零落れいらく)” の例文
王成おうせい平原へいげん世家きゅうかの生れであったが、いたってなまけ者であったから、日に日に零落れいらくして家は僅か数間のあばら屋をあますのみとなり
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
けれども相当の地位をつてゐる人の不実ふじつと、零落れいらくの極に達した人の親切とは、結果に於てたいした差違はないと今更ながら思はれた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
◯ヨブのさきの地位をもってしては、彼はむしろ友の多きに苦しんだであろう。しかしこれらの友は皆彼の零落れいらくと共に彼を離れたであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
安子穴やすこあなというのがあった。白狗はくぐ白馬はくばとの天正時代の伝説がある。のち、おやすという女人が零落れいらくしてここに玉のような童子を育てた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
百年も以前に行なわれていたものならば、古来の風習だろうと即断する人がないとは言えぬが、私には一つの零落れいらくの姿としか思われない。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
言ひ聽せてやり度えのは、井筒屋の主人の方だよ。本家が零落れいらくしたから附き合はねえといふのも不人情だが、そんなにこがれて居る娘の許婚を
名前は瑠璃子るりこというのだが、中国筋の零落れいらく士族の娘で、当時十八歳、咲きそめた紅梅の様に、匂やかにも美しい乙女であった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……はて、堂上人どうじょうびとのくせに、父王昇がちまた零落れいらくしていた時代の姿を知っているのはいぶかしいと……拙者もじっと彼の面体めんていを見てやりました
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの女の生れは東京近在の零落れいらくした旧家という話で、かの女はその身元を生涯明かさなかったが、かの女は気品と共に意外に頭が高かった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ミウケの金はちゃんと貰ってしまったから、とっくに飲みほしてしまったけれども、後をネダルほど零落れいらくはしないよ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
名も歴史もない甲州アルプスに、対面して、零落れいらくの壮大、そのものが、この万年の墳墓を中心にして今虚空をはしる。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
以前の比較的ノンキな東京生活を知って居る娘などが逗留とうりゅうに来て見ては、零落れいらくと思ったのであろ、台所のすみで茶碗を洗いかけてしく/\泣いたものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
御尋ねなさる成程なるほど今此樣に零落れいらくして一文貰をする身なれば不審ふしんに思ひなさるも御道理ごもつともなれど此金子の出來しと云譯を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
併し、モナコに於て、零落れいらくしたフランス貴族の復辟ふくへきの夢も破れてしまったのです。イスタンブールで恋人はその身を果敢はかなんで、死んでしまったのです。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
かういふふう家屋被害かおくひがいと、放射ほうしやされた噴出物ふんしゆつぶつによつて破壞はかいせられたサンピール市街しがい零落れいらくとはいちじるしい對象たいしようである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
お豊は自分の身こそ一家の不幸のために遊芸の師匠に零落れいらくしたけれど、わが子までもそんないやしいものにしては先祖の位牌いはいに対して申訳もうしわけがないと述べる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくし負傷けがいたしますとおとつさんいたうないかとつていたはつてれます、わたくし心得違こゝろえちがひから斯様かやう零落れいらくいたし、までつぶれまして、ソノんにも知らぬ頑是ぐわんぜのないせがれ
殊に、その浪々の道すぢを自分に言訳するために、後日の零落れいらくに備へての足ならし、身鍛へだなぞと、感傷的に思ひ込んでゐることに於てをや、と云ふべきであらう。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
さあ、いつの頃に手に入れたものか判りません。実はこんなものが手前方に伝わっていることも存じませんでしたが、御覧の通りに零落れいらくして、それからそれへと家財を
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その人もその一人でその後零落れいらくして妻君を持ったという始末。至って正直な人であるという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
旧領地佐賀野の零落れいらくした酒づくりの娘で、礼儀作法も心得、品もよく、その顔だちも瓜実うりざね型の淋しいところはあったが、ず何処と言って難のない美人といえる小娘であった。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
いま零落れいらく高見たかみ見下みくだして全體ぜんたい意氣地いくぢさすぎるとひしとかこくおもふはこゝろがらなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
才はつたなくして零落れいらくせり、槐葉くわいえふ前蹤ぜんしようし難く、病重うして栖遅せいちす、柳枝りうし左のひぢ
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
零落れいらくし果てた青年が、冬空に、浴衣ゆかたを引ッ張って、親、兄弟の家に、そっと裏口から、合力を受けようと忍び寄って、中部なかの歓語にはいりかねていたその折、合壁がっぺきから、泥棒よばわりを
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私は湖西こせいに住んでいる者でございます、もとは奉化ほうかの者で、父は州判しゅうはんでございましたが、その父も、母も亡くなって、家が零落れいらくしましたが、他に世話になる、兄弟も親類もないものですから
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「農は国の基い、百姓は国の宝というくらいだ、この堤防工事については多少のむりがあり、わしも考える点がないわけではない。零落れいらくした農家などには、賠償という法もとるつもりである」
