいまし。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ははあ、らんのはなはいっている。なるほど、それで、こんなに、やさしい、いいかおりがするのかな。」と、らんのはなのもつ、不思議ふしぎ香気こうきに、まったくたましいわされたようにかんじたのでした。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すると、ヒヤシンスや、リリーや、アネモネや、そののいろいろな草花くさばなからはっする香気こうきがとけって、どんなにいい香水こうすいにおいもそれにはおよばないほどのかおりが、きゅうに、かおからだおそったのでした。
花と少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)