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
零落れいらくせし人故に特に関寺小町を取り合せたるなり。頭巾とはおちぶれし人の頭巾着てをるをいふなり。「うたふ頭巾かな」といふ続きにて頭巾着た人が謡ふとなること俳句において通例の句法なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この頃には零落れいらくしてピザに移住していたのだとわれています。
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
どんなに零落れいらくして死んでもそのほうが意味がありますからなア
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
と私はこの零落れいらくした旧友をしょうぜずにはいられなかった。
朝起の人達 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
紅梅やをなごあるじの零落れいらくにともなふ鳥の籠かけにけり
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
第十五章の二回戦開始において、エリパズはまずヨブを罪人として責め、次に罪悪の結果として必ず恐怖、煩悶、零落れいらくの臨むべきを説いた。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
この下女はもと由緒ゆいしょのあるものだったそうだが、瓦解がかいのときに零落れいらくして、つい奉公ほうこうまでするようになったのだと聞いている。だからばあさんである。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人は地方の零落れいらくした旧家の三男で、学途にはいたものの、学費のなかば以上は自分で都合しなければならなかった。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
零落れいらくした旧主に高利の金を貸し、その抵当かたに、旧主の家族を追い出して、旧主の家にそちが住んでみい、世間はそちを、愈〻いよいよ、悪鬼か蛇蝎だかつのようにいうぞ
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とよは自分の身こそ一家の不幸のめに遊芸いうげい師匠ししやう零落れいらくしたけれど、わが子までもそんないやしいものにしては先祖の位牌ゐはいに対して申訳まをしわけがないと述べる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さてまた文右衞門の女房は勝手かつてにて番茶ばんちやを入れ朶菓子だぐわしなどを取揃とりそろへて持出もちいでたるに長八は大橋が義氣ぎきの強きを彌々感じ心中に成程なるほどかくまで零落れいらくなしても武士の道を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
如何に貧乏な書生生活でも、東京で二十円の借家から六畳二室ふたま田舎いなかのあばら家への引越しは、人目ひとめには可なりの零落れいらくであった。奉公人にはよい見切時みきりどきである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ことに林相りんそう零落れいらくが目に立つようになると、雨乞あまごい鉦太鼓かねたいこが一段と耳に響く土地柄でもあった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こっちは零落れいらくはしていても、町での古顔ふるがおだし、先方はみすぼらしい、労働者みたいな男だから、そうなると、もう喧嘩けんかにならないんだ。……おれは、どうもそいつでないかと思うのだ
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もし昨日きのふまで繁昌はんじようしたサンピールの舊市街きゆうしがい零落れいらくしたあと噴出物流動ふんしゆつぶつりゆうどう方向ほうこうからながむれば、のこつたかべ枯木林かれきばやしのようにえ、それに直角ちよつかく方向ほうこうからるとかべ正面整列しようめんせいれつられたといふ。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
わたくしはお梅も知って居ますが、奉公人の十四五人も使った身の上で、此奴こいつは今は婆アですが若いうちに了簡違いをして、此奴が来たからと云う訳でも有りませんが此様こんな零落れいらくして、斯う云う処へ引込ひっこ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おほらかに零落れいらくの戸を瞰下みおろして
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
悪人が零落れいらくの第一歩を踏む時は、その家の中より何となく光が消えて、家が暗くなるように感ぜられるものである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
勝家は亡び、滝川一益も零落れいらくしてしまった今では、その閲歴えつれきから、もののいえる人間は、かれ一人となっている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仰せらるゝ者かな往古むかしは昔し今は今なり一旦貴殿にめぐみし金子を如何に某しかく零落れいらくして一錢二錢の袖乞そでごひをなせばとて今更受取り申べきいはれなし貴殿が昔の恩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「なぜって。——可哀想かわいそうに、そんなに零落れいらくしたかなあ。——君道也先生、どんな、服装なりをしていた」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
遥々はるばると是を一処に寄せ集めた、人間意力のたくましさには感動するが、是を大昔の世の常と見、今ある離れ小島の竹玉ツシ玉、貝や木の実を珠に貫くわざを、零落れいらく退歩の姿
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
突然人間の零落れいらく、老衰、病死なぞいう特種とくしゅの悲惨を附加えて見ずにはいられなかった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これが唯一ゆいいつの、娘も共に零落れいらくさせた父のびの表明でもあり、心やりの言葉でもあった。小初は父の気持ちを察しないではないが、「何ぼ何でもあんまり負けしみ過ぎる」と悲しくうとまれた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)